【緋彩の瞳】 Because I love you ⑧

緋彩の瞳

ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

Because I love you ⑧

「アッサム、あなたは何か知っているの?」
 学生艦が出港になり、兄から寄付金の小切手と、服や生活用品を買ってもらって、さほどリフレッシュしなかった休みが終わった。
3日振りに会うダージリンと共に朝食を取り、特に休みの日に何をしたかなんていう会話をせずに教室へと向かうと、整備科の2年生たちがアッサムたちの教室に流れ込んできた。
「ごきげんよう。えっと、何のことでしょう?」
「何って、アールグレイ様の彼氏ですわよ」
「………彼氏?何のことでしょう?」
「横浜で、夜に男性とデートされていたと噂が出ていますわ」
それはたぶん、お兄さま。夕食の後に、2人を追い出してドライブに行かせたのだ。ドライブに行ったのに、アッサムにと甘いお菓子を買って来てくれた。お姉さまはご実家に戻られて、その次の日はアッサムと2人で美術館に出かけて、夜はお姉さまの実家に出向いた。次の日、お姉さまはご両親と一緒に親戚のおうちに行かれた。だから、お姉さまが男性と夜のデートをしたと言うのは、お兄さまだろう。
「デートって、歩いていたんですの?」
「外車に乗っていたそうですわ。行列のできるスイーツのお店に並んでいらしたとか」
「……それが?」
「アールグレイ様って、彼氏がおられるの?」
「さぁ?」
 彼氏と言うよりも、結婚相手。認識として彼氏かと言われても、それと変わらないようなものだとは思う。
「さぁって……アッサムはアールグレイ様と親しいのでしょう?」
「えぇ」
「知りませんの?」
「お姉さまのプライベートなことですもの」
 前の席のダージリンは、まったく興味なさそうだ。振り向きもしない。アッサムを取り巻く整備科の2年生は、お姉さまのファンが多いらしい。愛想のいいバニラ様や面倒見のいいオレンジペコ様の方が、ファンになったメリットは多い気がするのだけれど、隊長と言う響きはそれだけで人を寄せ付けるのだろうか。アッサムにとっては身近過ぎて、よくわからない。もし、お姉さまと知り合いじゃなくて、普通の生徒だとすれば、アッサムならオレンジペコ様のように面倒みのいい人に憧れるだろう。ちなみに、そのオレンジペコ様は、ダージリンのことを連れまわして仕事を教えておられる。
「彼氏なの?どうなの?」
「わかりませんわ。お姉さまにお聞きになればいかが?」
「会話なんてできないわよ」
「ですが、私もわかりませんわ」
 何やら嫉妬されていることはわかっているが、物心ついたときから傍にいたアッサムには、どういう対応が正しいのかなんてわからない。お姉さまは素敵な方だが、お姉さまが可愛がってくださっている分、アッサムも実力を付ける努力はしてきたし、幹部の仕事は全てこなしている。
「知っているくせに生意気ね」
 アッサムの兄でアールグレイ様の婚約者だからデートした。そう言えばそれはそれで、きっと批難されるに違いないだろう。ちなみにそのスイーツはアッサムの胃袋に納まってしまった。
「相変わらず、醜い嫉妬ですこと。私から聞いておいて差し上げますわ。整備科の2年生のお姉さま方が、横浜でデートされたお相手のことを、とても気にしていらっしゃると」
 無視しようかと思っていると、ダージリンが背を向けたまま鼻で笑った。助け船を出してくれたのだ。
「余計な事をしないで、ダージリン」
「余計?アッサムに聞いても致し方のないことですわ。アールグレイ様に尋ねるなんて1分あれば十分ですもの」
 

 記憶に蓋をして見なかったことにしていた、バニラ様の背中の噛み痕が脳裏に浮かんだ。あんな場所にあんなものを付けることができるのは、同室のお姉さまくらいしかいないのではないだろうか。あのお部屋で上半身に何もつけずにおられたのだ。


 いや、でもまさか。
 


ざわめく教室の中で、アウェイだとようやく気が付いた整備科の2年生たちは、アッサムではなくダージリンを睨み付けるようにして、教室を出て行った。
「………ありがとう、ダージリン」
 ダージリンは少しだけ振り向いて小さく口角を上げた。つまらない妬みに付き合うことよりも、忘れていたバニラ様のことを思い出して、そのことが頭の中に淡く薄く広がってきてしまう。


 お兄さまは恋人ではない。結婚相手だ。互いに恋をしあう相手かどうかなんて、アッサムは考えたこともなかった。

 お姉さまは、今、どなたかと……バニラ様とどういう関係でいらっしゃるのだろう。恋人だと言うのなら、結婚はどうされるおつもりなのだろう。本当は、結婚したいなんて思っていらっしゃらないのではないだろうか。




「あなた、男とデートでもしていたの?」
 昼休み、食堂に向かうとすでに3年生は座っておられた。アッサムは紅茶を淹れたティーカップをお姉さまに渡して、機嫌よさそうな笑みを見せるバニラ様にも、同じアッサムティーを注いだ。オレンジペコ様には、ダージリンが紅茶をお淹れしている。
「何それ」
「普通科の子に捕まって、知っているかって聞かれたのよ」
 オレンジペコ様は、ヒソヒソなんてことをせずに、はっきりさせろと言わんばかりにお姉さまにストレートに尋ねられる。きっと、そう言う噂が学校内に広まっていて、迷惑なのだろう。黙って噂が静かに消えて行くのを待つ方が良いと思っていたけれど、オレンジペコ様には鬱陶しいだけのようだ。
「知らないって答えたら?」
「そうね、知らないんだもの。だから、知らないって言ったわよ」
「なら、いいんじゃない?」
「そうね。あなたがどこで誰と何をしていようとも、私はまったく興味ないのよ」
「奇遇ね、私もよ」
にらみ合うようなお2人に挟まれたダージリンは、われ関せずとサンドイッチを美味しそうに食べている。あれくらい堂々とできればいいのだが、部外者じゃないアッサムは、どんな態度をすればいいのだろうか。
「アッサム、放っておいていいわ。これはいつものことだから」
バニラ様はふわふわと微笑んでいらっしゃる。男とデートなんていう言葉を言われても、何も動じていない。バニラ様とお姉さまは、結局はどういう関係なのだろうか。お姉さまは結婚相手がいることを、バニラ様やオレンジペコ様にお話しされていないと思う。ましてやアッサムの兄だなんて。
「……何か、噂が出ているみたいですね」
「そうね。もぅ、アールグレイったら大人気よね。キャーキャー叫ばれて羨ましいわ」
 とても余裕の笑み、それなのにその奥に何を想っていらっしゃるのかなんて見えてきたりしない。さらにもっと余裕のダージリン。アッサムは、手にしているサンドイッチを最後まで口の中に入れることができなかった。


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Date:2016/08/04
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