【緋彩の瞳】 Because I love you ⑩

緋彩の瞳

ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

Because I love you ⑩

 食事を済ませた後、アッサムと共に夜の薔薇園を散歩することにした。聖グロの学生艦の薔薇園は陸の人たちにも人気があって、丁度満開になる頃に、横浜に寄港することになっている。来週になればまた、横浜に寄港して、一般にこの公園は解放されることになっている。  
ライトアップされている薔薇園の中、ダージリンはアッサムの手を取って、ゆっくりと歩いた。差し出した手を当然のように受け取ってくれる友だち。小さくて冷たい手の温度。歩幅を合わせて薔薇のアーチをくぐった。棘に気を付けながら、静かな夜に。
「………ダージリン。ありがとう、気を使ってくれて」
「お礼を言われることなんてしていないわ」
 小柄なアッサムの手を取って歩く、それはいつもアールグレイ様がよくされていらした。ダージリンには最初から姉妹のようにしか見えなかったが、周りは怪しい関係だと疑っていた時期もあった。今、こんな風に手を繋いで歩いているのは、知らない人から見れば、どんな風に見えるのだろうか。この手を繋いでいる感情は、友情、なのだろうか。それは違うように思える。ダージリンの一方的な感情に過ぎないけれど。
「………変なことを聞いてもいい?」
「何かしら?」
「ダージリンは、誰かと結婚する約束とかはあるの?」
「さぁ?特にないはずだわ。親からも何も言われていないわね」
「じゃぁ、自由な恋愛を楽しめるのね」
 手を繋いだまま、少し階段を上がり、薔薇を見渡せるベンチに腰を下ろした。暗いからすべてが綺麗に見える訳じゃない。それでも、そう言う場所に2人でいられることは心地いい。
「アッサムは誰か?」
「いいえ。私は何も言われていないわ、まだ」
「そう」
「兄がお姉さまと結婚して、男の子が生まれるのなら、それがいいのだと思う」
「……そう」
だからと言って、アッサムが自由な恋愛を楽しんでもいいかどうか、それは別かもしれない。時期が来ればあるいは、何かお見合い結婚なんてこと。でもそんな未来のことなんて、ダージリンが口を出すことではない。
「……………仲が良過ぎて、とても近い存在だったから、見えていなかったのね。気にしたこともなかった。お姉さまは別に兄に恋をしているわけでも、愛しているわけでもないのに。恋人がいるかいないかって聞かれた時、あの2人の関係はそう言うものじゃないって思ったの。お姉さまの恋人は兄じゃない。近いものだと思うけれど、そうじゃない。でも、二人は結婚するの」
「アールグレイ様がどう思われているのか、疑問を抱いたのね?」
「………お姉さまは、兄を恋しいなんて思っていないわ。積極的に2人で会ったりもされないの。必ず私を挟んでいるわ」
 握ったままの手にジワリと汗がにじんで、ダージリンはきつく握っていた力を少し緩めた。その手はダージリンの膝の上に置かれたままだ。触れ合う肩にもたれる身体を受け止める。無意識の動作なのか、意図的なのかはわからない。でも、どっちにしてもダージリンは、嬉しいと感じてしまう。傍にいることを許されているのだ。
「お兄さまは、どなたか恋人がいらっしゃるの?」
「どうかしら。何も知らないわ」
「アールグレイ様には?」
 きつく、ダージリンのスカートを握りしめてくる。その指先が皮膚を強くなぞり、その恋する相手が誰なのかも、アッサムは知っているのだろうと思った。
「……………もし、そうだとすれば、私はお姉さまのお気持ちを何も知らずに、結婚して欲しいなんて思っていたことになるわね」
「アールグレイ様から、破談の申し出はないのでしょう?」
「えぇ。3人で婚約指輪の話をするくらい、順調に進んでいるわ」
「アッサムはどうしたいの?」
「………………どうしたいのかしら。今は、お姉さまのお顔を見るたびに、ちょっと辛くて」
「あなたが気に病むことではないわ」
 アッサムは小さく頷いて、それからゆっくりとダージリンから身体を離した。内に籠るように膝を抱えてうずくまり顔を隠してしまう。
「お姉さまにとって、私の存在が足かせになっているのかも知れない」
 さっきと同じセリフを言って励ますことは出来ても、それは解決の糸口になどならないだろう。アッサムが悩んでもどうすることもできないのだ。かといって、代わりにダージリンがアールグレイ様にお尋ねすることでもない。結婚をされてしまえば、ずっとずっとアッサムの心に薄く淡く黒い痛みになって、苦しみを携えるだけになるだろう。
「アッサムは、アールグレイ様にどうして欲しいと願うの?」
「ちょっと前までは、兄と結婚をして欲しいと思っていたわ。でも今は……好きな人がいるのなら、誰か恋しい人がいるのなら、その人と幸せになってもらった方が良いと思うわ」
「そう。心当たりがあるから、余計辛いのね」
 そこまで想うのならば、アッサムは知ってしまったのだろう。アールグレイ様がどなたか想う人がいるのだと。漠然と願うだけで、ここまで気に悩むことはないだろうし、その程度の疑問なら、直接アールグレイ様に聞くことができるようなことだ。ダージリンは俯くその頭をそっと撫でた。綺麗にまとめられた髪に赤いリボン。
「………………とても身近な人よ」
「毎日、顔を合わす程度なのね」
「……………えぇ」
 ダージリンは名前を出さず、3年生2人の顔が浮かべた。2人浮かんだが、実質的には1人だけしかいない。膝を抱えるアッサムの身体を抱きしめて、その背中をゆっくりと撫でる。
「ダージリン」
「確証を得たの?」
「………あの方の背中に、赤い…印があったの。たくさんあったわ」
「そんなことができる人は、アールグレイ様だけだと?」
「えぇ」
「そう。でも、あなたには何もできないわね」
「えぇ」
 今、すぐにダージリンには何か打開策など思いつかない。アールグレイ様は聡明な方。何もかもすべてわかっていて、限定的な感情としてバニラ様とそう言う関係を築いておられるとするのなら、それはアッサムには関係のないことだ。気に病むことではない。どうすることもできずに、食欲だけが減退していって、アッサムだけが苦しい想いを背負っていたとしても、どうしようもできないのだ。
「あなたの悩みはわかったわ。私は何かをしてあげられないかもしれないけれど、傍にいるわ」
「………嬉しい」
 ライトに照らされる薔薇たち。その光を間接的に浴びて顔を隠していたアッサムは、そっと膝を抱く腕を解いて、その両手をダージリンの腰に回した。やり場のない思いをぶつけるだけの存在でも、それでもいいと思えた。心地よい感情は、アッサムが苦しんでいると言うのに、喜んでいる。
「今日明日にどうにかなることでもないわ。すぐに結婚をされるわけではないのなら、見守っていても大丈夫だと思うわ」
「……それもそうね」
 しばらく、ダージリンとアッサムは抱き合っていた。薔薇を見に来たはずだったのだけれど、アッサムの冷たい体温と、肩にかかる吐息しか、ダージリンは記憶にとどめることができないだろう。







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Date:2016/08/04
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