【緋彩の瞳】 Because I love you ⑫

緋彩の瞳

ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

Because I love you ⑫

「アッサム」
 夏の戦いのくじ引きも終わり、順調に勝ち進めば黒森峰とは、決勝で戦うことになるトーナメントの位置を引き当てて、周りはくじ運の強さに喜んでいた。ペコとバニラと3人でじゃんけんをして、勝った人間がくじを引くと言う方法。引き当てたバニラは、一生分の運を使い果たしたと嘆いていた。
「お姉さま、おはようございます」
 ここのところのアッサムは、ちゃんと元気に毎日を過ごしている。毎朝、ダージリンと共に食堂でアールグレイたちを迎えてくれて、戦車内でもとても楽しそうに訓練に励んでいる。裕一さんとの目撃情報のせいで、彼女を悩ませていたことが原因なのかと、結局、確認することができなかったが、それは間違いないのだろう。近すぎる関係が、周囲からの嫉妬を生むことはオレンジペコからずっと言われていたが、放置すればいいことだと思っていた。でも、アッサムはまだ1年生なのだ。アールグレイのせいで、精神的に強くなることを強いるべきではなかった。
「どうしたの?その髪型」
「リボン、結び目のほつれが酷くて。切れるのが嫌で外しておこうかなって」
 いつものトレードマークの赤いリボン。中学に入ったばかりのアッサムにプレゼントしてあげたもの。ほとんど毎日使ってくれていた。
「そう。じゃぁ、今日の放課後に買いに行きましょうか?」
「本当ですの?」
「えぇ」
 嬉しそうに微笑むアッサムは、髪をひとつに束ねて前に下ろしている。お人形みたいで可愛いといつも裕一さんが言っていた。ふわふわで指で掬えば絹をなぞるような感触。小さい頃からいつも、頭を撫で、髪を指に絡めていた。


「何色がいいの?」
「黒がいいですわ」
「あら、大人っぽい色ね」
「………ダージリンが、その、黒がいいんじゃないかって言うから」
 アッサムを学生艦の中にあるアクセサリーなどの専門店に連れて行き、その足で久しぶりに2人きりで食事を取った。見慣れていた赤い、ちょっとあどけなさの残るリボンだったのが、少し落ち着きのある女性になった。
これから始まる夏の大会のため、アッサムにはオレンジペコと共に、情報処理部の仕事をさせている。本当はそう言う体力的にきついことをさせたくはなかったが、目を付けていたダージリンがパソコンも使えないし、デジカメすらまともに扱えないと言うことで、機械に強いアッサムがその役目を担うことになった。食べながらしたかった会話じゃないが、それでもアッサムが情報処理部の仕事が楽しいと、目を輝かせて話すのを、アールグレイは静かに聞いた。すっかり体調が良くなったのね、と一言言えば、何かを蒸し返してしまうのだろう。そして、アッサムは蒸し返されたくないと願っているから、ずっと情報処理部の仕事について語っているのだ。
「アッサムは、ダージリンが好きなの?」
「え?」
「ダージリンっていう単語を、このお店に入ってから、20回以上は口にしたわ」
「……私、そんなに言いました?」
「ダージリンがパソコンを使えない、ダージリンがデジカメの中のデータを消した、ダージリンがUSBメモリーと言うものを知らない、ダージリンがスキャンの意味を分かってくれない、ダージリンがパスワードを覚えてくれない、ダージリンが洗濯機をろくに使えない。あの子に情報処理部の管理者をさせない方が良いということは、よくわかったわ」
 数秒の沈黙のあと、アッサムはグラスに注がれている炭酸水を一気に飲み干す。

その仕草は恋なのだ。気になるという、その程度のものではなく、見たことのない、恋をする少女の仕草だ。

 アールグレイが持ちえない、その感情。
 恋と言う感情は、誰かにその人のことを話したくなるものらしい。

「…………ダージリンは、その、同じクラスの、友達、です」
「そう」
「まぁ、その、憧れていますけれど」
「それだけ?」
 空のグラスを両手で握りしめて、左右に揺れる瞳の色。それはアールグレイの知らないアッサムだった。小さい頃からよく知っているはずなのに、目の前の少女を知らない人と表現してもいいくらいだ。
「………その、えぇ、はい。それだけ、ですわ」
「顔が赤いわよ」
「お姉さま、からかわないでください」
 ボトルから炭酸水を足してやり、アッサムはグラスで冷たくした手のひらで、頬を冷やした。そう言えば、バニラがダージリンとアッサムのことを、相思相愛と言っていたが、それは本当なのだろうか。相思相愛とはどういう感じなのだろうか。本人はわかっているのだろうか。
「いいじゃない、たまには」
「もぅ………」

羨ましいと、口に出しそうになる感情を押し戻し、飲み込んだ。結婚することが決まっているのに、とても初々しくて見ていてむず痒い恋を、そんな言葉で表現したら、アッサムを柔らかくそれでも深く、傷つけるだろう。とても自然に裕一さんと結婚をすると言うことを受け入れ、喜んでいるアッサムに、何か変な気を使わせてしまってはならない。気づかれてはならないのだ。

「じゃぁ、私と夕食を取るよりも、ダージリンと2人きりの方がよかったわね」
「そんなことありませんわ。学生艦で一緒に過ごす時間は限られていますもの。お姉さまとこの制服で過ごせる時間だって、大切ですわ」
 小さい頃から、いつも傍にいて、いつも手を繋いで、少しだけ先に歩いていた。アッサムは、保奈美は、いつかこの手を離して、自由な道を自由に走り回るのだ。それはとてもいいことだし、そうして欲しいと願っている。でも、彼女がいつか誰かに恋をすると言うことを、何も気にしていなかった。いや、しないでいようとしていた。自分と比べるようなことをすることを避けていたかった。
「私とはこれから大人になっても付き合いが続くのよ。それこそ、ダージリンと、お互いにティーネームで呼び合う貴重な時間は、限られているのだから」
「………そう、ですわね」
 視線を外して、無理やりに笑うアッサム。ダージリンの助言で黒いリボンを付けたその姿はもう、アールグレイが可愛がっていた子供の保奈美ではなくなっていくのだ。
 恋を知ってしまったからだろう。自分が永遠に知ることのない恋を。誰かを想い、胸をときめかせ、ずっとずっとその名を口にしてしまいたくなるような想いを。





バニラ





どうして、彼女の名前を思い浮かべてしまうのだろう。





 夏の大会は準決勝でプラウダと対戦し、チャーチルを残して全滅まで追い詰められたものの、ダージリンやオレンジペコが捨て身でチャーチルを守り、予定通り決勝まで勝ち進んだ。黒森峰もサンダースや継続高校を破り、2年連続の黒森峰との決勝戦となった。          
「ちょっと、ダージリン!!」
「はい、オレンジペコ様」
「アールグレイはどこ?」
「あの、さぁ……」
「バニラは?」
「さぁ?」
「…………出てこないつもりなのね」
 決勝大会まで1週間。連日訓練の間に、OG会のお姉さまがこぞって寄付金を手にお茶会に来られる。夕方から時間を空けろと言っていたのに、アールグレイとバニラは2人揃ってどこかへ逃げ出した。オレンジペコはダージリンとアッサムを引っ張り出し、前隊長のルクリリお姉さまの前に差し出してなんとかその場を乗り切ることしかできなかった。可愛い1年生に気を良くしていらしたけれど、アールグレイが顔を出さないことにそれなりに激怒されたルクリリお姉さまは、今になって成績順でアールグレイを隊長にしたことを後悔されておられる。今更オレンジペコに代われと言われても、もう夏の大会は終わるのだから遅いのだ。
「あ~、もう。ちょっと、そこに座ってじっとしてなさい」
「……はい」
「アッサム、私の鞄取って」 
「はい」
 最近、毎日毎日ダージリンを捕まえて、髪型を勝手に変えて気分を落ち着かせている。髪の量で言うと、アッサムもアレンジのし甲斐はあるのだろうけれど、アールグレイが目を光らせているから、手を出すことはしない。
「オレンジペコ様」
「何?」
「お姉さま方、逃げましたの?」
「2人一緒に今頃、のんきにお茶しているんじゃない?」
「……はぁ」
 アッサムはダージリンの正面に腰を下ろし、自分の髪をいじりながらソファーに背を預けている。次、ルクリリお姉さまが襲来の時は、アッサムにアールグレイを捕まえさせなければ。
「ダージリンは、必ず毎朝三つ編みをするわね」
「えぇ」
「好きなの?それともジンクスとか?」
「いえ、そう言うものはありませんわ」
「ふーん」
 アールグレイと同じような髪質、同じ色。オレンジペコは一度その三つ編みを解いて、ちょっと位置をずらして編み込んだ後、逆サイドにまとめるようにして、ピンでとめた。
「あ、かわいい」
 お茶を飲んで見ていたアッサムが、出来上がったそのアレンジを見て、身を乗り出してくる。
「そう?」
「ダージリンには似合いますわ。それがいいですわ」
「……ですって」
 振り返ったダージリンが見上げてくる。オレンジペコは手鏡を渡した。確かめるように角度を変えて、だんだん満更でもないような笑みを鏡越しで見て、まったくバカップルかって呟きたくなる。
「明日の朝から、自分でやりなさいよ。そんな無理なことはしてないわ」
「ありがとうございます、オレンジペコ様」
「初めて、お礼を言われたわ」
 どれほど時間を潰しても、あの馬鹿2人は隊長室に戻ってくる気配はない。相変わらず、2人揃って携帯電話の電源を落としている。まさか、こんな時間に“遊び”をしているなんて。大事なミーティングをほったらかして。

まさか、と思ってみても、あの2人が何を考えているのかなんてわからない。


「2人とも、今日も外にデートに行くの?」
「デート?」
「食事よ」
「あ、いえ、食事は何も」
 首をかしげるダージリンと、顔を赤くするアッサムの違い。バニラは相思相愛で楽しそうなんて言ってほほ笑んでいるし、アールグレイは見てみぬふりを徹底している。
「そう。私の部屋に来る?昨日、色々と食材が実家から届いて、部屋で料理をしようと思って」
「オレンジペコ様、お料理できますの?」
「するわよ。休みの日は自炊しているし、結構好きよ」
 初めて、とても尊敬しているような視線を2人から注がれた。他にもっと、尊敬してもらう部分はあるはずなのに。


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Date:2016/08/15
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