【緋彩の瞳】 Because I love you ⑬

緋彩の瞳

ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

Because I love you ⑬

「バニラ様たち、結局連絡が付きませんでしたね」
 もりもり食べる2人は、隣同士に座ってもう付き合っているような笑みで見つめ合い、互いの顔をおかずにしているみたいだった。あの馬鹿2人とはこうも違うのか、と比較するとあちらが可哀相な程、初々しい。
「アールグレイのことだから、何の作戦も立てずに、適当に遊び回っているなんてことはないわ」
「それは、もちろんそうです。ですが、お姉さま、中学の頃とはちょっと違いますわ」
「そう?」
「えぇ。何というか、……もっと今よりも楽しく過ごしておりましたわ」
 オレンジペコの知るアールグレイと、小さい頃からずっと仲良しの妹のようなアッサムの知るアールグレイ。それはたぶん別人だ。アッサムの前にいる時、彼女はアールグレイではない。麗奈という一人の人間なのだと思う。残念ながら、その人をオレンジペコは知らないし、知ることもなく卒業するだろう。
「学生艦の責任者っていう肩書があるのよ。あなたのお姉さまも、離れている少しの間に成長したと言うことかしら」
「そう、ですわね」
 決していい方向に変わったと言いたいわけじゃないだろう。アッサムは、眉をひそめて笑っている。アッサムにとっては同じ学校を受験して追いかけたい程の、大切なお姉さまのはず。

 誰かにとって優しい存在でも、誰かにとってはその優しさで傷つくこともある。


「………お姉さまにはきっと、責任とかそう言うものが似合わないのではないかと」
「重要な書類にサインするのに、全く読まないものね」
「それは、オレンジペコ様がお読みになっていらっしゃるからですわ」
「そうね。甘やかせているわ、本当」

 アッサムの前ではお姉さまぶって、優しくして、可愛がって、何でも笑顔で応えようとする。その姿を、バニラはどんな思いで見つめているのかなんて、知ったことではない。バニラのことだ、きっとそのことに何かを想うなんて、無駄なことはしないだろう。


アールグレイは自由でいられない言い訳を、責任のある立場にいることで作り上げているだけだ。






 のんびりとオレンジペコ様のお部屋で過ごして、食後の紅茶を楽しんでいると、アッサムの携帯電話が鳴った。お姉さまが食事はどうしたのかと聞いてこられたので、もうすでに済ませたと伝えた。どこで誰と、と言うことは伝えなかった。夕方の卒業生のお姉さまとのお茶会に顔を出さなかったことについて、特に何も言ってこられなかったので、アッサムも睨み付けてくるオレンジペコ様に、気まずい笑みを浮かべるだけで、直ぐに切った。
「アッサム、私たちはそろそろ失礼しましょう」
「そうね」
 お姉さまはきっと、今から夕食に出られるのだろう。バニラ様と一緒におられるに違いない。アッサムは夏の大会が始まった日の夜から、毎晩、ダージリンと黒森峰対策の話合いと言う名目で、2人で茶をしながらおしゃべりしている。もちろん、アッサムの集めた資料を机に広げ、パソコンを片手に、過去の聖グロとの対戦DVDや、他校と黒森峰の試合をじっくり見て、戦術や戦略を研究するのだ。アッサムもダージリンも西住まほのことを良く知っている。だが、聖グロの生徒として西住流の門下生が揃う黒森峰と戦うと言うことは初めて。重戦車が勢ぞろいする姿に圧倒されず、出来る限り相手の出方を予測しておきたいのだ。きっとお姉さまの頭の中には、すべてのデータは揃っておられるだろう。そして、ダージリンの頭の中にも、日ごと情報が詰められて行く。オレンジペコ様も情報処理部の責任者として、かなりのデータを持っておられた。足りない火力を、知恵でカバーする。それが聖グロの戦い方。




「アッサム?」
 オレンジペコ様のお部屋を出て、廊下を突き進む背中にお姉さまの声が投げられた。
「お姉さま」
「どうしたの?私に何か用でもあった?」
「あ、いえ。オレンジペコ様にお夕食をごちそうになっていました」
「………あぁ」
 振り返ったアッサムとダージリンを交互に見つめて、お姉さまは合点がいったようだ。きっとお姉さまも、過去にごちそうになったことがあるに違いない。
「あら、ダージリン。また髪型が変化したのね」
「どなたかが、大事なお茶会をサボタージュされたので、その苛立ちのせいですわ」
「それは結構。ルクリリお姉さまはあなたを気にいったでしょう?」
 ダージリンは作り笑顔で、小さく首をかしげて見せた。ルクリリお姉さまという方は、久しくダージリンというティーネームを付けられた後輩を見て、ついに来たのね、とかなり興奮していらした。アッサムは自分のティーネームの重みを考慮なんてしなかったが、アッサムというティーネームは、ルクリリお姉さまのさらにひとつ前の隊長のティーネームだそうだ。
「えぇ。アッサムのこともずいぶん気に入っていたようですわ」
「そう。大変結構。次にお茶会をするときは、2人でもてなしなさい」
 ダージリンに対しては、愛想笑いもあんまり見せないお姉さま。相性が悪いと言うわけではないと思っている。同じ能力が高い人間同士だから、お互いを必要としていないのかも知れない。
「……お姉さま、逃げないでください。OG会のお茶会はお姉さまにホストしていただかないと」
 間に入って拗ねた顔を見せると、お姉さまは表情を緩ませてアッサムの頭を撫でてくれた。買ってもらった黒いリボンにそっと触れてくる。
「次の突撃の時までに、私はさっさと隊長を下りておくわ。で、2人はもう帰るの?」
「えぇ。お姉さまはお食事ですか?」
「そうよ」
「バニラ様はどこに逃げたんですの?」
「さぁ?共謀を計っていないから、どこにいるかなんてさっぱりよ」
 1秒さえ悩むことなく首をかしげる仕草。きっとずっと一緒に部屋に籠っておられたに違いない。そのことがアッサムにとって良いことなのか、悪いことなのか、それはわからなかった。ダージリンには、今すぐどうすることもできるものじゃないと諭されているし、日ごろは出来るだけ考えないようにしている。
「アッサム、行くわよ」
 ダージリンがアッサムの腕を取って引っ張った。あと数秒沈黙が続いていたら、部屋で何をされていたのかって、想像してしまう所だった。今はダージリンだけがこの、どうすることもできない喉の渇きを潤してくれる存在。
「お姉さま、また明日」
 腕にしがみついて、逃げるように先に寮の扉を開けた。重たそうなシャンデリア。少し暗めの光。外の空気がむわりと身体を包み込む。吸った空気が温かくて、一気に背中にじわりと暑さを感じた。それでも、ダージリンの腕にしがみついた両手を解いたりしなかった。
「部屋で、昨日のDVDの続きを見ましょう」
「アイスコーヒーが飲みたいですわ」
「私は嫌」
「ダージリンには淹れませんわよ」
 アッサムはこんな風に、ダージリンの傍にいられる心地よさを抱きしめて、できればそれがずっと、もっとこれからも続けばいいと思っている。終わりなど考えずに、ただ、傍にいられたらと希いながら。

 お姉さまがどんなことを思われながら、バニラ様と関係を築いておられるのかわからない。

割り切れる想いなど、この世界に存在しないはずだ。想いに限りなどないと、ダージリンと言う存在がアッサムに教えてくれた。もし、彼女がいてくれなかったら、きっとお姉さまとお兄さまの結婚をずっと当然のことのように受け入れたまま、疑問を抱くことはなかっただろう。

 でも、想いについて何も問いかけることができない。聞きたい、いや、聞きたくはない。お姉さまが少しずつ、離れて行ってしまう気がして、まだ、何も知らない無垢でいたい気持ちが捨てきれないでいる。






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Date:2016/08/15
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