【緋彩の瞳】 Because I love you ⑮

緋彩の瞳

ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

Because I love you ⑮

「おはようございます、お姉さま」
「おはようございます、アールグレイ様」
 いつもよりも早めの時間に食堂に行くと、アッサムとダージリンが仲睦まじくお茶の用意をしていた。バニラもオレンジペコもまだ来ていない。
「何を飲まれますか?」
「カモミール」
「わかりました」
 丁寧に紅茶を淹れるアッサムの隣で、ダージリンは間もなく来るであろう2人分のカップを温めている。
「2人とも、先に食べていいわよ」
「バニラ様たちは?」
「待たなくてもいいわ」
 アールグレイを挟むように腰を下ろした2人。いつもと変わらない朝食のメニュー。緊張した面持ちで挨拶に来る隊員たち。これが最後の決勝戦の朝なのだ。明日からはもう、この景色を見ることはない。真剣な眼差しで、暑い中、弱音を吐かずに優勝を目標に必死に訓練を続けた隊員たちのために、優勝したいという気持ちはあるが、それはやはり自分が心から願っていると言うものかどうかは、分からなかった。

 優勝ですら、誰かのためという言い訳をしなければならない。そのことが少し虚しい。でも、やっぱり、戦車道の頂点に立ちたいという意欲など、身体の中から溢れだしてくることはないのだ。誰かのためなら、隊員たちの喜ぶ顔がみられるのなら、と願うことを否定しても仕方がない。アールグレイはそう言う自分を受け入れるだけでいいのだ。


「お姉さま」
「なぁに?」
「緊張していますか?」
「いいえ。アッサムは緊張しているの?」
「もちろん」
 サラダをつつきながら、緊張で何も喉を通らないとアッサムは眉をひそめている。ダージリンは相変わらず、何も変わらない様子で美味しくもないサンドイッチを食べている。どちらが正しい反応なのか。アールグレイも普通に食事を取ることができるから、おそらくこういう場合は、アッサムのように緊張して食べられないと言う方が、正常なのだろう
「無理しなくてもいいわよ」
「はい」
 サラダとフルーツを食べて、サンドイッチに手を付けなかったアッサムは、食後の紅茶にも手を付けずにダージリンが食べ終わるのを待っている。
「アッサム、少し散歩でもして気を紛らわせたら?」
「そうですね」
 そっと髪を撫でていると、オレンジペコとバニラが入ってきたようだ。隊員たちが挨拶する声が飛び交う。アッサムとダージリンが立ち上がり、お茶の用意を始めた。
「おはよう、アールグレイ」
「おはよう、バニラ」
 少し目の周りを腫らしているバニラは、いつもの席に座り、オレンジペコもいつもと変わらない様子で座った。一晩中泣いたのだろうか。なぜ泣いたのだろうか。泣く理由は、どこにあったのだろうか。


「アッサム、先に行きましょう」
「えぇ。お姉さま方、では後で。少し散歩して来ますわ」
 バニラとオレンジペコに紅茶を淹れた後、アッサムはダージリンに手を取られて、一礼して食堂を出て行った。同じ歩幅で寄り添い歩く。そこにある絶対的な信頼と、互いを気遣う感情は、きっとバニラの言う通りだ。
「熱いわねぇ、こんな日でもイチャイチャしちゃって」
「あら、ペコが2人をくっつけようとしていたんじゃないの?」
「別にそうじゃないわよ。ただ、余計な邪魔が入らないようにしているだけ」
「邪魔ねぇ」
 赤い瞼のバニラが、ちらりとアールグレイの様子を伺うように見つめてくる。逃げるように紅茶を飲み干した。一晩、バニラの温もりのない時間は、居心地が悪くそれほど眠れなかった。冷たいシーツと、バニラの涙がしみこんだ枕。想いがどこまで本当で、どこまでが冗談なのか、そのことを問いただす必要などない。冗談で人は、涙を流さない。
「邪魔なんてしていないわよ」
「………そう?」
 羨ましくもない。アッサムが誰とどんな風に恋をしようともそれは彼女の自由。その自由な未来は、アッサムの手の中にちゃんとあるのだ。アールグレイと立場は違う。
「羨ましい癖に。私、あなたが嫌いなのよね。顔にも態度にも本音を出さないなら、人間じゃないわよ」
「ありがとう、オレンジペコ。私、実はロボットなのよ」
「あらやだ、納得だわ」
 夜、バニラはオレンジペコの部屋で寝たのだろう。どんな慰めの言葉を掛けられたのだろうか。いつもの朝と何も変わらない様子。3人でいてもいつもそうだ。薄皮で覆われた部分だけですべてが成立している。
「ロボットだったら、今日の試合の勝算は分かっているのでしょう?」
「えぇ。オレンジペコ次第、ね」
「私はあなたの命令通りに動くわよ。好き勝手動く誰かと、一緒にしないで」
「そうね。期待しているわ」
 アッサムとダージリンは今頃、手を繋いで緊張をほぐすために、のんびりと散歩しているのだろうか。そんな風に手を繋いで歩いて、その体温を感じて、恋情は満たされて行くのだろう。いつか終わりが来るかもしれないけれど、彼女たちの目にはきっとその限界は映し出されることなどない。永遠しか信じない、そんな陳腐な言葉が今は似合うのだ。



 ………バニラと手を繋いで。

 想像で満たされるものなど、心には存在していない。




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Date:2016/08/21
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