【緋彩の瞳】 Because I love you ⑰

緋彩の瞳

ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

Because I love you ⑰

「保奈美、何を考えているの?!」

 あからさまに毛嫌いをするように見送ったアッサムと、引きつった笑みで見送ったアールグレイ様。ひと段落して近づいていくと、アールグレイ様が思い切り、アッサムの頬を叩いた。初めて、感情をむき出しにするアールグレイ様のお姿だった。色々なものが積み重なっておられたのが、ここになって溢れ出したのだろうか。
「…………それはこっちのセリフですわ」
「何が?」
「バニラ様と、どういう関係ですの?」
 直接聞かないことで、想像の域を超えなければ、嫌なことから逃げていられる。ずっとそうしていることがいいのだと、アッサムと話をしていた。決定的な証拠を見てしまってもなお、確認しなければいいのだと。
「何が言いたいの?」
 アッサムの胸倉を掴んだので、ダージリンはゆっくりとその間に割って入り、その手を振りほどいた。ダージリンは部外者だ。それを承知でも、アッサムを守らなければいけない。
「アッサムが失礼いたしました。今はまだ、パーティが行われている最中です。アールグレイ様は会場にお戻りください」
 アッサムを背に追いやり、ダージリンは睨み付けてくるアールグレイ様にゆっくりと頭を下げてみせる。

「……………手を上げて悪かったわ」

 ダージリンを睨み付けた後、ため息を前髪に吹きかけてきた。怒りがまだ、身体を包み込んでおられる。
「お姉さま、質問に答えてくださりませんの?」
「質問の意図がわからないわね」
「はぐらかしておられるのでしょう?」
 ダージリンは手を取って引き離した。興奮しているアッサムは、アールグレイ様のように、感情を切り替えることができていない。
「ダージリン、保奈美をお願い」
「はい」
 ダージリンは出来る限り会場から離れるように、エレベーターでホテルのロビーまでアッサムを連れ出した。
「冷やしましょうか」
 ハンカチを濡らし、頬にあててやる。広いロビーの端にあるソファーに腰を下ろして、俯いたままのアッサムの背中を撫でてあげる。少し落ち着きを取り戻した瞳は、小さくありがとうと告げてくれた。
「………私には、お2人が何を考えているのかがわからないわ」
「お2人って?」
「バニラ様とお姉さま」
「それは、誰にもわからないことだわ」
「………そうですけれど」
「あなたは、ただ、3人が揃うのを見たくなかっただけでしょう?」
「……えぇ」
「バニラ様もアールグレイ様も大人の対応を取っておられたわ。お兄さまは事情を何もご存じないのだから。あなたの気持ちはわかるけれど、何事もなくやり過ごしてもいいことだと思うわ」
「……そうね」
 試合が終わり、ため込んだ疲れを解放できずに、苛立ちをぶつける方法を見誤ったのだろう。
「ダージリン」
 頬にあてた手を取られ、ゆっくりと抱き付いてくる身体。黒いリボン。そっと頭を撫でると、クーラーで冷やされていたせいか、少しひんやりとしている。腰に回された腕が身体を引き寄せようとしてくる。抵抗する理由もなく、ダージリンもその背の髪を抱いた。

「どうしたの、アッサム」
「私はあなたが好きです」


「………アッサム?」


「お姉さまは、ずっと好きな人の傍にいたいと思わないのかしら。どうしてあんな風に、割り切ることができるのか、私にはわからないですわ」
 
抱き合った身体から伝わる心臓の音はとても穏やかで、ダージリンのそれがだんだん速度を上げて行くことに、アッサムは気が付いていないようだった。苛立ちの狭間にさらりと好きだと言われるなんて、想定していなかった。別に薔薇の花びらが舞降るようなシーンを想像していたわけでもないけれど。

もう少し、もっと、何か。いえ、別に文句はない。

「……アールグレイ様とバニラ様がどんな関係か、まだ何もわからないわ」
「それは、そうですけれど……」
 指先がセーターをきつく握りしめてくる。もう少し様子を見ておこうと言っても、きっと近いうちに、アッサムは耐え切れなくなるはずだ。卒業されるまで目を瞑っていても構わない問題だと、他人であるダージリンは思っていた。ひと時の恋でも、それでいいと思う人だっているのだ。ダージリンがずっと、アッサムの傍にいたいと願う。それが絶対的に正当な感情かどうかなんて、他人が決めるものではない。それと同じだ。


「お取込み中だったようね」
 

 乾いた咳払いが耳に届き、抱き合っていた腕の力を抜くと、そこには腕を組んで、呆れた表情のオレンジペコ様が立っておられた。
「……せっかく、良いところでしたのに」
「あら、一応ダージリンが“私も好きよ”って言うのを待っていたつもりだったのよ。案外、ヘタレね」
「オレンジペコ様のお耳に聞こえぬ場所でなければ」
 オレンジペコ様は、ふふん、と鼻で笑っておられる。アッサムから離れて、そっと立ち上がった。頬の赤みは引いてはいないようだ。
「他学部も含めて1年生は全員、学生艦へ戻れと、アールグレイからの指示よ。ダージリン、点呼をして、全員が乗ったら連絡をして」
「わかりました」
 オレンジペコ様はダージリンたちにゆっくりと近づいて、それからアッサムの叩かれた頬に指先で触れた。
「アッサム、これはどうしたの?」
「いえ……ちょっと、お姉さまに怒られてしまいました」
「そう。じゃぁ、仕返しに私が殴っておいてあげるわ。個人的な恨みは、私にだってたっぷりあるんだから」
 何だか、オレンジペコ様はいつになくやる気に満ちておられる。個人的な恨みと言うのは、アールグレイ様が読まれる原稿を、超高速で書かされたことや、招待状関係の手配をさせられたことなんかも、多分に含まれていそうだ。
「いえ、お姉さまは恨みがあって私を叩いたわけじゃ……」
 ダージリンとアッサムの頭を撫でてくださる両手。普段、口調は少しきついけれど、オレンジペコ様は何だかんだとお優しい方だ。ダージリンのことを気に掛けてくださっている。いつも、アールグレイのようになるな、と言うセリフを吐きながら、幹部の仕事をたくさん教えてくださっている。
「理由は何だっていいわ。あと、バニラとアールグレイのことだけど、それは放っておいたらいいわよ」
「……聞いていらしたのですか?」
「だって、告白のシーンから目の前にいたのよ?」
 告白のシーンと言われて、せっかく冷静な振りをしていると言うのに、また心臓のリズムが速くなりそうで、ダージリンは口の中を噛んで、何とかやり過ごした。アッサムのあれは、告白と言うかなんというか、そうであってほしいような、違うような。
「お姉さまは、私の兄と結婚することになっています」
 バニラ様とアールグレイ様のことを、何かオレンジペコ様はご存じの様子。アッサムは縋る想いで、隠していたことを告げた。お2人の友として、協力を求めたいのだろうか。そう言うことは絶対になさりそうにないお人だと思うが、バニラ様とアールグレイ様がただの友達ではないと、オレンジペコ様の目が告げておられることで、避けていた事実と向き合わなければならなくなったのだろう。
「あらそうなの。それで?バニラが可哀相とでも思っているの?」
「………バニラ様もそうですが、お姉さまは……」
「放っておきなさい。アッサムはダージリンと幸せに過ごすことだけ考えていればいいんじゃない?ねぇ、ダージリン?」
 答えようがないことを、意地悪く聞いてこられるので、ダージリンは口の中を噛んだまま声を出せなかった。もう少し、色々とうまく立ち回る方法を勉強しなければならない。
「2人とも、顔が赤い。叩かれた頬がどこかわからないくらい」
「……か、からかわないでください。真面目に聞いておりますのに」
「だから真面目に答えたでしょう?放っておけ、と」
「……………はい」
 優しく微笑みながらも、その瞳はアッサムをじっととらえている。ダージリンは声を出さない代わりに、アッサムの手を取り少しだけ引っ張った。ダージリンたちよりもずっと、オレンジペコ様の方が、バニラ様とアールグレイ様の関係をご存じのはず。どれほどに深い関係なのかもわからないアッサムたちが、口をはさむべきことではないのだ。
「じゃぁ、ダージリン、後は任せたわ」
「はい」
 腕時計を見ながら、オレンジペコ様は30分以内に全員揃ってホテルを出るようにと指示をされて、会場に戻って行かれた。ダージリンは自分の頬の熱を確かめながらも、急いで同級生たちを集めなければならない。ひとまず、この件についてはオレンジペコ様の意見に従うしかなかった。





関連記事

*    *    *

Information

Date:2016/08/21
Trackback:0
Comment:0

Comment

コメントの投稿








 ブログ管理者以外には秘密にする

Trackback

TrackbackUrl:http://fireredfantasia.blog.fc2.com/tb.php/767-4ddb63c5
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)