【緋彩の瞳】 Because I love you(R15) ⑱

緋彩の瞳

ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

Because I love you(R15) ⑱

「お疲れ様、アールグレイ」
「バニラ」
 勝っても負けても、感謝パーティは免れない。ルクリリお姉さまにも捕まり、前のお茶会で逃げ出したことをネチネチ怒られ、関連企業のお偉いおじさまたちにも、引きつる笑みで挨拶をし続けて、どんな試合だったのか、もうすっかり忘れてしまった。どちらかと言うと疲れたのは、パーティの方だ。
「クロムウェルのレストア、寄付金は未来のあなたの旦那様からだったのね」
「……私、あの人が結婚相手って言ったかしら?」
「たった今、言ったわね」
「………そうね」
「アッサムの本物のお姉さまになるの?」
「えぇ」
 アッサムのことを考えると、嘘でも違うと言っておくべきだったかもしれない。どこかの学部がアッサムに詰め寄ったらしいが、また、余計な迷惑を押し付けてしまう。夜遅くに寮に戻って来て、頬を叩いたことをきちんと謝るタイミングもなかった。明日にでも、お詫びに何か美味しいものを食べに連れて行ってあげないと。
「何を考えているの?」
「別に?」
「あらやだ、私のことを考えてくれているんじゃないの?」
 小さく笑いながら、バニラはいつものようにシャツを脱ぎ、素肌をアールグレイの前にさらしてくる。背中に残る噛み痕。薄く消えているものが、蚊に刺された痕のように見えた。血を吸って、それで命を繋ぐほどバニラを必要としているだろうか。そんなことを考えると言うことは、それだけ疲れているということだ。
「……今日は、オレンジペコの部屋に行かないの?」
「行って欲しい?」
「………いいえ」
 何も言わなくとも、ベッドの上で四つん這いになるバニラ。アールグレイはそのすぐ傍に座って、髪をゆっくりと撫でた。
「バニラ」
「ん?」
「…………負けて、悪かったわ」
「それは試合のこと?」
「えぇ」
「他に、何か悪いって思っていることがあれば、聞いてあげるわ」
「……何時間もその体制のままは嫌でしょう?」
「あらやだ、いっぱい悪いことをしたの?」
 指に絡めた髪をわずかに引っ張ると、顔がそれに合わせて上がってきた。喉元に唇を寄せると、息を飲むように波が動いた。そのまま噛み付いてしまいたい衝動を抑え、いつものように乳房を両の手で揉む。
「………アッサムのお兄さん、とてもいい人そうね」
「えぇ。とてもいい人よ」
「結婚して、沢山セックスをして子供を作るの?」
「たぶんね」
「あの彼を好きなの?」
 赤い噛み痕の残る背中。舌先でなぞりながら、昨日、何も刻まなかった場所に吸い付いて、歯を立てた。シーツが擦れる音。握りしめて引き寄せられて行く。胸の頂を指先で刺激して、背中を埋め尽くすように、あちこちに歯を立てた。
「……ねぇ、アールグレイ。聞いているんだけど」
「嫌いじゃないわ」
「…………そっか。アールグレイは、好きでもない人の身体を抱けるんだもの、親の決めた結婚くらい、あなたには平気なことね」
 平気ではないけれど、子供の頃からそう決まっていて、そう言うものなのだと、何となく受け入れていただけだ。もっと早くバニラに出会っていれば、ハッキリと拒絶していたことだろうか。流れに身を預けているのかどうかさえ、判断が付かない子供だったのだ。それでも、裕一さんとの結婚を泣いて嫌がる理由は、あの頃に持ち得てなどいなかった。アッサムが、保奈美が嬉しそうに笑ってくれている。保奈美を喜ばせることならば、それでいい。そう言う気持ちもあった。保奈美を言い訳にして、受け入れている自分に酔いしれていたのだ。
「バニラ、アッサムに私との関係を話したの?」
 乳房からお腹に触れ、四つん這いの足の傍に座りなおして、そっといつものように指先で触れてみる。乾いたままのその場所は、完全にアールグレイを拒絶していた。
「何のこと?」
「……どういう関係なのかって、睨まれたわ」
「誰が言ったの?」
「………バニラじゃなければ、オレンジペコじゃない?」
「それはないわよ。あの人、誰かと違って真面目で義理と人情をちゃんと持った人だもの」
 どこから漏れたのか、本当のところ重要なことではない。知られていると言う事実が怖いのだ。決して軽蔑してくるような様子ではなかったが、最近感じる薄い壁は、ダージリンとの関係に目が向いているからではなく、バニラとのことを知っているからかもしれない。どこまで何を知っているのだろう。あるいは何か、勘違いをしていないだろうか。
「ん……痛い」
「……濡れないわね」
「意地悪しすぎなのよ」
 舌先で蕾を撫でると、軽く果ててしまうくらい、バニラは感じやすい。それでも今日は声を押し殺しながらも、指を受け入れるような気配はなかった。
「アールグレイ、痛いわ」
「爪しか入ってないわ」
「まったく濡れていないって、触って分からないの?」
「………バニラが嫌がっているのでしょう?」
 無理やりに指を埋めたところで、苦痛しかないものをセックスとは言わない。バニラの甘い声も、弓なりに震える背中も、果てた後の溜息もない。
「嫌だなんて、思ってないわ」
「身体は嫌だって言っているわ」
「……身体じゃないわ」
「じゃぁ、何?」
「……何かしらね」
 爪の先を抜くと、痛そうに身体が跳ねた。疲れた身体を、バニラで満たしたいと思っても、バニラが望まないものはどうすることもできない。四つん這いのままの隣に寝転がり、その腰を強引に引っ張って、倒れ込んでくる身体をきつく抱きしめた。
「………私、やっぱりペコの部屋に行きたわ」
「さっき、行かないって言わなかった?」
「言ってないわ」
 逃げてしまわないように、きつくバニラの身体を抱きしめた。昨日、ほとんど眠れずに疲れをたくさん溜めた身体は、バニラの体温がなければ休まることはないのだ。
「私、アールグレイの傍にいるのが嫌になったわ」
「………バニラ」
「好きって言わなければよかった」


 知りたくはなかったし、聞きたくなかった。いや、どうせならもっと早く知っておきたかった。

 ……だけど、セックスだけの関係を始める前にそんなことを言われていれば、最初から拒否していたかも知れない。いずれ裏切るくらいなら、指一本触れず、尊敬する友として傍にいることに徹していられた。


「………人のものになる人間になど、抱かれたくはない?」
「アールグレイには、人の気持ちがわからないのよ。でも、悪いことじゃないわ。おかげで、今まで良い思いもさせてもらったし、それなりに楽しかったから」

 一瞬だけ緩めた腕の力。それを待っていたかのように、バニラは束縛から逃げ出した。
光に照らされて瞳に映し出される裸体。
ほとんど背中ばかりしか見つめてこなかった。
その薄紅の唇にキスをしたのは、初めてセックスした日だけ。
バニラからしてきたキス。
驚いて、怖くなって、それ以来、キスは好きではないと言って避けていた。


あの時感じた眩暈。
世界のすべてが歪んだように感じた一瞬は、今も身体が覚えている。

「…………バニラ」
「ごめんなさい、アールグレイ。もう、遊びは終わり。私、これ以上あなたに引き摺られる自分が怖いの。楽しかったっていう思いだけは、心に残しておきたいから」
「……………わかったわ。これで、アッサムにバニラとの関係を“ただのルームメイト”と説明ができるわね」
「あらやだ、そっちの方が心配なのね」
 こういう時には、優しい言葉を掛けてあげればいいのだろか。それとも謝ればいいのだろうか。何を誤ればいいのだろうか。どんなセリフならいいのだろう。例えば、この手がバニラを求め、縋るのは、それは好きだと思っているからだと、そう言えばいいのだろうか。必ず終わりが来る日まで、その限りのある時間までは傍にいたいと言えばいいのだろうか。そんな刹那の想いを告げて、嬉しいと思う人なんているのだろうか。バニラの望みは、この手には存在していないのだ。


バニラの求めているものなど、最初からこの手にはなかった。
 アールグレイが望む未来ですら、この手の中にはない。


 アールグレイが、麗奈が望む未来が、わからない。


「……バニラ」
「ごめんなさい、セフレはもう解消よ。いつか来る幸せな結婚のために、ちゃんと処女を守ってね」

 結婚が幸せだと、どうしてそうみんな言うのだろうか。幸せってどういうものだろうか。誰かに望まれて、誰かが喜ぶのなら、それは幸せなこと。そう思う。でも、そう言い聞かせている自分がいる。

服を着たバニラは、制服を抱きしめて逃げるように出て行った。もう、二度とその髪に触れることは出来ない。これは不幸と呼ぶことなのだろうか。


 喪失感の中にある、ホッとした気持ちは何だろう。
必ず訪れる別れという恐れが、たった今消えたせいだろうか。


香りも残さずバニラは出て行った。


もう、この腕の中には戻って来ない。その方がいいのだ。





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Date:2016/08/24
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