【緋彩の瞳】 Because I love you ⑳

緋彩の瞳

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ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

Because I love you ⑳

 ダージリンと共に、彼女の親族が保有している別荘で毎日を過ごした。広いシアタールームで映画を観たり、本を読んだり、ため込んだ宿題をしたり、花火を観に行ったりと、充実した毎日を過ごしていた。お姉さまから最初の数日、着信があったが応対しなかった。いろんなことを聞きたいけれど、何から話せばいいのかわからなくて、会話ができない気がして、ダージリンの傍で憂鬱な気分になりたくはなかった。

 休みも終盤になった頃、ダージリンの携帯にオレンジペコ様から連絡が入り、夕食をごちそうしてくださると言うことで、横浜に戻り、ご自宅へ伺った。
「え?……バニラ様」
 てっきり、オレンジペコ様とご両親がおられると思っていたアッサムは、鼻歌交じりに花瓶に花を挿しているバニラ様が視界に入り、リビングへ入る一歩が止まった。
「あらやだ、手を繋いで登場するかと思ったのに」
「ごきげんよう。ご期待に沿えずに申し訳ございませんわ。これでよろしい?」
「ダージリン、何だか余裕ね」
 後ろを歩いていたダージリンに手を取られて、アッサムは椅子を引かれて腰を下ろした。ダージリンも余裕と言うよりは、遊んでいるのだ。バニラ様の楽しそうな表情を見ると思わずホッとする。お姉さまとはちゃんと、上手くいっておられる気がする。
「あなたも座ってなさい。今日は私たちがおもてなしをしてあげるわ」
「お姉さまは?」
「アールグレイ?アッサムが知らないのなら、私たちもわからないわ」
 テーブルに置かれたひまわり。そっぽ向いた角度がお気に召さないのか、バニラ様は何度も何度も花瓶の角度を変えて、最後は諦めて拗ねた様子で席にお座りになった。
「そうですか」
「あなたのお兄さまと一緒じゃないの?」
「………いえ、兄は今、仕事で東京なので」
「あらそう?」
 お兄さまが結婚相手だと、誰がバニラ様に告げたのだろう。お姉さましかいないはずだ。最初から、結婚相手がいるということを、バニラ様に告げておられたとは思わない。あの後、何か理由があってばれてしまったのだろうか。
「どうしたのアッサム、嫌そうな顔で私を見て。何か顔についている?」
「いえ、何も」
「………そう?」
 首をかしげてニッコリと微笑まれると、アッサムは助けを求めるようにダージリンを見つめた。見つめ返されて、数秒の空白ができる。
「あらやだ、私がいるのに見つめ合って愛を語らないでちょうだい」
「失礼。人前では気を付けますわ」
「ダージリン、あしらい方がうまくなったわね」
「お褒めいただき光栄ですわ」
 微笑み合う2人に挟まれアッサムはため息をついて、キッチンに籠るオレンジペコ様に念を飛ばした。
「お待たせ。今日は中華料理よ」
「やった~ペコの手料理だわ!」
「あなた、毎日手伝いもせず食べているじゃない」
「だって、ペコの愛情が欲しいんだもの」
「そう言う類のものは入れてないわ」
「あらやだ、酷い。可愛い後輩たちが来ているのに」
 お2人の会話は楽しそうで、アッサムとダージリンは聖グロの紅茶の園よりも楽な気持ちで食事を取ることができた。大会も終わり、これからはダージリンが隊を率いて行くために、新学期が始まったら、編成会議があると教えてもらった。休みの間、ダージリンとそのことで話をしていたから、プランはもう出来上がっている。
「ついに、アッサムとダージリンが同じチャーチルに乗るのね。アッサムは一緒の戦車に乗りたそうだったものね」
「いくら仲がいいからって、戦車の中ではイチャイチャはダメよ」
「そうね、装填手が困るわよね」
 オレンジペコ様もバニラ様も、ずっとアッサムたちのことをからかって楽しそうだ。ダージリンは余裕を装い笑っているけれど、少しこめかみが引きつっている。アッサムは頬に空気を入れてふて腐れて見せるけれど、本当のところ嫌な気はしていない。

お姉さまはここに誘われなかったのだろうか。
それとも、誘ったけれど来なかったのだろうか。

「バニラ様たちが引退なさった後のことなんて、お2人には関係ございませんわ」
「最近、ダージリンは反抗的ね」
「一矢報いたいのよ、ペコに」
「見せつけたいんでしょう、バニラに」
「あらやだ、私?何だか腹が立つわね」
 このお2人に言い返せるダージリンの強さは、時々羨ましい。言い返さなければって戦っているようにも見えるが、きっとこれはこれで楽しいのだろう。オレンジペコ様はお姉さまとバニラ様のことは放っておけと言うし、今、この場所で問い詰めて空気がしらけるのも嫌だし。
「どうしたの、アッサム?」
「え?」
「さっきから、ず~っと私のことを考えている。浮気はダメよ。ダージリンの仕返しなんて、どんな恐ろしいものが待っているのか怖いわ」
「バニラ様………頭の中にお花を生けたようですわね」
「アッサム、ナイスジョーク!」
 オレンジペコ様はお腹を抱えて笑っておられるけれど、アッサムは別にジョークを言ったつもりもなく、思ったことを口にしただけだ。ダージリンも大笑いしている。
 食事を楽しみ、ずっとからかわれながらも時間はあっという間に過ぎて行って、結局アッサムはバニラ様に聞きたいことを何も聞けないまま、お開きになってしまった。あと数日で学生艦に戻らなければならない。残りの夏休み、アッサムはお姉さまに連絡をすればいいかどうか、答えが出せないままだ。バニラ様はずっとオレンジペコ様のご実家に居座っているようで、お姉さまとデートをされるとか、そう言う感じでもないようだ。

「アッサム」
 門まで送ってくださったバニラ様が、アッサムの背中に抱き付いてきた。仄かな香りがダージリンとは違うもので、暗闇の中眉をひそめて無言でクレームを送ってみたが、バニラ様はその顔を見たかったと言わんばかりに、頬を摺り寄せてくる。
「何でしょうか、バニラ様」
「ずっと、私に何か聞きたそうな顔だったから、なぁに、って」
「いえ……何も」
「ペコはいないから、今なら聞けるわよ」
 聞きたいことはたくさんある。でも、聞いて良いことかどうか、聞くことをダージリンがどう思うか。そう言うことを考えると、どうすればいいのかわからない。
「誰かに気を使うことなんてないわ。あなたが聞きたいと思ったことを、聞けばいいじゃない。アールグレイと私のことが気になるんでしょ?」
 バニラ様に聞いたなんて、お姉さまに知られたら。どんな風に想われるだろうか。悲しませてしまうだろうか。激怒されるだろうか。
「バニラ様、いつまで私のアッサムにくっついておられるのですか?」
「あらやだ、アッサムはダージリンのものなの?」
「そうですが、それが何か?」
「……いいなぁ~って思っただけよ」
 答えに困っていると、ダージリンがバニラ様の腕を取って引き剥がしてくれた。逃げた体温の代わりに、今度はアッサムがダージリンの背中に隠れるように、その腕にしがみつく。
「私から、質問があるのですがよろしいでしょうか?」
「なぁに、ダージリン」
「アールグレイ様とは、本当に恋人関係ではないのですか?」
 バニラ様の作られた笑みが寂しそうに見えたのは、アッサムの勘違いなのだろうか。
「違うわよ。まったく、恋人っていうキラキラした呼び名はついていないわ」
「そうですか。随分と大きな歯を持った、とんでもない蚊に背中を噛まれたようですわね。世紀の発見になりますから、次は捕獲なさってくださいませ」
 アッサムがバニラ様に聞いたとお姉さまが知って、後で関係が悪化するくらいなら、と、ダージリンが身代わりになってくれたのだろう。ダージリンには興味のないはずの話題だ。
「でも、きっと、二度と現れないわ。巨大な蚊はもう追い払ったのよ。一方的に血を吸われて、いえ、まぁ、差し出していたわけだけど。こっちはおかげで、干からびて乾いてしまったわ。今は栄養ある物を食べて、回復途中なの」

 それは、お姉さまと何かしらがあった、と解釈してもいいことなのだろうか。恋人ではないとおっしゃったのに、どういうことだろう。

「…………お姉さまのこと、お好きですか?」
「あなたのお姉さまのことは嫌い」
「えっ?」
「私が好きなのは、アールグレイなの。あなたが慕う“アッサムのお姉さま”なんて、私は知らないわ」
「あぁ………そう、ですか」
 ふわふわと笑うバニラ様。その目はやっぱり寂しそうにしか見えなくて。大きな蚊はもう追い払った。それは終わりを意味していることなのだろうか。
「安心して。あなたの兄との結婚の邪魔をするつもりもないし、アールグレイは私を好きでもないわ」
 お姉さまがバニラ様を好きじゃないなんて、そんなことはお姉さまに聞かなければわからない。バニラ様は、アッサムを心配させまいとして言っているだけに違いない。結婚して欲しくないと思っているのなら、そう言ってもらっても構わない。むしろ、そう言って欲しい。誰かが嫌だと思うことを、お姉さまとお兄さまにして欲しいなんて、アッサムは思ってない。
「そうですか。アールグレイ様は、好きでもない方の血を吸われておられたのですね」
「そうなのよ。あんな隊長になっちゃダメよ、ダージリン」
「ご心配なく。吸血の趣味はございませんわ」
「あらやだ、だからっていつまでも清くお友達っていうのは、アッサムが可哀相よ」


「………」
「………」


 人差し指を立てながらウインクを飛ばすバニラ様の真後ろ、青い炎が近づいてこられて、ゴン!と拳がバニラ様の頭に向かって下ろされた。
「目を離すんじゃなかったわ」
「いた~。ペコが暴力振るった!」
「教育的指導よ。ほら、あなたたちはさっさと帰りなさい」
 バニラ様の首根っこを掴むようにして、オレンジペコ様はまるで犬の躾をされているよう。ダージリンの家からの迎えの車に乗り、次は学校で会いましょうと別れを告げて見送られた。


「……アッサム、アールグレイ様はバニラ様のことをお好きよ」
「本当?」
「あなたのお姉さまのことは知らないけれど、アールグレイ様は、あのお方は、興味がない人に近づく性格ではないわ」
 バニラ様は、ハッキリと好きだとおっしゃっていた。それでも恋人関係を否定されておられる。それはやっぱり、アッサムに気を使っているからなのか。でも、だったらすべてを否定されるはず。
「まさか………身体だけの関係があるということ?」
「呼び方の問題じゃないかしら?外で手を繋いでデートをしていなければ、恋人じゃないだなんて、誰が決めたものでもないわ。恋し合っていても、言葉にしない人もいるわ」

 だったら、どうしてお姉さまは結婚を嫌だと言ってくださらないのだろう。お兄さまは、周りに気を使って、バニラ様を悲しませてまで、結婚しなければならない相手ではない。それとも結婚をしても、バニラ様とはひっそりと続けるなんていうお考えなのだろうか。それはそれで、お兄さまが可哀相だ。

「ダージリン」
「何かしら?」
「私はあなたが好きです」
「………存じていてよ」
「言葉にしておこうと思って」
「あなた、いつも誰かがいるときを狙って言うのね」
「………狙っていませんわ。忘れておりました」

 高級国産車の運転席には、ダージリンの家のお抱え運転手が真っ直ぐ前を向いて座っている。膝の上に置いてある手に、ダージリンの手が重なった。冷たい手の甲を温めてくれる手のひらは、言葉にしなくてもアッサムの心を温めてくれるのだ。


 バニラ様にとってお姉さまは、ちゃんと心を温めてくれる存在なのだろうか。





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Date:2016/08/24
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