【緋彩の瞳】 Because I love you 21

緋彩の瞳

ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

Because I love you 21

「お呼びでしょうか、アールグレイ様」
「お茶を淹れて、座りなさい」
 学生艦に戻って次の日、出港へ向けてオレンジペコ様はバニラ様とアッサムと、ブリッジに向かった。ダージリンはアールグレイ様に隊長室に呼び出されていた。部屋の真ん中にあるソファーに腰を下ろす前に、紅茶を淹れて、上座に座るアールグレイ様の前に置く。
「今週中に、隊員の入れ替えをするわ」
「はい」
「3年生を除いて、好きなようにすればいいけれど。明日の会議までに一応、部隊編成のリストを作って私に見せて」
「わかりました」
「できればさっさとこの職を降りたいのだけれど、1年生に学生艦の責任者をさせるというのもね。3月までは私の名前を貸すから、どうぞ、お好きになさい」
「わかりました」
 学生艦の行先も、勝手に決めて構わないと言われたが、そうですかと言って、直ぐに舵を切るわけにもいかない。これから残暑を避けるために北上をして、プラウダとの練習試合と交流会があるのだ。アッサムがとても楽しみにしているし、ダージリンも今年の進路計画を変えるつもりはない。
「夏休みの間、アッサムと過ごしていたの?」
「はい」
「元気そうにしていた?」
「はい。アッサムとは、一日も会わずにおられたのですね」
「連絡が付かなかったのよ」
「そうですか」
 バニラのフレーバーが鼻腔をくすぐる。ダージリンはゆっくり喉を潤した。嫌われているとは思わないが、2人で笑いあいながら他愛ないことを話すと言うのは、残念ながら出来る相手ではない。
「アッサムの実家には行ったわ。帰って来ないことを、ずいぶん苛立っておられたみたい」
「アッサムのお兄さまですか?」
「えぇ」
「失礼なことを聞いてもよろしいでしょうか?」
「失礼とわかって聞くのね」
バニラフレーバーの香りを、怪訝な顔をして味わうアールグレイ様は、きつくにらみつけてこられる。アッサムがいないと、不快なことを隠さない姿が、かえってダージリンには好ましかった。
「誰のために結婚されますの?」
 ゆっくりした動作でティーカップをテーブルに置く。きつくにらみつけてくる瞳の奥で、誰を想っておられるのか、ダージリンにはわからなかった。わからないから、知りたいのだ。
「誰かのためとするのなら、名前をあげて行けばあなたは満足なの?知って、どうだと言うの?」
「そこに保奈美のため、と名前があがるのでしたら、おやめになった方がよろしいですわよ。もちろん、彼女の家の名前があがるのなら、なおのこと」
 真っ直ぐに見つめてくる瞳は、ぶれる気配もない。左右に揺らすことのない瞳。これが尖鋭の部隊を率いる強さの一つなのだろう。相変わらず、何を考えておられるのか、見えてこない。
「私のため、ね」
「………本気ですの?」
「人はいつでも、すべての行動は自分のためなのよ。誰かを悲しませたくない。あるいは喜ばせたい。それはなぜ?その相手の表情に心を揺さぶられる自分を満たすためよ。すべて最後は自分のためなの。保奈美を喜ばせたい。悲しませたくない。それは結局、私自身がそうすることで、心が満たされるから。結婚は私の我儘を通してもらったようなものよ」
 真っ直ぐ見つめられて、ダージリンはわずかにその視線から逃れて自分のティーカップへと目を逸らした。アールグレイ様の視線は、まだずっとダージリンから逸らす気配はない。
「バニラ様を悲しませても、心は痛みませんの?」
「あの子から何か聞いたの?」
「アールグレイ様のことが好きだと」
 視線をアールグレイ様に戻した。睨み付けてくるようなまなざし。

バニラ様のことを深く想う瞳は、ほんの少しだけ左右に揺れた。

「それがどうしたの?」
「互いに想うことを、ひとときの想い出になさるおつもりですか?」
「あなたに関係ある?」
「大いにありますわ。私もアッサムが悩む姿を見ているのは、私が心苦しい想いをしますの」


 アールグレイ様が、バニラ様を本気で好きではないのなら、ダージリンはこの件に一切関わるつもりはなかった。むしろ、アールグレイ様を軽蔑して、必要最低限の会話しかしないでいただろう。身体の関係を楽しむことは理解に苦しむが、個人の自由だ。ダージリンの知ったことではない。

「勝手に苦しんでいなさい」
「その台詞、あなたが大切にしている保奈美にも言えますか?バニラ様にも言えますか?」

 険しくにらみつけてくる瞳は、誰を想い、何を考えておられるのだろう。どの道を選んでも、誰かが傷つく。その帰路に立たされて、アールグレイ様は身動きが取れないのだとしても、それでも退路はないのだ。

「………バニラとは何の関係もないわ。誰に何を聞いたのか知らないけれど、すべて終わらせたわ」
「ご自身の気持ちは終わっておりませんでしょう?バニラ様はハッキリと、お好きだと言っておりましたわ」
「終わったわ」
「終わりって何ですの?“諦め”という意味ですの?」


 にらまれた方が、なぜだかダージリンには嬉しかった。喜怒哀楽の読めないお方。アッサムが傍にいれば穏やかな様子は伺えたが、日ごろから口数も少なく、気分を態度に出す様な事もあまりなく、アッサム以外の1年生は誰も近づくことのないお方。同学年の3年生ですら、他愛ないお話をされている姿を見たことがない。アッサムがアールグレイ様に抱き付いたり、甘えたりしている姿を見て、学校中が騒めいたのも致し方がないはずだ。だけど今、アールグレイ様の苛立ちがダージリンに向けられている。それが楽しいと思えた。



「…………あなたに話すことは何もないわ。明日の会議までに、リストを出しておいて」
 
カップを手に、アールグレイ様は隊長椅子へと戻られる。ダージリンは立ちあがらずに、落ち着いて紅茶を一口飲んだ。


「一つだけ、アールグレイ様」
「………何?」


「”諦めは、愚か者の結論“ですわよ」

 音を立てておかれたティーカップ。クーラーの室外機の音だけが窓の外から聞こえてくる。

沈黙の中、時間を掛けて紅茶を味わったダージリンは、冷えた紅茶に手を付けないアールグレイ様に一礼して、隊長室を出た。





関連記事

*    *    *

Information

Date:2016/08/24
Trackback:0
Comment:0

Comment

コメントの投稿








 ブログ管理者以外には秘密にする

Trackback

TrackbackUrl:http://fireredfantasia.blog.fc2.com/tb.php/771-674c0e9a
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)