【緋彩の瞳】 Because I love you 22

緋彩の瞳

ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

Because I love you 22

 編成会議で決まった新しい部隊。3年生のバニラたちはもう、隊員の前に座って偉そうにする必要もなくなり、会議室の一番後ろを陣取るようになった。アールグレイは予想通り、ダージリンの執る指揮に一切の口出しをしない。ペコもまた、何も言うことはなかった。中学時代とはいえ、東日本チームを率いたこともあるというダージリンに、上級生として言うべきことが出てこない。2年生の隊員も静かに言うことを聞いているだけだ。
 毎日、ダージリンは淡々と仕事をこなし、アールグレイからドンドン引き継いだ仕事を難なくこなしているようだ。顔色一つ変えず楽々とこなしているはずだけど、アールグレイと違って、傍にいるアッサムとは、目が合うたびに表情がすぐ崩れてしまうあたり、可愛らしい。
「ペコ、今日は何を食べさせてくれる?」
「あなた、食費を私に払ったらどうなの?」
「身体で払うって言っているでしょう?」
 すっかり、ペコの部屋に住み着いてしまったまま、週の半分以上は夕食も部屋の中で食べて、アールグレイといることも、本当になくなった。セフレを解消してしまえば、この学生艦を出て行く頃には、そんなこともあったなと、笑えるくらいになれるはずだ。そう思って新学期が始まり1か月が過ぎたが、今のところはまだ、本人が視界に入っているからか、そう言う気持ちにはなれない。
「要らないし。バニラに興味ない」
「あらやだ。私、ペコになら何されてもOKよ」
「何もしないから安心して」
 出ていけと言わないあたり、ペコも優しい人だ。優しさを見せないアールグレイのことは好きだが、今になれば、それを隠す弱さを好きになったことが間違いだったのだ。
「何もしてくれないの?ケチ」
「ふん。いい加減、部屋代も徴収するわよ」
「今更、新しく部屋を借りる申請なんて通せないわよ。申請書類を提出する先は、ダージリンなのよ?」
「出したら?認めてくれるかもしれないわよ」
 エプロンを付けながら、ペコはテキパキと料理を始める。邪魔だからじっとしているか、出ていけと言われて、つまらないと思って部屋を出た。秋服をそろそろペコの部屋に移しておかなければならない。アールグレイは食事に出かけている時間のはず。隙間を狙って、服を取りに戻ることにした。




「あっ………」
「………バニラ」
「あらやだ、いたの?」
「私の部屋だもの」
「それもそうね」
 鍵を開けて自室に戻ると、食堂の中のカフェテリアの紙袋を手にしたアールグレイがいた。そう言うものを好んで食べる人ではなかったはず。食堂に行かないのは、ペコとバニラがいないからだろう。アッサムと2人で食事を取るようなことも、今はしていないはず。ダージリンがいるせいだ。
「今から、食事なの?」
「えぇ」
「そんなもの、食べるの?」
 紙袋の中から出されていくのは、飽きるほど食べたサンドイッチ。少数にだけ人気のコーヒー。栄養が偏りそうだと思いながら、そうさせているのはバニラだって思うと、何も言えない。
「アッサムたちは食堂にいないの?」
「どうかしら?邪魔をするのも悪いから、なるべく行かないようにしているわ」
「そう」
 きっと、仲良く見つめ合いながら食事をしているに違いない。想像するだけで微笑ましい。バニラはクローゼットの中から、秋服をいくつか取り出した。少しずつ移動させている私物。少しずつ、少しずつ。躊躇いを抱きしめて、未練をわずかに残したまま。わざと、必ずいるものを残している。


「バニラ」
「ん?」


「…………私が結婚をやめるってなったら………戻ってきてくれる?」


 背中を向けていたバニラは、すぐには振り返ることができなかった。
紡ぐ言葉が頭の中に浮かんでこない

 嬉しいと言う感情は咄嗟に沸いたが、だけどそれは、アールグレイはただ、セフレがいないことが嫌なだけなのではないか、と冷静に考えてしまう想いですぐに冷やされた。


「バニラ」
「セフレがいないと眠れない?」
「……………セックスはしなくていいわ」
「あらやだ、じゃぁ、私に何をして欲しいの?」
 意を決するように息を吸い込んで振り返ると、アールグレイはいつの間にかすぐ目の前に立っていた。肩に吐息が触れる距離。手を伸ばすことなく触れられる。
「何もしなくていい」
「それは、価値のあることなの?」
「えぇ」
「……………この学生艦から出て行くまでの話し?」
 冷たい指先がバニラのこめかみをなぞる。こんな風に向かい合って、その綺麗な瞳に見つめられたことなんて、記憶ではほとんどない。感情を見せないことで守らなければならない、“何か”がある人だと、ずっと思っていた。そしてその“何か”はバニラではないことは、分かっている。

「未来のことは、分からない」
「それはそうよね」
「結婚は……親にしたくないと言うつもり」
「それで?」
「………それだけ」
「セフレを続けるために、適当な嘘を吐いている?」
 頬を伝う人差し指が、バニラの下唇をなぞる。迷いを見せる瞳の色。こんな風に不安を表現する色なんて、今まで一度も見たことがなかった。
「………嘘ではないわ。親が認めてくれるかどうかは、分からないけれど」
「本気で言ってるの?」
「えぇ」
「アッサムを悲しませるんじゃないの?」
「わからない」
「アッサムが泣いて嫌だと言えば、アールグレイはやっぱり結婚するんじゃないかしら?」
 アッサムの名前を出すと、アールグレイの瞳は益々狼狽えてしまうのだから。それくらいわかりやすい感情を、バニラに見せてくれないことは寂しいけれど、それでも、天秤のどこかにバニラが乗っているのなら、それだけで満たされてしまう気がして、何だかおかしかった。
「…………保奈美とは、ちゃんと話をするわ」
「大事な妹分なのでしょう?」
「えぇ」
「いいの?」
「…………えぇ」
「そうまでして、私とセフレでいたい?」
 セフレの関係を望んだのもバニラで、終わらせたのもバニラ。バニラの好き勝手に始めた関係だったはず。好きだと言われたいなど、思わないようにしていた。好かれたいなどと、願わない方が心を乱されずに関係を続けていけると思っていた。学生艦を降りるその日までは、そして、別々の大学に行き、いつの間にか会わなくなって、楽しかったという想いだけを抱いて初恋を終わらせてもいいと、そう思って関係を続けてきた。強引に終わらせたけれど、今なら深い傷にならずにすむ。自ら止めたのだ。嫌われなかっただけ、よかったと。そう言い聞かせていた。

「………セフレじゃなくていい」
「アールグレイは、私に何を望むの?」

 首を絞められるかと思ったその指先は、ゆっくりとネクタイを掴み、引き寄せられた身体は、アールグレイの体温に包み込まれる。手に持っていた秋服がぽたりと落ちた。


「……………私の傍にいて欲しい」
 いつもの、淡々とした感情を隠す口ぶりではなく、それは初めて心に届けようとする、意志のある声だった。バニラの知らない、麗奈の声。バニラがずっと求めずにいた麗奈の声。
「セックスしたいから?」
「セフレじゃない関係がいいわ」
「…………麗奈」
「最初から、もう一度最初から、やり直しをさせてもらいたいの」
「…………いきなりキスをして、麗奈を押し倒すところから?」
「そうね」
「それって、私のことを好きと言うこと?」
 胸に当たる心臓の音は、身体を震わせるくらい早くて。
バニラを抱きしめている人は、別人じゃないかって疑いたくなる。あるいは、誰かが脚本を書いたとか。
「そうね」
「………あらやだ、冗談でしょ?」
「そうかも」
「………どっちよ」
 誰かに何かを言われて、意を決したのか。バニラのために嘘を吐けと、誰かに言われたのか。よくわからないけれど、嘘で抱き付いてくるほど、意志の弱い人ではない。
「最初からやり直したい」
 髪を指に絡め、麗奈はバニラの肩に額をこすりつけた。
「だったらまずは、デートの誘いをして、それで手を繋いで公園にでも行くところからじゃない?」
「そうね。じゃぁ……今から外に行きましょう」
「綺麗な夕陽を見ながら、私に好きって言えるの?」
「バニラが私に言えばいいわ」
「あらやだ、この期に及んで」
 今からだと、夕日の方が先に落ちてしまうって言えば、ふて腐れたように身体が離された。アッサムのことをどうするつもりなのか、結婚をやめるのはバニラのためか、本当にバニラのことを好きだと思っているのか、例えば何が好きなのか、かなり色々なことが頭の中に次から次へと浮かんできたが、そのふて腐れた顔と、腕を引っ張ってバニラをベッドに押し倒して、きつく抱きしめてくる麗奈の体温のせいで、今は何だかどうでもいい気がしてきた。20分以上経っても、抱きしめたまま動こうとしない。久しぶりの体温。でも、向かい合って抱き合っているなんて、初めて。
「………お腹空いてきたんだけど」
「外に食べに行く?」
「っていうか、ペコが用意して待っているわ」
「放っておいたら?」
「あらやだ、私が殺されてもいいの?」
「じゃぁ、私も食べに行く」
 ペコは怒りそう。とはいっても、麗奈に1人で食べてなんて言えなくて。逃げた体温を目で追いかけてみると、ペコの部屋に行く気満々と言わんばかりに、乱れた制服を整えている。
「………知らないから」
 小さく呟いて、バニラも立ち上がって乱れたシャツをスカートに入れなおした。




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Date:2016/08/25
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