【緋彩の瞳】 Because I love you 23

緋彩の瞳

ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

Because I love you 23

 オレンジペコの部屋を何度ノックしても、がっちり鍵を閉められたまま、開くことはなかった。バニラが外から電話を掛けてみると、ダージリンたちを部屋に呼んで、作った食事はもう食べ始めているから、戻ってくるなと相当お怒りの声が携帯電話から漏れてくる。諦めて、買ったサンドイッチを食べると言う選択もあったが、このまま2人で外に食べに行くことにした。2人きりで車でどこかへ出かけるということは、今までなかった。バニラの希望で保奈美が美味しいと言っていた中華粥の専門店に入ると、隊長が来店と騒ぎ始めた店内の奥の部屋を用意してもらった。
ここ最近、なるべく目も合わせないようにしていたから、何となく気まずい気持ちも心にあったが、楽しそうな笑みをこぼすバニラを見ていることは飽きなかった。夕日なんてない暗闇の中、バニラが行きたいところがあると言うので、言われるままに車を走らせると、薔薇公園に辿り着いた。
「どうして、ここなの?秋の薔薇はもう少し後よ」
「うん、いいの。これは、ファーストデートコースなのよ。中華粥を食べた後に、薔薇園に行って、手を繋いで散歩して、月明かりの元で好きって言うの」
「何、それ?」
「アッサムに聞いたことがあるのよ。ダージリンとの初めてのデートは、どこで何をしたの?って」
 これは、その時のデートコース。バニラはそう言って、アールグレイの腕に抱き付いてくる。人が周りにいないことを確認して、引き剥がすことなく、薔薇の咲いていない公園の奥へと進んだ。
「………保奈美って、ダージリンと本当に付き合っているの?」
「あらやだ、今更?お姉さまの癖に知らないの?でもお姉さまだから、言えないのかしらね」
「ここ最近、あんまり話をしていないから」
「お姉さまとしては、いつまでも子供でいて欲しい?」
「別に。保奈美の自由だもの」
 暗闇の中、花のつぼみもまだ見えない薔薇園を眺めても仕方がない。綺麗な月と船の上から眺める星がとても綺麗だから、2人して芝生に寝転がり、星空を見上げた。とても静かな夜は、風が木々を揺らす音だけしかない。
「………アールグレイ」
「何?」
「とんでもないことに気が付いたわ」
「何のこと?」
「あの子たちは、ファーストデートでキスはしていないって言ってた」
「そう」
「………だから、私たちもキスできないわね」
「そう」
「あらやだ、むしろホッとしてる?」
「別に」
 小さい頃から、当然のように傍にいて、ずっと可愛がってきた保奈美は、自由に恋を楽しんでいる。保奈美が楽しいと思うことを、命いっぱい楽しめばいい。そう思っている。
「………アールグレイは、本当にアッサムが大事なのね」
「そうね」
「アッサムはダージリンの方が大事って言うかもしれないわね」
「そうね」
「嫉妬しない?」
「そうね」
「私のこと、好き?」
「そうね」

 アールグレイの左腕を取ったバニラは、勝手に枕にして満足そうにアールグレイの身体にしがみついてきた。銀色のふわふわした髪を撫でてみる。ゆっくりと動く船。それでも見上げる星空の景色は変わらない。いつの間にか朝が来るまでこうしていてもいいなんて、ちょっとだけ思ったけれど、どうしてそんな風に思うのかはわからない。


「誰か近づいてない?」


 しばらくお互いの呼吸の音を聞きながら、じっと星を眺めていると、靴音が近づいてきた。耳元で囁いたバニラの声に、アールグレイも誰かに見られるのはマズいと息をひそめる。芝生をサクサクと進んだ靴音は、アスファルトの地面を歩き、ベンチの並ぶ場所で止まった。







 オレンジペコ様に急に呼び出されて、タイカレーを食べた後、ブランケットとティーセットを持って、広い公園で少しのんびり星を眺めようと車に乗った。部屋でお茶をする以外、太平洋の真ん中を進む学生艦から見上げる星も好きで、2人で週に1度はここまで星を観に来ている。夕日を眺めに行くこともあるけれど、真っ暗闇の中で月に照らされて、ダージリンの呼吸を感じ、声に耳を澄ませるのが好きだ。
「どうぞ、ダージリン」
「ありがとう」
 薄闇の中、小さなライトだけを頼りに紅茶を淹れて、のどを潤しながら月を見上げる。満月の柔らかい光。ほっとため息が漏れてしまう。
「カレーなんて、久しぶりだったわ」
「私もです。それにしても、相当お怒りでしたわね」
「放っておけとおっしゃっている割に、かなり気に掛けておられるようね」
「お優しい方ですもの」
 ここのところ、ずっとお姉さまと2人で会話をしていない。朝とお昼はみんなで食事をしているけれど、ほとんど会話らしいこともしないで、早めに食べて、逃げるようにすぐに席を立つ。バニラ様はお姉さまとのことを、好きで、それでも恋人ではないと言っておられた。もし、結婚をするから関係を終わらせたと言うのなら、結婚をしなければいいだけだ。そのことをお姉さまにどう伝えればいいのか、悩みながらも2人になることを何となく避けたまま。バニラ様とお姉さまも、何となく仲互いをしているように見えなくもない。
「アッサム、何を考えているの?」
「いえ」
「私といるときは、私のことを考えなさい」
「……それもそうですわね」
 隊長職を任されて、毎日沢山の仕事をこなしているダージリンは、それなのに相変わらず余裕の笑みだ。お姉さまとはまるで違うタイプ。落ち着いていて、静かで、優しくて、柔らかくアッサムを包み込んでくれるお姉さまのことがとても好きで、ずっと守られてここまで来た。アッサムの背中を抱きしめる腕の力も、追いかけて行けばそこに楽しいことが待っていると信じさせてくれた背中も、全部が好きだった。

 追いかけて、抱きしめられて、信じ続けることが、お姉さまにとってうれしいことだったのだろうか。裏切ることができないと思わせていたせいで、お姉さまは結婚を受け入れているのだろうか。だとしたら、それはアッサムのせいだ。アッサムがお姉さまを好きだという想いが、お姉さまを縛りつけているのかもしれない。
「ダージリン」
「なぁに?」
「私……本当は、ダージリンを追いかけて聖グロを受けました」
「あら、そうなの?」
「中学の時に一緒のチームで戦って、その時から、あなたと同じ学校に入りたいって。それで、聖グロにダージリンが入るかもしれないって思って」
「アールグレイ様は?」
「………もし、ダージリンがプラウダを受けていれば、私は今頃、寒いオホーツク海の上です」
 もし、プラウダに行っていれば。お姉さまは悲しまれるだろうか。それとも、ほっと安心して、バニラ様とずっといい関係を保っておられるだろうか。あるいは、それを機に結婚の約束を反故にされたりしただろうか。
「私も、あなたを受験会場で探したわ」
「………そうなのですか?」
「それこそ、あなたがプラウダに行けば、今頃、一緒にコサックダンスを踊っていたわね」
「ダージリン、踊れますの?」
「もちろん」
 月明かりは、ダージリンの自信満々の笑みを映しているが、絶対にそんな脚力はないはずだ。2人揃ってプラウダに行っていれば、カチューシャとノンナと、どんなチームになっていただろう。
「………聖グロで紅茶を飲んでいる方が、ダージリンには似合いますわ」
「そう?」
 籠にティーセットをしまい、身体をダージリンに預けるようにして抱き付いた。ブランケットを2人で分け合い、同じ空を見上げる。ずっとこうしていたい。この学生艦から降りた後も、できればずっと、ダージリンの傍にいたい。心からそう思う。
「ダージリン」
「なぁに?」
「ダージリンはどこの大学に行くとか、何か考えています?」
「アッサムが行きたいところに私も行くわ」
「はい」
「戦車道の強い大学がいいわね」
「そうですわね」
「センチュリオンに乗りたいものだわ」
「それもいいですね」
 しがみつくように腕の力を込めて、こめかみに吹きかけられる吐息に小さく背中を震わせる。

凪いだ風。
一瞬の静寂が訪れた。

「私は、ずっとダージリンの傍にいます」
「当たり前よ」
「……はい」
 頬に触れる唇の潤い。少し身体を離して、当たり前のように唇を重ねた。ふわりと身体が宙に舞ったような眩暈がする。
「好きよ、アッサム」
「………私も好きです、ダージリン」
 あと、何時間でもこうしていられる。いつまででもこうしていたい。ずっと、限りなどないと信じられる。ダージリンの体温はそれほどに暖かい。
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Date:2016/08/25
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