【緋彩の瞳】 Because I love you 25

緋彩の瞳

ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

Because I love you 25

「………嫌なタイミングで入ってしまったわ」
「ダージリンは、アッサムと整備科と打ち合わせよ。バニラが連れて行ったわ」
 隊長室が開かれて開口一番、オレンジペコは心底嫌そうな顔でアールグレイを一瞥してきた。ダージリンがいない間、隊長室に腰を下ろして、訓練計画書をパラパラと捲って暇を潰してサインを入れていたところ。
「バニラはあなたの部屋に戻ったの?」
「えぇ」
「無銭飲食と宿代を払ってもらいたいわね」
「本人に伝えておくわ」
「身体で払うって言ってきているわ」
「そう」
 バニラの淹れる紅茶は本当に美味しくない。さっき、要らないと言ったのに淹れてあげると言われて押し付けられたカップ。オレンジペコがお湯を沸かし始めたので、飲まずに冷えた紅茶が入ったままのティーカップを差し出した。
「結婚、するの?」
 そう言うことに関わらないでいたオレンジペコなのに、珍しい。バニラは毎晩、何をオレンジペコに話していたのだろうか。
「………婚約指輪を買うことは、延期してもらったわ」
「あら、それだけ?」
「保奈美が傍にいる間は、のらりくらりしておきたくて」
「そう。あぁ、もしかして、アールグレイは勘違いをしているの?」
 テキパキと紅茶を淹れ、オレンジペコはアールグレイの目の前の机に、品などまるで無視するように、腰を下ろしてきた。そんな姿を見せつけられても、今更驚くのが面倒。淹れられた紅茶がマズければ出ていけとでも言えるが、学年で1番紅茶が美味しいのだ。
「勘違い?」
「あの子は、本気で結婚を止めて欲しいと思ってるわ」
「…………バニラと私のこと、軽蔑しているわけじゃないの?」
「えぇ。アールグレイには、好きな人と一緒になって欲しいって。兄と結婚なんて、あの子は望んでないみたい」
「ずっと、嬉しそうにしていたはずよ?」
「いつの話?アッサムはダージリンと恋に落ちて、あなたが好きでもない人と結婚することに、初めて違和感を覚えたみたいね」


 バニラとの関係を問い詰めてきたのは、批難してきたわけでもなかったと言うことなのだろうか。パーティで裕一さんを追い返そうとしたのは、バニラに近づかせないためだったとでもいうのだろうか。

「……それ、本当なの?」
「えぇ。アッサムは、アールグレイに幸せになってもらいたって。好きな人の傍で幸せになって欲しいって。好きでもない相手との結婚をやめて欲しいんだって」
「だって、保奈美は昔から………」
 結婚することを、誰よりも嬉しそうにしていたのは保奈美だった。いつも麗奈と呼んでいたのに、許嫁になったときから、ずっとお姉さまって呼んでくれて、べったり傍に寄り添って来てくれた。嵩山の家ではすっかり家族のようで、ずっとそれが続けばいいと思っていた。確かに、結婚することは嫌ではなかった。バニラと出会わなければ、今でも違和感を抱くことなどなかっただろう。いや、セフレを続けていた頃も、違和感などなかった。そう言うものなのだと、ずっと受け入れていたのだ。バニラに泣かれなければ、ゆっくりと関係を終わらせて、何事もなかったように結婚していたに違いない。

「あなたの保奈美は、恋というものが何なのかを知って、大人になっちゃったのよ。だから、あなたが自分の兄を好きじゃないって気が付いたのね。バニラとの関係を知って、バニラがあなたを好きだと知って、心苦しい気持ちを抱いているの」

 保奈美が、いつの間にか麗奈の手を必要としなくなっていたなんて。ずっと認めずにいたけれど、もうとっくに、保奈美は麗奈の手を離してしまっていたのだ。そうとも知らずに、1人で勝手に舞い上がって、勝手に使命感みたいなものを背負って、勝手に結婚して、あの子の喜ぶ顔がみたいなんて思っていた。

「おかしいと思ったの。ダージリンが私に遠まわしに、結婚をやめろと言って来て、アッサムを悲しませるなと言うし。矛盾しているわって思っていたけれど、そうね………それなら、ダージリンが私に偉そうに言いに来たのも納得だわ」
「恋人が苦しむのを見たくないんでしょう」
「確かにそう言うようなことも、言っていたわ」

 保奈美は、ずいぶんと恵まれた恋をしているようだ。ひと癖どころか、かなり癖のある相手だが、素直に好きだと言う感情を見せ、そして互いの瞳が恋をしていると、誰にでもわかるような、恵まれた環境にいられる。最初から自由で、すべてが保奈美の意志によって決められていく人生。


 嫌だと思わないまま流れ着いた聖グロで、本当にやりたくてやっているのかわからない戦車道で、バニラと出会い、多分、ずっと好きだと思っていたはずだ。仕掛けてきたのはバニラからだった。すべて言われるがままにバニラの望むようにしてきて、いつしか、それはアールグレイの欲しいすべてになっていった。それでも、必ず保奈美が心にいた。追いかけて、聖グロに入って来てくれる。裕一さんとの結婚を楽しみにしていてくれる。ずっと、一緒だって笑っていてくれる。

 バニラに本気にならないための言い訳を、きっと保奈美に押し付けていたのだ。悲しむ姿を見たくないと言う、アールグレイの勝手に、保奈美を振り回していた。きっと保奈美なら、アールグレイが何をしようとも、どんな自由な生き方をしようとも、応援してくれたに違いない。そのことに気が付いてあげられなかった。

「あなたの保奈美は、きっと中学くらいにはもう、消えてなくなっていたのよ」
「………そうね」
「アールグレイはダージリンにボロ負けということよ。保奈美はダージリンのためなら、あなたを裏切ることくらい、何ともないと思うわよ」
「そうね」
 保奈美はダージリンを追いかけて聖グロに入ったと言っていた。保奈美はまったくもう、アールグレイを、麗奈を必要としてなどいない。

「………オレンジペコはバニラの援護射撃に来たの?」
「まさか。私は誰の味方でもないし、あなたが誰と結婚しようと、誰とセックスしようと、どうだっていいのよ」
「そうでしょうね」
 のどを潤す紅茶は、バニラのフレーバー。ダージリンが淹れてくれたものよりも、ずっとおいしい。どんな時も丁寧に紅茶を淹れる。唯一、1年の頃からバニラとの関係は知られていたが、そのことについて一切口を挟む人ではなかった。ずっと、本当に何も興味がないといった態度だったが、後輩を巻き込むことに、きっと腹が立ったのだろう。あるいはバニラの無銭飲食に怒りを覚えているか。


「でも、アールグレイに馬鹿って言ってやりたくて」
「…………ダージリンには愚かと言われたわね」
「馬鹿で愚か。それが本当の麗奈ね」


「………そうね」


 オレンジペコは流石ダージリンと呟いて、おいしそうに紅茶を飲んだ。バニラの香りが身体を包み込む。開け放たれた窓から秋風が吹いて、綺麗な黒髪がサラサラと鳴った。馬鹿で愚かな麗奈は、ゆっくりと椅子に背を預けて、身体から何かが風と共に消えて行くようで心地よかった。


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Date:2016/08/27
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