【緋彩の瞳】 右手と左頬 ③

緋彩の瞳

ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

右手と左頬 ③

「アッサム様たちが移動した」
『こちらもです』
 遠くから、楽しそうにお話ししているアッサム様と聖那さまとか言う人物を眺めていると、立ち上がってお店から出てきた。そのまま、別の建物へと向かって行く。ルクリリはペコに電話を掛けながら、当然その後を追いかけた。
「そっちはラブラブっぽい?」
『うーん、なんだかいつものダージリン様とは違います』
「何がどう違うの?」
『すごく、楽しそう』
「なんだと~?ダブル不倫?」
『あっ!』
「何?」
『………ホテルに入って行きましたよ』

ホテル?それは、どういうホテル?

聞きたいけれど、そこまで詳しくは聞けなかった。何というか、怖い。


「あ~~!!」
『な、何ですか?!!』
「こっちもホテルだ!でも、何と言うか、高そうなホテル」
『そっちもですか?!……って、ルクリリ、姿が見えてます』
「…………はい?」

興奮しながら、ルクリリはあたりを見渡した。後ろを振り向くと、20メートルくらい離れた場所で聖グロの制服が見える。


「うーん、別々なのに同じホテルに入っていくとは。鉢合わせたら喧嘩になるんじゃない?」
 アッサム様とダージリン様の喧嘩ってどういうものだろう。たまに、アッサム様に言い負かされてふて腐れているダージリン様の姿を見るが、あんなものじゃなさそうだ。でも、2人とも愛人を連れているとなれば、どっちが悪いもない。どっちも悪い。
「………ルクリリ、これは普通に考えて、ここにあるカフェとかレストランとかで、みんなで食事、って言うのが正解じゃないですか?」
「え、それじゃぁ面白くない!」
「いや……面白さなんて求めないでくださいよ」
 ペコに言われるまで、そんな可能性を1mmさえ持っていなかった。言われてみれば、まったくその通り。と言うか、愛人に会うならもっと人目が付かないところを選ぶに決まっている。


「あなたたち、戦車道の生徒?」


 入口の自動ドアが反応しないギリギリで、ダージリン様たちの姿が消えて行くのを眺めていると、背後から声がした。

 ルクリリは聞いたことのない声に反応して、何だか嫌な予感を持ってゆっくり振り返った。
「………はい、えっと。戦車道1年です」
「何?ダージリンたちに用事?」
「え?あ、いえ」
「周りの迷惑よ。制服姿でホテルの前をウロウロするのはおやめなさい。ダージリンたちに用事があるのなら、呼び出すといいわ」
 スーツ姿の美人さん。口ぶりからして、聖グロのOGだと言うことはわかる。それにしても、どこかで見たことのあるお顔。気のせいだろうか。
「アールグレイお姉さま、申し訳ございません。失礼します」
 ペコが深々と頭を下げて、先代の隊長の名前を口にする。そういえばそう。どこかで見たことがあると思っていたのは、そのせいだ。テレビで見たのだ。インタビューを受けている姿を見たことがある。
「ごきげんよう、お姉さま」
 ルクリリも頭を下げて、ペコの手を取ると逃げるように走った。きっと、あとでダージリン様とアッサム様に怒られる。それは恐ろしい。とても恐ろしい。

「アールグレイお姉さまが現れたということは、きっとダージリン様たちとお食事なんですよ」
「まぁ、普通に考えたらそうだろうな。っていうことは、あのラブラブそうにしていた人も、戦車道のOGなのかな~。愛人じゃないのかぁ」
 面白くない。まったく面白くない。それじゃぁ、とても普通のこと。OGと会うなんて、珍しいことじゃない。
「ルクリリ、こだわりますね」
「面白くないな。結局、ダージリン様とアッサム様の関係もハッキリしなかった」
「それはまぁ、どうしても知りたいのなら別の機会に。ところで、お腹空きましたね」
 知ったところで、お2人を尊敬する想いは変わらないけれど、やっぱりそうなんだって。そう言う確認をしたいだけなのだ。お2人とも後輩や他校からも凄く人気が高いので、余計な虫が付かないように、守って差し上げたい想いも無きにしも非ず。
「そうね。ご飯食べようか。えっと………ローズヒップは?」
「忘れていました。サービスカウンターで、きっと待っていますよ。あっ、本を買わなきゃ」
「じゃぁ、遅れるってメールしておくわ」
 腕時計は、待ち合わせと言っていた時間をわずかにオーバーしている。自分がどこにいるのかわからないと言っていたローズヒップも、流石に1階に降りてサービスカウンターに行くことくらいは出来るだろう。


たぶん。

たぶん、だけど。





「クロムウェルの修繕費?」
「そうです。どなたかが思い切り大破させてから、ずっと動かしていないんですの」
 久しぶりに会う麗奈さまは、相変わらずアッサムにしか微笑みを見せない。姉妹のように仲がいい割に、全然聖グロの学生艦に遊びに来る気配のない前隊長。定期的に寄付金は振り込まれてくるが、前ルクリリお姉さまのように、突撃してこられない。東京の大学に進まれたお3人がとても忙しいのは十分承知している。それでも、たまにはこうして会って、甘えたいのだ。隊長と呼ばれるようになって1年以上は経ったが、それでも、誰かを頼りたい気持ちになることだってある。主に資金面について。
「あらやだ、どこの誰?」
「……………今のバニラの実の姉よ」
 静かなレストラン。聖那さまはとても楽しそうな笑み。久しぶりに会うけれど、こちらはあの頃と違って、ずいぶんにこやか。
「ちょっと愛菜、私は大破させていないわ。黒森峰と必死に戦っただけよ」
「聖那さまが超高速でパンターに激突なさったおかげで、本当に動かせませんのよ」
 5人の女の子が、高級フレンチを食べながら話すことが戦車について、なんて。ダージリンは想いながらも、黙っていれば聖那さまがアッサムとのことを色々聞いてくることは分かっている。色恋についてなど、話したくない。
「嘘。イングランドから部品を購入すればいいことよ?」
「もう、ほとんどの部品を取り替えなければなりませんの。輸送コストも含めて、1台のためだけにかかる費用が相当なものだと、ご卒業される前から伝えておりましたわ」
 1年掛けて少しずつ、修繕のために寄付金を貯めていたが、ローズヒップというクルセイダー部隊に配属になった生徒が、練習のたびに戦車を破損させてくれるおかげで、まったくクロムウェル修繕にお金を掛けられそうにないのだ。

というか、ない。

「アッサム、積み立てをしていないの?」
「………それはその、していましたが、色々と故障の多い時期でして」
「いくらお金がいるからって言っても、1年貯めていれば、何とかなるものでしょう?」
 いつもは口数が少ない麗奈さまは、眉をひそめてアッサムを見つめている。気まずそうな目が、助けてくれと言わんばかりにダージリンを捉えた。
「いえ、まぁ、古い戦車ですから。それなりにメンテナンスにお金がかかりますのよ」
 ローズヒップが立て続けに5台のクルセイダーを爆発炎上させて、更に巻き添えを食らったマチルダⅡも2両、それなりに酷いダメージを受けてしまった。夏の大会になると、1勝するたびに寄付金はかなり集まりやすくなるが、まだ5月になったばかり。夏の大会が始まる前に、白旗を振る羽目になる。
「歯切れが悪いわね、何を隠しているの?」
「いえ、なにも」
「収支報告書を見せてくれたら、寄付金の額を上げてもいいわ」
 本当は爆発炎上なのだが、エンジントラブルだの履帯の交換だの、金額が明らかに合致しない名目を並べている報告書を見せれば、麗奈さまは何を想われるのだろう。麗奈さまより、愛菜さまの方が怖い。
「2人とも、何を隠しているの?」
 愛菜さまはダージリンをじっと見つめてこられる。思わず、水の入ったグラスを手に取った。何とかしてもらいたい。


「あらやだ、愛菜。2人がまったく進歩していないのは秘密にしなくても、顔に描いてあるわよ?この2人、全然、大人の階段を上らないの」



 レストランに、ゴン!という鈍い音が響いた。




「お姉さま、夏の大会で今度こそ黒森峰に勝ちたいんです。私とダージリンには最後の戦いなんです」
普通にお願いしても無理だと悟ったアッサムは、麗奈さまの腕に縋って甘える声を出した。はっきり嫌だと言えないと分かっているのだろう。ダージリンと麗奈さまの性格は全然違うが、アッサムのお願いに弱いと言う部分は残念ながら似てしまっている。あれをされたら嫌だなんて口にできるはずもないのだ。
「まったくもぅ…………クロムウェルの修繕費用は何とかしてあげるわ。聖那が大破させたのだから、仕方がないわね」
「あらやだ。私は去年も今年も、結構な金額をクルセイダー会に寄付したわよ?」
 殴られた頭を撫でながら、唇を尖らせている聖那さま。頂いた寄付は湯水のように使わせていただいた。ありがたく、じゃぶじゃぶとすべて、ローズヒップが大破させたクルセイダーの修繕に消えた。チャーチル会に集まっている寄付金も、ひっそりと回して使っている。
「クルセイダーはそもそも、故障が多いのはご存じでしょう?2年前にいたバニラとかいうお姉さまが、当たり前の様にリミッターを外して走り回っておられたせいで、ここ最近、特に故障が多いんですの」
「毎日、丁寧に整備すればいいことよ」
「致し方ありませんわ。故障はどうしようもありませんもの」
 3方向から、隠していることを言えと言わんばかりの無言の圧力。ダージリンは背筋を伸ばして、口を閉じたまま。アッサムが押し切ってくれるのを聞いているだけ。
「お金は何とかしてあげるから。今月中に送金してあげる」
「ありがとうございます、お姉さま」
 子供っぽい声で妹キャラをうまく使っているアッサムを、ふくれっ面が睨んでいる。
「甘いんじゃない、麗奈」
「甘いわよ、それが何?」
 愛菜さまはずっとダージリンを睨んでいるけれど、絶対に目を合わせないように、あくまでもアッサムが麗奈さまにお願いしたことだとアピールしながら、グラスの水を飲み干した。




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Date:2016/09/05
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