【緋彩の瞳】 右手と左頬 ④

緋彩の瞳

ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

右手と左頬 ④

「だーかーらーーー!!1階のサービスカウンターだってば!」
『ですから!私は今、サービスカウンターっていう所にいますわ!!』
 さっきから、どうにもローズヒップと話がかみ合わない。待ち合わせ時間からもう40分が過ぎたと言うのに、まったくもって、姿が見えない。電話をしても、ちゃんといるって言っているけれど、この大きな建物の1階にはサービスカウンターがいくつあるんだか。
「まさかと思いますが、全然違う建物にいるなんてことは?」
「ショッピングモールのサービスカウンターなんて、この辺りに1つしかないでしょ」
「うーん、そうですよね」
 ペコは円柱のサービスカウンターを5周くらいしているが、全然ローズヒップの気配がない。
「ローズヒップ、一番近いお店の名前を読み上げてみろ!お店の名前だからね!」
『お店?えーーっとドトールですわ』
ペコはモール内の案内図を開いて、ドトールを探し始める。指先は1階には止まらなかった。当たり前だ。ルクリリたちのみている景色の中にコーヒーの香りなんて存在していない。
「あれ?ドトールは3階にあります」
「馬鹿め。ローズヒップ、そこから一歩も動くな」
『了解ですわ~』
 のんきなやつ。入学したばかりの頃も、学生艦の中で何度か迷子になっていた。地図を読めないのか、読まないのか。なんで成績がいいのか分からない。
 いくつもあるエスカレーターの一番近いもので3階に向かい、割と距離の離れたドトールに辿り着いた。青い制服の姿はどこにもない。
「動くなって言ったじゃん!」
「変ですね、ローズヒップはサービスカウンターの前にいると言っていたのに、この辺りにはそんなものはありませんよ」
 もう一度案内図を広げて、今いる位置を指さしたペコ。ローズヒップは確かに、サービスカウンターと言うものが見えていると言っていた。
「何、この巨大な施設にはドトールって言う名前のお店が2つあるとでも?」
「コーヒーのお店、とは言っていませんでしたしね」
 携帯電話の履歴からローズヒップを呼び出した。2コールで繋がった、
『ルクリリ、どこですの?』
「ローズヒップこそ、どこにいる?」
『一歩も動いていませんわ』
「あんた、コーヒーのドトールの前にいるの?」
『もっちろんですわよ』
 なんでそんな、偉そうないい方をされなければならない。自分が迷子だってわかっていないのだろうか。ペコが携帯電話でお店の支店がこのあたりにいくつあるのかを調べ始めた。もはや、このショッピングモールにいない可能性がある、と判断したらしい。
「………まさか、駅を挟んで向こう側にいるんじゃ」
「ローズヒップ、サービスカウンターにお姉さんは座ってる?」
『座ってますわ』
「ローズヒップがいる建物の名前を教えてもらって」
『了解ですわ』
2分ほど待っていると、ペコが想像した通り、それは駅と隣接されているビルの名前だ。歩いて10分以上かかるが、一応は一直線に繋がっている。モールから出たとは気が付かずに歩いて、1階のサービスカウンターと言うものを見つけたのだろう。何というか、ローズヒップは周囲を確認しようとしないところがあるから、納得してしまう。
「………迎えに行こう、ペコ。こっちに帰ってこいって言っている間に、また迷子になられたら困る」
「そうですね。お腹空きましたし、学生艦に戻る時間も迫ってきています」
 電話で、15分くらいで行けるから、動かないようにと伝えて、直ぐにエスカレーターで1階に降りた。一度外に出て駅を突き進み、別の建物へと向かう。普通この道を歩けば、ショッピングモールから出たってわかるはずなのに。周りを観ないから、いつも訓練中に衝突事故ばかり起こすのだ。
「あーぁ、ダージリン様たちは美味しいものを優雅に食べているんだろうな」
「そうですね。でも、アールグレイお姉さまがおられると言うことは、結構緊張の時間だったりするかも」
「うーん。準優勝した人だからね」
「多額の寄付を頂いているんですよ」
 しゃべりながら歩いて、大きくサービスカウンターと言う文字が書かれてある机と、すぐ傍にあるコーヒーショップを見つけた。ローズヒップはいない。
「お腹空いたからって、どこかで買い食いしてんじゃないの?」
 到着したことを伝えようと、携帯電話を手にすると、メールが届いていた。


“迷子らしいおばあさまを、ちょっと駅まで送ってきます”



迷子が迷子の手を引いて、あの馬鹿はどこへ消えたのだろう。




「どう考えても、あの場所から駅への道は1本しかないですよ」
 20分待っても帰って来ないローズヒップにしびれを切らして、ペコは一度、駅まで小走りで姿を探しに行ってみた。周りに聖グロの制服姿はどこにもない。駅って何だろう。この駅じゃないとしたら、一体どこのなんの駅なのだろう。
「ローズヒップの電話、繋がらない」
「電波の届かない地下なんて、今時ありませんよ」
「電池がないんだ。私も残りが少ない」
 ルクリリは鞄に入れてあるバッテリー式の充電器を差し込んだ。ずっとペコやローズヒップと電話をし続けていたから、残りが少ないのだろう。腕時計は生徒の帰艦時刻まであと1時間に迫っていた。ここからタクシーを捕まえて、大急ぎで戻らなければならない。
「駅と言うのは、電車以外だとバス?」
「可能性はあります」
 ルクリリはサービスカウンターで。近くのバス停がどこにあるのか教えてもらっていた。往復で10分もかからないのだから、やっぱり、ローズヒップの言う“駅”はすぐ目の前のことではないのかも知れない。
「ペコ。今、ここにローズヒップが戻って来ても、私たちはきっと帰艦時刻を過ぎてしまう。アッサム様とダージリン様は、この時間なら、ホテルを出て船に戻られているはずだ」
「伝えますか?」
「私が言う。指示を仰ぐよ。ペコは取りあえず、ここでローズヒップを待っていて」
 ルクリリはしっかりしている。責任を背負えるタイプだと思う。成績が1位のオレンジペコよりもずっと、しっかりしているところがあって、でも、馬鹿なところもあって。
「ダージリン様。お忙しいところ申し訳ありません。今、どちらに?実は、ローズヒップが迷子になって、連絡が付かないんです」
 自分たちの居場所を伝え、順を追ってローズヒップを追いかけたルートを説明する。ペコもルクリリも、学生艦の出港を遅らせると言うことが校則違反だと言うことは十分認識しているが、中学の頃と違い、高校の方がずっと学生側、つまりダージリン様に責任の重きがあるということを、この時はまだ、理解していなかった。






「アッサム、ちょっといい?」
「どうしました、ダージリン」
 お姉さまたちとは、ホテルの入り口で手を振って別れた。振込みを待っていますと、大きく手を振り、学生艦に早めに戻った。出港の準備に取り掛かるために服を着替えている途中、アッサムの部屋に狼狽えた様子でダージリンが入ってくる。ルクリリからの電話で、ローズヒップが迷子と報告が入ったようだ。
「見失った場所は?」
「駅ビルの中だそうよ」
「この時間に、まだあんな場所に?間に合いませんわよ?」
 グリーンが出港手続き書類を準備して、ブリッジで待っている。サインをして、問題なく定刻通りに出港させなければ、この後やってくる輸入船の停泊を邪魔してしまい、多大な迷惑をあちこちに掛けることになる。
「二手に分かれて探しましょう。車で降りるわ」
「待って、ダージリン。あなたが船の外に出ると誰が責任を負うの?私が行きますから、あなたは留まって」
 すぐに部屋を出ようとするダージリンの腕を引っ張った。最悪、アッサムが3人と横浜に留まり、自家用ヘリで学生艦を追いかければ済む。もちろん、かなりの校則違反行為に当たるのだから、処分が下されて、1か月戦車に乗れないかもしれない。大学推薦への影響も出てくるだろう。なにより、聖グロの学生艦関係者に多大な迷惑を掛けてしまう。だが、ダージリンへの影響を最小限にしなければ。
「じっと待ってなどいられないわ。船にはグリーンとシナモンを置いておけばいい。私が外にいれば出港できないのだから、その方が良いわ」
「私が陸地に留まりますから、ダージリンは時間通りに船を出港させて」
「それはダメよ。あの3人を放っておけないわ」
 絶対に船に留まることなどない背中を追いかけながら、アッサムは急いでグリーンとシナモンに電話をして、生徒が陸地で迷子のため、出港を遅らせると告げた。グリーンにローズヒップの携帯電話のGPSが消えた場所を探すように命じて、ダージリンが乗ったランドローバーの助手席に乗り込む。携帯をルクリリに繋いだ。
「ルクリリ」
『アッサム様』
「ローズヒップは?」
『まだです』
「ダージリン様と車でそちらに向かうわ。あなたは私と、ペコはダージリン様と一緒になって、ローズヒップを探しましょう。今、グリーンに携帯電話の解析をさせているわ」
 ローズヒップはおそらく、その迷子のご婦人の行きたい場所の駅まで、電車で送ったのだろうと想像した。あの子のことだ。連れて行ってとお願いでもされてしまえば、ニコニコと電車に乗り込んだ可能性は大いにある。真っ直ぐ1本道を往復して、すぐ傍の駅まで見送るだけなら、流石に迷子になどならないはずだ。
 駅ビルのすぐ傍に車を止めて、ルクリリ達の居る場所へと向かうと、ペコがごめんなさいと抱き付いてきた。
「あの子が横浜から一度出たところで携帯電話のGPSは切れたみたい。東京方面へ移動をした可能性があるわ」
「え?電車に乗っちゃったんですか?」
「かも知れないわね」
 中学から学生艦で生活をしているのだから、電車に乗り馴れていない。特に元々迷子になりやすいのだ。当然、電車を乗り換えなければ戻って来られないし、降りる駅次第では、目の前の電車に乗ればいいと言うわけでもない。ローズヒップは今頃、べそをかいているかもしれない。
「ダージリン様、駅の中を探しますか?」
「だとすると、あまりにも広すぎる。仕方がないわ………協力を仰ぎましょう。アッサム、麗奈さまに事情を伝えて。3人とも、今、東京に戻られている最中だわ。知恵を借りましょう」
 さっきまで楽しく食事をしていたのだが、事が知れ渡れば、愛菜さまは怒り爆発に違いない。とはいっても、ローズヒップを探し出さなければ、怒り爆発どころでは済まないのだ。聖グロの名前に傷をつけたと言われるのは、もう覚悟している。形のないものに傷がつくくらいならいい。ローズヒップが無事に戻ってきてくれるのなら。


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Date:2016/09/05
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