【緋彩の瞳】 待っていれば

緋彩の瞳

ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

待っていれば

突然の雨だった。学生艦の進む先に、灰色の雲があると言うことはわかっていた。海の上、雨を全て避けることは出来ないし、学生艦の上にも草木はたくさんあるのだから、それなりに雨は必要だ。だけど、想像よりも早く雨が来てしまった。

「ダージリン様、赤バスに乗って帰りますか?」
「バス停まで濡れてしまうわよ」
「ですが、しばらくは止まないかもしれません」
「大至急の用事もないわ。大丈夫。ゆっくり待てばいいのよ」
「………はぁ」

 ペコはダージリン様と2人で、学校の外にあるアクセサリーのお店に出掛けていた。帰りにお茶菓子でも買いましょうと、焼き菓子のお店に入る数秒前から、雨は地面に水玉模様を作りだした。
硝子に当たる雨音を聞きながら、徒歩で10分ほどを無理に走る必要も、バスに乗る必要もない。ダージリン様は2階にあるティールームで、ゆっくりと雨が止むことを待つと決めたそうだ。お茶菓子を待っているローズヒップ達から、文句が出るような気もするけれど、この雨の中、ダージリン様と走って帰って、買ったクッキーを粉々にするわけにもいかない。

 2階の窓の外から道路を見下ろしながら、温かい紅茶を飲んで雨音が止むのを待った。ちょうどお茶の時間。アッサム様も待っておられるに違いない。

「電話して、遅くなることを伝えておきますか?車で迎えに来てもらいますか?」
「誰に?」
「えっと、アッサム様とかルクリリ達に」
「いらないでしょう」
「そうですか?」
「そんなものに頼らなくてもいいわ」

 ダージリン様はいつも通り、ゆっくりと紅茶を味わっておられる。湿気を排除している空間とはいえ、硝子に当たる雨音や、木々に跳ねる雫は、気持ちいいとは思えない。それでも、ダージリン様を真似して、ペコは少しだけ冷えた紅茶を味わった。口の中に残るわずかな苦味。

 
 ミルクを入れたアッサムティー。
ダージリン様が1日に1度は必ず飲まれる紅茶だ。



「そろそろ来るわ」
「………え?来るって、何がですか?雨は止みそうにありませんよ」
 
 お代わりを注ぎ、雨音に負けそうな音量で流れるクラシックに耳を傾け、雨の風景に飽きてきた頃。ダージリン様が腕時計を確認して呟かれた。

「あら、雨はたぶん、まだ止まないわね」
「じゃぁ、来るって言うのは何を指しているんですか?」
「さぁ、何かしら?」

 

 一度も窓の外を眺めずに、じっと紅茶を味わっておられたダージリン様は、空のカップを静かに置いて、帰ると言う合図のように立ち上がった。

「ダージリン様?」
「行くわよ、ペコ」
「え?行くって、結局バスに乗るんですか?」
「乗らないわ。言ったでしょう?来るって」


 ティールームを降りて、お店の手動ドアを開いた。カウベルが高い音で耳を刺激したけれど、それよりも大きな雨音がすぐに身体に降り注いでくる。小さな赤い屋根に守られただけの2人。一体、どうされるおつもりなのだろう。



「ほらね、来たわ」



 ダージリン様は、とても満足そうな笑みで、横断歩道の向こう側を指さしておられる。
 そこには、レインコートと傘を手にしているアッサム様がおられた。



「お待たせいたしました、ダージリン」
「美味しい紅茶を飲んで待っていたわ、アッサム」
「そうですか。クッキーはちゃんと買ってくださいました?」
「もちろんよ」

 いつ、連絡をされたのだろう。いや、ダージリン様はお出かけになってから一度も携帯電話を手にされたりしなかった。のんびりと待っておられたのは、雨が止むことではなく、迎えに来てくれることを待っておられたのだ。




 アッサム様が来られると。

 
 ダージリン様にはわかっておられたのだ。
必ず、迎えに来ると言うことを。



「ペコ、帰りましょう」
「はい!」


 アッサム様はダージリン様のレインコートとペコのレインコートを持ってきてくださった。ペコはすぐにレインコートを着て、受け取った傘を差す。聖グロのマークの入った青い傘。


「雨もいいものね」


 ダージリン様は、何やら満足気に微笑んでいらっしゃる。アッサム様が来られることは、予測ではなく、確実なことだと考えておられるのは、それは互いに想いあっておられるからだ。


「そうですね。どうせ、迎えに来るまで動くおつもりもなかったでしょう、ダージリン」
「あら、美味しい紅茶を飲んでいただけよ」
「そうですか」

 アッサム様が開いた傘をダージリン様が受け取った。アッサム様は最初から傘は1本しか持ってこられなかった。当たり前の様にアッサム様が濡れないように、雫が肩に落ちぬようにと、ダージリン様は肩の半分を雨に濡らして、気を使われながら、お2人で傘の中に入っておられる。

 ペコは自分が代わるなんて、とても言えるような空気じゃないと思って、黙って2人の後を追いかけた。
そう言えば、ダージリン様はアクセサリーのお店で黒い髪用のリボンを買っておられた。明日の朝、きっとアッサム様の髪をまとめておられる黒いリボンはマイナーチェンジされることだろう。

「ペコ、水たまりに気を付けなさい」
「はい、ダージリン様」
 お2人で刻む1つになった足音。ピチャピチャとアスファルトを鳴らす。


 せめてその音の邪魔にならないように、ペコは少しだけ距離を開けて歩いた。





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Date:2016/09/18
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