【緋彩の瞳】 便利な機能 ①

緋彩の瞳

ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

便利な機能 ①

「失礼します」

 情報処理部のグリーン様から、渡しておいてほしいとお願いをされて、ルクリリは有名なメーカーの紙袋に入れられたそれを手に隊長室に向かった。在室の札を確認して中に入ると、1人で隊長椅子に座っておられるダージリン様と目が合う。


「どうしたの、ルクリリ」
「グリーン様から、ダージリン様にお渡しするようにと」
「………あぁ、それね」

 昨日、ダージリン様が昔から使っていた携帯電話をローズヒップが破壊して、ついに最新式の携帯電話に変えざるを得ない状況になってしまった。ダージリン様は最高責任者なのだから、知りたい情報があれば、隣にいる聡明なデータ主義のアッサム様に“調べろ”の一言で、何もかも知識が頭の中に入ってくる。だから、インターネットにいつでも繋いで何でもできる、なんてものは必要とされなかった。通話さえできればいい。簡単なメールさえできればいい。周りがダージリン様のために走ればいい。かろうじてGPS機能の備わっていた携帯電話だったから、アッサム様は何かあれば、それを元にダージリン様を追いかけまわしていらした。

「どうぞ」
「………アッサムはどうしたの?」
「さぁ?ペコとローズヒップを連れて、どこかに行ったんじゃないですか?」

 机の上に置かれた紙袋から、取りあえず箱を取り出したダージリン様は、じっと両手を膝に置いたまま。開こうとされる気配がない。

「あぁ、そう。じゃぁ、待っているしかないわね」
「この電話で呼び出してみたら、どこにいるかわかりますよ」

 ジロっと見上げてくる瞳は、それができるはずないだろうと言わんばかりだ。中学の頃からずっと同じ携帯電話を丁寧に使って、何だったらバッテリーを交換してまでも使っていらしたのだ。目の前にスマホを差し出されたところで、鼻歌歌いながら画面をタッチして、初期設定を簡単にできるほど、機械に強いなんて全く思っていない。アッサム様がタブレットでお読みになっている資料を、隣で紙をペラペラめくっておられる姿は、この部屋では当たり前の風景。取りあえず、紙がお好き、と言うことにしておこう。

「勝手にいじって、後でアッサムに怒られるのは嫌よ」
「嫌って、それはダージリン様の携帯電話ですよ?」
「そうよ、私のもの。でも、私が選んだわけじゃないわ。勝手に選ばれてしまったんだもの。拒否権すらなかったわ」

 何か、とても不満と言いたげな様子。手元のティーカップが空になっているのが見えたので、ルクリリは取りあえず、ご機嫌取りのために、お茶を淹れなおすことにした。ずっと箱を睨み付けたまま、動く気配はない様子。とはいえ、多分、前の携帯電話の番号はそのまま移行されているはずだし、一度封を開けられた痕があるから、グリーン様がそのあたりのデータの移行なんかもちゃんと済ませておられるはず。たぶん、触ってみても大丈夫なんだけれど。


「ありがとう、ルクリリ」
「いえ」
「で?」
「………で?」
「いえ、睨み付けたままでいても仕方がないでしょう?」
「そりゃそうですが」
「で?」
「………で?」

 それは、アッサム様のお仕事じゃないだろうか。ルクリリが余計な事をして、後でアッサム様に怒られたくはない。ダージリン様に怒られるより、アッサム様に怒られる方が嫌だ。  
 昨日、携帯電話を壊されたダージリン様よりも、それを目撃して、そそっかしいことばかりするローズヒップのお尻を叩いていたアッサム様の方が怖かった。目がマジだった。

「この電話は使えるの?」
「グリーン様から渡されたので、たぶん、使えます」
「そう。ルクリリ、箱を開けて」
「………はい」
 
 ここで、嫌ですってキッパリお断りできればいいのだけれど、箱を開けることを嫌と言えば、ものすごい目つきで睨まれるのは想像がつく。仕方なく手を伸ばして、剥がれているテープの場所に親指を突っ込んで、パカッと開けてみた。

「あぁ、やっぱり。あれほど嫌だと言ったのに、アッサムはこれにしたのね」
「………これ、結構人気があって使いやすいものです」
 所謂、スマホと呼ばれるものの中ではかなり普及率が高く、初めての人でも使いやすいと言われているものだ。アッサム様は国内メーカーのものを使われていて、使い熟しておられるはず。でも、それとちょっと違う仕様だけど、基本的な使い方は同じ。インターネットもメールも電話も、あとは好きなアプリを入れて……まぁ、それはしなさそう。いや、出来ないっていうか。
「必要性を感じないと、あれほど言ったのに」
「でも、便利ですよ。音楽を取り入れて持ち歩けて、動画も写真もかなりの枚数保存できて、いつでも迷子になったら、地図アプリを開くこともできます」
 ルクリリはとても楽しいですと、ポケットに入れてある同じ機種のスマホを取り出して、画面を見せてみた。音符のアプリを開いて、お気に入りの曲のタイトルをスクロールしていく。200曲以上入っていても、まだまだ入る。

「音楽?部屋で聴くわよ。動画?目で見て記憶するわ。迷子?事前に調べないで歩くのは、とても愚かなことね。地図を頭の中に入れておかないなんて、そんな愚かな人間はいるの?」


 …………アッサム様、早く帰って来てください。


「まぁ、でも、実際に世の中の沢山の人が使っているわけですし」
「……そうね。通話はすぐにでも使えるようにしたいわ」
 そんなものは、通話ボタンを押せば済む。が、掛ける時にどうするか、それが問題。いや、そんな大げさに言う必要はないけれど、問題は問題なのだ、ダージリン様の場合。
「では、取りあえず、その、お手に取ってください」
 ダージリン様は立ちっぱなしのルクリリに気を使ってくださったのか、ソファーに移動しましょうと箱を手に、部屋の中央のソファーにお座りになられた。

あぁ、何この、逃げられない感じ。



「で?説明書はどこ?」
「ありません」
「なぜ?」
「な、なぜって。それは、その、そんなものがなくても簡単に操作できるからですかね?」
 隣に座れと言われ、ものすごく密着して迫って来られるが、本当に怖い。よく、違う学科の子から、ダージリン様の近くにいるなんてズルいだとか、羨ましいだとか言われるけれど、出来ることなら、それくらい離れたところからキャーキャーって言っている程度の方が、ずっといい。みんな、本質を知らないのだ。目力だけでこんなにも怖い思いを後輩にさせる人、なかなかいない。


「よろしいわ。では、最低限の作法を教えなさい」


 作法ってなんだ、作法って。

「えっと、では、電源を入れてください」
「どれ?」
「これです」
 右上にあるボタンを指さすと、おずおずと両手で持ちあげたダージリン様はボタンをピッと押された。
「長押しです」
「………わかっているわよ」
 いやいや、わかっておられない。だけど、突っ込んでいたら反論がうるさそうなので、取りあえず次なのだ。
「これでいいのね?」
「はい。では、えっと。グリーン様がデータを移動していると思いますので、まず、それがちゃんとされているかどうか、確認をしましょう」
 壁紙なんかも、初期設定のものだがそれを替えるなんて、相当高度な技になりそうだ。ダージリン様に通話のボタンから電話帳を見てください、と告げてタップすべきボタンを指示すると、長押しされた。
「な、何これ」
「えっと、はい。画面のアイコンは長押ししないでください」
 説明がメンドクサイので、取りあえず一度画面を落とし、直ぐに付け直した。何があったか説明をしろって言われても、それだけで陽が暮れそう。
「詳しいことは、アッサム様に聞いてください。今はとにかく、通話ができるようにしましょう」
「………仕方ないわね」
 何か困ったことを聞かれたら、アッサム様に聞けで、通じる気がする。とにかく、タップは長押しせず、強すぎず、弱すぎず。ルクリリはポンと指先で押して見せて、同じように、とお願いした。
「これでいいわね?」
「はい」
 言われた通りの操作をして、電話帳が出てきた。あ行に『アッサム 嵩山保奈美』と入っている。もうこの番号だけあれば、何の問題もないような気がしてきた。
「では、早速通話してみましょうか」
「誰に?」
「その、あ行の一番上の人ですよ」
「そう言えば、あの子まだ帰って来ないの?」
「だったら、電話で呼び出しましょう」
「………なるほどね」
 早速スマホを操作して呼び出したって知ったら、驚くわねって嬉しそうに笑っておられるけれど、ご自分が相当なメカ音痴ですと、清々しいほどに言い切ったって認識されていらっしゃらない。本当に、アッサム様がいないと何もできないんじゃないだろうか、この人。
「では、この通話ボタンを押してください」
「押せば繋がるの?」
「はい。えっと、スピーカーで話されます?」
「それはどういう意味?」
「私にも聞こえますが、耳に電話を当てなくても会話できるんです」
「ふーん。まぁ、いいわ。とりあえず、物は試しね」
 電話口で、愛しているだの好きだの言っても、私に聞こえますよ。なんて言ってあげない。言われるように通話ボタンを押すと、電子音が聞こえてきた。

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Date:2016/09/18
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