【緋彩の瞳】 便利な機能 END

緋彩の瞳

ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

便利な機能 END

「そんな真っ赤で本当にいいんですか?」
「いいのよ」
「でも、ダージリン様に希望を聞いた方がいい気がしますけれど」
「希望?何もないと思うわよ」

 ペコとローズヒップをお供にして、スマホのカバーに液晶フィルムをお買い求めになったアッサム様は、ダージリン様のスマホだと言うのに、何も相談せずに勝手に選ばれたようだ。失くさないことを第一優先にし、そして落としてもすぐに画面が割れないように、最高級のフィルムを迷いなく手に取っておられたのだ。何というか、過保護と言うか。とはいえ、ダージリン様はきっと、アッサム様に全てお任せなのだろう。と言うか、思い切ったことをされたものだ。あのダージリン様にスマホを与えるなんて。勝手に作った書類にサインを書かせていらしたけれど、あれは、きっと内容なんて見ておられないはずだ。容量が何ギガのもので、コースの価格がどれくらいで、とか、もう全然、ダージリン様にはご興味ないはずだから。


「ただいま帰りました」
「ダージリン様~~!ただいまですわ!!」
 隊長室に戻ると、なぜかバニラやクランベリー、キャンディ様、カモミール様たちがいて、スマホを手にしたダージリン様が引きつった笑みを浮かべているグリーン様の撮影をされておられた。


「…………何、これ」
 見渡して数秒の沈黙の後、アッサム様が嫌そうなお声で呟かれる。
 
「わぁ、撮影会ですわ!」

 ローズヒップは瞬時に事態を把握して、グリーン様の隣に座り、ピースサインをしてスマホを構えているダージリン様の被写体になった。
「グリーン、もういいわ。ローズヒップ、あなたお好きなポーズとりなさい」
「マジですの?!!服は脱いだ方がよろしいですか?!!」
「残念だけど、遠慮させていただくわ」
 10枚くらい撮影をして、ハッキリ言って相当楽しそうなダージリン様の様子。カメラ機能がそんなにうれしいものだとは。前のものだって、カメラは付いていたはずだけど、大きな画面で綺麗に映るから、きっとはまってしまわれたのだ。まぁ、前の携帯電話では使い方を知らなかったのかも知れない。

「アッサム様、あの……私たちもう、あの、そろそろ失礼したいのですが」
「………悪かったわね。後で殴っておくわ」
「お願いします」
 キャンディ様が眉をハの字にしてアッサム様に縋ってきた。ローズヒップの撮影に夢中になっている間に、人質を逃がしてしまわないと。

「ルクリリが余計な機能の説明をしたみたいです」
「私はあなたに託したわよ、グリーン」
 アッサム様の許可なくルクリリに押し付けたのはグリーン様らしい。グリーン様には責任がある。罪は重い。
「………あの人にスマホは無理だと申しました」
「だから、大学に入るまでには教えておかないとマズいと言うことで、意見は一致したでしょう?」
「カメラより、ネットの使い方を教えた方が」
「………それは、おいおい、心の準備が整ってからにするわ」
「とにかく、スマホをお気に召したことは確かなようです」
「そうみたいね」
 お2人の大真面目な横顔を見つめていると、ペコの肩に暖かな、それでいてとても嫌な気配のする手がぽん、と置かれた。

「ペコ」
「………嫌です、本当に嫌です」
「何が嫌なの?」
「撮影されて、何をするおつもりです?」
「ルクリリが、写した写真を電話帳に登録すると、電話するときに画面に映し出されるって言うから。それはとても便利で素晴らしく、画期的なことだと思わない?」

 余計な事を。そう呟かれたのはアッサム様だった。だからペコは、一緒に映ってくださるならいいですよって、自撮り機能を教えて差し上げて、一緒に笑顔でカメラに向けて笑っておいた。アッサム様がさらに頭を抱えて、余計な事を教えるんじゃないと後で文句を言いに来られた。きっとご自分に迫って来られることがわかっておられるからだ。


被害者が出て行ったのを確認して、アッサムは1年生3人と自撮りをし始めたダージリンの頭上に手刀を落とした。
「ダージリン様」
「あら、アッサム」
「………お戯れが過ぎます」
「あなたの写真も撮らないと」
「結構です」
「とっても便利ね、この携帯電話」
「そうですわね。ちょっと、それをお貸し願いますか?」
 満面の笑みで手を伸ばすと、ふて腐れた顔で投げよこされた。抵抗したら、充電器を奪うつもりだった。
「………ダージリン様」
「なぁに」
「パスワードを設定されましたの?」
「だって、ルクリリがしろって言うんだもの」
 名前を出されたルクリリが、さっとローズヒップの背中に顔を埋めて逃げた。パスワードを設定するのは基本中の基本だが、本人がうかつに自分の誕生日を入れてしまう恐れがあるからと、少し慣れるまでは様子を見るつもりだった。
「それで?パスワードにご自分の誕生日を入れたんですか?」
「そんなことしないわよ、当然でしょう?」
 偉そうに胸を張って見せているけれど、ルクリリから言われたのだろう。ローズヒップの背中に隠れたままのルクリリは、まだそのままだ。
「1234とか、そんなものにしていませんわよね?」
「しないわよ。さぁ、何かしら?当ててごらんなさい」




……
………
…………




 何だかものすごく偉そうなのが腹立たしい。


 1210と入れたらあっさりとロックが解除された。カメラ画像を確認すると、ものすごく困った顔のバニラたちがずらずらと出てくる出てくる。一体何時間撮影をしたのだろうか。


「あら、もうわかったの?流石ね、アッサム」



 アッサムはニコリともせずに、ドンドン出てくる被害者たちの写真を確認しながら、最後はルクリリを360度盗撮しているところに行きあたり、画面を閉じた。


「ペコ、買って来たものを」
「は、はい」
 ダージリンのために買ってきたカバーの袋を開いて、画面を不織布で拭いて丁寧にフィルムを張り、真っ赤なカバーを付けた。
「あら、カッコイイじゃない」
「これなら、目立ちますでしょう?」
「そうね」

 返せと言わんばかりに手を出してくるダージリン。面白い遊び方を知られてしまったのだ。返す前に言い聞かせておかなければ。

「盗撮は犯罪です」
「許可があればいいのでしょう?」
「そうですが」
「撮らせなさい」
「嫌です」
「じゃぁ、一緒に撮りましょう」
「もっと嫌です」

 ペコにお茶を淹れさせて、アッサムはおもちゃをすぐにダージリンの手元には返さずにソファーに座った。ルクリリが顔を上げて、無実をアピールしてくる。
「ルクリリ」
「し、仕方がないじゃないですか!カメラの使い方を教えただけです!」
「………いいわ、ルクリリ。グリーンが悪いのよ」
「最初から、アッサム様がグリーン様にお願いするのが悪いんですよ。私は、渡して欲しいってお願いされただけなんです」
「それで、ダージリンに説明しろって言われて、説明しただけ、ね」
「そうです、無実です。言われたことに答えただけです」
 ルクリリに罪はないかもしれないが、そろそろ、ダージリンの扱い方を学んだ方が良いのだ。アッサムはパスワードを入れた後、最初の画面にルクリリの怪訝な顔の写真を設定しておいた。2人が替えてくださいと土下座して謝ってきても、しばらくこのままにしておくつもり。

「アッサム様、い、今、何をしました?」
「何も」
「ルクリリのドアップが、ロック画面設定にされていましたわ」
 ローズヒップはアッサムに抱き付いていたから、何をしたのかがわかったようだ。元は、この子がダージリンの携帯電話を再起不能にしたから、買い替えになった。お尻を叩いたところで、悪気は1時間くらいしか持っていなかった。
「勘弁してください、アッサム様」
「ルクリリ、ダージリン様が携帯電話を使うたびに、あなたの可愛い顔が映し出されるのよ。光栄に思いなさい」
「嫌です!真剣に嫌です!」
「ちょっとアッサム、そんな素晴らしいことができるのなら、ルクリリじゃない写真がいいわ」
「知りません。ご自分で設定し直してください」

 何人たりとも、画像の替え方を教えるな。ジロリとルクリリ、ローズヒップ、ペコを睨み付けると、勢いよく首を縦に振った。

「携帯電話を使うたびに、ルクリリの顔を見るのは嫌よ」
「あら、あなたの可愛がっている後輩ですわ」
「それはそうだけど、それとこれとは違うわ」
「何が違いますの?」
「一般的にそう言うものは、好きな人の写真とか、ペットとか、お気に入りの風景とかでしょう?聞いたことがあるわ」
「あら、ルクリリのこと、お好きでしょう?」
「それはまぁそうよ。でも何か、真剣に違うと思うわよ」

 グダグダ言いながら、奪い返したスマホの画面を嫌そうにのぞき込んでいるダージリンの目の前で、頭を抱えているルクリリ。

「褒められているのか、けなされているのか、わからない」
「けなされていますわよ、ルクリリ」
「身から出た錆ってやつですね」

 憐れむ2人も、自分じゃなくてよかったと心から思っているに違いない。もうしばらく、痛い目に合わせておかないと、ルクリルも次期隊長として強くなれないだろう。




カシャ、カシャ





「盗撮は犯罪だと言いました」
「そうね、ハッキリと聞こえていたわ」
「何を写しました?」
「………ちょっとティーカップを」
「そうですか、確認します。貸してください」
「嫌よ」
「買い替えましょうか、そのスマホ」
「結構よ、これは私のものよ」

 夕食を外に食べに行き、アッサムの部屋でお茶をしている最中、携帯電話を取り出したダージリンは、向かいに座っているアッサムを撮影してみた。ものすごく機嫌の悪そうな顔で睨み付けているものが保存されてしまう。


「アッサム」
「何でしょうか?」
「もっと、笑いなさい」
「ティーカップを撮影されているダージリンを見て笑えと?」
「そうよ」
「面白くもありませんわ」
 もう一度、アッサムを写そうとしていると、頭上に手刀が落とされて携帯電話を奪われてしまった。勝手に操作されてしまう。きっとあれは保存したものを削除したに違いない。
「恋人の写真を持っておくのはダメだと言うの?」
「私はそういうの、結構ですわ」
「あら、アッサムは当然、私の写真を持ち歩いているでしょう?」
「………さぁ、どうでしょうか?」
 そっぽ向いて白を切る。絶対に持っているはずだ。分かりやすい態度。持っていないはずがない。でも、携帯電話をあからさまに向けられた記憶が全くないことが少し気がかりだ。
「アッサムも私のことを盗撮していたでしょう?」
「していません」
「嘘」
「していませんわ」
「嘘を吐くとき、あなた、親指を隠す癖があるのよ」
「………か、隠してません!」
 自分の親指がまったくもって隠れていないのを思わず確認したアッサムは、真っ赤な顔で声を張り上げる。
「いいのよ、私は盗撮されようとも気にしないわ」
「ですから、していませんって」
「じゃぁ、あなたの携帯電話を見せて」
「嫌ですわ」
「見られたら困るものがたくさん入っているの?」
「適当に触られて、壊されたくないだけです」
 確実に削除された様子の携帯電話が放り投げられて返ってくる。今、その赤い頬のアッサムを写真に撮っておきたいけれど、それは心に留めておいた。買ったばかりの携帯電話を壊されてしまいかねない。




「まったく。理不尽なものね」




 ボタンを押すとルクリリが眉をひそめて睨んでくる。これも何とかして欲しいものだ。夢に出て来たらどうしてくれるのだろう。携帯電話を誰かがみてしまったら、何か誤解されてしまうような気もしないでもない。

「はぁ……一体どうしたものかしらね」
 ルクリリの顔は飽き飽きした。携帯電話の電源を落としてテーブルに置くと、それを待っていたのか、アッサムが立ち上がってダージリンの膝の上に乗ってきた。

 これこそ、撮影のチャンスだと言うのに。なんだったら、自撮りというものにはとてもいい気がするのに。

「アッサム、どんな私の写真を盗撮しているの?」
「さぁ?」
「変な写真?」
「いいえ」
「寝顔?」
「そんな気の抜けたダージリンなんて写しませんわ」
 長い髪に指を通して、首筋をくすぐると嫌がるようにしがみついてくる。一体、どんな盗撮をしていたのだろうか。
「じゃぁ、どういう姿を盗撮したの?」
「秘密です」
 誤魔化すための口づけを受けて、有耶無耶にしようとするなんて本当にズルいと思うけれど、こういうことをされたら、これ以上の詮索ができなくなってしまう。


「アッサムは私の扱いが日々上達しているわね」
「長い付き合いですもの」
「ところで、明日、ルクリリのロック画面とやらを何とかしていただけるかしら?」
「考えておきますわ」
「せめて、もっとホッとするようなものにして頂戴」
「クルセイダーの修繕費一覧でも写しておきましょうか?」
「自分の携帯電話を壊したい衝動に駆られるわ」

 抱き付いてくるアッサムの両手が、ダージリンの背中をなぞり、シャツを引っ張ってくる。記憶にとどめておいても、毎日更新されていく、毎日新しいアッサムがダージリンに触れてくる。


「アッサム、好きよ」
 首筋を這う唇。その揺れる黒いリボンをそっとなぞり呟いた。
「私も好きです」
「………その携帯電話って録音もできるの?」
「何をお考えですの?」
「いえ、別に」


 例えば、ちょっと1日離れなければならないなんて日があった時に、今のアッサムの囁きを録音しておけば。そんなことをチラリと思ってもみたが、アッサムが傍にいないのにアッサムの声で好きなんて聞いたら、居てもたってもいられなくなる自信がある。同様に、愛らしい写真を保存していれば、携帯電話を観ながらニヤニヤしてしまうのは間違いない。

「まったく………一体どうしたものかしらね」
「毎日、ダージリンの携帯電話はチェックしますから」
「………理不尽だわ。私にもアッサムの携帯電話を見る権利はあるのに」
「操作できますの?」



 本当に、一体どんな写真を撮られたと言うのかしら。


 
関連記事

*    *    *

Information

Date:2016/09/18
Trackback:0
Comment:0

Comment

コメントの投稿








 ブログ管理者以外には秘密にする

Trackback

TrackbackUrl:http://fireredfantasia.blog.fc2.com/tb.php/789-ebddb3ba
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)