【緋彩の瞳】 だーじりんじゃらし ①

緋彩の瞳

ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

だーじりんじゃらし ①

そう言えば、最近、昔、アールグレイお姉さまがよく使っておられたティーカップを目にしない。隊長室にはいくつもティーセットが置かれてあるから、その時の気分や味などで使い分けをしている。カモミールをリクエストされたので、久しぶりにと思ったが、どうやら奥の方に置かれてしまっているようだ。他のティーセットを一度どける煩わしさを感じて、手前のティーセットを取った。最近、ルクリリがよく使っているものだ。

「ありがとう、アッサム」
「いえ。それ、何の書類ですの?」
「読む?」
 受け取ったものの表紙には、愛らしい子猫がプリントされていた。紙の素材は学校のプリンターではないように思う。
「………猫?」
「前々から、ずっと話し合いが行われていた件ね」
「住民からの要望ですか?」
「そう。衛生面と管理面のことで、船舶関係者と折り合いがついたそうよ」
 学生艦では、申請しなければペットを飼うことができない。さらに言えば家の敷地から脱走ができないようにしている犬。陸地で十分に訓練されて、おとなしく出来て、船の上での生活に支障がないと認定された場合に限られていた。
「大丈夫ですの?」
「試験的にね。中央病院敷地内にある建物の2フロアを使うそうよ」
「アールグレイお姉さまの代の時も、結局、断念しましたものね」
 ここ最近、頻繁に住民代表と会合を開いていたダージリンは、機嫌よく学校に戻って来て、分厚い冊子をアッサムに渡した。住民代表や学院長、船長を含む会合。情報処理部のグリーンが書記として付き添っているので、アッサムはその会合には参加しない。こうやって戻ってきたときに、意見を聞かれたら答えることはあるが、そのあたりはダージリンの仕事なので、お任せしている。
「とりあえず、しばらくの間は限られた人間のみ利用、というところからね」
「そうですか」
 反対派と賛成派に分かれていて、何年もペットの種類拡大は揉めていた。犬がいいのだから、猫もいいだろう。犬だって逃げ出さないと保証は出来ないんだから、と。犬が許可されたのは10年ほど前らしいが、その時から、猫派はずっと戦っていたそうだ。他の学生艦では野良猫がいるところもあるそうだが、聖グロの学生艦は徹底して動植物の管理に努めている。
「明日、横浜港に着いたら猫ちゃんが運ばれてくるわ」
「……あぁ。おかしいって思っていたんですよね。物品搬入のところに、猫用のエサやらキャットタワー、“猫10匹”って書いてあったので」
 グリーンが目を通したはずの書類に書かれてあったので、会合から帰ったら捕まえて話を聞かなければと思っていたのだ。これで納得がいく。
「ところで、アッサム。猫は好き?」
「普通、ですかね。うちの実家は犬を飼っているので、接したことがあんまりないです」
「そう」
 カモミールを飲まれながら、ダージリンは小さく微笑んでいる。顔に“楽しみ”と描かれてあった。ダージリンの今回の決断、多分に本人の希望が含まれていないだろうか。忘れた頃に持ちあがるこの話題、2年前まで却下されていたのは、前オレンジペコ様が小さい頃に猫に噛まれて以来の大の猫嫌いだったから、という話を聞いたことがある。
「立ち合いされますの?」
「えぇ。今回の寄港、私は船を降りられないわ。猫ちゃんのご機嫌伺いをしないと」
「そうなんですか」
 特に、2人でどこかにデートに行こうだなんていう話をしていたわけじゃない。そう言うことをしてもしなくても、どちらでも構わないが、一応はダージリンの予定を聞いてから行動計画を立てようと思っていた。
「猫にとって、船の上がストレスにならなければ、船尾区画にも施設を作るそうよ」
「そうですか」
 見せられた冊子の中には、猫の写真もあって、名前は番号が振っているだけだ。ダージリンが猫好きなんて聞いたことはない。とりわけ、猫のグッズを集めていると言うこともない。
「楽しみですか?」
「えぇ」
「そうですか」
 本格的に猫カフェが聖グロの学生艦でオープンになったら、功績としてダージリンの名は代々に残るはず。



横浜に船が到着すると、学生のほとんどが船から降りた。ペコたちにぎやか組が艦内からいなくなった頃、ダージリンと一緒に猫を乗せた車を迎えに行き、関係者がずらりと10匹の猫を手厚く歓迎した。小さなゲージに入れられてやってきた猫たちは、吹き抜け2フロア分を使い、ソファーやキャットタワー、テーブルなどが整えられた場所にいきなり放り投げられた怖さなのか、あんまり動こうとしない。
「可愛いわね」
「……そうですね」
「可愛いわ」
「怯えているように見えませんか?」
 ダージリン以外、学院長も教会の神父様も船長も住民代表も、目じりが下がり切って“可愛い”を連呼している。今年になって住民代表が代わったから、今、こういう光景が広がっているのだろう。何というか、一気に形勢逆転になったようだ。
「あぁ……可愛いわね」
 みんな、四つん這いになってじっと猫を見つめている。アッサムはグリーンとその様子を眺めながら、ダージリンの四つん這いの姿を何枚も写メに収めておいた。血統書付き、生後6か月以上で避妊、虚勢したものしかいないが、比較的小柄な猫もいて、ダージリンが近づこうとすると、威嚇している。
「アッサム様、あの人は誰ですか?」
「うちの学生艦の最高責任者を自称している人、よ」
「あぁ、なるほど」
「……隣で玩具の猫じゃらしを振り回しているのが、うちの学院長」
「左様ですか」
「その隣で猫を抱きしめているのが、うちの船長」
「ほうほう」
 グリーンはタブレットのカメラ機能を使って、アッサムの隣で撮影を始めた。このメンバーは意地でも猫カフェを失敗させないつもりだ。

「みて、アッサム。なんて可愛いの」
「………はいはい」

 締まりのない笑顔。心から嬉しくて楽しくて、嫌がる様子なのに捕まえているその子が可愛くて仕方がないと訴えられても、どういう反応を見せればいいのだろう。


 こんな笑顔、見たことがない。


 あと、なんだろうか。目がかゆいような気がする。鼻もむずむずする。まぁ、多分、目に見えない毛が舞っているのだろう。長毛の猫もいるから。喉も乾燥しているのだろうか、何となく痛い。


 寄港している間、ダージリンたち“猫推進派”の会員ではないアッサムにはそれほど多くの仕事はない。とはいえ、ダージリンが転げ回って猫を可愛がる様子を見るのは、それなりに楽しかった。これだけ堂々と携帯で撮影しても、まったく気が付く様子がないのだ。猫を嫌いだと思わない。周りの人たちのように目じりを下げて、どこから出ているのかわからない声を出して追いかけまわす程ではないが、すり寄ってきたら頭を撫でたい、と思うくらいには好き。



「可愛いわ~。可愛い~」


 …
 ……
 ………


 どこから出ている声なのだろうか。

「………お茶でも飲みますか、アッサム様」
「そうね」
 病院敷地中に猫カフェを作ったのは、建物の強度面と、あちこちに施錠ができる作りであり、脱走しにくいであろうこと、また衛生管理が徹底されていると言う条件が揃っているためだ。そして、患者やその家族へのメンタルケアにも役立たせることも期待されているそうだ。ここのカフェでは飲み物を紙コップで、蓋を付けて提供される。サンプルとして受け取ったコーヒーを飲みながら、アッサムはソファーに座って、学院長と一緒になって猫を撫でているダージリンをしばし、眺めていた。

何というか、充実したようなしていないような、分からない日だ。


「……っくしゅん!」

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Date:2016/09/18
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