【緋彩の瞳】 だーじりんじゃらし ②

緋彩の瞳

ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

だーじりんじゃらし ②

「それがいいわ」
「………はい」
 ベッドにうつ伏せになってタブレットをいじっていると、ダージリンが背中の上に乗ってきた。今日は随分と機嫌がよろしい。散々、猫と戯れて、と言うか、猫に遊んでいただいて、さぞ、日ごろのストレスも解消されただろう。

 ダージリンにストレスなんてあったかしら。

「明日、午後には届きます」
「あら、インターネット通販ってとても便利ね」
「………そうですわね」

 夜も更けて、買い物に出かけたいなどと言いだしたダージリンは、寄付金で買った猫様のお遊び道具では足りないらしく、自腹で追加購入をご所望された。学生艦の中のペットショップは犬のものしか売っていないし、今から横浜に降りても、お店は閉まっている。そう答えると、インターネットで買えばいい、と命令してきたのだ。身体から降りてくださる気配もなく、ずっとダージリンを背負ったまま、言われるままに翌日配送が売りのサイトから、次々にいろんなものを買い物かごに入れて行った。紐が付いたネズミが先っぽについているのと、ただの柔らかいボールが付いているのと、何が違うのか……って言うとメンドウなことになりそうだ。


「ダージリン」
「なぁに?」
「猫の匂いがしますわ」
「そう?」
「セーターに毛がかなりついています」
「あら、そう?」
 ダージリンがここまで猫が大好きだなんて、本当に知らなかった。猫がいない環境が当たり前の学生艦なのだ。新鮮さを感じているのだろう。


「アッサム、どうしたの?」
「……いえ、ちょっと」
 目をこすりタブレットを消した。一度身体から降りてもらい、鼻のムズズムしたものと、喉に何か引っかかりを覚えたものが取れなくて、うがいをしてみた。
「風邪なの?」
「どうでしょうか」
 もしかしたら、猫に反応しているのだろうか。そうだとしたら、言うのはちょっとためらってしまう。
「早く寝ましょう。お薬は持っているの?」
「え?あ、大丈夫ですわ」
「明日もひどくなりそうなら、医者にかかりなさい」
「大丈夫です………っくしゅん!」

 セーターに毛が引っ付いたままのダージリンが抱き付いていたから、だろうか。思ったが、愛想笑いをして見せて誤魔化した。あんまり近づかなければいいだけだ。制服を脱いでもらって、身体を洗ってもらえば大丈夫だろう。

 

 っくしゅん!!



次の日も、ダージリンはいそいそと猫に会いに行った。学院長と仲良く微笑み合っているなんて。日ごろは、作り笑顔のにらみ合いばかりだと言うのに。アッサムも誘われたが、荷物の受け取りのためにと理由を付けて同行を断り、グリーンに付き添いをお願いした。生徒がほとんどいなくなった学内は静まり返っている。たまにはのんびりと本を読んだり、ジョギングしたりと、指定時間に荷物が届くまで1人で過ごした。本当のことを言えば、ダージリンが空いていれば2人で横浜から離れたところにデートに行きたかったが致し方がない。今更、横浜に降り立っているクラスメイトや1年生たちと合流するにしても、ダージリンが名目上のことではあるが、休日返上で仕事をしているのだ、やっぱり遊びに出る訳にもいかない。

 12時にダージリンがアッサムのカード名義で大量に買った猫様グッズが届いた。グリーンに連絡を取ると、昨日よりも激しく猫に振り回されている写真が送られてきて、面白いことになっていると電話の向こうで笑っている。猫様グッズを車に積んで、ダージリンの元に届けることにした。お腹が空いたから、グリーンと3人でランチを取りたい。


「……っくしゅん」
「あら、アッサム。朝は大丈夫って言っていたのに。無理しているの?」
「平気です。ダージリンが昨日、大量に購入された玩具です」
「ありがとう」

 猫に遊ばれている大人たちの間に、ダージリン様と、じっと観察していて羨ましくなったのか、グリーンも猫を抱いて笑顔を振りまいていた。

「ねぇ、このシャム猫に“アッサム”って言う名前を付けようと思うのだけれど。それとも、こっちのペルシャ猫の方が“らしい”、かしら?」
「……らしい、って何ですか?」

 抱いている猫2匹をアッサムの胸の前に突き出してくる。可愛いとは思うけれど、喉の痛みと鼻のむずむずしたものが襲って、思わず身をのけぞった。目が痒い。

「アッサム?」
「……なぜ、その名前ですの?」
「愛らしいじゃない?」
「……そうですか?」

 数年後に、同じティーネームを授かる子が現れるだろうに。嫌な気分はしないが、何となくいい気分でもない。

「このマンチカンは“オレンジペコ”。この、じっとしてくれない日本猫は“ローズヒップ”こっちのアメショーには“ルクリリ”。どう思う?」
「………お好きにどうぞ」
 命名権は全て、ダージリンが持っているのだろうか。とはいえ、周りの大人たちからの反対の声が降って来ないということは、実はもう、決められているのかも知れない。
「私は、シャムの方がアッサムだと思っているわ」
「そうですか」
「可愛いでしょう?やっぱり、この子をアッサムにしましょう」


 可愛い、可愛いと、おとなしいシャムネコの頭を撫でるダージリン。くしゃみが何度も出てくる。ハンカチで鼻を押さえて口で呼吸すると、今度は喉の違和感がちょっと辛い。


「可愛いわ~。いい子ね、アッサム。ほら、このおもちゃで遊びましょう。あらあら、ローズヒップ、ちょっとおとなしくしていてちょうだい。まったくあなたはいつもそうね」


………
…………
……………こっちは身体が大変な目にあっているのに、猫に媚を売って。


何だろうか、この腹立たしさは。“ローズヒップ”とやらが足によじ登ろうとしてくるのを振り飛ばしたいが、何とか耐えて逃げた。


「……アッサム様、もしやアレルギーでは?」
 “ルクリリ”と戯れていたグリーンが、ハンカチで鼻と口を押さえて部屋を出たアッサムを追いかけてきた。
「いえ、わからない、けど。っくしゅん……ごめん、近づかないで」
「あ、すみません。私も触りまくっていたから」
「いえ、いいわ。ダージリンをお願い。楽しそうにしているのに、水を差したくないのよ」
 何か聞かれても、適当にごまかしておいてと伝えて、猫フロアから逃げ出して、取りあえずそのまま病院内の学生外来に向かった。休日のために受け付けは誰も人がいない。横浜に降りて検査を受けるしかないが、猫に近づかなければ楽でいられるのだ。とにかく近寄らない方が良い。



「………ふぅ」
 病院内にあるカフェで飲み物を注文して一息入れていると、ダージリンから電話がかかってきた。
『アッサムが膝の上で寝ているの。とても可愛いわ』
「………そうですか」
『お昼ご飯を食べに行きたいけれど、動けないわ』
「そうですか、もうそこにベッドを持ち込んでお住みになればよろしいんじゃない?」
『あらどうしたの?焼き餅を焼いているの?』
「お餅は好きではありません。ランチ、どうされますの?」
『そうね、もう少しだけアッサムを眺めてから、合流するわ』

 あちらのアッサムは、ダージリンのお膝の上でお休み中。かたやこちらのアッサムは猫アレルギーで疲弊中。


「…………膝の上で寝るなんて、私はしたことないのに」


 もう少しと言うセリフから30分ほどして、症状が落ち着きだした頃にグリーンから連絡が入り、3人で街のサラダ専門店に向かうことにした。ずっとずっと、猫への想いを語り続けているダージリン。10匹全部にティーネームを与えたそうだ。ダージリンという猫はいないらしい。
「ダージリン様の一番のお気に入りは、“アッサム”でした」
「……そう」
「おとなしくて、それでいて立ち振る舞いも優雅よ。ペルシャの子は真っ白だからバニラにしたわ」
「そうですか」
 目をこすりたい衝動を抑えながら、時々喉の引っ掛かりを誤魔化すように水を飲み、猫の愛に相槌を打ちながら、これから毎日これが続くのかと思うと、どこかで一言文句を言わなければと考えてしまう。


 人間のローズヒップ達の話なら、いくらでも聞くことができる。聞いていて楽しいと思えるが、アッサムには、猫の可愛らしさを語られたところで、苛立ちと不快感しかないのだ。

 青いセーターに残っている猫の毛。一応、コロコロと粘着テープで綺麗に落としてきたそうだが、すべてが取り除けているわけじゃない。それが不快とは思わない。たぶん、満面の笑みで自分じゃない他の“アッサム”を可愛がっていることに、少なからず腹立たしいと感じている、これは嫉妬なのだ。


「膝の上でね、小さくあくびをして。安心しきったように眠るの。愛らしい寝顔だったわ。やっぱりアッサムが一番懐いてくれるのよ」
「そうですか」
「あら、興味ない?あなたのティーネームを授けたのよ?」
「興味がどうということもないですわ」
「グリーンが取った写真を、携帯電話の待ち受けにしたいわ」
「ご自分でなさってくださいね」


 午後からも、会合と言う名前で猫と戯れるんだそう。テラスにいるから、これ以上は酷い症状が出ないはず。猫様は人をダメにするんじゃないだろうか。1匹1匹名前を付けた猫の特徴を楽しそうに話すダージリン。その名前の付いた1年生たちは、アッサムみたいにくしゃみをしている頃だろうか。




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Date:2016/09/18
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