【緋彩の瞳】 だーじりんじゃらし ③

緋彩の瞳

ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

だーじりんじゃらし ③

 猫が学生艦に来てから3日目。今日もアッサムの体調はあまりよくない感じだ。朝は調子がいいようだが、ランチ時や猫カフェの様子を覗きに来ているときは、とても具合が悪そうに見えた。笑ってはいるが、何度も目を擦り、ハンカチで鼻を押さえている仕草。すぐに姿を消してしまう。目の端で捉えていたが、大丈夫、の一点張り。夕方から会合をして明日の昼の出港までに、猫カフェのプレオープンに向けての打ち合わせは、全員が許可に挙手をした。このまま2週間、海上での生活をさせてみて、最終的な判断はダージリンが行う。


「どうしましたか、ダージリン様」
「いえ、別に。アッサムは?」
「アッサムちゃんは、キャットタワーの最上階でお休みされています」
「………私のアッサムは?」
 ティータイムの時、とても辛そうな顔をしていた。本当は猫が好きじゃないのかも知れない。嫌いなのか、と聞いて“嫌い”と言われてしまえば、ダージリンは猫カフェのオープンを卒業後まで延期せざるを得なくなるだろう。アッサムはそのあたりを理解して、我慢している可能性がある。


 嫌いかどうかも聞けないし、嫌いだとも言ってくれないし。

 一体、どうしたものかしら。




「あ、そちらのアッサム様は、寮に戻ったようです」
「あら。少し買い物って言っていなかったかしら?」
「メールが来ていました」
「そう。具合が悪い様子だったのよ」
「そのようですね」
 猫カフェのレイアウトや、猫に対する注意事項、マニュアルについての打ち合わせは、猫カフェ内で行われていた。目じりが下がった大人たちと輪になり、あれやこれやとマニュアルを作成していく。ここまで進むと言うのは、もちろん本格稼働をさせるつもりがあるからだ。
 マニュアル作成の会合中、珍しくグリーンが手を上げた。書記を任せているので、隣でずっとパソコンのキーボードを鳴らしていることが多い彼女。ダージリンに向けて、パソコンの画面を見せつけてきた。
「えーっと、愛猫派のみなさまは、猫にとても慣れていらっしゃいますので大丈夫かと思いますが。猫アレルギーを持っておられる方も住民の中にはおられるでしょう。とりわけ、この学生艦で長く生活されている方の場合、ご自身がアレルギーを持っていると言うことを知らずに猫と触れ合い、くしゃみ、目のかゆみ、喉の痛み、皮膚の腫れなどの症状を引き起こす可能性があります。ですので、アレルギーに対する注意喚起のポップと、病院の各科にも猫アレルギーの患者様への対応を依頼した方が良いと思います」
 

 アレルギー症状一覧と、赤く腫れた手の写真。


「………アレルギー症状?」
「はい。猫カフェのデメリットです。ひっかき傷なんかは、自業自得な部分もありますが、アレルギーは……そうですね、ダージリン様が猫を抱っこしたセーターに残っている物質に反応することもあります。ですので、ご家族に猫アレルギーを持っておられる方はご利用を控えていただいた方が無難です」
「待って、そんなことわからない住民も多いわ」
「だと思います。希望者に検査を実施するというのは、費用の負担のことがあるので積極的に薦められません。それに、自己責任の領域でもあります」


 アッサムは、見事にアレルギー症状に一致していたようだ。好きも嫌いもない。あの子は近づいてはいけない体質なのだ。そして、猫を可愛がっているダージリンは、アッサムに近づいてはならない。



「………明日の出港までに、猫はお引き取りいただきましょう。猫カフェは聖グロの学生艦にはいらないわ。グリーン、横浜のペットショップの方に連絡を」



 目の前の愛らしい猫たちに夢中で、アレルギーなんてことを1mmも気になどしていなかった。アッサムはSOSを送っていたのだ。昨日、部屋に行くといつもよりうるさい音で空気洗浄機は回っていて、真っ直ぐにバスルームに連れていかれて、制服を脱いでくれと言われた。てっきり、そう言うつもりなのかと思ったが、体調が回復していないと拒否されて、よくわからないわねと、小さく嫌味を言ったのだ。

 言ってくれたらいいのに、なんて言えない。
言うことをためらわせるダージリンが悪いのだ。


「大至急、手配します」


やはり、グリーンはアッサムのアレルギーを知っていたようだ。黙っているように釘を刺されたのだろう。学院長も船長も、ふて腐れた顔でダージリンを睨み付けてくる。

「文句おあり?」

 ここまで来て、今更。あれだけ楽しく遊んでおいて、と。喚く大人たちの騒音を聞きながら、残っていた紅茶を飲み干した。グリーンが淹れた紅茶は、さほど美味しくはない。

「ひとときの楽しい時間を過ごせましたし、それでよろしいんじゃないかしら?寄港するたびに、どこかの猫カフェに戯れに行くのがよろしいですわ。まぁ、私は結構ですけれど。ずっと喉に痛みを感じていた理由がわかって、すっきりしましたわ」


 睨み付けてくる学院長に、満面の笑みを送りつけて、ダージリンは立ちあがった。まず、自分の部屋で服を着替えて、それからちゃんとシャワーを浴びて、アッサムの様子を見に行かなければ。



「アッサム」
「………ダージリン」


 自分の着ていた服を洗濯して、お風呂に入り、空気洗浄機を強にして、症状も落ち着いた。ベッドに寝転がって電子書籍を読んでいると、鍵が開けられる。もう夕食の時間らしい。

「大丈夫?」
「えぇ、まぁ」
 私服に着替えて、ふんわりとシャンプーの香り、猫に汚されたのだろうか。
「猫カフェ、計画は全て白紙にしたわ」
「………え?」
「うちには忠犬からシャム猫まで、いろんな種類の動物がいるから。動物の猫を狭いカフェに閉じ込めておく理由もないわ」

 今日のお昼まで、とても乗り気で猫カフェオープンのために尽力していたのに、何があったのだろう。ふて腐れた様子もないので、誰かが反対したとか、何かの圧力がかかったと言う様子も見えてこない。猫の体調でも悪くなったのだろうか。
「そうなんですの?せっかくのチャンスでしたのに」
「いいの。ルクリリの代になっても、その次も、聖グロでの猫の飼育はしないわ」
「何かありましたの?」
「ないわ」
「ひっかかれたとか、汚されたとか」
「まったくないわ」
 紅茶を淹れて差し上げようとキッチンに向かう腕を掴まれて、背中を抱きしめられた。洗い立ての髪。薔薇のボディーソープの香り。



 あぁ、きっと。


 気づかれてしまったのだろう。




「せっかくの寄港休暇だったのに、付き合わせて悪かったわね、アッサム」
「………いいえ、構いませんことよ」
「体調はどう?」

「問題ないですわ。きっと、季節の変わり目のせいです」
 シャツの中に侵入してきた両の手は、当然のようにナイトブラを外しにかかってくる。昨日も体調を理由に拒否していたから、今日は肌に触れあいたい。夕食はずっと後回しだ。

「そう。それはよかったわ」
「お茶はよろしいの?」
「えぇ。先にしたいわ」
「私もしたいです」

 猫カフェがダメになった理由はもう、聞かずにいることにした。 裏を取ることは簡単だけれど、知らない方が良いのだろう。ダージリンが導き出した答えだ。こうやって優しく抱き付いてくる。それがダージリンの想いなのだ。各お偉い人たちを敵に回してでも、撤回してくださったのだろう。



 アッサムのために。



「アッサム」
「はい」
「あなたが好きよ。私は、あなたが傍にいる方が良いわ」
「猫のアッサムちゃんよりも、ですか?」
「当たり前よ。比べる次元が違うわ」


 ダージリンが身体に想いを沁み込ませてくれるから。

「そうですか」
「もういいわ。猫よりもアッサムがいいし、猫よりも忠犬たちの方が扱いやすくて面白いわ」
「……あの子たちは犬ですの?」
「犬よ。私は犬派よ」

 もうすっかり、猫への想いを断ち切ったと、唇が優しく瞼に押し当てられた。

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Date:2016/09/18
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