【緋彩の瞳】 最高のプレゼント ①

緋彩の瞳

ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

最高のプレゼント ①

「あ~、忘れてた!!!!」



 突然、思い出したようにルクリリが叫んた。頭を抱えてうずくまっている。オレンジペコはお花屋さんから受け取った、青い薔薇の花束をローズヒップにダメにされてしまわないように、勉強机の上に置いて、そっとバースデーカードをテープで付けた。

「どうしたんですか、ルクリリ」
「プレゼント!プレゼントを買うのを忘れてた」
「…………何を今更」
 今日は、ダージリン様のお誕生日だ。もう1か月も前から、キャンディ様たちと何をするかって盛り上がっていて、ケーキは手作りにして、食堂のランチメニューは今日だけスペシャルメニューにしてもらって、みんなでサプライズにしようって、あれだけ何度も打ち合わせをしていたというのに。
「仕方がないでしょう!栄養学部と家政科の打ち合わせとかで、頭一杯だった。あぁ、忘れてた。どうすればいいんだろ……」
 仕方がないって言うのは、無理があるような気がする。とはいえ、絶望を顔に張り付けたままのルクリリが青い薔薇を見て思い立ったように、花屋さんに電話をし始めたから、相当焦っていることはわかる。

「入荷がない?!」
 聖グロの生徒を名乗る前に、薔薇をくださいと縋り付いているけれど、そもそも時期が違うのだ。横浜に停泊した時に蕾の状態で取り寄せて、オレンジペコが用意した薔薇の花束は特注だったのだ。正直、それなりの金額だった。
「何で~なんで~~!」
 学生艦の花屋さんは、停泊したときにある程度の品を取りそろえるようにしているそうだけど、それでも予約注文が基本だ。行って花束を適当に、くらいなら何とかなるかもしれないが、期待できるものは無理だろう。そもそも今日はダージリン様の誕生日で、すでにもう予約品の準備だけで人手が一杯らしい。
「どうしよう。どうしたらいい?ねぇ、横浜に戻ってくれないかな?」
「……ダージリン様の許可があれば、船は横浜に向かいますけれど」
「そんなの無理じゃん!!」
 逆切れされても困る。とはいえ、ないものはないのだから。街のお店に何かを買いに行く暇もないわけで。
「ルクリリと一緒に買ったことにしてあげてもいいですけれど」
「いや、それは駄目よ。それじゃぁ、ペコへの感謝も2分の1になっちゃう」
 バースデーカードにルクリリの名前を足してあげても、それは別に構わない。だけどそれはルクリリが嫌だと言いきった。正義感みたいなのは割とある人だから、まぁ断るだろうなっていうのは分かって聞いたこと。

「ペコ~~!おまちどうですわ~~」

朝の洗面所も順番で使っている。ようやく出てきたローズヒップは、ペコの机の上に置かれている薔薇を見つけて、わ~~~!と目をキラキラさせた。
「青い薔薇、綺麗ですわ」
「はい。ダージリン様にも喜んでいただけるか、と」
「そうですわねっ!」
 ローズヒップはニコニコしながら薔薇の花束に触ろうとするので、その身体を引っ張った。HAPPY BIRTHDAYと薔薇の花びらにプリントをしてもらった、凄く凄く高かったものなのだ。ひとひらもダメにしたくない。




「………だぁぁ~~!!!!!!!!」




 腰に抱き付いて薔薇を死守していると、突然ローズヒップが頭を抱えて奇声を上げた。
「ま…まさか、その叫びは」
 ついさっき、ルクリリがやったポーズと同じ。声はこっちの方がうるさい。
「ダージリン様へのプレゼントを買うの、すっかりこってり忘れていましたわ!!」
「………やっぱり」
「うわ、ローズヒップもか……」
 頭を抱えている2人には申し訳ないけれど、もう諦めて、取りあえず、お手紙でも書くしかない気がする。


「ルクリリもですの?」
「………ローズヒップと肩を並べたくはないが、忘れていたのは事実」
「まずいですわ。まずいですわ!ダージリン様にぶっ殺されてしまいますわ」
「いや、それはないが、3日くらいふて腐れて口を聞いてくださらないかもしれない」
「アッサム様にお尻ぺんぺんされてしまいますわ」
「それは、仕方ない」 
 別にダージリン様はプレゼントが欲しいなどと、一言も言っておられないのに。むしろ、かなりの物量が届いて、とても大変そうな気がするから、2人から何もなくても、おめでとうございますって言うだけでも十分喜んでくださるような気がする。今日まで、パーティの準備部隊をまとめていたのはルクリリたちなわけだし。アッサム様からお尻を叩かれる理由もない。

「やばいですわ。もう授業も始まってしまいますわ」
「うーん。速攻で紅茶の葉っぱでも買いに行く?」
「今更、紅茶の葉っぱで誤魔化しなんて、かえって怒られますわ」
「だよね、どこで買ったかバレバレだし。すぐ手に入れられて、それでいてダージリン様がお喜びになるものって何だろう……」


 そんなものがこの学生艦で、さらに学区内のすぐ傍で売っているわけがない。だから戦車道のみんなは、プレゼントのことを1か月以上前から悩んでいたのだ。きっとどんなものをプレゼントしても、ダージリン様はお喜びくださる。でも、飛び切りの笑顔がみたい。いつも以上に驚いて欲しい。そう思うと、どうしても、簡単には手に入らないものへと目が向いてしまうのだ。


「はっ!……ひらめきましたわ!!!」
「え?本当?」
「ルクリリ、これはもう、とんでもないプレゼントを閃きましたわ」
「ズルいぞ!教えろ~」
「ダージリン様が間違いなく喜ばれるものは、たった1つですわ!!」

 2人が漫才を始めたので、ローズヒップの後の洗面所に逃げ込むことにした。肩を抱き合ってヒソヒソ語り合う姿。何だかとんでもない悪知恵とかだったりして。庭のお花を摘んだら、アッサム様に殺されるってわかっているはずだから、流石にそんなことはしないだろう。たぶん、だけど。


 ………アッサム様。

 まさか、アッサム様に何か助けてもらうつもりなのだろうか。
 そんなまさか。




2年生は午前中、家庭科の授業だそう。この時に、ケーキやお菓子、栄養部に家政科を総動員して、食堂では急ピッチでパーティの準備が進んでいる様子。3年生はもう、毎年恒例なので、いつものことだと、知らない振り。当然、ダージリンもまた、知らない振りだ。 
今回のパーティの概要はグリーンからは聞いているが、1,2年共に、一生懸命走り回っているらしい。本当に楽しみだ。授業中のダージリンの背中も、楽しみで仕方がないと言わんばかり。
 3年生の教室は、いつも通りの授業が進められて、12時にチャイムが鳴った。今から、パーティだ。

「それで、今年も知らない振りをして食堂に行けばよろしい?」
「少し待って差し上げて。きっと、今頃1年生たちが慌てて食堂に走っているはずだから」
「そう」

 目をキラキラ輝かせて、ダージリンがソワソワしている。知らない振りができるのかどうか、ちょっと心配だ。朝、3年生たちからプレゼントが寮室に届き、すでに絶好調に機嫌はいい。1人一つは多すぎると、クラス全員からダージリンの名前を入れた結構な値段の腕時計。それを嵌めている右手。ソワソワと何度も時計の長針を見つめている。

「そろそろ、いいかしら?」
「そうですね」
 他の3年生たちが先に立ち上がり、お祝いする側の準備のために食堂に向かった。アッサムもまた、今からのパーティはお祝いする立場だ。ダージリンにあと5分は教室に留まるようにと告げて、またあとでと手を振って席を立った。




「アッサム様、ごめんあそばせ!!」



 クラスメイトたちの後を追いかけて食堂に向かう途中、ローズヒップの声が後ろから聞こえてきたかと思えば、腕をぐっと掴まれて、引っ張られた。

「えっ?!」
「………ごめんなさい、もう、これしかないんです!」
「ル、…ルクリリ?!」
「こっち、こっちですから!こっち!」

 抵抗する力を入れるより早く、ルクリリが腕を引っ張って、訳も分からず食堂からどんどん離れて行く。何が何だかわからないけれど、連れていかれる先には、ランドローバーが待機している。
「アッサム様~!」
「ローズヒップ、一体どうしたの?」
 運転席にはローズヒップが乗っていた。こんなところから大声でアッサムを呼んで。後部座席に押し込まれ、ルクリリが助手席に乗り込むと、アッサムへの理由説明なんていうことなく、車は急発進された。
「こら!ちょっと、説明しなさい」
「アッサム様、ダージリン様の喜ぶ顔を見たいですか?」
「………一体、何?」
 ルクリリが助手席から振り返り大真面目な顔で尋ねてくる。一体、本当に何があったと言うのだろう。どうにもこうにもならない事態でも、起こっているのだろうか。ペコはなぜ、ここにいないのだろう。車でどこへ連れていかれるのだろう。




 車を走らせたのは、学校の敷地内の被服教室だった。歩けない距離ではないはずなのに、1分でも惜しいと思っている何かがあるというのか。部屋には何やら長細い布やリボンが用意されている。
「ちょっと、車でどうしてここなの?」
「こっちです、こっち」
「2人とも、早く説明しなさい」
「している暇はございませんですわ!!」
 両サイドから腕を持って、もう持ち上げているくらいの勢いで教室に入り、椅子に座らされると、勝手に黒いリボンを解かれてしまった。強引にセーターに手を掛けられて脱がされてしまう。何をしようとしているのだろうか、本当に。

「ちょっと、何なの、ルクリリ」
「ですから、ダージリン様のお誕生日パーティに欠かせないことです」
「どうして、私がここに座っているの」
「どうしてもです。うーん、赤だな」
 テキパキと、当然と言わんばかりに赤いリボンで髪を縛られて、ネクタイを解かれて赤い布が襟前で蝶々結びされてしまう。何か、嫌な予感。


「………待って。冗談でも私をプレゼント、なんて言ってダージリン様の前に差し出すつもりじゃないでしょうね?」




……
………


「ははははははは」
「おほほほほほほ」




 気持ち悪い笑いがアッサムの頭上に落ちてきた。図星を突かれて簡単にボロを出し過ぎだ。首元に飾られた赤いリボンを解いてしまおうと思ったら、両手を後ろ手に括られてしまった。

「こら、ローズヒップ!」
「ごめんなさいです、これしかないんです」
「これは誰の悪い知恵なの?!」
「だって、ダージリン様が喜んでくださる、最高のプレゼントはもう、これしかありませんですわ」
「そうですよ。アッサム様のこと、すっごく大好きなダージリン様ですから。私たちのプレゼントがどこの誰よりも、一番じゃないと嫌なんです」



 …
 ………
 …………



 相談なしに勝手にやろうとするなんて、前もって言えば怒られると分かっていたからに決まっている。逃げる時間もないギリギリを狙うなんて、そう言う考えだけは働くんだからまったく。

「終わったら、覚悟してなさい」

「しています」
「もう、覚悟ばっちりですわ」

 大暴れして、頬をひっぱたいてしまえば、色々とこれからのパーティを台無しにしてしまいそうだ。ダージリンの前に張り手の痕を頬に付けた2人を差し出すわけにもいかない。大きな長いリボンを身体に巻かれて綺麗にプレゼント包装されたアッサムは、布で包まれ、更にそれをリボンで結ばれて、完璧な商品に仕上げられた。


『っていうか、ランチはいつ食べられるのよ!』

「私だって食べてません」
「お腹ペコペコですわ!」

 なぜ、逆切れの声が返ってくるのかわからない。日ごろ、甘やかせ過ぎたからこんな、舐められたことをされてしまうのだ。もう、どうでもいいけれど。
 ダージリンは、アッサムがいなくなって心配しているような気もするが、大丈夫だろうか。


 1mmくらい、どんな顔で驚くのか見てしまいたいって思ったから、その油断のせいで両手を縛られてしまったのだ。

 これはアッサムのミス。
 
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Date:2016/10/02
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