【緋彩の瞳】 約束。 ①

緋彩の瞳

スポンサー広告

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

*    *    *

Information

ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

約束。 ①

横浜にある小さな教会で、出会った。
 彼女は天使そのものだった。

 その教会は大きな病院の中にあって、本当のところを言うと、課外活動のボランティアで来ていた途中、ふらりと立ち寄ったのだ。あそこの教会のステンドグラスはとても綺麗だって、誰かが話をしているのを聞いた。だから、見てみたいと思ったのだ。決して迷子ではない。ちょっとだけおさぼり。

「………あっ」
「あ、ごめんなさいです。お邪魔してしまいましたわ」

 マリア様の石像。キリストの十字架。綺麗な花が大きな花瓶に飾られて、結婚式が行われるような鮮やかさだと思った。長椅子を頼りないぼんやりとした光が照らす。

 青に赤に黄色。緑にオレンジ。

 硝子の色ではなくて、硝子に色を着せているんだって、誰かから聞いたことがある。それでも、綺麗なものは綺麗だ。


「あ、あの、聖グロの人?」
「はい、そうですわ。聖グロの1年生で、戦車道をやっていますわ」

 真っ白な服を着た、真っ白な肌をした、真っ白な帽子をかぶっている少女。椅子に座り、お祈りをしていたのだろう。コツコツと靴を鳴らしてぶしつけに、神様との会話の邪魔をしてしまった。とてもいけないことだ。

「わぁ、凄い。マリアも聖グロに入って、戦車道をするのが夢だったの」
「そうなんですの?!!じゃぁ、一生懸命お勉強頑張らないとですわね」
 声が神様に聞こえやすくするためなのか、とてもよく響きわたる。ローズヒップはにこりと笑って、女の子の傍に膝をついて、そして手を差し出した。
「ローズヒップですわ」
「それはティーネームって言うもの?」
「はい。ローズヒップはクルセイダー部隊の名誉あるティーネーム。聖グロ一の俊足ですわ」
 真っ白な服は寝間着で、真っ白な肌は病弱で、真っ白な帽子からは髪の毛は見えなかった。いくら馬鹿なローズヒップでも、それがどういうことなのかくらいはわかる。この場所は教会でも、教会があるのは病院の敷地の中なのだ。
「マリアです。10歳です」
「10歳では、私が卒業してからになってしまいますわね」
 きっと平均的な10歳よりも小さくて、細くて。もっと年下だと思っていたローズヒップは、そっとそっと体温を分けるように握手を交わした。
「………聖グロの戦車道は、楽しい?」
「もっちろんですわ。ダージリン様とアッサム様、このお2人が凄い人ですの」
「知ってる!凄く綺麗な人たち。前にも病院に遊びに来たわ」
「はい。綺麗で、強くて、カッコイイですわ」
「いいな~聖グロ。羨ましい。入りたかった」

 ステンドグラスの輝きよりも、マリアのキラキラした眼差しの方がずっと綺麗だと思った。きっと、マリアの瞳に吸い寄せられてこの教会に来たのだ。かつて自分が聖グロに憧れて、クルセイダーに乗りたい一心で、必死に勉強していたことを思い出しながら、今、その夢が叶ったことがどれだけ嬉しいことか、膝をついて手を握りしめたまま、ペラペラとしゃべり続けた。毎日がとても充実している。とても楽しい。だから、絶対聖グロに入学してね、と。

「マリアは、あと5年も生きられるかな」
「聖グロの戦車道を目指すなら、弱音を吐いてはダメですわ」
「そう、かな」
「ダージリン様もアッサム様も、弱音を吐く子よりも、いっぱい笑って、いっぱい頑張る子が好きですわ」
「………うん」
「このローズヒップが、一緒に病気をやっつけますわ」
 弱弱しく笑うマリアに向けて、いっぱいの笑みを送るしかできることはない。せっかくだからと、聖グロの何かを差し上げようと、鞄を漁った。聖グロの名前の入ったものは、ほとんど、なくなると困る物ばかり。だから、ローズヒップの名前の刺繍を入れているハンカチを手に握らせた。
「これは、アッサム様が私のティーネーム授受の時に、プレゼントしてくださったものですわ。マリアにあげますわ」
「え?でも、そんな凄いものを」
「大丈夫ですわ!5枚もらいました!マリア、大切に使ってください」
「……うん」
 また、会いに来るからと指きりをした。約束をした。とてもキラキラした子だった。


「ローズヒップ、どこに行っていたの。これ、授業なんだからさ」
「教会、とても綺麗でしたわ」
「………あぁ、あそこの」
 学生艦で栽培した薔薇の受け渡しや、部活動で盛んな、吹奏楽部や合唱部の演奏会の手伝い。今日はサポートとして戦車道の1年生がこの病院に来ていた。
 陸地との交流は学生艦の生徒の義務。聖グロの生徒たちは、定期的に陸地にある様々な施設でボランティアとして、清掃作業や老人ホームへの慰問をする。演奏会を開いたり、お茶会を開いたり、スポーツ大会に参加することもある。戦車道生徒は散り散りになり、あちこちに出向く。戦車道には多くの寄付金が必要とされていて、陸地に住む卒業生や募金してくださる企業も多く、その日頃の感謝を伝えるためだ。出先では特に、品行方正であること。聖グロの生徒は常に、礼儀正しくお嬢様でなければならない。寄付金を返せ、などと言われないためにだ。

「天使がいましたわ」
「ローズヒップは見えない、何かと会話ができるんだな」
「見えましたわ。マリアっていう10歳の女の子」
「………創作臭い話はいいから、パイプ椅子を片付けるのを手伝って」
 一生懸命歌を歌っている友達のサポートをさぼって、ウロウロしていたのを怒ったって仕方がないのだ。近くで爆睡されるよりはよっぽどいい。入学して間もない頃、横浜では、何度かアッサム様に胸倉を掴まれて怒られたことがあるローズヒップ。もう春の訪れ。ようやく自分の立場と言うものがわかるようになった。

「2人とも、ロビーで写真撮影会があるので来てくださいって」

 ペコが病院の事務の人を伴って、片づけをしている2人を迎えに来た。今回、一応は隊長となったルクリリと、副隊長のローズヒップ、ペコと患者さんが写真を撮るという小さなイベントがある。まぁ、希望する人がいれば、の話だけど。
 入院患者の中には大人も子供も、おばあちゃんもいて、戦車道が好きだと言う人もいる。聖グロの生徒が訪問することを、待ちわびてくれる人もいる。ダージリン様とアッサム様が訪問すると、もう、アイドルのライブみたいになってしまうんだそう。

 今日、ずっと裏方として働いたルクリリは2時間ここにいるけれど、誰もキャーなんて言ってこない。結果を残していないせいだ。




「さっき、マリアと写真を撮っておけばよかったんですわ」

 今、チャーチルに乗っている隊長が来ていると院内放送がかかると、それなりに人が集まった。入院していない人も含めて、写真撮影に応えて、それでもダージリン様たちの半分だとペコは苦笑している。むしろ、何の成績も残していないのに、半分集まったことが凄いと、自画自賛したい気持ちだ。ダージリン様の後光のおかげなんかじゃない、と思う。


「ん?マリア?天使のマリア」
「きっと、もういませんわ」

 帰り道、ローズヒップは教会で会ったという女の子の話を聞かせてくれた。病弱な女の子で、聖グロの戦車道にとても憧れているらしい、と。

「憧れか~。憧れがローズヒップじゃねぇ」
「どういう意味ですの、ルクリリ」
 遅刻もしないし、欠席もしない。なぜか成績が学年3位で、ティーカップ割りまくり。廊下も走りまくりで、紅茶を淹れるのもへたくそ。それなのに、ダージリン様とアッサム様が相当溺愛なさっている。副隊長とクルセイダー部隊長、整備科の責任者にもなっている。

 不思議な親友だ。散々尻拭いをしても、それでも嫌にならない。

「まぁまぁ。でも、いつになっても聖グロの戦車道は憧れの存在なんですね。私たちはいつも、誰かから憧れを抱かれている。身の引き締まる思いです」
 ペコは、ルクリリよりも写真を撮られていた。いつでもダージリン様にくっついてあちこち行っていたから、知名度は高い。きっとそのせい。そのせいにしておこう。
「何だかさ、隊長っていう実感が全くなくて困るわ」
「他校との練習試合で指揮を執るようになれば、きっと出てきますよ」
 演奏していた生徒たちと同じバスに乗り込んで、今日の労いを伝え、みんなで学生艦に戻る。今週はずっと午後は課外授業だ。外泊の許可はなく、遊ぶこともせずに、授業のための停泊をしているのだ。今から、隊長室で各部から上がってくる今日の報告書を読み、明日の午前中の訓練の内容の確認と、午後の課外授業の確認をしなければならない。
3人で、全力で仕事をこなす。足りなければ、キャンディ様達の力を借りる。それでもだめなら、ひっそりアッサム様に知恵をお借りする。とにかく、お2人が卒業されるまでの残り少ない時間、ルクリリは3人で1人前から、脱出しなければ。



「また、負け戦をさせるんですか?」
「相手からのお願いを断ることは出来ないわ」
「………プラウダとはわけが違いますのよ」
「お断り、だなんて。口が裂けても言うつもりはないわ」
「口が裂けたら言えませんでしょ」
 黒森峰から練習試合の申し込みの電話が、ダージリンに直接入った。西住まほさんからのお願いを断ることなどできるわけもない。元より、どんな学校からでも、タイミングが合えば必ず受けるようにしているのだ。これがきっと、ダージリンとして、元隊長としての最後の御膳立てとなるのだろう。アッサムは、やれやれとため息を吐くしかない。
「10両フラッグ戦。あちらは2年生だけで選抜チームを作るそうよ」
「……ということは、逸見エリカが指揮を執ると」
「そうね。西住流の門下生とはいえ、どういう戦術を立ててくるのかは未知数よ」
 1,2年はずっと隊列訓練と模擬試合をこなしながら、午後はボランティア授業に忙しくしている。この寒い時期、卒業を控えている3年生は何もすることがなく、のんびりお茶を飲んで、勝手に報告書を盗み読み、時間を潰すくらいだ。だから、西住まほさんからの話を受けて、最後にルクリリの力を見届けたいと思ったのだろう。次に繋がる負け方をすればいい。ダージリンが卒業試合で起こした奇跡の勝利に浮かれ、天狗にならないように。ボロボロになればいい。そう思っているのだろう。
「情報処理部も世代交代しましたし。今、自分たちがどれくらいの能力を持っているのかを知るには、いい経験になりますね」
「えぇ。今回は本当に、一切の口を出さないわ。よろしく頼むわよ、アッサム。あなた、1年生に甘いから」
「はい」
 ご自分だって十分に甘いのに。と言い返すことをせずに笑って見せた。ルクリリには隊長室の机の上に、練習試合決定のメモを残しているらしい。たぶん、びっくりして走ってくるだろう。がんばって、の一言で終わりだ。逸見エリカも西住まほさんの後を受け継ぐのだ。聖グロに本気で向かってくるに違いない。あの西住まほさんの卒業試合で負けたのだ。彼女にだってプライドがある。どこまでルクリリたちは食らいつくのだろうか。





「がんばって、って言われてもさ」
「………仕方ないですよ。オファーされたら断らないって言うのがうちの学校ですからね」
 停泊期間を終えて、学生艦は横浜から離れた。とはいえ、またすぐに横浜に戻る。この寒い季節、土日は必ず横浜に停泊しなければ、船に積んでいる暖房関係の燃料がすぐに底をついてしまうのだ。寒い海上をうろつくよりも、停泊している方が省エネということ。
 隊長室の机に置かれた1枚の手書きのメモにルクリリが悲鳴を上げて、紅茶の園に走ったのは昨日。お2人のニッコリした微笑みと、一切関知しない、好きにしなさいと。どんな作戦で戦おうとも、自由。相談に乗ることもしないなんて、とても薄情なことも言われてしまった。何というか、もうすべてを託したということなのだろうと、ペコは感じた。本当に、何もされるおつもりはないようだ。日々の訓練の報告さえ聞くおつもりもない。
 ベッドにゴロンと寝転がり、今日の車長ミーティングでの、全員の険しい顔を思い出した。顔に描いてあった。勝つわけがない、と。12月の卒業試合とはわけが違うのだ。あの時の戦いと同じことを、ルクリリができるはずもない。
「………いきなり、ダメなレッテルが張られるのは嫌だな」
「きっと、勝つことなんてダージリン様は望んでいらっしゃらないと思いますが」
「わかってる。だから、嫌なんだよ。だって、上手く負けろって言うことでしょ。抗って抗って、必死になって負けろって。正しい負け方って、何だろう」
 ベッドで寝頃がる、その天井に答えは書いていないけれど、オレンジペコも隣に並んで寝転んでみた。とても古い寮。それなりに天井は高いし、3人部屋だから、まぁまぁ広い。天井の年季の入ったシミ。暖房を入れても全然温かくならない部屋。
「勝てばいいんですわ。どうして負け方なんて考えますの?」
「………まぁ、そりゃそうだけどね」
「聖グロの戦車道に憧れている子もいるんですのよ。いつだって勝利しか道はありませんわ」
「じゃぁ、どうやって黒森峰に勝つの?」



 …
 ……
 ………


 暖房が温かい風を送ろうとも、3人の間まで届く頃にはすっかり温くなってしまっている。

 どうやって黒森峰を倒すのか。
 それとも。
 どうやって上手く負けるのか。

「とにかく、明日は、朝早くに車長ミーティングで出場車両を決めよう。ペコは情報処理部に黒森峰の最新情報を集めてもらって」
「わかりました」

 いい負け方をしなければ、ダージリン様もアッサム様もルクリリでよかったと、安心してくださらないだろう。食らいついてしがみついて、ティーガーⅠを追い詰めることができれば。開始早々にボロボロになって、ダージリン様がいないとダメなんだから、なんていう評価を受けたくはない。

「勝てばいいんですわ!!」
「………わかったわかった」
「勝たないと、横浜でのルクリリ人気がゼロになりますわ」
「………あ~。ダージリン様の後ってやだな~~!!!!!」
 ジタバタと足をばたつかせてあがいても、何にも出来やしないのだ。だから、ペコとローズヒップが左右にいる。一度勝ってしまったのだ。あちらは全国大会並みに本気で向かってくるに違いない。



関連記事

*    *    *

Information

Date:2016/10/13
Trackback:0
Comment:0

Comment

コメントの投稿








 ブログ管理者以外には秘密にする

Trackback

TrackbackUrl:http://fireredfantasia.blog.fc2.com/tb.php/797-415e97bf
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。