【緋彩の瞳】 約束。 ②

緋彩の瞳

ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

約束。 ②

「黒森峰と試合する?」
「はいですわ。すっごい強い学校ですわ」
「何度も優勝している、西住流の学校でしょう?」
「マリア、物知りですわね」
 
 10両で隊を作る場合、クルセイダーの出番はほとんどないことが多かった。装甲の厚さを重視して、相手が重戦車ばかりの場合は出場しないこともあった。だけど、今回の練習試合では、10両に対して、クルセイダー部隊は4両の投入をルクリリは決めた。守りではなく、攻めを選んだのだ。

「小さい頃から、いつも大会はテレビで見ていたわ」
「そうなんですの?私より詳しいかもしれませんね」
「アールグレイ様が3年生の時に、聖グロが決勝で黒森峰と戦った試合は、本当にすごかった。あと一歩だったもの。クロムウェルがパンターに激突に行ったの。あんなことする人いるんだって、病院の中でみんな叫んでいたから」
 たぶん、その突っ込んだ人って言うのは、バニラのお姉さま。バニラはいつもおとなしいし、戦車に乗っても人が変わるみたいなことはないけれど、お姉さまはとんでもない人だったって、アッサム様から聞いたことがある。でも、ローズヒップはそれを上回る、って。褒めていない、と、くぎを刺されたけれど。
「今回、クロムウェルは出ませんわ。でも、バッタバッタと敵をなぎ倒して、ティーガーⅠを撃破してみせますわ」
 
 横浜港に戻ってきた日の朝、ローズヒップはペコとルクリリと一緒に病院を訪れた。本当は朝から3人で横浜に降りたりせずに、12月の試合のDVDを見て復習をして、作戦修正をしようと言う話になっていたけれど、どうしても、気になってしまって、一緒についてきてもらったのだ。
 マリアは病室にいた。教会ではない場所だ。私服の3人が誰なのか、気づいている人もいたけれど、気にせずにマリアに会った。あの時、写真を撮ってあげなかったのだ。3人でマリアと写真を撮ってあげたかった。

「出来るの?」
「12月に、聖グロは黒森峰に勝ったんですのよ」
「知ってるけど、ダージリン様が天才だからでしょう?」
「それはまぁ、そうですわ」
 腕を組んでうーんとうなると、ルクリリが頭上に手刀を振り下ろしてくる。
「何しますの、ルクリリ」
「あれ、あの作戦の3分の1を考えたのは私」
「そんなウエイトありました?」
「あったわよ、たぶん」

 ペコが何も言わずに笑っているだけだから、あんまりない気がする。でもここはルクリリの名誉のためにそれ以上は言わないであげることにした。マリアが聖グロに抱いた憧れを失ってしまっては困るのだ。

 自分たちは、キラキラした存在でいたい。キラキラした憧れの存在として、元気になる源になっていたい。

「試合はいつ?」
「3週間後の土曜日ですわ」
「………そうなんだ」
「それまでに、しっかり栄養を付けて、たくさん声援ができるようにしていてくださいね」
「来週からまた薬の治療だから、テレビ見られないかも」
 マリアは笑っているけれど、毎日我慢をたくさんしているようだった。ローズヒップがハンカチをあげても、写真を一緒に撮ってあげても、こうやって会いに来ても、病気は治らない。個室の壁にはたくさんの写真が飾られていて、ダージリン様やアッサム様と撮影したものとか、その前の隊長さんと写されたものもある。それだけずっと長い間、ここにいる、と言うことなのだ。
「マリア、私たちが聖グロの戦車道を担って、初めてダージリン様たちの力を借りずに戦う試合、絶対に勝ってみせる。だから、マリアも頑張って病気に勝とうよ
 ルクリリは拳を作って、まったく優雅じゃない笑いを見せている。ダージリン様がみたら、お下品って言われてしまう。
「………私の身体、抗がん剤はあんまり効かない。連敗ばっかりだよ」
「私たちだって黒森峰に連敗だらけ。でも、ダージリン様が1勝したんだ。だから、私たちが2勝目をあげてみせるからね」
 試合が決まってから、毎日『みっともない負け方だけはしない』をスローガンみたいに言っていたルクリリだというのに、10歳の女の子には『絶対に勝つ』なんて言って見せるなんて。最初から、絶対に勝つってクラスメイト達に言えばいいのに。出来ない約束をするのが嫌な性格なんだろう。それがたぶん、ルクリリの正義。
「マリアに約束しますわ。私たち3人は、絶対に黒森峰に勝って見せますわ。夏の大会も絶対優勝して、聖グロで初めての優勝旗を手にしてやりますわ!」
「……ローズヒップ、それは気が早すぎます」
 冷静に突っ込んでくるペコよりも小さいマリア。ローズヒップは笑いながら小指を差し出した。
「でも、絶対勝ちますわ。黒森峰をなぎ倒しますわ。だから、マリアも病気に勝って聖グロに入学できるように、頑張りましょう」


 希望の約束は、マリアが生きる糧と言うほど大きなものではないかもしれない。ローズヒップたちよりもダージリン様やアッサム様、もしかしたらその前のアールグレイお姉さまたちと何か約束を交わす方が、ずっとずっとマリアにとっては嬉しいことなのかもしれない。でも、もうダージリン様たちは卒業していなくなってしまうのだ。来年、再来年、憧れられる存在でいるためにも、今、ローズヒップたちが勝たなければ意味がないのだ。


 この約束は、自分たちへの誓いになるのだ。憧れられる存在として、聖グロを背負うと言うことへの誓いだ。


「小指の約束、ローズヒップ様は絶対守る?」
「絶対ですわ」
「病院で仲良くなる子たちは、みんな約束しても死んでしまうわ」
「大丈夫ですわ!聖グロの戦車道に二言はありませんわ」
 絡んだ小指は白くて小さくて。
 ルクリリとペコは笑っているだけだった。



「あんまり、感心しません」
「………わかってる」
 ニコニコと笑顔を振りまいて約束を交わしたローズヒップ。その後、横浜でのんびり遊ぶなんてこともせず、真っ直ぐに学生艦に戻った。もっともっと3人で話し合いをしなければならない。
「約束を反故にされたら、きっと落ち込みます」
「だから、私は約束って言う言葉を避けたんだ。でも、ローズヒップが出したんだから、仕方ないでしょ」
「……まぁ、成り行きではそうなってしまいますけれど」
「それに、勝つしかないっていう状況の方が、持っている以上の力が出せるかもしれないし」
 それはどうだろうか。ローズヒップは空回りして、自滅してしまう可能性だってあるのだ。ペコはこの件は隊員たちには一切告げないでいるべきだと、ルクリリに伝えた。ルクリリもそれは当然だと言いきり、ローズヒップにも、マリアのことは誰にも口外するな、と告げた。
「なぜですの?みんな、それを聞けば必死になりますわ」
「いや、違う。目的が変わってしまう。私たちが戦うのは己の力を知るため。決して病気の女の子のためではない。聖グロの戦車道は、誰かのためにあるものではないんだから。誰かのためならば、それは、自分と仲間のためであるべきだよ」
「マリアは未来の仲間ですわ」
「………そうかもしれませんが、私たちは半人前です。まず、自分たちの未来を見据えましょう」
 ローズヒップは頬に空気を貯め込んで、ふて腐れているアピールをしてくる。こんなところで仲間割れをしても仕方がないのだ。マリアと約束を交わしてしまった以上、守らなければならないのだ。どんな約束でも、守らなければならない。そのことがマリアの生死を左右するほどではないが、それでも、新しい隊長はウソツキと言うレッテルをルクリリの背中に張り付けたくはない。誰の心の中であっても。

 ダージリン様の傍でずっと見てきた、聖グロの隊長としての優雅さなんてまるでないけれど、ルクリリにはルクリリの良さがある。アッサム様がどんな時もダージリン様を支え、盾になり、見守ってきたように、ペコもルクリリという隊長をしっかり支えてあげなければ。

「とにかく、方針は決まった。みっともない負け方はしない。みっともない姿になっても、どんな手を使ってでも、勝つ。これしかない」
「……最初から、それしかありませんわよ。ルクリリが消極的なだけですわ」

 聖グロの戦車道はあくまで優雅って言うのは、ダージリン様の代で途絶えることだけは間違いないと思う。


「あら、何を見ていたの?」
 車で横浜に降りて、のんびりドライブをして、春から私服で大学に通うのだからと、色々買い物をして回った。とはいえ、卒業までもう少し時間はある。お手伝いを雇った一軒家とか高級住宅地のマンションで暮らすことも考えたけれど、大学の傍にあるそれほど広くないマンションを借りることになっている。
「いえ、ちょっと」
 買い物をしながら、ランチを取りながら、これからの生活のことばかりを2人で話す。それがとても楽しくて。何も心残りなどなく、楽しい気持ちを抱いたまま聖グロから飛び出す日を迎えるだけだ。
「なぁに?また電子書籍?」
「えぇ、まぁそうですわね」
「……それはタブレットで、本を読むものではないとアッサムが教えてくれたはずだわ」
 ホテルの中のレストランで夕食を取り、スイートルームに入ってから10分ほど。お湯を沸かしている間にアッサムは、何やらずっとタブレットを見つめていた。
「本も読めますわよ、一応」
「で?何の報告書を盗み読んでいるのかしら、アッサム」
「…………グリーンが、勝手に送りつけてきた、情報処理部2年生からの報告書ですわ」
 慌てて画面を消したその態度が怪しいというのではなく、わざわざ2人きりでホテルにいるというのに、少しだけソファーからダージリンが立ち上がった瞬間にタブレットを取り出す行為がもう、すべてを物語っているのだ。


 1年生が心配で心配で仕方がない、と。


「アッサム」
「口を出すつもりはありませんわ。私はグリーンにこんなことをして欲しい、と言っていません。グリーンは自分の後輩がこれだけ頑張っていると、私に伝えたいそうです」
 タブレットをすぐにかばんに戻したアッサムは、ダージリンの機嫌を取るように笑っている。心配することは仕方がない。情報を持っていたいと言うのは、アッサムの性分なのだ。
「そんなことはどうでもいいのよ。私といるときは私のことだけを考えなさいと、何度言えばいいのかしら」
「………あなたが大好きな子たちですわよ」
「ほら、そう言う言い訳で逃げて」
 大きなバスタブにお湯を貯める音。もうそろそろ自動的にお湯は止まる。手を取って立たせて、おでこにキスをひとつ落とした。
「…………ダージリンだって、本当は気になるのでしょう?」
「ならないわ」
 負けも勝ちも、等しく価値がある。卒業直前に後輩が負けても勝っても、何もできることはない。彼女たちの自由なのだ。あの子たちは今、自分たちのために必死になろうとしている。3年生のため、なんかじゃない。これからの自分たちのためだ。だから、情報なんていらないのだ。試合を見るだけでいい。終わったら、お疲れ様と声を掛けてあげればいい。
「そうですか」
「それで?あなたは私のことを考える気になった?」
「えぇ。一緒にお風呂に入ります」
「大変結構ね」
「………はい」
「一緒に寝る?」
「はい」
 手を引いてバスルームに向かう。まだ面と向かって堂々と素肌をさらけ出すことは、何となく抵抗があって。温泉地などで裸になることは抵抗がないのに、2人きりになると、なぜだか背中を向けて服を脱いでしまう。アッサムが逃げるようにシャワールームに籠城するので、ダージリンも別のシャワーで身体を洗った。まったく、これからいつまでこれを続けるつもりなのかしら、と思っても、1mmずつくらいはちゃんと前進しているはず。

「そう言えば、この前ね、聖那さまからお電話を頂いたのよ」
「聖那さま?ダージリンに?」
「えぇ。アッサムに本を贈ったけれど、読んだのかって」
「…………なぜ、ダージリンに」

 相変わらず、前オレンジペコ様の愛菜さま、前バニラ様である聖那さまは、学生艦には遊びに来られないが、電話をくださることがある。横浜に降りる時などは、時間が合えば会ってくださる。12月の卒業試合の後、OG会として、盛大にお祝いをしていただいた。同じ大学に入学するから、また後輩として一緒にいられる。

「さぁ?私も思ったのだけど、何の本を贈られたの?」
「本っていうか、電子書籍ですわね」
 広いバスタブに腰を下ろして、モコモコとジャグジーが身体にモザイクをかけ続けている。決して触れさせてはくれないし、堂々と触れる勇気もない。すぐ傍にいるというのに。
「一体、何なの?」
「…………さ、さぁ」
 お湯の温かさではない頬の赤み、視線を逸らしてしまうものだから。あのバニラ様が送ってきたということで、何となくというか、嫌な予感がしてしまう。
「………何か、また余計なお世話みたいなもの?」
「まぁ……そういうものですわね。あなたも18歳になったのだから、って」
 聖那さま、ご自分が年齢関係なく、麗奈さまとお戯れだったことをすっかりお忘れでいらっしゃる。放っておいてほしいものだ。あちらと違って、ダージリンとアッサムはとても清らかで気高く、尊い恋情なのだから。


「………それ、あなたは読んだの?」
「えぇ。何冊も贈りつけられていましたわ」
「どうだったの?」
「………眩暈がしました」



……
………


 モコモコとずっと泡を胸元に押し付けてくるジャグジー。その音だけが耳に響く。

「のぼせるから、上がる?」
「そ、そうですね」
 うつむいたまま立ち上がり、自分の足元だけを見つめて身体を拭いて、バスローブを羽織る。アッサムの髪にドライヤーをあてて乾かしてやり、ダージリンの髪も丁寧に乾かした後、キングサイズのベッドに寝転がった。

 唇をついばむようにキスをして、抱き合っていれば、バスローブははだけてくる。
ナイトブラの中に差し込んだ手のひらに柔らかい感触。
「………ダージリン」
「なぁに?」
「…………あの、ずっと聞こうと思っていたのですが」
「何を?」
「………セックスって、どうやるか知っていますの?」




………
…………


「ちょっと、タブレットをここに持ってきて」
「…………はい」


聖那さまが贈りつけてきたと言う、『色々な本』を読みふけっている間、隣のアッサムは布団を頭から被ったまま。
 一緒に読んだら、赤面して気まずさが増すだけだろう。

 聖那さまは、アッサムにこれを送り付けて、アッサムに何をさせるつもりだったのか。からかって遊ぶにしては、ずいぶん度が越えている気がする。

「アッサム、全部読んだのでしょう?」
「…………読みましたわ」
「か、覚悟はあるの?」
「…………その、えぇ、まぁ」

 戦車道で黒森峰と戦うよりも、ずっと困難なことに挑戦しているような気分。とはいえ、付き合いの長さで言えば、アッサムと初めてデートをした日から、軽く2年以上は過ぎているのだ。服の上から胸に触れたのは2年生の時、素肌に触れるようになったのは3年生になってから。これは清くて素晴らしいこと……と言うことにしている。アッサムのガードは固いのだ。とても固い。それに、愛情表現のつもりなのに、何か怒られてしまってばかり。

「………目が怖いです、ダージリン」
 タブレットを放り投げて、バスタブを脱がせて身体を抱きしめた。残念ながらそれなりに記憶力はあるから、ついさっきまで読んだものの情報は全て把握できてしまっている。聖那さまは、絵の多いものばかりをチョイスされていたので、何と言うか、とてもわかりやすかった。
「頬を叩かないでね、アッサム」
「…………明かりを消してください」
 本の中では、明かりを消すなんて、何もそんなことは書いていなかったのに。いきなり履帯破損させられた気分に落とされた。でも、いいも悪いも言う前にアッサムが勝手に消してしまうものだから。
「………暗いわ」
「だ、だって、直視されて恥ずかしいじゃないですか」
「さっき、覚悟できていると言ったわ」
「それとこれはまた、別ですわ」


 …
 ……
 ………

「本当に何も見えないわよ、アッサム」
「ですから、どうぞ、ご自由に触ればいいじゃないですか」


 …
 ……
 ………


 小さな体に抱き付いて、唇を探し出して、腕にまとわりついた髪や素肌を撫でながら、そこが身体のどの部分なのかを想像して、ナイトブラをずらして指先に乳房を確かめる。腕を回して脱がせて、今まで触れないように気を付けていた乳房を愛でるように手のひらを押し付けて、乳首を探り当てた。
「あっ……」
「い、痛いの?」
「いえ……」
「大丈夫?ご自由にって、アッサム、見栄を張ってないわよね?」
「だ、大丈夫ですので、その……ダージリンも脱いでください」

 夜はもうすっかり更けてしまっていて、日付も変わっていて、身体は少し冷えているけれど、バスローブを脱いで、身に纏っているものは全て脱ぎ捨ててアッサムの身体にしがみつくように抱き付いた。
「好きよ」
「………はい」
「本当に、するわよ」
「はい」
「最後までするわよ」
「はい」

 身体中に唇を押し当てて、そっとそっと舌を這わせながら、変わらず、それが身体のどのあたりなのかを確かめながら。時々アッサムが漏らすため息を浴び、真っ黒な世界の中で、お互いの素肌を感じて。

 

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Date:2016/10/13
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