【緋彩の瞳】 約束。 ③

緋彩の瞳

ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

約束。 ③

早朝訓練は夏の大会と同様に6時からスタートさせた。試合に出場しないメンバーとの実践訓練を何度も何度も重ねる毎日。陽が早く暮れてしまう季節のため、17時には何もできなくなってしまう。夕方になればGI6が集めた黒森峰の、出場予定の戦車の情報と、2年生全員のデータ、それぞれの車長が最近の試合でどんな役割を担って動いていたのか。資料を眺めながら、訓練を振り返り、徹底的に全員で話し合いを持った。毎日毎日、作戦案を何度も修正し、必死に訓練を続けている。


「おい、ローズヒップ。どこに行くの?」
「マリアのお見舞いですわ!」
「今日は、アッサム様とダージリン様が息抜きに遊びに連れて行ってくれるんだから、止めておきなよ」
「そうですよ。お2人が揃って遊んでくださるのは、残り少ないんですから」
 土日になれば、船は横浜に戻る季節。だけど、横浜には陸地訓練をする場所がないから、この休みが終われば、ルクリリは少し南に降りて、公式練習場傍の港に長期滞在をすることにしていた。
 進路変更のために、OG会にお伺いの電話をすると、ダージリン様から色々と聞いている、と言われて、あっさり許可は下りた。一切関知しないからっておっしゃっていたのに、何だかんだ根回しをしてくださっていて、ありがたかった。本当に、今回の練習試合については、アッサム様もダージリン様もまるで興味がないと言う態度を貫いておられる。
 ルクリリたちは早朝練習をしているから、朝の食事も、ランチも、夕食も時間がずれてしまっていて、顔を合わせる時間がほとんどないけれど、ちゃんと、心の中で応援してくださっているって知っている。本当はもうすぐ卒業されてしまう3年生の先輩たちとちょっとでも長く、お傍にいたい。でも、それは甘えなのだ。ずっとずっと半年以上も3年生の加護の元、大切に育ててもらった。ここで、その恩を返さなければ、ただの甘ったれだ。
 ローズヒップとマリアとの約束があってもなくても、最初から訓練内容はずべて考えていた通りだし、特に約束を守らなければならないからと言って、ウルトラ級の技を用いるということはない。そんなものは最初から持ってなどいない。多少のモチベーションは確かに変わった。『簡単には負けられない』から『無様でも勝つ』になった。ローズヒップという大事な友達の約束は、ルクリリが背負っているのだ。でもきっと、ルクリリが守りたいのは、マリアの憧れだとか夢なんかじゃなくて、ローズヒップのどうしようもない無垢な気持ちなのだろう。
「じゃぁ、お2人も一緒に病院にお見舞いに行けばいいですわ!きっとマリアは喜びますわ」
「いや、だからさぁ。そう言う問題じゃなくって」
「ダメですよ、ローズヒップ。お2人は、私たちのために時間を空けてくださったんですから。みんなで遊びに行きますよ」
 寮を出て、ちょっと先に車を出すなんて言うものだから、慌てて腕を引っ張った。今日は5人で行動をするのだ。わざわざなぜ、お見舞いに時間を取られないとならないのだ。あれから、その次の土曜日もローズヒップは情報処理部との会合をさぼってマリアに会いに行った。誘われたけれど、隊長がさぼるわけにもいかないだろうって、1人で行かせた。すっかり仲良くなって、楽しくおしゃべりして帰ってきたそうだ。何も、毎週行くことはない。それに来週は試合なのだ。燃料を満タンにしたら明日の昼には船を出して、月曜日の早朝から、じっくりと陸地訓練をする。今日は、試合前の最後の息抜きの時間。思いっきりダージリン様とアッサム様に甘えまくる最後のチャンスなのだ。
「1時間だけですわ!すぐ合流しますわ~」
「………って、行くな、この馬鹿!」
 3年生の寮からは、仲睦まじくダージリン様たちが近づいてこられる。ルクリリは凄まじい勢いで消えたローズヒップの車の後姿を追いかけながら、やれやれとため息を漏らした。
「おはよう、ルクリリ」
「おはようございます、ダージリン様」
「ローズヒップ、どうしたの?」
 ダージリン様たちの視界の中には、ローズヒップが一足お先に勝手に車を走らせた姿は、ちゃんと入っていたようだ。
「いや、えっと、ねぇ、ペコ?」
「え?あ、えっと、お知り合いが入院しているので、ちょっと顔を出してから合流する、らしいです」
 目を左右に泳がせながら、それでも嘘は吐かないペコ。ダージリン様はじっとその様子を見つめて観察されておられる。
「あら、そうなの。恋人さんに会いに行った、とかではないの?」
「まさか、ローズヒップが?!」
 どう考えてもダージリン様の冗談なのに、冗談じゃない!と言わんばかりにアッサム様に肩を掴まれた。目が本気でいらっしゃる。
「怖いです、アッサム様。ローズヒップに限ってそれはありませんよ」
「でも、あの子は可愛いし、それに、すぐ騙されるタイプだし」
「…………」
「アッサム、落ち着きなさい」
 どちらかと言うと、アッサム様の過保護も心配のような気がする。ペコが言ったことは本当です、とルクリリは諭すように説明をした。アッサム様もダージリン様もマリアと写真を撮っておられたのだから、知っておられるはずだ。
「マリア?誰なの?アッサムはご存じ?」
「いえ。もう、何人もいろんな人と写真を撮っているので、流石に名前も顔もちょっと……」
 そう言うものなのだろう。1年生の頃からお2人の名前は有名だったし、本当にいろんな人たちと写真を撮ってきたのだと思う。イチイチ、名前を覚えていられないだろうし、名前を積極的に聞くこともなかったのかも知れない。それは仕方がないのだ。
「ローズヒップのお友達なの?」
「ボランティアに行ったときに知り合ったそうで、先週もお見舞いに行っていました」
「…………そう。まぁ、いいわ。放っておいて、私たちは遊びに行きましょう」
 ダージリン様は少しだけ腕を組んで悩んだけれど、それも5秒ほどだった。ローズヒップを放置して、自分たちは別のランドローバーで横浜に降りて寒空の下の遊園地。5人で遊ぶって言っているけれど、本当は戦車道の生徒皆が、示し合わせて遊園地に集合することになっている。毎日毎日、訓練し続けているから少しだけ息抜きをするのだ。緊張感を少しほぐすのにはちょうどいい。


「来ましたですわ~」
 受話器越しに声を掛けて、精一杯手を振って見せた。小さく手を振り返してくるけれど、笑顔じゃない。
「今日は横浜に降りて、また明日から訓練ですわ!もう黒森峰を倒す作戦はバッチリですわ!クルセイダー部隊が主軸になって、走りまくりですわ!」
『……ローズヒップ様が、フラッグ車を倒すの?』
「えーっと、そう、そうですわ!ぎったんぎったんのバッタンバッタンですわ!」
 小さい声が受話器の向こう側から聞こえてきて、ローズヒップは大声でそれに応える。先週から病室が変わって、直接手を取って励ましてあげることは出来なくなった。薬の影響らしい。弱弱しく見えて、でも、ローズヒップは何もしてあげられないのだ。世の中にはどうしようもないことがたくさんある。ローズヒップがダージリン様のように上品で艶やかで、人望の厚い人間になれないように、神様はマリアの病気を治してはくださらないのだ。
『来週まで、がんばれるかな』
「頑張らないとダメですわ!!聖グロの戦車道のみんなは、マリアのために戦うって言っているんですから、ちゃんと元気になって声援を送らないとダメですわ!」
 とても息苦しそうな表情、無理にでも笑おうとするマリア。アッサム様がローズヒップにしてくれるように、抱きしめて頭を撫でてあげたいけれど、今はそんなことは出来ない。ローズヒップはただの聖グロの生徒だ。マリアは決して、ローズヒップと言う存在に憧れているわけではない。ローズヒップ1人では、今のマリアを救うことは出来ないのだ。
『……来週、頑張って。ローズヒップ様の活躍、見られるようにするから』
「お任せあれ、ですわ!!!!このクルセイダー部隊長、副隊長のローズヒップが絶対に黒森峰をぶった押しますわ!約束ですわ!」
 小指を窓に向けて見せると、マリアの小さな小指がそれに応えた。

 空気に作った鍵同士。触れることも出来ないまま。



 自分は大きな声で嘘を吐いているのかも知れない。
 ローズヒップは、心の片隅で少しだけそう思ったけれど、すぐにそんな気持ちを身体から払い落とした。試合は来週で、未来のことなのだ。だから、嘘などついていないのだ。これから、声にしたことを実現するために、何とかすればいいのだ。



 きっと、ルクリリが何とかしてくれる。


「アッサム様~~。おまちどうですわ!って……何事でございますか?」
「………ちょっとね」
 強引に乗せられたコーヒーカップがグルグルと回る乗り物のせいで、しばらく動けなかったアッサムは、戦線を離脱してバニラの膝を借りて横になっていた。ダージリンは絶好調に次の乗り物に、ルクリリ達に腕を引っ張られていった。元気にも程がある。
「バニラ、ありがとう。もういいわ。あなたもジェットコースターで遊んでいらっしゃい」
「はい。ローズヒップ、アッサム様のお傍についてあげて」
「わかりましたでございますわ」
 バニラはショールをアッサムの膝に掛けたまま、ローズヒップに席を譲った。ローズヒップの膝を借りずに起き上がり、頭を撫でてあげる。
「迷子にならずに来られたのね」
「もっちろんですわ」
「そう。私はもう少しここに座っているつもりだけど、どうする?」
「アッサム様の傍にいますわ」
 ニコニコ笑うローズヒップにお金を渡して、温かい飲み物を買いに行かせた。入院している子のお見舞いについて聞こうかと思ったけれど、聞くことも相談を受けることもするべきではないと思った。
ダージリンもアッサムも、歴代のお姉さま方もみんな、病院にボランティアに出掛けて、写真などに応じることはあっても、個人的な繋がりなどを持つことはしてこなかった。あちらの人たちは聖グロの戦車道の隊員として、良く知ってくださっている。憧れの視線を浴びることは普通のことだったが、気に留めることの無いようにしていた。ただ、会っている間に励ましの言葉を掛ける。それだけだ。その後、亡くなったのか、退院されたのか、そう言うことは何も耳に入らないようにしている。
「アッサム様~~」
「なぁに」
「ご卒業されたら、東京に行ってしまいますの?」
「えぇ。前の隊長たちがおられる大学に進むの。聖グロの卒業生も多いし、戦車道も強いし、良い環境だわ」
「ダージリン様と一緒の戦車に乗りますの?」
「うーん、どうかしらね。希望を出しても、人数が多いとそうならないかも」
 とはいえ、同じマンションで生活することは決まっているので、そのあたりは気にしていない。学部は違うから、常に一緒と言うわけじゃないが、そのあたりも特に気にしていない。
「アッサム様たちがいなくなってしまったら、聖グロは下品一直線ですわ~~」
「………それは、ローズヒップの問題でしょう?」
「ルクリリが隊長だと、仕方有りませんわ」
「あの子は人前では大丈夫よ。むしろ、あなたが心配。卒業した後も、OGに恥をかかせないでね」
 ゴロゴロと喉を鳴らすように、抱き付いて甘えてくる。成長しているのかしていないのか。素直で優しくて元気があって、聖グロらしくない。そこが良いところだけど、入院している子に優しくして仲良くなって、そのことで自分自身を傷つけているのだとしたら、何か助言をするべきなのだろうか。そう言うことをしない方が良い、と言っても、その理由に納得をするほど、自分を守る術を持たない子だと思う。純粋と言うものは諸刃の剣。ローズヒップは幸いに、自分を傷つけることすら理解できずにここまで来たが、学校の名前を背負う立場に立たされたら、そうはいかなくなってくるはずだ。
「アッサム様~~~」
「はいはい、まったく」
「一緒にジェットコースター乗りましょう」
「嫌」
「アッサム様~」
「嫌よ。散歩にして頂戴」
「ここに何しに来たでございますの?!」
「……じゃぁ、お化け屋敷に入りましょう」
 過去に何度か入ったことがあるから、どこでどんな仕掛けがあるのかはわかっている。悲鳴を上げるローズヒップに抱き付かれながら、もう最後はほとんどローズヒップを背負って引きずって歩いた。




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Date:2016/10/13
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