【緋彩の瞳】 約束。 END

緋彩の瞳

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ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

約束。 END

綺麗な花に包まれたマリアは、本当に眠っているみたいに穏やかだ。初めて会ったときから被っていた帽子ではなく、綺麗なヴィックを付けていた。何か、最期に声を掛けてあげなければって思っても、何も言葉が思い浮かばなくて、冷たいと感じる頬を撫でてあげることが精いっぱいだった。
「ローズヒップのハンカチですね」
「………マリアにあげたものですわ」
 組まれた両手のすぐ傍に、ローズヒップがあげたハンカチが置かれていた。神様の傍にいっしょに持って行ってくれるらしい。
「じゃぁ、これも一緒に持って行ってもらいましょう」
 ペコはジャケットの中から聖グロの校章の入ったハンカチを取り出した。そこには真っ白な糸で『MARIA』と縫われている。
「ダージリン様には、特別に許可をもらっています。長い間、ずっと応援をしてくださったマリアへの感謝の気持ちとして、聖グロからのプレゼントです」

 ハンカチを手首に巻いてあげた。3人でマリアの手を取って、ちゃんと笑ってみせた。

 聖グロも負けたし、マリアも病気には勝てなかったのだ。
 小指の約束は、お互いに守ることができなかった。

「マリア……私たちは一生懸命戦いましたわ。マリアも、一生懸命戦いました。お互い、頑張りましたわ」

 ごめんなさいって言う言葉は使わなかった。負けは、謝ることじゃない。


「また、いつかどこかで会いましょう。今度こそ、約束ですわ」

 小指を掬って絡める。
 いつか、また、どこかで。
 例えば夢の中で。
 あるいは、お互いの来世で。
 それなら、きっと守れる約束だろう。



「ルクリリ」
 横浜に着いた朝、ルクリリは走って購買部に行って、大至急、校章の入ったハンカチに『MARIA』と刺繍をしてもらう依頼をかけた。それがどこの学部の誰なのか、イチイチしつこく聞かれたので、学生艦責任者の命令に従えって言ったら、窓口のおばちゃんは「学生以外の誰かに売るつもりでしょう」と逆切れしてきたのだ。マニアの間では聖グロの校章の入ったものは、高価格でやり取りされることがあり、購買部で売られているものは、IDと使用者などのチェックが厳しく行われている。そして、名前の刺繍は、ティーネームを持つ人たちだけが行っていて、それが昔から当たり前になっている。
「ダージリン様」
「どうしたの?大声を出して」
「あ、いや、はは。えっと、ちょっと、えぇ、まぁ」
 時間がないから、早く作ってくださいと駄々をこねていたら、背後から嫌な声がした。本当にどこにでも現れるんだから。
「何かあったの?」
「あの、ちょっと、知り合いの名前をハンカチに刺繍して欲しくて、お願いをしていたんです」
 致し方がない。ルクリリはマリアが亡くなったことを報告して、今の自分ができることをして、見送ってあげたいのだと伝えた。そして、まだローズヒップには何も告げていないことも。
「そうなの。ローズヒップがお見舞いに行っていたという少女のことね」
「はい。聖グロにとても憧れていて。だからせめて、棺桶に入れてあげたいと思って」
 こういうことって、らしくないなと思う。ローズヒップが毎日、電話で容態を聞いていたことを、決して快く思っていなかったはずなのに。亡くなったあとにこういうことをするのは、矛盾しているような気もする。

 でも、最後までローズヒップ1人にすべてを押し付けるのは、嫌なのだ。ローズヒップを騙していたことを、どこかで正当化したい自分がいる。嘘吐きは嫌いだと言っておきながら、本当のことを黙っていたことの後ろめたさなのだろう。

「そう。1人の少女の夢を背負うことが苦ではないのなら、どうぞお好きになさい」
「はい」
 ダージリン様は、購買部のおばちゃんに、ルクリリの我儘を許してあげて欲しいと伝えてくださった。今も後光眩しく、権力バリバリのお方だから、へっぽこのルクリリがお願いした時とは打って変わって、ウインク一つで引き受けてくださり、午前中に仕上げてくださることになった。
「ありがとうございます、ダージリン様」
「ローズヒップたちと、マリアの告別式に行くの?」
「はい、そのつもりです。ローズヒップはまだ、入院していると思っているので、お見舞いに行くと言いだしたときに、その、連れて行こうかな、と」
 ダージリン様はアッサム様と違って、頭を撫でたり抱きしめてくださったり、そういうスキンシップをあんまりされない。だから、頭を撫でてくださって、思わず硬直してしまった。
「誰かから憧れられる地位に立ったからと言って、自分を偽ってはダメよ、ルクリリ」
「………はい」
「あなたは、あなたの信念を貫けばいいわ。これからも、がむしゃらになって大事な仲間を守りなさい」
「はい」
「誰にでも優しくしていれば、いずれ、背負いきれなくなるわ」
「はい」
 小さく微笑まれたダージリン様は、マリアの告別式に興味を抱くこともなく、姿を消した。本当は、告別式に参列することを良く思われていないのかも知れない。だけど、これはけじめなのだ。

 ローズヒップを騙していたことを詫びて、マリアの遺影に負けたことを報告しに行かなければならない。

 聖グロの戦車道を背負うルクリリの、隊長として、ローズヒップの親友としての、大事な仕事なのだ。


「試合をしている間、マリアのことをまったく考えていませんでしたわ」
「そうなんですか」
「頬を叩かれて、馬鹿野郎って言われて、あの時は腹立たしかったです。でも、ルクリリが正しかったんですわ。本当は、最初から私には背負いきれないものだったのに、勝手に約束をして、勝手に1人でマリアのためにって突っ走ってしまったのは、間違いでした。私たちのことを応援してくださる人や憧れている人はたくさんいてくださるし、私たちのために手を貸してくれる仲間もたくさんいてくださる。もっと、そう言うことを考えて、上手に立ち振る舞いを考えないとダメなんですわ」

 マリアを神様の元へ見送った後、3人で寒さに身体を震わせながら学生艦に戻った。バニラやクランベリー、怪我をした隊員たちは、全治するまで休みでも部屋にいると言っていた。軽傷とはいえ、そんな隊員たちを置いて遊びに行くなんて、出来るはずもない。3人でお金を出し合って、陸地で美味しいものをたくさん買って、彼女たちの元に届けた。優雅なんてほど遠いくらい、怪我をしていると言うのに、みんなで笑い合って過ごすことにした。

「ルクリリはずっと、ローズヒップの心配をしていましたよ。ローズヒップがマリアを想う以上に、私たちは、ローズヒップのことを想っていました。でも、ちゃんと心をひとつにして戦ったんです。もし、ローズヒップがそれでもずっと、マリアのためにって戦うことがあれば、ルクリリはきっと、チーム編成から外したと思います」

 ペコはマリアが亡くなったことを、試合が終わった後で知らされた。ルクリリは試合前に知ったらしかった。もう、ずっと危険な状態だったことを、ローズヒップに隠していたんだと。看護師への電話内容も、すべて操作していたのだと教えてくれた。ペコにさえ教えてくれなかったことは、ルクリリの責任感がそれだけ強いことを表していた。全然、ダージリン様とは違うタイプだけど、ルクリリもまた、頼もしい人だ。聖グロを背負う人物として、ルクリリ以外、最適な人はいないだろう。ペコができることは、足りない部分を補ってあげるだけだ。

「……ルクリリには、きっと何をしても勝てませんわ」
「そうですか?ティーカップの破壊率は、ずっとローズヒップの方が勝っていますよ?始末書の枚数も、反省文の枚数もずっとずっと上です」
「それは、勝ってはいけないことですわ!」
 2年生の先輩たちに身体をくすぐられながら、ベッドで転げ回っているルクリリ。みんなから頼られて、それでも怖がられることもなく、優しくて、頼もしい。ローズヒップはちゃんとこれから、ルクリリを支える側にならなければダメなのだ。守られていてはいけないのだ。
「2人とも~~助けて~~!隊長が虐められているんだから~!」
 ローズヒップの頬を叩いて、床を転げ回ったことなんてとっくに忘れてしまっているように、ルクリリは笑って、先輩たちとじゃれ合っている。

 日々はドンドン流れて行く。
 誰かが死んだとしても、その悲しみは、いつまでも抱きしめていられるものではない。


「キャンディ様、もっとルクリリを虐めてくださいませ!」
「ローズヒップ、何てことを言うんですか!」
 じゃれ合いの輪の中にダイブしたローズヒップ。2年生たちの魔の手が、それを待っていたかのようにルクリリから標的を変えた。ダージリン様やアッサム様たちのような、偉大な存在になる必要なんてない。本当にダージリン様たちがそれを望むのなら、ルクリリを隊長に指名しなかった。誰のために、何のために戦うのか、そのことを一番わかっているのはルクリリだ。

 試合に負けたことも、マリアのことも、ダージリン様とアッサム様は何もおっしゃってこなかった。きっとそんなことよりも、これからの未来のことを考えるだけで、お忙しいに違いない。


「ダージリン様、アッサム様!おはようございますですわ!」
「おはようございます!」
「おはようございます!」
 朝、少し早めに食堂へ向かうと、幹部席ではローズヒップたちが楽しそうに朝食を取っていた。昨日、マリアという少女の告別式があったとダージリンから聞いていたけれど、3人はとても清々しい表情。自分たちで何もかもを受け止めて、乗り越えたのだろう。少し心配していたけれど、ローズヒップが一晩、泣き腫らしたという様子もない。
「おはよう」
「アッサム様~~」
「なぁに?」
 アッサムの座る後ろから抱き付いてくるローズヒップは、相変わらずだ。おとなしくなってほしい反面、こういう時にじゃれてくるかわいらしさは、やっぱりそのままでいて欲しいと思ってしまう。
「アッサム様~~」
「もぅ、ローズヒップ、朝から元気ね」
「ルクリリに“ほっぺにちゅ”ってしたの、ズルいですわ。私だって、叩かれたんだから、“ほっぺにちゅ”ってしてくださいませ」
 じゃれてきた理由は、そう言うことらしい。きっとルクリリが自慢をしたのだろう。
「はいはい。後でしてあげる」
「え~!ズルいですよ。間に入って止めた私にもしてください、アッサム様」
「わかったわ」
 紅茶を淹れてくれたペコが、頬を膨らませて抗議してくる。最後にまとめて面倒を見てあげるからと、頭を撫でてあげると、睨み付けてくる目力を感じた。
「………アッサム。サービス精神が旺盛すぎるようね」
「あなたが代わりにして差し上げたらどうですか、ダージリン?」
「あら、私の唇が他の誰かに触れても、問題はないと言うことなのかしら?」
「後輩になら、何の問題もありませんわ」
「まぁまぁ、ダージリン様」
 ふて腐れて睨んでくるダージリンの肩を、機嫌取りの様に揉むペコ。最後まで後輩に気を使わせてばかりだ。
「では、ダージリン様のほっぺに、私がちゅーして差し上げますわ!」
「それもいいわね」
「……いいんですか?」
 ルクリリが怪訝そうに呟きながら、アッサムに確認してくるけれど、ダージリンがいいと言っているのを、ダメだと言う権利はない。ローズヒップがダージリンの頬にキスをしたところで、何も思わない。
「いいわよ、どっちがどっちにしても」
「じゃぁ、私がアッサム様の頬にチューしてもいいで……」
「ダメでございますわよ」
 ルクリリが言葉を最後まで言うよりも早く、アッサムがどうぞ、と言おうとするよりも早く、ダージリンが満面の笑みをルクリリに向けてくる。その手に持ったティーカップの紅茶を掛けるのではないか、と思いたくなるほどの気持ち悪い微笑みだ。
「………ダージリン様、お顔が怖いです」
「あら、私はいたって普通よ」
 ソーサーで顔を隠しながら、ルクリリはアッサムにしがみついているローズヒップに目配せをする。何とか、この状況を打破するのが、ローズヒップの役割と言うことだろう。
「ダージリン様、機嫌を治してくださいませ!」
 慌ててダージリンの肩に抱き付いて、頬を摺り寄せ始めるものだから、アッサムはここぞとばかりに携帯電話を取り出して、写真に収めておいた。
「ダージリン、嬉しそうですわよ」
「………ローズヒップ、離れて頂戴」
「嫌ですわ。“ほっぺにちゅー”をしてからじゃないと、離れませんわ」
 唇を突き出す横顔と、それを嬉しいような、困ったような表情でにらんでいるダージリン。
「どうして止めないの、アッサム」
 キスと言うよりも、吸い付いて離れない唇に耐え切れなくなって顔面を押して逃げたその頬は、わかりやすくキスマークが残っていた。

 ルクリリとペコが笑うのを堪えて、お腹を必死に抱えて俯いている。アッサムにはハンカチで頬を拭きながら睨んでくるその瞳が、嬉しそうに見えて仕方がない。

 マリアと言う少女の死のあとだから、3人がどんな表情で食堂に姿を見せるのだろうと心配していたはずなのに。そんな心配なんて要らなかったようだ。

 聖グロは変わったのだ。ダージリンの代でも、きっとかなり変わったのだと思う。ダージリンがルクリリやペコ、ローズヒップの才能を引き出さなければ、こんな風に聖グロが変わることはなかっただろう。

「では、アッサム様のほっぺたには、私がちゅーをし…」
「ルクリリ、海に沈めるわよ」
 満面の笑みで獲物を捕らえたようなダージリンは、それでも頬に付けたキスマークのせいでアッサムには威厳の欠片も見えない。
「こわ!ペコ、ダージリン様を宥めて」
「………手に負えませんよ」
「ダージリン様、プンプンしてはいけませんわ」 
 優雅とはちょっとちがう新しい隊長の元、これから彼女たちがどんな道を作り上げていくのか、本当に楽しみで仕方がない。


 にぎやかな朝食を取ったあと、授業もないので余暇を持て余して、2人でのんびりと歩いて教会へと向かった。1,2年生はみんな、授業を受けている。どれくらい久しぶりか思い出せないくらい、ダージリンの手を取って、学生艦の中を歩いた。

 冷たい潮風に肩を震わせて、暖房器具のない静かな教会の中に入って、習慣の様に手を合わせる。

「もうすぐ、この学生艦を降りてしまうのね」
「そうですわね」
「思い残すことはある?」
「ありませんわ。お姉さまたちと過ごして、グリーンに、キャンディたち、ルクリリたち、素晴らしい仲間に恵まれて、1日1日、幸せでしたわ」
 ダージリンの肩に頭を乗せて、綺麗なステンドグラスを見上げた。柔らかい光を受けて輝く硝子たち。いつまででも眺めていられる。
「そうね。とても楽しかったわ」
「はい」
 髪に指を絡めながら、いつもの穏やかな笑み。その横顔はいつだって何もかもを受け止めて、あるがままでいることを貫いている。
「ダージリンは約束をしてくださった通り、ずっと傍にいてくれました。3年間、ずっと。私はそれだけで、きっと何もかもが満たされていたんです。あなたがいたから、後輩たちがこの学校に集い、強いチームを作ることができましたわ」

 ダージリンがいる。そのことがすべてのような3年間だった。何もかもの出来事は、必ずダージリンという存在に左右されて、そのことで誰もが一喜一憂する。退屈で、つまらない日など1日もなかった。

「私は、出来ない約束なんてしないわ」

 髪の間をすり抜けた指。
 アッサムの右の指に触れ、互いの小指を絡ませる。
 神様の御前で交わす約束は、いつまでも清らかであってほしい。


「………では、これからも私の傍にいてください」
「えぇ、当然よ。ずっといるわ」
「私のことを好きでいてください」
「任せなさい。アッサムも私だけを好きでいなさい」
「えぇ、当然ですわ」
「軽々しく、他人の頬にキスしてはダメよ」
 ローズヒップからの愛の篭ったキスマークを頬に残したまま、大真面目な顔でそんなことを言うものだから、笑ってはいけないと思っても、こらえきれなかった。

「……ダージリンこそ、他人からの愛を簡単に受け入れないでください」

 ローズヒップの溢れんばかりの愛が触れた場所に、アッサムは唇を寄せてみる。

「これは仕方がないわ。ローズヒップですもの」
「そうですわね」
「ペコの頬にキスしてあげたの?」
「さぁ、どうでしょうか?平等にしてあげないと」
「……仕方がないわね。知らない振りをするわ」

 そもそも、ルクリリの頬にキスをしてあげたのは、あの子がローズヒップに叩かれた頬を慰めるためだ。

 結局、あの時の騒動の原因を詳しく聞かないまま、日が過ぎた。あの時は知りたいと強く思っていたと言うのに、今更、もう知りたいと言う気持ちはわかなかった。すべて、ルクリリに任せておけばいい。あの子なら大丈夫だと、あの試合で証明をしてくれたのだ。


「ダージリン」

 小指を絡めながら重ねた唇。触れている場所に感じる熱は呼吸の隙間を縫って、恋情として身体に流れ込んでくる。


「好きです、ダージリン」
 この3年間で、どれだけ声に出しただろう。
「私も好きよ、アッサム」
 そして、どれだけこの言葉で満たされていただろう。




『やっぱり、ラブラブですわねぇ~。チューしましたわっ!』
『馬鹿、静かにしろ!』
『ダメですよ、2人とも。覗きすぎると、ばれますよ』





 …
 ……
 ………
 …………




「……アッサムのデータでは、1年生戦車道の、この時間の授業は何?」
「データでは、ボランティア活動です。街の清掃活動、ですわ」


 2人の背後、薄く開かれている扉から聞こえてくる3人の声。
 放したくはない小指と小指。


「気づいていないふりをして、外に出ましょう」
「………はい」

 繋がれた小指と小指。
 アッサムは手を繋ぎなおした。
 指と指の隙間を埋めるように絡まった手と手。



 3人の足音が逃げるように遠ざかっていった。
 




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Date:2016/10/13
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