【緋彩の瞳】 JUST FIT LOVE

緋彩の瞳

ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

JUST FIT LOVE

「アッサム様~~」

 訓練が終わり、舗装された道をゆっくりと歩いていた。

 秋の空。
 清々しく、遠く感じる。

 15時を回った頃は気温も割と気持ち良くて好きだ。
 夏の大会も終わり、様々なプレッシャーから解放されて、とても穏やかな日々。
 今からシャワーを浴びた後、ゆっくり紅茶の園でお茶をして、その後はいつもの時間に食堂で夕食。
 予定調和に日々を過ごすことができる、その穏やかさが心を落ち着かせてくれる。


 背後から聞こえてきた声に思わず立ち止まり、振り返った。叫んだのはペコで、近づいてくる足音は、走っているものだってわかる。それも複数。顔が浮かぶのは、ペコ以外に、あの子とあの子。

「アッサム様~~」
「………な、なぁに?」

 笑顔で両手を広げたペコが、アッサムに抱き付いてきた。身長の低いペコだから、すっぽりとアッサムの胸の中に納まってしまう。普段、抱き付いてくるのはローズヒップばかりだから、ペコがこんなことをするなんて珍しい。2人にいじめられて助けを求めているのだろうか。

「本当だ、ペコはジャストフィットだ」
「見事にすっぽりとはまっていますわ」

 ………よくわからないけれど、何かの話の流れから、実験道具に利用されているのだろう。アッサムを見上げてニッコリ笑っているペコに対して、嫌な気持ちが起こるはずもなく、反射的に頭を撫でていた。

「一体、なぁに?」
「さっき、3人でお話をしていたんです。アッサム様に抱き付いて丁度いい身長って、ペコじゃないかって」
「………あぁ、ジャストフィットってこれのことね」
 ルクリリが抱き付いてくるときは、アッサムの方が身長は低いので、覆いかぶさってくるような感じだ。彼女の肩におでこを預けると丁度いいだろう。そんなことはしないけれど。 
ローズヒップはそれほど身長差がない。その代りと言うか、タックルされて、足が浮くくらい抱きしめられることがある。2人とも、どちらかと言えば、抱きしめられているようなもの。ペコなら抱きしめてあげられる、丁度いい身長差だ。

「アッサム様~~」
「はいはい」

 背中に腕を回して、ちゃんと抱きしめ返してみる。本当に丁度いい高さだ。優等生で真面目でまっすぐでとてもいい子なのに、両サイド2人のせいで、連帯責任ばかり取らされているペコ。いきなり抱き付いたくらいで、怒る程のものでもない。笑顔で抱き付いてきてくれるのだ、とても愛らしい。

「ズルいぞ、ペコ。堪能しすぎ」
「そうですわよ、そろそろ交代ですわ!」
「え~!早すぎます!」
 ペコの両サイドから腕を取って引きずり剥がす悪友たち。本当に、この3人は毎日毎日にぎやかだ。見ていて飽きないが、呆れかえることは多々ある。ダージリンが何も言わないものだから、いつもアッサムばかりがガミガミ言ってばかり。


「アッサム様は、ペコに甘すぎます」
「そうですわっ!甘々ですわ。いつも私ばかり、怒られてばかりですわ」
「それはお前が悪いだろう、ローズヒップ」
「何ですって~!ルクリリだって、昨日反省文書かされていましたわ」
「あれは、仕方がないんだ!うっかり誤射しただけだ」
「うっかりチャーチルに向かって、誤射するから怒られるんですわ」


 ペコの両腕を掴んだまま言い合いを始めてしまって。真ん中で、腕が千切れるんじゃないだろうかと心配になってくるけれど、アッサムへの注目が薄れている今がチャンスかもしれない。眉をハの字にして助けを求めるペコには申し訳ないと思いながら、そっとその場を離れた。きっと、夕食時にでも改めて抱き付いてくるに違いないのだから、その時に相手をすればいい。


「ダージリン」
「………どうしたの、アッサム?」

 先にシャワールームに向かって歩いていた、ダージリンの背中を見つけた。少しだけ急ぎ足で近づいて、名前を呼んでみる。さっき、アッサムがペコにされたように、今度はアッサムがダージリンの身体に抱き付いてみた。

「いえ。その、ちょっとだけ……甘えてみたくなったもので」
「あら、たまには素直ね」
 アッサムの髪を撫でるように腰に回された腕。あの子たちと違うのは、確かに感じる安らぎと好きだと言う想い。おでこを肩に乗せて、猫になったように鎖骨に鼻をこすりつけてみる。

「くすぐったいわ」

 それでも、ダージリンの両手は優しさを携えて、アッサムを抱きしめてくださる。
 離れることを許さないかのように。

「………ダージリンの腕の中は、私が一番いいフィット感でしょうか?」

 見上げてみた表情は、少し頬を染めて、照れを隠している。
 この角度から見上げるダージリンは、アッサムだけのものだ。
 誰にも見られたくはないし、見せて欲しくない。


「あなたが心地いいと思っているのなら、それでいいのよ」
「………はい」
「何かあったの?」
「さっき、ちょっと1年生たちと色々と。ペコが私に抱き付くと、ジャストフィットするって言う話になって」
「あらあら……身長差から言えば、確かにそうね」

 アッサムの髪を指に絡めて、梳くようにして薄くしみこませる恋。
 呼吸のリズムに合わせて、胸のふくらみが上下する音。
 耳元で囁かれる、柔らかい声の揺らぎ。


 全てがアッサムの身体に吸い付いて、感情の何もかもを奪われてしまう。


「……あくまでも、身長差だけの話ですわ」
「そうね。1年生たちにアッサム接近禁止令を出す羽目になるから、身長差の話だけにして頂戴」

 前髪を掻き分けて、おでこに触れた唇。温かい熱が触れて身をよじった。
 それでも、満たされた感情はまた、夜になると補う必要が出てくる。
 満たされても、溢れ、零れるものがない。
 だから、彼女に触れたいと心は願う。


「わかりましたわ」


 後ろから3人が近づいてきている音がして、そっと離れた。


5人でシャワールームに行く途中、1歩後ろを歩いていたダージリンが、セーターを掴んだ。
 あと階段を5段ほど昇れば、廊下の奥にあるシャワールームが見えてくる。


「アッサム」
「どうしました?」
「見つけたわ、私のジャストフィット」


「……は?」


 1段下にいたダージリンが見上げてきて、両腕でアッサムの腰を捉えた。胸の近くにうずまる三つ編みをまとめた後頭部。


「あ~~!!ダージリン様ズルいですわ!!私もアッサム様にジャストフィットしたいですわ!」
「そっか、そうすれば私にもジャストフィットだ」

 
 ダージリンよりも後ろを歩いていたローズヒップとルクリリが、羨ましいと悲鳴を上げた。彼女たちが見ているから、わざとやったのだろう。知らない間にペコが抱き付いてきたと知って、ちょっとした仕返しをされているのだろうか。

「お戯れがすぎますわよ」
「あら、私だってたまには素直になっただけよ」
「………後ろ、確認されました?」

 両サイドから、ダージリンに場所を譲れと抗議している3人組。昨日、始末書を書かせても全然懲りる気配がない、次期隊長も含まれている。

「ダージリン様、ズルいですわ!!」
「そうですよ、アッサム様のジャストフィットはダージリン様じゃないですよ」
「っていうか、私だけがジャストフィットですけれど……」


 アッサムは、三つ編をまとめている亜麻色の髪を撫でながら、困った笑みを見せるだけだ。


「3人がダージリン様に抱き付いて差し上げないから、拗ねてしまったみたいだわ」


「マジですの?!」
「えっ、そっちですか?」
「………いや、違うと思います」


 アッサムに抱き付いているダージリンの背中にむかって、両手を広げる可愛い後輩たち。

「仕方がないですわね~、ダージリン様」
「本当ですよ。私たちが可愛いって思っているのなら、素直に言えばいいと思いますよ」
「………そうじゃない気もしますが」

 ノリなのか本気なのか、一気に重みが加わって、アッサムの方が先によろけそうになった。
 たぶん、かなり重い愛のはず。

「重いわ。アッサム、助けなさい」
「愛情の重さでしょう。と言うより、私も重いですわ。離れてください、ダージリン様」
「そうはいっても、背中が重くて動けないわ」

 腕の中でサンドイッチされて苦しそうなダージリンは、ちょっとうれしそう。アッサムだけでは見ることができない、後輩の前で見せるその笑顔。悔しいような、1年生がズルいような。

「あと10秒だけよ。お茶を飲む時間がなくなってしまうわ」

 腕の中に納まっているダージリンの手が、アッサムの髪を握り締めてくる。こういうことは2人きりの時だけでいい。

 丁度いい身長差だけじゃなくて、丁度いい時と場所と、気持ちが整っているのは、きっと2人きりでいられる夜なのだ。


じゃれ合いを楽しむみんなの顔を眺めながら、アッサムは心の中で10秒数えた。



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Date:2016/10/13
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