【緋彩の瞳】 彼女がメガネをかけたなら

緋彩の瞳

ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

彼女がメガネをかけたなら

「ブルーライトから、目を守る?」
「そうです。アッサム様も使われてはどうですか?」
 最近、グリーンがメガネを新しく買ったことは知っていた。記憶では5つ持っているはずだ。雰囲気が変わることもあって、見ていて飽きないものだけれど、持っているものすべてが伊達メガネらしい。本人曰く、キャラ作りのためだそうだ。グリーンはグリーンと言うだけで十分、聖グロの中でもキャラが濃い方だと思う。
 情報処理部の部屋に遊びに行くと、赤い縁メガネのグリーンが迎えてくれた。いつものように淹れてもらったコーヒーは、この部屋でしか飲むことができない、挽きたての豆から淹れられるもの。掛けているメガネ以外に、テーブルに置かれているのは、いつもよく掛けている黒い縁のメガネ。ふと、用途を分けているのかと聞いてみたのだ。
「それって、パソコンとか電子書籍を見る時に掛けるの?」
「えぇ、そうです。夜寝る前に、スマホをいじったりするときなんかも、目に優しいですよ」
 聖グロの学生艦の中にあるメガネ専門店にネットから注文すれば、すぐにでも届けてくれるのだそう。とはいっても、アッサム自身、それほど目が辛いなどの自覚症状もないし、ブルーライトを浴びて視力が下がっている、と感じたことはない。
「そうなの。グリーンは、伊達から伊達にわざわざ掛けなおして楽しんでいるというわけね」
「やっぱり、情報処理部の部長たるもの、メガネは必須ですよ」
 誰もそんな格言を作った記憶はない。と言うか、間違えた固定観念ではないだろうか。前のオレンジペコ様は、時々メガネをかけていらした。でも、あのお方は必要に駆られていたからだ。何か、情報処理部の子たちは、前のオレンジペコ様がメガネをかけた瞬間、悲鳴のようなものをあげて、妙なファンがいた。その筆頭がグリーンだ。
「………伊達なのに?」
「アッサム様、ダメですね~。今はおしゃれで伊達メガネを掛けるんですよ。でも、本当にアッサム様はパソコンを睨んでいることが多いんですから、気休め程度に使ってみたらいかがですか?何だったら、私が買っておきますよ?」
 要らないと言うよりも、もうネットの購入ページを開いて、勝手に選び始めている。思ったよりもずっと安いから、似合わなかったとしても、グリーンに引き取ってもらえばいいだけだ。無難な黒を選んで、グリーンに受け取ってもらうようにしておいた。アッサムには初めてのメガネデビューが、伊達なんて。





「アッサム様」
 次の日、商品はすぐにアッサムの手元に届けられた。副隊長が購入と聞いて、メガネ屋さんには安いものを頼んだはずなのに、勝手にグレードを上げたものをいくつも持ってきてくださったそうだ。
「………グリーン。私の目は2つしかなくて、メガネを掛ける耳も2つなの」
「その理屈で言えば、2つのメガネが必要ということで?」
「1つの目に1つのメガネがいるの?」
 メガネケースが5つほど並べられて、すべての蓋が開けられて、宝石を選ぶ人みたいだわ、と思った。アッサムは知らないけれど、メガネってこんな風に選ぶものなのだろうか。
「お好きなものをお選びください、だそうです」
 スクエア型のメガネを取って、取りあえず掛けてみた。まるで店員のように鏡が開かれて、グリーンが満面の笑みを浮かべている。
「どれでもいいわ。これでいいんじゃない?」
「せっかくなので、全部掛けてみては?」
 たった今、どれでもいいと言ったのに。グリーンはただ、見たいだけなのだろう。こういう人のことを、メガネフェチと言うのだろうか。それとも、何か魂胆でもあるのだろうか。

「………こう?」
「よっ!アッサム様、可愛らしい!」

 時々、グリーンのことがわからなくなる。とはいえ、聖グロの生徒の最高峰がダージリンなのだ。どうしてもあの人と比較すると、マシに思えてしまうのが悲しくなる。

 もう、何がいいのかわからないから、とグリーンに一番似合っていると思ったものを選んでもらい、しばらく使ってみることにした。


「見た?」
「見たわ。愛らしかった」
「そうよね。流石だわ。何をされても、アッサム様って素敵よね」


 放課後、どこかの学部の子たちが、黄色い声を上げているすぐ傍を通った。ルクリリは良く知る人物の名前が聞こえたので足を止めて、振り返ってみたけれど、何事かって聞くわけにもいかない。戦車道の生徒が、戦車道の副隊長のことについて聞くなんて、恥をかくようなものだ。
「……図書館の本を持ってたなぁ」
 通り過ぎて行った子たちは、手に何冊も本を抱えていた。聖グロの学校内には大きな図書館があり、一般住民にも曜日と時間が決められてはいるが、解放されていて、かなり昔の本や資料を読むことができる。情報集めのために、アッサム様が時々図書館に行かれるのは知っている。その背中を追いかけて、生徒たちがストーカーしているのは、有名な話だ。アッサム様は無自覚でいらっしゃるが、ダージリン様に劣らない程ファンがいる。ダージリン様は聖グロ以外の学生に人気が高いのだが、アッサム様は積極的に表立って活動されない分、聖グロの生徒の中ではかなり人気がおありだ。ダージリン様には偉大すぎて近づけない、と思っている他学部の生徒でも、アッサム様は親しみやすい雰囲気なので、それが人気の理由。といっても、親しみやすいというか、単に出来の悪い生徒の教育係をしているから、周りが勝手に親しみを持っているだけなのだろうけれど。

 出来の悪い生徒の中には、ルクリリもいるわけで、一応。

 一人ノリ突っ込みをしながら、足は図書館へと向かっていた。特に用事があるわけではないけれど、可愛らしいアッサム様とやらを見に行かないと。午後の訓練の時も相変わらず可愛らしかったし、相変わらず、ダージリン様のお傍にいらしたし、相変わらずローズヒップのお尻を叩いていらした。



「………ん?」
 図書館に入ると、明らかに本を借りに来たわけでも、読みに来たわけでもないような生徒たちが、柱から何かを眺めている姿がチラホラ見えた。彼女たちの背後から、“わ!”って驚かせたいけれど、アッサム様にばれたら、お尻を叩かれるだけじゃ済まない。視線の遠く手をかざして、並んでいるテーブルにはアッサム様のお姿。パソコンを開いて、何かの資料をまとめておられる様子だ。
 他学部のファンとは違って、ルクリリは堂々と話しかけることができる。どや顔をしながら、アッサム様のお傍に近づいていった。

「アッサム様」
 パソコンに真剣に向かい合っているその後ろに回り、肩に手を置く。なんだったら、ルクリリは何の抵抗もなく、身体に抱き付くことだってできる。ダージリン様の前でやれば、視線で半殺しになる時もある。
「あぁ、ルクリリ」
「…………あっ、メガネ」

 今日は、一段とアッサム様に注がれる視線が多いのは、これが理由らしかった。

「えぇ、ブルーライト対策にね。まだ、効果があるかないか、わからないけれど」
「あぁ、PCメガネっていうやつですね」
「グリーンが薦めてくれたのよ」

 周りの熱視線もついでに、カットしてくれる機能がついているのだろうか。ルクリリは隣に座って、マジマジとのぞき込んでみた。


 いつも可愛らしいけれど、これはまたこれで、とても可愛らしい。


「アッサム様、可愛いです。似合っていますよ」
「そう?何だか、あんまり馴れないわ。視力が悪いわけじゃないのにね」
「でも、オシャレにもなりますし」
「グリーンも言っていたわ」
 柱の陰に隠れて何人も、ファンが覗き見していることなんて露知らず、隣に座ったルクリリに資料を押し付けて、調べものを手伝ってと頼んでくる。あの子たちにはとても羨ましいだろう。もう一度、どや顔して見渡しておいた。


 ルクリリから、アッサム様が伊達メガネをかけて、図書館でファンを喜ばせていると言う情報が入った。そのメールを受け取ったのが、ローズヒップと一緒に隊長室に向かう途中だったものだから、今更、ダージリン様を放って図書室に駆けて行くわけにもいかない。
「なぜ、伊達メガネなんかを?」
「きっと、オシャレですわ」
「うーん、グリーン様も伊達メガネですけれど。そう言えば、最近、パソコンとか使う時は別のメガネを使うっておっしゃっていたような」
「そうですの?目が悪くならないためですの?」
「さぁ?」
 隊長室に入ると、ダージリン様がどっしりと席に座っておられた。
「ダージリン様、ごきげんようですわ~~!」
「ローズヒップ、ごきげんよう。ペコ、紅茶を淹れて」
「はい」
 立ち上がったダージリン様は、抱き付いてくるローズヒップを受け止めて、軽く頭を撫でていらっしゃる。ローズヒップは誰にでも抱き付く人だけど、よくダージリン様に抱き付けるものだ。本当に感心する。

「ダージリン様は見られました?」
「何を?」
「アッサム様のメガネ姿ですわ。さっき、ルクリリが、アッサム様が可愛いってメールが入りましたわ」



「………メガネ姿?何、それ?」



 キョトンとされているダージリン様は、アッサム様のメガネ姿をまだ見ておられないご様子だ。ティーカップをテーブルに置いて、これはちょっとまずいのではないか、と心の中で思った。

「図書館で、アッサム様がメガネをかけていらしたって。ルクリリからの情報ですわ」


「………ルクリリ?」


 別に、ルクリリが悪いのではないのに、何かとても憎しみが篭ったような呟きが聞こえてくる。どや顔のルクリリを勝手に想像していらっしゃるのだろう。



「失礼します」
 まぁまぁ、と慰めようとしたら、丁度アッサム様が入って来られた。すぐ後ろにルクリリがいる。
「アッサム様~~!あら?おメガネ姿じゃございませんの?」
「メガネ?別にいらないわよ。どうして?」
 手にノートパソコンといくつかの資料を手にしているアッサム様は、ダージリン様の向かいに腰を下ろして、すぐ隣にルクリリも腰を下ろした。手に持っておられる物のなかに、メガネケースがあるようだ。

「………アッサム」
「何ですか?」
「メガネをかけ始めたの?」
「………どこで情報を?」

 ルクリリが、真顔を崩さず笑いを堪えているけれど、スカートを握りしめている手が震えているのは隠せていない。明らかに情報源はルクリリ→ローズヒップ→ダージリン様って気が付いているのだろう。わざとかも知れない。
「別に情報はどこからでもいいのよ。それ、メガネなの?」
「えぇ、パソコンとか携帯電話などを見るときに掛けたらいいと、グリーンが言うので。度は入っていませんが」

 ダージリン様のお顔には、ハッキリと「掛けて見せて」と書かれているが、そこは1年生たちがいる手前、我慢されておられるようだ。

「アッサム様のおメガネ姿、見たいですわ~~!!」

 せっかくの我慢だと言うのに、ローズヒップはそんなことをまったく考えもせずに能天気というか、無邪気というか。いや、とても素直なのだ。
素直に、見たいと言えばいい事なのだろうけれど。


「ローズヒップ、聞こえていたの?パソコンを開いてもいないのに掛けても仕方がないわ」

 もしや、ダージリン様。誰にも見せたくない。という独占欲を発揮されているのだろうか。

 ……手遅れですけど。
ルクリリが手の甲をつねりながら、笑いを堪えている。

「え~~!でも、掛けるくらいは問題ございませんわ。ねぇ、ペコ。ペコも見たいですわね?」
「えぇ……まぁ」

 見たいかと言われたら見たい。
 可愛いお姿ならば、かなり見たい。
 何だったら、ダージリン様のリアクションも見たい。



「ダメですわよ。アッサムのメガネ姿を世に晒すなんて」



 ダージリン様は落ち着いた表情でありながら、盛大に本音を漏らした。
 アッサム様の盛大なため息も漏れてくる。
 メンドクサイことになりそうだって、言う合図のよう。

「私はもう見ました。可愛かったですよ」

 なぜ、煽るのだろうかルクリリは。

 殺意に近い感情が、ルクリリに向かって放物線を描いているのを、アッサム様の背中に隠れて、上手くよけている。
 きっと、こうしたいから煽っているのだ。

「ダージリン、後輩を睨まないでください」
 たしなめられて、本音は頬を膨らませて抗議したいけれど、出来ませんと顔に描かれてあるダージリン様は、冷めた紅茶を飲み干して誤魔化した様子だ。


 本当に、アッサム様のことをお好きでいらっしゃるのがよくわかる。

 グリーン様が、ダージリン様はアッサム様がお傍にいないと、何もできない人で、下手したらポンコツと笑い飛ばしておられたのを思い出した。本当にそうなのだろう。3年生の先輩方は皆、ダージリン様とアッサム様は全てにおいて2個1というスタンスでいらっしゃるし、アッサム様はダージリン様の携帯電話を見放題で、プライバシーもプライベートもないと言った様子。


 でもそれは、お互いに好きだから。


 結局、アッサム様は見世物じゃないんだからってメガネをかけてくださらなかったし、ダージリン様はルクリリを恨めしく睨んでばかりだった。隊長室でお茶をすると、何か毎回、変なことになってしまうのだ。
アッサム様が図書室に籠るか、情報処理部の部屋に行くタイミングを見計らった方が良いと、ローズヒップとこそこそ話し合って、頷き合った。


夕食後、部屋でお茶をしていると、勝手にメガネを取り出したダージリンが、手招いてきた。夕食も食堂じゃなくて、外に連れていかれた理由は何となく察していた。だから、それについては何も文句を言わなかった。
「素直に見せて欲しいって、言えばよろしいんじゃないですか?」
「私が誰にも見せたくはないと考えていることくらい、アッサムはわかっているはずでしょう?」
「………それはまぁ、そうですが」
「よりにもよって、ルクリリに見せるなんて」
 見せたと言うか、たまたま傍にいたのだ。暇だと言うので仕事を手伝わせたが、ルクリリは暇を潰すために本を読むタイプではないから、きっとアッサムを見に来たのだろう。たまたま、であの場にいるなんていうのは、ペコくらいだ。でも、それはそれで可愛げがあったし、仕事はきちんとこなしてくれた。何かを責める理由はない。
「他の生徒も見ていますわよ。そもそもグリーンが選んだものですし」
「………グリーン?アッサムの初めてを奪うなんて、とんでもないわね」
 言葉にとても違和感のある呟きだわと思いながら、ダージリンの両手に握られたメガネがゆっくりと掛けられていく。おとなしくされるがままにして、まじまじと見つめて、嬉しそうに口角を上げる様を観察していた。

 お互いにお互いの様子を観察している。
 いつものことだけど。
 
「お似合いよ」
「そうですか?」
「たまにはいいと思うわよ」
「用途がハッキリとしているものですから、たまにしか掛けませんわ」

 ブルーライトから瞳を守ることができても、ダージリンという鮮烈な眩しさから身を守ることなんて、このメガネに出来るはずもない。近づいてくる唇を受けて、きっとこれもやってみたかったのだろうと思う。まったく子供なのだから、と言いそうになるのを飲み込んだ。

「紅茶が冷めますわ、ダージリン」
「そうね。アッサム、まだ外さないでちょうだい」
「……はい」
「私がいいと言うまで、人前でメガネを掛けないでちょうだい」
「………それじゃぁ、せっかく買ったのに掛けるなと言うことですか?」
 ソファーに隣同士に座り、お互いの視線をお茶受けにしながら飲む紅茶。この時間に飲む紅茶はいつもぬるくなってしまう。
「いいえ、1週間ほどは私の前だけで掛けるといいわ」
「………左様ですか」
「と言うよりも、そういうものを買う時は、まず私に一言相談をして欲しいものだわ。グリーンに選ばせるなんて、そんな権利をあの子に与えた覚えはないわよ」
「………はいはい、わかりましたわ」

 これはしばらく、部屋にいるとき以外はこのメガネを使うことは出来なさそうだ。そこまで必要性を感じていなかったから、そのうち使うこともなくなりそう。とはいえ、今は満足そうにアッサムを見つめてくる瞳に抗えることもなくて、されるがままに抱き付かれて、されるがままに頭を撫でられて、呆れるくらいキスを受けた。

「ダージリン、紅茶が冷めましたわ」
「仕方がないでしょう、アッサムが悪いのよ」 
「………ダージリンにしばらく預けますから、もうお好きになさって」
 冷えた紅茶に手を付けず、掛けていたメガネをダージリンに掛けた。キョトンとした瞳。少し雰囲気が違って見えて、それはそれで可愛らしいって思える。でも、どんな姿でもダージリンに変わりはない。
「私の初めてを奪ったわね」
「変な表現を使わないでください」
「私の初めてはアッサムなのに、アッサムの初めてはグリーンだなんて」

 使っている表現方法が、ちょっとおかしいと分かっておられないようだ。妖艶な笑みで見つめられると、呆れてため息を吐くことすらできなくなってしまう。

「………ダージリン、メガネは預けますけれど、それで人前に出ないでくださいね」
「あら、嫉妬?」

 メガネ姿を誰かに見られるのが嫌なのではない。ダージリンに多くの視線が集まったとしても、ダージリンの瞳はアッサムだけのものなのだ。周りの悲鳴がアッサムへの批難に聞こえてしまいそうで。そんな自惚れを抱きそうな自分が嫌になりそうで。

「えぇ、そうかもしれませんわね」
「アッサムも私の気持ちがおわかりの様ね」
「…………さぁ、どうでしょうか?」

 メガネ姿のダージリンは、満足そうに微笑む。冷えた紅茶の存在を忘れたまま、毎晩こうして、ソファーで寄り添って、お互いの体温を分け合って、互いのすべてを瞳に映し出している。


 アッサムはダージリンに掛けたメガネをそっと両手で外した。

「あら、似合わなかったかしら?」

 眩しいくらいの想いを、この身体に浴びていたい。

「似合いませんわ」
「………そう?」

 そんな我儘を言葉にしてあげたりしない。

関連記事

*    *    *

Information

Date:2016/10/13
Trackback:0
Comment:0

Comment

コメントの投稿








 ブログ管理者以外には秘密にする

Trackback

TrackbackUrl:http://fireredfantasia.blog.fc2.com/tb.php/805-d881deee
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)