【緋彩の瞳】 秋桜色の瞳

緋彩の瞳

ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

秋桜色の瞳

 つい先日まで10月なのに暑いわねと、お茶会をするたびに語り、涼しさがいつになったら来るのかしらと、ジャケットの出番を待ち遠しくしていたはずだった。
 
 秋晴れのような空。
 吸い込む空気はカラカラとしていて、ゆっくりと進む船の上だと言うのに、見上げる景色に一つの変化もわからない程、雲の姿はなかった。これからの航路には、夕方を過ぎたあたりから、雨が待ち受けていると言っていたが、その言葉を疑いたくなるような青。
 せっかくの休日でも、住民たちと学院長を含む、関係者との会合ですべて予定を埋めてしまっていた。のんびりと、この少し暑いくらいの秋の匂いを楽しむ余裕は取れそうにはない。


 休みの日にまで付き合う必要もないからと、ペコたちを連れて行かずに、1人で赤バスに乗って街へと出た。ランドローバーを自分で運転するよりも、何となく、少しでも集中力を休めたいと思ったのだ。バス停が止まるたびに、見知らぬ住民たちから手を振られて、そして手を振り返す。声を掛けられたら、微笑んで挨拶を交わし、そんなことを繰り返しながら、目的地にたどり着いた。作った笑みはまだまだ、余裕さえ感じる。


 住民たちとの会合が終わり、引きつった頬をマッサージしてぼんやりしていると、学院長がこのメンバーで食事を、と提案してこられた。今からまた、赤バス鈍行でゆっくりと遠回りをして学校に帰っても、ランチタイムは終了している。どこかのお店に入り、1人で食べたとしても、学生艦の中心部の街。比較的人が多い場所でそう言うことをすると、目立って仕方がないだろう。もう少し付き合いなさいと耳元で囁かれて、片方の頬を上げ了解をした。学院長も、それなりに長い付き合い。1人だけ10代の女の子が、大人のおじさまやおばさま方に挟まれて、優雅“風”を装うことの煩わしさを知っていてくださる。


 腕に巻かれた時計は、13時前を指していた。空は相変わらず、船が動いているかどうかもわからない青。潮風を受けて育つ木々は、少しだけ彩を変えて行こうとしている。

 コスモスが見ごろだと、彼女が言っていたのはいつのことだったかしら。それは、一緒に観に行こうという誘いであることはわかっていた。「そうね」という答えを返して、後はお互いの時間を何とかすればいいだけのこと、と思っていた。
 雨雲へと向かう学生艦。彼女はふて腐れた顔を見せることはしない。それでもきっと心の中では、寂しそうに眉をひそめたもう一人の彼女を慰めているはず。あるいは、この空を眺めて、今のうちにと後輩たちの手を取って、コスモス畑に車を走らせているかもしれない。 
 それで気が紛れているのなら、そうしてくれて構わない。
 構わない、と言う言葉は良くない感情のような気もする。

 致し方がない、と言わんばかり。
 否、まさしくそう。

 否、そうだとするならば、やはり、腹立たしい。


 高級茶葉、高級食材を使ったサンドイッチを口にしても、やはり、味の決め手は誰と食べるかが大事なこと。美味しいと言えば、美味しいですね、と応えてくれる人が傍にいて初めて、すべての五感が働くのだ。スタンドのお皿を見ても、彩(いろどり)の良さに何かコメントをする気が起きてこない。一体、美味しいという言葉を、どのタイミングでどの人に伝えればいいのか。わからないまま、取りあえず頬の筋肉を緩めて表情のない瞬間を見せぬように。アフタヌーンティーの時間は、とてつもなくゆっくりと進んでいった。


 時間は流れ、かろうじてカーテンの狭間から見える空も、景色が流れたようだ。朝から見ることのなかった白い雲が見える。

 腕に巻かれた時計は、16時前を指していた。


 大人たちを見送り、学院長のアストンマーチンの助手席をお断りして、学校へと戻る赤バスの停留所へと向かった。20分に1本のバスは、あと10分ほど待たなければならない。

 空を見上げた。薄雲が空を擦ったように広がっている。向かう方向に待ち受けるだろう雲の色。明日の放課後、コスモスを観に行くにしても、天気が回復していないかもしれない。もう、すでに彼女の中には2人でコスモスを観に行くと言う選択肢は、消されてしまっているかもしれない。

 天気ばかりは、どうすることもできないのだ。

 致し方がない。
 腹を立てたりなどしない。
 

 流れる雲を呼びよせるように、強く風が吹いた。朝、セーターが暑いくらいだわと感じていたはずなのに。秋らしさよりも早く、両腕を擦りながら身震いしてしまうほどの体感温度。秋を忘れて、冬を呼び寄せる雨になってしまうのかしら。


 雨が降り始めるのは、もう少し後。セーターの網目を通る風はよけられることもなく、かといってピンと張った背筋を丸くする場所ではないことは知っている。あからさまに感じる視線。一番大きな街の中心部に立っているのだ。寒いと感じていることすら、誰にも見せたくはない。



「ダージリン」



 赤バスが近づく気配より早く耳に届いたのは、よく知っているランドローバーのエンジン音。腕を伸ばせば、丁度いい場所にある助手席のドア。下ろされている窓の向こうに、いつもの澄ました笑みがある。


「遅いわ、アッサム」

 作り続けた笑みを消して、寒さから逃げるようにドアを開けた。

「すみません、ちょっと出るのが遅くなってしまいましたわ」

 乗り込んでシートベルトを締めると、それを確認してからゆっくりとクラッチが離れて、ウインカーがカチカチと音を鳴らす。その膝に置かれていたブランケットが投げよこされた。彼女の温もりが残っている。思わず頬を摺り寄せた。

「ジャケットは後ろです」
「ありがとう」
「明日も雨の予報ですわ」
「えぇ、そうね。暗くなるまで、まだ少しあるわ」

 学校へと続く真っ直ぐな道。
 その途中で右に曲がった車は、小さな植物園へと向かって行く。
 
 シフトレバーを握る手の甲。冷えている両手で包み込んでみる。
 真っ直ぐ前を見て運転している彼女の眉が、ちょっと怒った角度になった。


「アッサムは、私のことが好きなのね」

「……………今更ですの?」
 
 呆れた声に感じる『好き』の温もり。
 

 その横顔をじっと見ていた。
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Date:2016/10/20
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