【緋彩の瞳】 Always

緋彩の瞳

ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

Always

「………ダージリン?」

 課題に追われている放課後。同じように課題に追われているクラスメイトたち。図書館の中央にずらりとある机には見知った顔が並んでいて、みんな、一心不乱に薄紙を捲る音と、ペンを走らせる音をたてて、まるで合奏をしているようだった。 
 アッサムも電子辞書と古い本を積み上げて、胸を張って得意だとは言えない英語で書かなければならないレポートに向かい合い、その合奏に参加していた。ノートパソコンでのタイピングに馴れきっていても、必ず授業の提出物はレポート用紙に手書き。机に90度の角度で開かれたノートパソコンではなく、真っ白い紙。消しゴムが紙を擦る音。時々、誰かがヒソヒソと隣にいる人に声を掛けては「わからないわ」「どうだったかしら?」などと言ったコメントが耳に届いて、それが少し気になって、すぐに手が止まる。


 ペンのお尻を顎に押し当てて、うーんと悩んでいると、いきなり腕を掴まれた。隣に座っていることはわかっていたが、声を掛けずに放っておいたダージリンが得意げに笑って、びっしり英文が書かれたレポートを見せてくる。

「私はもう終わったわ、アッサム」
「………そのようですわね」
「あなたは、まだみたいね」
「えぇ」

 戦車道の隊長であろうとも学生である以上、やらなければならない課題はきちんと提出をするし、また、成績は常に1位を保ち続けなければならない。本当はここに籠っても、みんなほど頭を抱えることもなく、すらすらと書き上げる才能は持っているはず。アッサムが図書館に来た時すでに席についていたのは、ちょっと予想外の出来事。まぁ、きっと、みんながここに来ると分かっていて、1人になるのが嫌だったのだろう。


 腕を放してくれないと、文字が書けない。アッサムはペンを左手に持ち替えて、その手の甲をぷすりと刺した。
「っ?!……何をするの?」
 驚きながらも、出来る限り声を潜めて抗議をしてくるダージリン。眉も顰めて小さく穴の形が付いた手の甲をかばうように撫でる姿。アッサムはしてやったりの顔を見せて、すぐにノートへと視線を戻した。今、ダージリンに構っていられないのだ。

「アッサム」
「……ダージリン、私の邪魔をしないでください」
「邪魔はしないわ」

 集中力を乱そうとするダージリンの声。耳元で息を吹きかけて、完全に暇を持て余した子供のようだ。そう言うのを邪魔と言う。帰ればいいのにって言えば、きっとすごく拗ねた顔をしてくるに違いない。相手にしなければ、これは次に別の行動をして、更にアッサムの気を引こうとするだろう。


 例えば、髪を引っ張ってくるとか。


「アッサム」
「髪を引っ張らないでください」


 頬を指先でつついてくるとか。


「アッサム」
「頬を突かないでください」


 脇をくすぐってくるとか。


「アッサムさん、私はもう終わったわ」
「……っ?!もぅ、邪魔しないでください。じっとしていられないなら、どこかで後輩たちとお茶をしていたらいかがです?」


 わかっていたと言うのに、それでも逃げられないのは、彼女がダージリンだからだ。ひそめた声で抗議をして睨み付けても、それもすべてわかりきっていると言うような笑み。


「アッサムが相手をしてくださらないと、つまらないわ」
「私を落第させるおつもりですか?」

 周りのクラスメイトは、みんな一心不乱。助ける気なんてさらさらないことは、長い付き合いだからわかっている。もっとも、ダージリンの相手など誰にもできないのだ。この人の相手は、1年生の頃からずっとアッサムの仕事。静かにして欲しいアピールはあちこちから感じているが、アッサムが悪いのではない。でも、みんなの目線は“アッサムが何とかしろ”なのだ。


 もう、こういうことには慣れている。アッサムは足元に置いていた学生鞄からタブレットを取り出して、数独のアプリを開いた。最難関と書かれたところをタップして、彼女の前に差し出して見せて、微笑みをひとつ。


「ではまず、私からの挑戦状ですわ。これをクリアしたら、お相手いたします」



 視線は、タブレットとアッサムを3往復。



「……………おとなしくしておくわ」
「そうですわね」


 タブレットを使いこなせない上に、流石に難易度が最高レベルの数独だと、解くのに必要な時間は10分なんてものでは済まない。黙っておとなしくしているようにと、こうやって命じなければ、ダージリンはダメなのだ。ダメと言うか、ダージリは、この一連の流れのすべてをただ、楽しみたいだけ。ある程度相手をして差し上げて、押し付けられたタブレットを、ふて腐れた顔で拒否したら、アッサムは勝利して、解放される運びとなる。


 クラスメイト達はきっと、“また相変わらず、コントをやってる”と心で大合唱しているはずだろう。それでもみんな、誰も手を止めずにレポートを書き続けていた。


 椅子を近づけてアッサムの手元を観察するんだろうと思うよりも早く、いそいそと、音を立てずに椅子を近づけてきたダージリン。


「………声を掛けないでくださいね」
「当然よ。おとなしく言うことを聞くわ」


 言うことを聞くのなら、図書館から出て、どこかでお茶をしていればいいのに。想いながらも、触れてくることもせず、ただ、じっとアッサムの手元を見つめるだけ。
 次のちょっかいが出てこないことは、十分にわかっているから、文句だって言えない。




 お互いに、先の行動が見えているのは、時々腹立たしいと思うことがある。




 すべて見透かされているから、結局、赦してしまうことは、最初から知られている。


 …
 ……
 ………


 何だか悔しい。


 筆箱の中から油性ペンを取り出した。
 傍にある綺麗な手首を掴んで、その甲に「バカ」と書いて差し上げた。




「……あら、好きと書くと思ったのに」



 慌てる様子もなく、微笑みを見せるダージリン。



「ご冗談を」



 アッサムは、ふて腐れるのが精いっぱいだと言うのに。




 その余裕の笑みが、やっぱり何だか悔しかった。



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Date:2016/10/20
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