【緋彩の瞳】 お土産

緋彩の瞳

みちる×レイ小説

お土産


いくら九月になったからといっても、暑さに変わりはない。レイは合服の長袖に我慢しながら、久しぶりの登校に少々イライラしていた。どうせ夏休みなら、九月も休みにすればいいのにと内心思いつつ、何年経ってもさほど変化のないクラスメイトに挨拶をされながら教室へと向かう。

わずかな休み時間の間、レイの回りで囁かれる夏の思い出話し。ハワイだのバリだの、伊豆だの、ヨーロッパなんていう1つの国を飛び出した単位も少なくはない。教室中に出回るどこの国で買っても共通の味のチョコレート、もしくはブランド物の香水やら。
そして、他人が楽しんでいるのを見ていて楽しいのか、旅行の写真もアルバムごと移動している。
自然と流れてきたお菓子の類は遠慮なく黙って抜き取っていたが、さすがにアルバムに興味はない。けれど、ちらりと見えた範囲でも、ここはお嬢様学校のはずなのに、と突っ込みたくなるような、所謂「泊りのデート」らしいものもちらほらある。交際を禁止しているなんて言うわけではないので、悪いとは思わないけれど。
ふんっ
誰にも聞こえない程度に呟いたレイは、手元に回ってくるアルバムは、全部開かないで前へと渡した。


「お帰りなさい。早いわね」
ずいぶん前に貰った合鍵のおかげで、チャイムを鳴らす習慣のなくなったマンション。てっきり誰もいないと思ったら、落ち着いた声が出迎えてくれる。
「始業式だけだもの。そっちは?仕事だと思ってた」
テレビドラマの新妻みたいにレイの鞄を受け取ってくれたみちるに、お礼も言わずにスリッパを履いて廊下を突き進む。遅れを取ったみちるがそれを追いかけてきていることはちゃんとわかっている。
「今日はオフなの。まだ旅行の後片付けをしていないから、二人分の鞄を広げていたところよ」
「そう」
リビングに置かれたテーブルの上には、可愛らしいラッピングに入ったお土産がいくつも並んでいる。帰ってきたのは、2日前だった。北海道1周を1週間かけてのんびりのんびり旅したお土産は、それぞれのリクエストに沿ったもの。周りはみんな海外にばかり出かけていたけれど、レイにとっては北海道で本当に十分だった。慣れない土地でひたすら観光して、いろんなことに神経を使っても楽しくないから。
「あぁ、お土産渡さないと。明日みんなにクラウンで会うわ」
「お願いね。あと、写真も現像しないと」
服などはもう整理し終わったのか、小物ばかり入った鞄からカメラを取り出したみちるは、ネガをいくつも並べた。
「写真、ね」
「何?」
冷蔵庫へお茶を取りに行きながら呟いたレイに、みちるは首を傾げて見せた。
「ううん。飲む?」
「いいわ。それよりなぁに?」
ガラスコップにお茶を注ぎながら、レイは学校で出回った思い出付きお土産の話をする。まだ口の中にほろ苦いチョコレートとアーモンドの味が残っている。
「みちるも他人に見せて楽しむタイプ?」
芸術家の意地なのか、みちるは高そうなクラシカルなカメラをいつも持っていた。気がついたら何本か終わったネガがあったので、おそらく風景ばかりを撮っているに違いないけれど。
「そうね。その子達も半分は見せたいと思って撮っていると思うわよ。いいじゃない、それはそれで」
「別に。私は他人が楽しんでいるものを見るのに、さほど興味が湧かないだけよ」
そんなことを言っている時点で、ちょっとは興味があるように見えるのを、レイは気がついていない。
「残念ね。私、はるかやせつなに見せびらかして自慢するつもりでいたのに」
「…北海道って、そんなに珍しい?」
「あら、ほとんどあなたばかり写っていてよ。撮られている本人は全然気がついていなかったけれど」
ぶっ!とお茶を零しかけて、何で?!といつのまにかやられていたことにびっくりする。
「だって、好きな人の写真って何枚でも撮りたいと思うじゃない」
「はるかさんたちに見せてどうするの?よく知った顔の人間の写真を見せられても嬉しくないでしょう?」
「そういう問題じゃないわよ、レイ。一枚一枚に思い出が込められているんだから」
「…それって迷惑だと思うわよ」
「いいじゃない。私はあなたのクラスメイトの気持ち、わかるわ。好きな人の自慢、したいものよ。レイはそう思わない?」
難しい質問を投げよこして。そっぽむいて相手にしないことにする。答えなんてわからないし、わかっていたら自分でも怖い。
「いいわ。レイにはレイなりの表現があるものね。そういうレイのこと、私は好きだわ」
「…ふん」
くすっと笑って、何でもお見通しの様子。
「写真、別にいいわよ。見せたかったら見せても。その代わり、はるかさんとせつなさんだけだからね」
「えぇ。二人にたっぷりお土産話をお聞かせしないとね」
可愛そうな二人。でも、クラスメイトの気持ちはわからないけれど、みちるの気持ちはなんとなく嬉しいから。
たぶん、まぁ、そういうのもありなのね、とレイは自分に言い聞かせた。


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Date:2014/02/11
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