【緋彩の瞳】 あなたに希うものは、私への恋 END

緋彩の瞳

ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

あなたに希うものは、私への恋 END

「………………夢?」

 息苦しさを覚えて、ベッドから飛び起きる。充電の終えた携帯電話の青い小さな光。
 腕を伸ばして充電器から抜き取って、画面を付けた。午前3時。


「いたっ……」

 急に襲った痛みは、人差し指の爪が剥がれていたことを思い出させた。電気を付けて確認してみると、わずかに血が滲んでいる。妙な夢を見たせいで、何かを掴んだり、何かにぶつけたりしたのだろうか。ダージリンに、きちんと病院に行けと言われたけれど、結局その時間が取れずに、応急処置を施したまま。

 痛みに湧き出た汗をぬぐいながら、もう一度ガーゼを巻きなおして、歯を使いながら包帯を巻きなおした。


「アッサム?どうしたの?」
 

 硝子の壁に囲まれた閉塞感の中、うずくまり、ダージリンの名を叫び続けたのは、本当に夢なのだろうか。喉に違和感を覚えて水を飲んでいると、控えめなノックが聞こえてきた。


「………ダージリン?」

「アッサム、大丈夫?」


 午前3時を回っていたはずの時間。廊下から聞こえてくるダージリンの声。


 あの叫びで、ダージリンは助けに来てくださったのだろうか。


 助けてと叫んだ。
 彼女の名前を呼んだ。
 何度も。恋しいと想いを乗せて叫んだ。


 ………でも、助けてはくださらなかった。


「アッサム、開けて」

 心配そうな、それでも静かに呼ぶ声。呼吸を整えて、木でできた扉の鍵を開け。
 歪むことのない暗い廊下が広がり、心配そうなダージリンの姿がとてもはっきりと見えた。



「…………ダージリン」
「大丈夫?」
「………何が、です?」

 追い出すより早く、身体を滑り込ませてきたダージリンは、当たり前の様に抱きしめてきて、当たり前の様に髪を撫でてくる。ぶらりと垂れさがったアッサムの両手は動かすことができない。その背を抱きしめてしまえば、彼女を硝子の中に閉じ込めてしまうだろう。


 誰も、触れないように、と。
 誰の物にもならないように、と。


「何度も助けてと聞こえたわ」
「………そうですか?」
「私の名前を何度も呼んでいたわ」
「………夢を見ていました」


 右の人差し指にズキズキと痛みを感じる。ずっと、早くこの痛みから逃れたくて、ベッドにもぐりこんだはずだ。
 それよりも、押し付けられる唇の温もりを忘れたくて、明かりを消してうずくまったはずなのに。



「……夢の中の私は、あなたを助けた?」





『本当は、知っているのでしょう?硝子なんて、簡単に割れるはずよ』



 ダージリンが硝子の向こう側で、アッサムに向かって告げていたはずだ。
本当は、自分から硝子の中に閉じこもっていたのだ。



「…………いいえ」
「そう」
「…………離れてください。ダージリンに抱きしめられたり、キスをされたりすると、また悪夢を見てしまいますわ」
「私が助けるエンディングを迎えれば、悪夢じゃないでしょう?」

 どれ程拒絶しようとも、それを乗り越えて心に侵入しようとしてくる人だから。
 アッサムは夢の中で、硝子の部屋の中に逃げたのだ。

 冷えた唇に押し当てられる想いは、アッサムの身体を侵す感情と同じであって、同じではないのだと思い知らされていくだけ。


「これ以上………私の中に入らないでください」
「そうやって、自分の周りにどれだけ壁を作ろうとも、私はあなたが好きよ。必ずあなたを助けて差し上げるわ」


 逃げればいいだけなのに。
 この唇から。
 この温もりから。
 この声から。


「……………無理ですわ。ダージリンが、ダージリンでいる限り」

 逃げもしないのに、助けを乞う程に好きだという想いを、彼女はわかってはくださらないだろう。



 どれほどに好きでも、アッサムの想いは、ダージリの望む程度の好きではない。


「アッサムはとてもズルいのね」
「…………そう、ですわね」

 包帯を巻いている人差し指で、そっと、罪深い、その唇をなぞった。

 染みた消毒液の匂い。
 真っ直ぐに見つめたまま、逸らしてはくださらない瞳。
 甘く噛まれた指先に感じる、ジンジンとした痛み。


「気を付けなさい、アッサム。次に魘されて私の名前を呼んだら、私はあなたの身体を無理やりにでも抱くわよ」




『本当は、知っているのでしょう?硝子なんて、簡単に割れるはずよ』



 歪んで映る硝子の向こう側で、ダージリンは笑っていたのだろうか。
 怒っていたのだろうか。
 悲しんでいたのだろうか。


「それくらいなら………どうぞ、ご自由になさって」


 唾液をにじませた包帯。痛みがあるのかないのか、もうわからない。頬を撫でられて、逃げるように出て行ったダージリンは、きっと泣いていた。


 ガタンと閉ざされた木の扉。
 歪んだ景色すら見えない。



 もう一度、明かりを消してベッドにうずくまった。


 あの夢の続きはない。


 夢ではない、現実なのだから。

関連記事

*    *    *

Information

Date:2016/10/20
Trackback:0
Comment:0

Comment

コメントの投稿








 ブログ管理者以外には秘密にする

Trackback

TrackbackUrl:http://fireredfantasia.blog.fc2.com/tb.php/811-2830e1f9
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)