【緋彩の瞳】 「好きよ」

緋彩の瞳

ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

「好きよ」

「あなたの匂いがないと眠れないの」
「えぇ、承知しています」
「本当よ」
「えぇ」

 そのセーター、預けておきます。
 アッサムは呟いて、吐息で前髪を優しく撫でた。




 好き。
 



 その言葉に、彼女の感情のすべてが込められている。







 夏の戦いが始まる。恒例となった情報処理部GI6と共に行われる相手校の情報収集のため、アッサムは3日間、聖グロの学生艦を離れることになっていた。アッサムがいない間、ダージリンは訓練を中断することもなく、当然、朝から夕方まで暑さに耐えて戦車の中から、部隊の指導に励む。副隊長であるアッサムが学生艦を離れることは、それだけダージリンの負担が増えると言うこと。他の3年生やペコたちにある程度の仕事は振り分けているものの、それでも、アッサムがいない間、ダージリンの緊張感はきっと休まることはない。ダージリンのことを敬愛する生徒は多いが、ダージリンが心をさらけ出して、我儘を押し付けることができる人物など、聖グロには1人しかいないのだ。
 毎度毎度、アッサムが情報収取で船を離れるたびに、眉間にしわを寄せて嫌そうな顔をしてくる。そのくせ彼女は、アッサム以外の誰かが持ってきたデータなど、信じられないと平気で言うのだ。更に、自分は嫌そうな顔をしておきながら、気分で勝手に他校の試合を観に行くからと、アッサムを置いて数日いなくなってしまうことなんて、数えきれないほど。

 面倒な人に好かれてしまい、面倒な人を好きになってしまったものだ。


「あら、ダージリン。どこに行っていらしたの?」
「OG会からの電話が次から次へと」
「まだ、2回戦にもなっていませんのに?」

 訓練が終わった後、情報処理部と夕食をしながらの打ち合わせがあった。明日からヘリとコンビニ船を使って移動して、走り回らなければならない。ダージリンも打ち合わせに参加をするはずだったが、結局、顔を見せずに夜遅くに解散になった。
 部屋に戻って、明日の準備とさっきの打ち合わせの記録をパソコンで眺めて、眠気覚ましのコーヒーを飲んでいた頃、鍵を開けておいた部屋をノックなしにダージリンが入ってきた。

「あちらはお暇なのよ。アッサムたちの打ち合わせも、中途半端に話を聞くのも嫌だから、後輩たちを食べに連れて行ったわ」
「そうですか」
「疲れが倍増よ」

 紅茶を淹れましょうか?そう尋ねるより早く、ダージリンはベッドに倒れ込んだ。アッサムが脱いでベッドの上に畳んで置いていたセーターを掴んで、顔を押し当てている。

 拗ねているし、疲れているし、アッサムと夕食を取ることができなかったことに、腹を立ててもいる。


 背中が“構って”と呼びよせていた。


「ダージリン」
「…………明日、何時に出るの?」
 さっきまで着ていたセーター。顔に押し当てたままの篭った声は、出来るだけいろんな感情を爆発させないようにと、ダージリンなりにアッサムを気遣ってくださっているのだ。


 言いたいことはわかるし、同じ気持ちだけれど、どうしようもない。
 お互いに知ってしまっている感情は、ときにそれを表現する言葉を奪う。けれど身体からは、簡単に逃がせないということも知っている。


「朝、6時です」
「5時には起きないと」
「そうですわね」

 パソコンを閉じずベッドの上に上がり、頭を撫でた。ダージリンは顔をアッサムのセーターに隠したまま、声の場所を頼りにしがみ付いてきた。


 篭った寂しげなため息の塊を、アッサムは肺に吸い込んだ。


「3日目の何時頃に戻るのかしら?」
「予定では、15時半ですわ」
「訓練中ね」
「えぇ。ですので、報告会は17時半からですわ」
「………そう」

 ちらりと青いセーターから見せた、子犬のような瞳。膝の上に頭を置いて、真っ直ぐに見つめてくる。


「ねぇ、アッサム」
「はい」
「………少し、このままでいたいわ」
「構いませんよ」

 静かな空気の中、控えめに響くパソコンのモーター音を気にしながら、ダージリンの手がアッサムの左手を握りしめた。
 こんなことは、我儘にすら入らないけれど、明日の準備をしていることを気遣ってくださっているのはわかっている。

 互いの存在が、互いのなすべきことの道を塞がぬように。
 互いの大事なものを、同じくらい大事にして、同じように守る。
 好きになって、好きだと告げられた時から、ずっと守り続けてきた。
 それぞれの好きだという想いを信じ、傍にいる。


「ねぇ、アッサム」
「はい」
「いない間、私はこの部屋で生活をするわ」
「構いませんわ」
「アッサムが使っているシャンプーも使うわよ」
「えぇ、どうぞ」
「アッサムのタオルも」
「はい」
「アッサムの使っているブラシで髪を梳くわ」
「ご自由に」


 全て、お好きなように。そう応えると、満足そうに瞼を閉じた。


「アッサム」
「はい」

 握りしめた指先。冷たい温度。離さないでと泣くその左手。


「あなたの匂いがないと眠れないの」
「えぇ、承知しています」
「本当よ」
「えぇ」


 そのセーター、預けておきます。
 アッサムは呟いて、吐息で前髪を優しく撫でた。


「好きよ、アッサム」

 当たり前のように与えてくださる感情。
 その中にある色とりどりの想いがすべて、アッサムだけのもの。

「私も好きです」
 

「あなたの匂いのせいで、眠いわ」
「もう少し、こうしています。休んでいてください」

 目を閉じて、浅く寝息を繰り返す人。
 アッサムの半神のような存在。
 離れたくないと絡めた指先。



「………朝、私を抱いてから出て行って」
「わかりました」



 膝に頬をこすりつけて、子供のような寝顔。
 アッサムだけが知っている、この寝顔。


 ダージリンの弱さが好き。
 アッサムだけにさらけ出す弱さが好き。


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Date:2016/10/26
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