【緋彩の瞳】 Never say love you

緋彩の瞳

美奈子×レイ小説

Never say love you

形があるものはいつか壊れてしまう
いつか、消えてなくなってしまう

握りしめている
あたたかいと感じているはずのものも
ひとたび、その指の力を抜いた瞬間
風も雨もない空間だと言うのに

消えてなくなってしまう



あなたは、愛をそういうものだと言う



「ねぇ、マーズ」
「………何」
言葉もなく誘い、笑顔もなく受け入れられて、汗に張り付いた黒髪をそっと撫でる。言葉を受け取るつもりもないと背を向けて眠るのは、何度同じような夜を迎えようとも、変わることのないスタイル。
「気持ち良かった?」
「………疲れたわ」
指に絡めた黒髪をきつく握りしめて引っ張ったところで、ヴィーナスを見つめてくれることはない。
「もう一回する?」
「嫌」
「気持ちいいって思ってもらいたいんだけど」
「……どうしてヴィナの心を満たすために、私が抱かれるわけ?」


それは
愛しいと想う心が永遠に続くと信じたいから


重苦しいため息交じりの拒絶
掴み損ねた黒髪が左の手のひらから逃げて行く

追いかけて欲しいと、名残惜しいように逃げて
捕まえていて欲しいと、希うような呼吸を繰り返す


「明日、死んでも悔いを残したくないからよ」
「ヴィナは、別に明日は死なないわよ」
「………じゃぁ、いつ死ぬの?」
「いつかしらね」


知っているくせに


「じゃぁ、いつ死んでもいいように、マーズの身体に私を刻んでおかないと」

形のあるものはいつか壊れてしまう
いつか消えてなくなってしまう

この身体に縋り付いた、マーズの爪痕も
その華奢な身体に刻まれた、多くの傷跡も
その傷跡の上から降らせた、口づけの跡も

いつか、消えてしまうもの

「………私と言う存在は、いつか消えてしまうわ」
「消えても、私のマーズへの想いは残るわ」
「残らないわ」
「どうして?」

それでも、ひんやりした鎖骨に頬を寄せ、そっと背に身体を押し当てた。
重なり合わない心臓は、重なり合わない音となって、かすかに瞼を震わせる。
かなぐり捨てたいともがく想いが、彼女を苦しめることくらい、知っている。
「形のないものだからよ」
「………だから、身体に刻んで残しておくわ。マーズの魂にヴィーナスから愛されていたという証拠を刻んであげる」
「………いらないんだけど」



形があるものはいつか壊れてしまう
いつか、消えてなくなってしまう
マーズは愛をそういうものだと信じることで
終焉を突き進む運命を背負う決意をした

目に見える偽りの世界の美しい者たちが
避けられない終焉に嘆かぬように
愛でる想いを殺した
愛しいものが心を支配せぬように


「………愛してるわ、マーズ」
「いらないって、何度も言わせないで」
「愛してるのよ、マーズ」
「その想いはあなた自身を苦しめるわ、ヴィナ」


堪えられずに零れた一粒の涙は
愛と言う形になって
マーズの爪で傷ついたこの素肌に溶け込んでゆく

愛しい
愛しい
愛しい

「……マーズが苦しいのなら、マーズの身体の中から愛する想いを消してもいいわ。私は何もなくても、ちゃんとわかるから」

言葉がなくても
愛を囁かれなくても
形として存在しなくても

愛さないようにと背を向ける
それだけで
愛されていることはわかる


あなたは言葉と言う形にして愛を囁いたりしない
そう強く決めた弱い人

愛しい
愛しい
愛しい


この想いが永遠にその心の中に形として残ればいいと
一体どれくらい希えばいいのだろう











去年、某絵師にプレゼントしたと思われるものです。
データ壊したって言っていたので、UPします。たぶん、これを差し上げた気がする。
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Date:2016/10/29
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