【緋彩の瞳】 角を持つ天使の笑み ②

緋彩の瞳

ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

角を持つ天使の笑み ②

「………一体、何事ですの?」


 聖那さまから、隊長室で待っていると言われたあと、直ぐにアッサムに電話を掛けた。麗奈さまと出かけていると言うことは承知していたが、だからと言って、電話をしてはいけないなんて言うルールはない。学生艦に聖那さまが1人でいらしていることを、麗奈さまは承知しているのか聞いて欲しいと。アッサムは意味が分からないと言っていた。そして、隣の麗奈さま曰く“朝から不機嫌だった”そう。


 きっと、あの麗奈さまのことだから、アッサムと一日過ごすということを、聖那さまに告げることを忘れていらしたに違いない。


 アッサムは、色々と察して助けに来てくれるだろうか。



「ダージリン、会いたかったわ」
「どうされましたの、聖那さま」
「あなたに会いに来たのよ」



 相変わらずふわふわとした笑みで、口調はおっとりしていらっしゃるけれど、どうにもこうにも、何をお考えなのかわからない。ダージリンは立ちあがって両手を広げておられる聖那さまに近づきたいとは思わなかったが、致し方なく抱きしめられた。今は従っておかなければ、ルクリリに何を暴露されるかわからない。アッサムではなく、愛菜さまに助けを求めておくべきだっただろうか。げんこつで頭を殴ることができるのは、愛菜さまだけだ。


「ダージリン、ちょっとまた、お胸が大きくなったかしら?」
「成長期ですわ」
「そう?相変わらず、可愛い顔ね」
 サイズを確かめるように、胸に触れてくる両手から逃げて、ダージリンは対面のソファーに腰を下ろした。ルクリリが用意してくれたお茶がテーブルに置かれる。気を利かせて出て行ってくれたらよかったが、人質にされていると、本人は気が付いていないだろう。
「聖那さま、ルクリリは休みを返上して仕事をしておりますの。ここは邪魔になりますわ。そろそろランチですし、横浜に降りませんこと?」
 ルクリリの目がなければ、もう少し柔軟に相手をして差し上げることは出来る。抱き付いてきても、はいはいって相手をして差し上げることは出来るが、やはり弄ばれている姿を、簡単に後輩に見せたくはないのだ。

「食堂で食べましょう。久しぶりに食べたいわ。噂で聞いたわよ、最近、新メニューでオムライスが登場したみたいね」
「………えぇ、まぁ」
「そこのルクリリちゃんも、一緒にね?」


 ルクリリが、“嫌です”と顔に張り付けてダージリンを見つめてくる。ダージリンだって連れて行きたくはない。できれば隊長室のお茶一杯で終わらせて、学生艦から引き摺り下ろしたいくらいなのに。


「聖那さまは、私に会いにいらしたのでしょう?ご用件は何ですの?」
「あなたのアッサム、今日は一日いないのでしょう?」
「えぇ。麗奈さまとお会いしていますわ」
 麗奈さまのお名前に反応された右の眉毛。やっぱり、何かお怒りなのだろう。
「おかげで、予定していたことがすべてダメになってしまって。ダージリン、夜に私とホテルのレストランで食事するのに、付き合いなさいな。よければそのまま朝までホテルにいて、愛を語り合ってくれるかしら?」

 つまりは、アッサムのせいで空いた穴の責任をダージリンがとれ、と言うことらしい。もう一度、アッサムに電話をしたいところだけれど、あの1度で伝わるはずだ。誰が悪いと言うのは一目瞭然。すべて麗奈さまが悪いのだ。


「麗奈さま、何もお伝えしていませんでしたの?」
「朝、私がご機嫌に着替えている横で、今日は予定があるから、1日空けると言われてしまったのよ」
「それは……麗奈さまが悪いですわ」
 ダージリンにもアッサムにも何の落ち度もないことなのに、怒りをこちらにぶつけてこられても。そのフォローを別の日に麗奈さまにしていただくようにすればいいのに。とばっちりと言うものに他ならない。
「えぇ、麗奈が悪いわ。だから、あなたが責任を取って」
 “だから”の先は、何か全てが間違えているが、嫌ですと言ったら、ルクリリに色々と勝手な語りをし出すのは目に見えている。ふわふわとしていらっしゃるが、お怒りと言うことには違いなく、沈めることができるのは、今はダージリンだけ。



「麗奈さまのために用意されたバースデーケーキのろうそくを、私が吹き消しますの?」
「そうよ」
「………愛菜さまは?」
 ダージリンよりも、怒りをぶつけやすい人が同じ大学にいらっしゃるのに。
「愛菜?電話に出てくれなかったわ」


 それは、賢明な判断だったに違いない。いや、後輩のことを考えて、電話には出ていただきたかった。ダージリンは久しぶりに味わうバニラティーを飲み干して、ため息ついでにルクリリを見つめた。とても嫌そうな顔をしている。


「……ランチには付き合いますわ。ホテルのディナーのキャンセル代を麗奈さまにご請求なさってください」
「あらやだ、1か月前から予約をしていたのよ?」
「1か月前に、予定を聞きませんでしたの?」
 確か、今もずっと同棲されているはずだ。高校の時から同室で、本当に毎日一緒におられる。今更、予定なんて聞く必要なく当然、一緒に過ごすものだと思っていることが悪いとは思わない。でも、あの麗奈さまなのだ。どれだけ聖那さまのことを想われていても、アッサムとの予定であれば、悪気もなくそちらを優先させると言うのは、あの方ならやってしまいそうだ。
「………アッサムと私、どっちが大事って聞いても虚しいわ」
「そうですわね」
 それは、かなり虚しいだろう。特にあの麗奈さまは、そう言うことを深く考えないお方なのだから。
「と言うことで、傷を慰め合おうと思ってここまで来てあげたのよ」
「………いえ、私は傷も何もありませんわよ。アッサムからは聞いておりましたし」
「あらやだ、じゃぁ、どうして私に連絡してこないの?」

 こういうのを、八つ当たりと言うのだ。いい見本になる。

「それは、申し訳ございませんでしたわ。オムライスを食べて、機嫌を直してくださいませ」
「そうね。腹を立てていたせいで朝食を取っていないから、お腹空いたわ。行きましょう」
「えぇ」

 あわよくば逃げようとしていたルクリリの腕を聖那さまが掴み、ちょっと早い時間の食堂へと向かった。ほとんどが横浜に降り立っているものの、学生艦に残り、食堂で食事をしている生徒もいるため、聖那さまが登場した瞬間、悲鳴がフロアに広がってしまった。化けの皮が剥がれていない聖那さまは、“バニラお姉さま~”という黄色い声援に笑顔で手を振って応えて、まるでアイドルの様にニコニコと微笑んでいらっしゃる。食事中だと言うのに、握手や写真を求めてくる後輩たちに、気を良くしておられる。取りあえず、その横で、アッサムからの連絡を待ちわびた。メールが1件。



『もう少し、そちらで頑張ってください』

 頑張るって何を。
 返信せずに画面を閉じた。


「なぁに、アッサムから?」
「えぇ」
「好きよ、ダージリンって書いていたの?」
「麗奈さまは、聖那さまにそう言うことを送りますの?」
「送ってきませんわね」

 ルクリリが耳をしっかりとこちらに向けている。ソワソワして、教えて欲しいと言わんばかり。
1年生の頃、当たり前のようにアッサムと手を繋いで学生艦内を歩いていた。クラスメイトも当たり前のようにそれを見ていたし、何と言うか、取り立てて気を使っていなかった。だけど、隊長職を引き継ぐときに、愛菜様にかなりきつく言われたのだ。すべて慎みなさい、と。常に人に見られる立場、責任を負う立場だ。何かミスをしたときに、うつつを抜かしていたせいだと言われると、相手を傷つけてしまうことになる、と。麗奈さまと聖那さまの関係はご卒業する日まで、ダージリンとアッサム、愛菜さま以外に知られることはなかった。だから、ダージリンとアッサムも、2人で当たり前のように手を繋いで学生艦内をデートすることをやめた。無論、船の外でも手を繋ぐことはない。どんな噂が立とうとも、NOとは言わず、決してYESとも言わずというルールを決めた。ルクリリ達の自由な想像にお任せしている状態。隊長職をルクリリがついで、完全に戦車に乗らなくなるまであと少し。それまでは。


「ねぇ、ダージリン。食後の散歩にデートをしましょう」
「…………学生艦をうろつきますの?降りてくださいませんこと?」
「滅多に遊びに来てくれないって、ふて腐れていたのはダージリンだわ」
「それはそうですけれど、3人セットでいらしてくださらないと」
 聖那さまに必要なのは、麗奈さまよりも愛菜さまの方。主に、突っ込み役として。
「あらやだ、ダージリンは私より愛菜に会いたいというの?浮気ものね」
「どちらかと言えば、聖那さまよりも愛菜さまにお会いしたいですわね」
「あらやだ、虐めだわ」
「こっちのセリフですわ」
 


 ダージリン様は、バニラお姉さまととても仲良しでいらっしゃるようだ。ふわふわした空気の割には、とてもイキイキとダージリン様とお話されている。ダージリン様もまた、嫌がっていたわりには、嬉しそうに見えるのは気のせいではない。この学生艦の最高責任者であるダージリン様だって、1年生のひよっこだった頃は、やはりあるのだ。随分とバニラお姉さまに可愛がられていた様子がうかがえる。あれほど食べないと宣言されていたオムライスを、モリモリ食べていらっしゃるし。しかも、ケチャップでバニラお姉さまに「アッサムLOVE」なんて描かれているのを、文句も言わず、おいしそうに。きっと反応したら負けなのだろう。

「散歩に付き合ったら、学生艦を降りて差し上げるわ」
「本当ですの?」
「えぇ。ダージリンと一緒に」
「……なぜですの?ホテルのディナーはもう、諦めてくださいませ」
「一人の夜は嫌よ」
「こっちは困りませんわ」
「じゃぁ、その子を貸して」
「妹がいらっしゃるでしょう?」
 その子と指名されたルクリリは、スープを吹き出しそうになる直前で何とかとどまった。いつまで何の関係もないルクリリを引っ張って遊ぶおつもりなのだろうか。大至急、妹のバニラに戻ってこいと伝えなければならないような気がする。血の繋がっている方が、扱いにもなれているだろうし。
「妹とホテルでディナーなんて、何のロマンもないわ」
「私でもルクリリでも、ロマンはありませんことよ」
「あらやだ、これは連帯責任だわ。歴代の隊長の失態は、後輩がリカバリーしないと」
「そのような義務はございませんことよ」
「ダージリン、クルセイダー会の寄付金の収支報告書を見せなさい」

 ポンポンと会話のラリーを楽しそうに続けていると、伝家の宝刀をあっさりとバニラお姉さまは抜かれた。というか、いろんな弱みのようなものを握らされている感しか漂わない。ダージリン様は、最初から分が悪いのだ。そう思うと、今のところルクリリたちはダージリン様たちに弱みを握られたりしていない。ある意味、丸裸ともいうけれど。

「…………わかりました。ディナーの件は少し考えておきますわ」
「少しではだめよ。陽が落ちるまでに諦めて、そして私と楽しいデートをして頂戴。どうしても嫌だと言うのなら、その子でもいいですわ」

 絶対に嫌だ。もしもそうなったら、大至急でバニラに電話して引き取りに来てもらう。

「ルクリリは山積みの仕事がありますの。そろそろ解放させませんと」
「と言うことは、腹を括ってくれたのね、ダージリン」


 嬉しいわ。


 これでもかと言わんばかりに、とても愛らしく微笑まれるバニラ様のお姿。何というか、これはもう一撃で骨抜きになるほどの可愛らしさに麗しさ。


「聖那さまのお願いを聞きますわ。その代り、謝礼はたっぷりいただきます」
「麗奈からクルセイダー会に振り込みをさせておくわ」

 バニラお姉さまは、一体どんなホテルのディナーを予約されていらっしゃるのだろうか。きっと、ルクリリが一度も食べたことのないようなコース料理なんだろうな。安っぽいオムライスを美味しそうに食べておられるけれど、どうせなら、もっと空腹にしておいた方が良いのにもったいない。そんなことを思っていると、ダージリン様に足を蹴られた。



 これはあれだ。


 サインだ!


“早く、アッサム様に何とかさせろ”というサインに違いない。


 合っているかどうかはともかく、一応は状況報告をした方が良いのは違いないだろう。そのアッサム様は、麗奈さまと言う人とバースデー・デート中らしい。




「………今、ダージリン様は聖那さまと学生艦の街をデートに出ているということね?」
『はい。どこかでお茶でもしたあと、下船してホテルでディナーだそうです』
「ホテルの名前は?」
『そこまでは聞き出せませんでした。というか、放っておいてもいいんですか?』
「聖那さまは、後輩を取って食べる人ではないわよ」
『まぁ、わりと可愛がっているようには見えましたが』
「私は夜には戻るから」
『ですが、ホテルに一泊もダージリン様に付き合えとおっしゃっていました。着替えにセクシーランジェリーを買って差し上げる、と微笑んで』

 聖那さまのご機嫌斜めを、多少は慰めてから出てこればいいものなのに、お姉さまったら。埋め合わせはいつかまた、なんて言ってさっさとアッサムとの待ち合わせにやってきたようだ。あの聖那さまが1人で聖グロの学生艦に乗り込んで、ダージリンで憂さを晴らしているなんて。相当なお怒りのように思えるけれど、もう少しはダージリンに任せても大丈夫だろう。
「聖那はなんて?」
「ダージリンとホテルでディナーをして、お泊りするらしいですわよ」
「そう。じゃぁ、あの子に聖那を任せておけばいいわね」
「………お姉さま、ダージリンと聖那さまが2人きりでホテルですのよ?」
「何もないわよ」

 何かあっては困る。お姉さまはアッサムと機嫌よくバレエを鑑賞して、有名なレストランで食事をして、イルミネーションを観に行くデートプランを考えておられるけれど、本当はこういうことを、誕生日に聖那さまとするべきではないだろうか。まして、記念すべき20歳の誕生日なのだ。ランチに両家がそろって食事をするのは、致し方がないとしても、どうして聖那さまに何も許可を取らなかったのだろう。

「………ホテルの場所とか、わかりますの?」
「さぁ。まぁ、きっとあそこかしら、って言うのはなんとなくわかるわ」
 ディナーの後、取りあえずそのホテルにお姉さまをお返しに行かなければ。お姉さまは、流石にホテルはキャンセルしているはず、なんて言っておられるけれど、聖那さまは、意地でもホテルにお泊りになられるだろう。ダージリンのことだから、嫌そうな顔をしながらも、アッサムが助けに来る事を信じて待っているはずだ。


「ダージリンに何かあったら、お姉さまが悪いんですわ」
「私なの?」
「そうですわ」
「じゃぁ、バレエを観るのをやめる?」
「………チケット、取るのに苦労しましたのよ?」

 それはそれであって、これはこれであって。相手が見ず知らずの男だったら、すぐにでもダージリンを救出に行かなければならないところだけど、聖那さまなら、きわどい縁に立つくらいまでで何とかなるはずだろう。
 アッサムは、心の中でちょっとだけダージリンに詫びながら、お姉さまの手を引いてバレエ鑑賞へと向かった。



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Date:2016/11/19
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