【緋彩の瞳】 角を持つ天使の笑み END

緋彩の瞳

ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

角を持つ天使の笑み END

ポキ。
 ポキ。
 ポキ。


 楽しそうな表情で食べ進める聖那さまと、睨み付けたまま動かないダージリン。
 どうしてこう、挑まれた勝負は全て受けてしまう性格でいらっしゃるんだろう。と思っても、それでこそダージリンなのだ。彼女を責めるのは違うと言うことはわかる。


 ポキ。
 ポキ。
 ポキ。


 まつ毛が触れてしまいそうな距離。もう、唇まで1センチもない。


 ……
 ………
 …………



「聖那、ダメよ」
 ダージリンの身体を引っ張ろうと一歩出るよりも早く、お姉さまが落ち着いた声でストップをかけた。一瞬で動きが止まった聖那さまはまだ、ポッキーを銜えたまま。
「ダージリンの勝ちということで」
 絨毯敷きのフロア、鈍いヒールの音を立てて、お姉さまは2人の間のポッキーを爪でポキっと折ってしまわれた。聖那さまがじっとお姉さまを見上げている。
「…………なぜ、もっと早く止めてくださいませんの?」
 アッサムはこれだからお姉さまはって呟きながら、ダージリンの腕を取って引っ張って立たせた。
「アッサム、怒った?」
 救い出されたダージリンはアッサムの身体を軽く抱き寄せてくる。やっと、ホッとしたため息が聞こえた。
「………いいえ。止めなければ、あのまま、キスするおつもりでしたでしょう?」
「アッサムが止めるだろうとは思っていたわよ」
「そうですか」
「あなたが嫌がることくらい、わかっていてよ」
 わかっていても、挑まれた勝負を受けるのがダージリンと言う人なのだ。本当にキスをしたら、どんな言い訳をされるおつもりだったのだろう。

 
「付き合わせて悪かったわね。2人とも、タクシーで帰りなさい」
 お姉さまは財布から万札を取り出してダージリンに渡した。この後、聖那さまの怒りはちゃんと受け入れるおつもりなのだろう。と言うか、本当、誰が悪いって言う所をちゃんと認識されているのだか。
「あらやだ、ダージリンとキスできるチャンスだったのに」
「お姉さまは、聖那さまの唇がダージリンに触れることが許せなかったんですわ」

 たぶん、本当はアッサムの苛立ちを察したから動いたのだろうけれど。でも、お姉さまだって聖那さまがダージリンとキスするなんて、見たくなかったに違いない。

 そう、思いたい。
 思っていなくても、この場では聖那さまのためにそう言ってあげて欲しい。


「聖那さま、ポッキー、ごちそうさまでした」
 もっとすごいものをごちそうされたはずなのに、ダージリンは満面の笑みで聖那さまにお礼を言っている。チョコの味すらないところを銜えていたとはいえ、あれはあれできっと楽しいとは思っていらしたのだろう。これだから、ダージリンは。

「食べなかったのに?まぁいいわ。また、遊んでね」
「今度は、愛菜さまと、3人で遊びにいらしてください」
「収支報告書をちゃんと見せてくれるのなら」
「考えておきますわ」
 アッサムはダージリンのコートを着せると、ひらひらと手を振る聖那さまと手を振ることなく見送るお姉さまをスイートルームに残して、ホテルを後にした。

「ダージリン、1日お疲れさまでした」
「本当よ。疲れたわ」


 校門前でタクシーを降りて、コートの中で手を繋ぎながら寮へと戻る。ほとんどの生徒が船を下りているから、どの学年の寮も灯りは少ない。
「聖那さま、機嫌よく過ごされましたの?」
「えぇ。私に誕生日ケーキのろうそくを吹き消すように命じて、写真を撮っておられたわ」
 それは、アッサムの携帯電話に送信されてきていた。だから、こっそり愛菜さまに転送しておいた。そのうち、お怒りの電話が聖那さまとお姉さまに入るだろう。こってりと怒られて欲しいものだ。

「でも、麗奈さまが止めるというのは予想外だったわ」
「そうですか?」
「アッサムが止めると思っていたもの」
「お姉さまなりに、聖那さまのことはお好きなのでしょう」
「それが、聖那さまにちゃんと伝わっていればいいわね」


 お姉さまを選んだのは聖那さまで、婚約破棄をしてでも聖那さまと一緒にいる道を選んだのはお姉さまなのだ。感情を露わにしないお姉さまが唯一、我儘を押し通して、いろんなものを捨てる覚悟で聖那さまを選んだのだから、想いはきちんと聖那さまには伝わっていると思う。

 本当………伝わりにくい人だけど。


「あら、1年生で船を下りていない子がいますの?」
 1年生の寮の前を通り過ぎると、1室だけ明かりがついている。1年生は全員いないはずなのに。
「あぁ………ルクリリだわ。仕事を貯め込んでいるみたいね」
「そうなんですか。ペコもローズヒップも実家に戻ると聞いていますが、ルクリリ1人だけなんですか?」
 それは可愛そうに。夜も遅いのに3人部屋でひとりぼっちもきっと寂しいだろう。
「何を考えているの、アッサム」
「いえ、ルクリリを部屋に呼んでお茶でも」
「どうしてかしら?今日1日、聖那さまに連れまわされた私を労うのが先でしょう?」
「それはそうですが」
「これ以上、私を放置するのはダメよ」
「………わかりましたわ」
 コートの中できつく握られた手。血が止まるのではないかと思うほどの圧迫。助けに来いと言うような連絡を受けてから、夜まで放置していたことを、どうやら根に持たれているようだ。仕方がない。アッサムは、ルクリリからの電話を受けていたこともあったので、ちゃんと学生艦に戻ってきたことを電話で告げて、朝、一緒に美味しいものを食べに行きましょうと約束を交わした。その電話を、隣で、ずいぶん恨めしい表情で聞きながら、ダージリンはもう、アッサムの手を青くさせるおつもりなのかと言うほど、手を握ってくる。凄まじい握力だ。


「アッサムの誕生日に麗奈さまとどこかに出かけようものなら、私は戦車道生徒総動員して、邪魔をしに行きますからね」
「………そんなことするわけありませんでしょう?お姉さまのあれは、特殊なんです」
たぶん、お姉さまはアッサムに気を使って、誕生日の日に2人でどこかへ出かけようなどと言ってこられないだろう。そう言う所は気が利く人だと思う。もう少し、好きでいてくれている人のことを考えられるようになってもらいたいものだ。ダージリンを見習って欲しいくらい。


「………麗奈は、アッサムに悪いと思って止めたの?」
 2人が手を繋いで部屋を出て行った。頭上から落ちてきたため息。聖那はソファーの後ろに立っている恋人の溜息をかき混ぜて、腹立たしい想いを部屋に巻き散らかした。
「あなたが誰かとキスをするのを、見ていられるほどの余裕はないわ」
「………あらやだ、それは今考えたセリフ?」
「そんなわけないでしょう?」
 嘘くさいと思ったけれど、それが嘘だと言う証明は出来る訳もないのだ。聖那はコートを脱いでくつろぐようにソファーに腰を下ろした麗奈の膝の上に乗って、相変わらず何を考えているのかわからない、憎たらしい頬に唇を押し当ててみた。

「私に何か言うことはある?」
「ダージリンと1日デートして、楽しかった?」
「えぇ、とっても」
「そう」
「あらやだ、それだけ?」
「黙って予定を入れたことは、朝も謝ったわ」
「………そうね、そうね。そうでしたわね」
 今度、愛菜を捕まえて愚痴を聞いてもらわないといけない。でもきっと、麗奈を選んだ聖那が悪いって言われそれで終わり。誕生日でもクリスマスでも、どんなことがあっても、麗奈はいつもこう。



「………悪びれたりしないのね、麗奈は」
「聖那が1人寂しく家で泣いていたら、もう少し反省したけれど、ダージリンと楽しそうに遊んだわけだから」
 脚の間にあたりまえのように右手が触れて、本当に悪気の欠片もなさそう。それでも、聖那の身体にしか興味がないことだけは知ってしまっているのだ。結局、アッサムとダージリンだけが振り回されて、麗奈には何の効果もないのだろう。
「………ダージリンとキスしておけばよかったわ」
「聖那は私が好きでしょう?」
「あらやだ、思い上がり」
「聖那には無理よ」


 それって、嫉妬?

 たずねようと思うよりも早く、麗奈の唇は聖那の唇と重なる。
 もう少しわかりやすく嫉妬してくれてもいいのに。
 あのアッサムみたいに、プンプン怒ってくれたらどれだけいいか。




 ホテルで一晩過ごした次の日、愛菜から電話が来た。後輩を巻き添えにするんじゃないと、凄い剣幕で怒られた。アッサムもダージリンも本当、抜かりなく余計なところに告げ口するんだから。

 お詫びの寄付金を手に3人揃って学生艦に向かったのは、その2日後の話。









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Date:2016/11/19
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