【緋彩の瞳】 あなたのままで ①

緋彩の瞳

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ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

あなたのままで ①

「キャンディが決めたらどうかしら?」

 毎年、11月3日に行われる文化祭。戦車道2年生の出し物を決める、というホームルームだった。クラス委員長をしているキャンディは、リゼに言われて心の中で“またか”とため息を吐いた。  

『この学年の戦車道はみんな、おとなしすぎて迫力がない』

1年生の頃から言われ続けているし、自分たちでもそれなりに自覚はある。でも、ダージリン様やアッサム様がおられる3年生と、ローズヒップとルクリリがいる1年生と比べるのもいかがなものか。ただ単に、変わった個性を持っている生徒がいないと言うだけ。

「とはいっても、去年みたいな普通の喫茶店をしても……」

 手先が器用な子も多く、料理やお菓子を作るのが好きだったり、裁縫が得意な子がいたりと、お嬢様学校らしいのが特徴でもあって、去年の出し物はすんなりと手作りケーキを売りにした喫茶店で決まった。

「でも、私たちが舞台を使用して劇をしたところで、誰も見ないわよ」
「それもそうだわ。噂では戦車道3年がまた舞台をするかどうか、話合いをしているみたいだし」

 教室の前列に座っているリゼもカモミールも、前に立っているキャンディの援護をしたいのか攻撃をしたいのか。いつもふんわりした感じで、何となく意見がまとまりにくいクラス。とはいえ3年間を共に過ごす仲間。このクラスは何だかんだと言いながらも、平穏で平凡で取りあえず何でも平均的。3階の1年生たちのように問題だらけじゃないことは、悪いことではない。

「何でも、ダージリン様とアッサム様を主役にしてロミジュリにしようって話だわ」
「アッサム様は嫌がっているみたいだけど」
「ダージリン様、ロミオを演じる気なのかしら」
「あのお方、むしろ結末を書き替えてハッピーエンドにしてしまいそうよね」
「また去年みたいなことになるのかしら……」

 それなら見てみたい、なんてざわざわし始める教室。本当、自分たちのクラスが何一つ決まっていないことに危機感がないようだ。たぶん、キャンディが何とかすると思っているのだろう。実際、そうするしかないのだけれど。

「でも、卒業試合もあるし、そんなことのお稽古に時間を潰すのは無理よね」
「それも確かにそうね。でも、私たちと被ってしまう出し物だったら嫌だわ」

 こうして、リゼとカモミールの視線が再びキャンディに戻ってくる。この雑談の数分の間にすべて決めておいてくれた?と言う期待のようなものが含まれているように思う。


「えっと………じゃぁ、お、お弁当?」

 咄嗟に出て来てしまったのは、何となく戦車道の隊員たちでレジャーシートを広げて、お弁当を食べる姿。いつも、ティーセットを並べている聖グロには絶対なさそうな風景。

「えっ?」
「お弁当?」

 まるで初めて聞いた日本語、というような驚きの目。キャンディは黒板に『お弁当販売』と縦に書き込んだ。白いチョークの粉がわずかに舞って、足元に落ちて行く。

「サンドイッチじゃなくて、日本的なお弁当を作って売りましょう。それならば、どこのクラスとも被らないわ」
「でもそれ、栄養学部に喧嘩を売ることにならない?」
「あそこの学部は、英国流のものを出すのは絶対だから、私たちがお弁当を出しても大丈夫よ」

 時々、白いご飯が恋しくなって外の定食屋さんに食べに行くことがある。リゼもカモミールもそうだけど、何だかんだと言いながら心も体も日本人だから、毎日パン食なんてやっていられないのだ。学食でも、サバの味噌煮定食の日だと食券は売り切れてしまう。

 カモミールは腕を組んで数秒考えた振りをした後、賛成と手を上げた。みんなからも反対の様子は伺えない。反対って言えば代替え案を出さなければならないのだ。それはみんな、無理なのだ。

「では、お弁当のサイズやメニューなどで意見のある人は?」


 みんな、本当に積極性が足りないと言う自覚がないらしい。キャンディは静かな教室を見渡した。リゼとカモミールも後ろを向いて、なぜなのかと言わんばかりの様子。

「………リゼ、カモミール。放課後に打ち合わせをしましょう」
 こんなのだから、次期隊長も副隊長も1年生が引き継ぐ羽目になるのだ。責任転嫁をするわけじゃないけれど、きっとこのクラスを盛り上げられないから、3人ともダメなのだろう。


「キャンディ」
「ごきげんよう、アッサム様」


 いくら、聖グロの図書館は本の種類が多いからと言って、お弁当のおかずなんてレシピ本は置いているわけもなく。在庫検索をしても引っかかりそうになかったので、街の本屋さんに問い合わせをして、散歩がてら買いに行く羽目になった。


「どうしたの?街に用事でも?」
「はい。ちょっと本屋さんまで」
「図書館にないものなのね?」
「はい」

 学校の門を出たところで、後ろからアッサム様に呼び止められた。小走りに近づいてきたアッサム様も、何やらお外に出る用事があるそうだ。自然と並んで歩調を合わせてみる。

「アッサム様のクラス、文化祭の出し物は決まりました?」
「あぁ………揉めているわ」
「ロミジュリっていう噂が出ていますが」
「反対が多くてそれは却下になったわ。もう演技はこりごりよ」
「…………はぁ」

 去年、アッサム様のクラスは『白雪姫』だった。講堂に人が溢れかえり、立ち見も出て、結局、多くの人が観られずにいたはずだ。みんな、ダージリン様が白雪姫を演じると思い込んで、瞳をキラキラさせて早朝から並んでいたそうだが、白雪姫を演じたのはアッサム様で、助けに来る王子様がダージリン様だった。ちなみに、ダージリン様は鏡の中にいる女王と1人2役を演じていらして、シナモン様曰く、配役を決めるのにお2人が大喧嘩になったらしい。あれは観ていて面白かった。鏡の女王の偉そうな態度に、お妃さまを演じていらしたシナモン様が、割と本気で腹を立てていらしたし、白雪姫が可愛いに決まっているでしょ?と、おそらく台本にないアドリブで、かなり勝手にアッサム様を、否、白雪姫をほめたたえておられた。とても目立つ鏡の女王だった。
 ダージリン様やアッサム様の人気も高く、足元にも追いつかないだろうと、しみじみ思ったものだ。


「きっと、今年は喫茶店になるわ。しかもメイド喫茶」
 アッサム様は心底嫌そうなため息をついておられる。割と無難なところを攻めているのに、そんなに嫌なことと言うのは、普通のメイド服ではない、なんて言うことなのだろうか。
「………はぁ。いいと思いますが」
「いいと思うの?メイド喫茶よ?ダージリン様がメイド服を着て、お茶を淹れてくれるなんて、そのサービスを受けている方が気を使うと思わない?」
「確かに、それはそうですね」
 ダージリン様にお茶を淹れられたら、恐縮してしまうし、そんなお姿で傍に居られたら、穏やかなティータイムを過ごすことなどできないに違いない。でも、ダージリン様とアッサム様、シナモン様がおられる戦車道3年生は、どんなものをしようと、取りあえず注目を集めるし悲鳴が響くことに変わりはない。
「あなたのクラスは何をするの?」
「えっと、お弁当の販売をしようかな、と」
「お弁当?」
「はい、あの、おにぎりとかおかずの詰まった、日本らしいお弁当を」
 普通ね、って呟かれるものと思った。無難なチョイスが2年生らしいって思われるに違いないと。
「あら、とてもすてきね。私はそう言うのを食べる機会がほとんどなかったから、絶対に買いに行くわ」
「はい!」
 お嬢様育ちのアッサム様は、お弁当を持ってどこかに行くと言うよりも、行く先々で高そうなレストランに入るのが当たり前だったらしく、小さい頃の遠足などには、お抱えのシェフが作るお重のようなものを持たされて、それがまた、さほど美味しくなかったんだとか。その中におにぎりは入っていなかったそうだ。今更、コンビニに売っているものを買う気持ちにはならないし、自分で作ることもできずに、なんと人生でおにぎりというものを食すことがなかったらしい。
「アッサム様は、人が握ったものをお召しになるのは平気ですか?」
「あなたたちが作るのでしょう?」
「えぇ。ただ、嫌がる人もいるでしょうから、念のため、ちゃんとビニール手袋は使いますが」
「私は大丈夫よ。製作者の顔がわかるものならばね」
「そうですか」
 度は超えない程度には潔癖でいらっしゃるアッサム様。おにぎりなんて無理と言われないのならば、さらに買ってくださるのならば、きっとクラスメイトもやる気を出してくれるだろう。いや、彼女たちだってやる気はある。見えにくいだけで。そのあたりが、いつもダージリン様に小言を言われるのだと、わかっていてもどうしようもできないのだ。クラス委員のキャンディが悪い。
「楽しみね。ダージリン様もきっとお喜びになるわ」
「はい。がんばります」

 お花の種を買いに行くというアッサム様と別れて本を無事に購入すると、帰り道にあるファーストフード店で、1年生トリオが列に並んでいる姿が見えた。お茶の時間にハンバーガーとは。相当大きな胃袋のようだ。


「あ、キャンディ様発見ですわ!!」
「わーい、キャンディ様~~!」
「キャンディ様~~」

 顔を本で隠しつつ、そっと気づかないふりをしようとしたけれど、青い聖グロのセーターがあまりに目立つせいだろう。ローズヒップの大声で思わず足を止めて、しまった!と思ったときにはもう、ルクリリに腕を掴まれていた。


「キャンディ様、お茶しましょうよ!」
「………ルクリリ、悪いけれど私は用事がまだ済んでいなくて」
「え~!お茶しましょうよ!しましょうよ!可愛い後輩とお茶しましょうよ」

 お茶じゃなくて、この店はハンバーガーを売っているお店で、紅茶を注文したらティーバックとお湯が出てくるようなお店なのだ。嫌いではないが、今、1年生たちとハンバーガーを食べると、面倒事が待っている予感しかしないのだ。

「誰かが作った予算の書類、訂正の作業がまだ残っているのよ」
「それは明日の提出ですよ?」
「だから、今からやるのよ。誰かが完璧なものを作っていれば、私も時間を盗まれずに済むのだけれど」
「まったく、ペコのやつ」
「あなたよ、ルクリリ」
 腕を掴まれたまま、ルクリリは無関係を装ってペコに視線を投げかけてやり過ごそうとしているけれど、この子が次期隊長なのだ。ダージリン様もアッサム様も、キャンディが幉を引いて、暴走を止めるようにと言われているが、引っ張っても引きずられているような気がしてならない。
「仕方ないですよ。だって、ダージリン様ったら作り方を1度しか教えてくださらないんですよ?」
「………おかしいわね、私も1度しか教えてもらっていないわね」
「そ、それはキャンディ様の頭がいいからですよ!」

 胸を張ってふんぞり返っている場合ではないのだけれど、今、ファーストフード店の前でクドクド言い聞かせたって、ポテトの匂い漂うこの場所では、ルクリリの耳はまともに機能しないだろう。

「夕食前には見終わるから。取りに来て、明日の朝までには仕上げてちょうだい」
「はぁ~い」

 と言いながらも腕を掴んだままなので、致し方なく2000円を渡した。この子たちは一緒に食べたいのではなく、おごって欲しいのだ。

「わ~い、カンパ金」
「次、あんなひどい書類を持って来たら、お金は返してもらうわよ」
「ペコに言っておきます」
 敬礼ポーズを見せたルクリリからようやく解放された腕。まったくもって反省をしている気配もなく、一番高いハンバーガーにしよう、なんてローズヒップと肩を抱いている。

「キャンディ様、ありがとうございます」
「ごちですわ~~~」


 満面の笑みでブンブンと手を振る漫才トリオに見送られて、ようやく学校に戻ることができそうだ。そう言えば、この手に持っている本は何だろうって、思い出すまでにかなりの時間を要するのだった。


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Date:2016/11/19
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