【緋彩の瞳】 あなたのままで ②

緋彩の瞳

ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

あなたのままで ②



「うーん」

 おにぎりの中の具材、おかずの種類の他、使い捨て容器の材質や、割りばしの種類など、結構決めなければいけないことが出てきた。キャンディはリゼとカモミールとTo doリストを作り、それぞれの担当を決めて、クラスメイトを適当に割り当てた。おかずもキャンディが決めてあげないと、どうしましょう?を100回くらい繰り返して当日を迎える危険がある。
「ダージリン様って昆布なんて食べられるのかしら?」
「そんなの知らないわ」
「アッサム様は梅干しをお食べになるかしら?」
「知らないわよ」
「………ねぇ、あのお2人を基準にメニューを考えると、絶対に決まらないわよ」
 メニュー1つ1つに好き嫌いの確認をしていたら、それこそ何もできないだろう。とにかく、典型的なお弁当と言うようなものを作って、全数売り切るという目標があるのだ。おにぎり、だし巻き卵、からあげ、ほうれん草のお浸し、たこさんウインナー、アスパラガス、プチトマト。そのあたりを入れたものがいい。お弁当の種類も2つくらいに絞っておかないと、作る手間のこともある。
「キャラ弁にする?」
「あぁ、これ?でも、美味しくなさそうよね」
 パラパラとお弁当の本を観ながら、リゼが眉をひそめている。
「というか、うちの生徒で、アニメのキャラを知っている生徒が何人いるの?」
 いつも通りというか、メリハリがあるような、ないような3人の話し合いは夕方まで続き、結局は典型的なメニューということで、すべてが決まった。使い捨て容器を基本にして、上等な割りばしの調達、お手拭きやら、包み紙などの手配。物事が決まったら早いのが2年生の良さ。週末にでも試作を作ろうということで、ようやくクラスが一丸になってくれそうだ。


『キャンディ様、助けてください~!!!』
 舞台などの出し物ではないため、比較的穏やかに、緩やかに文化祭の準備は進められている。週末の試作も上手く行ったし、資材発注もクラスメイトが進めてくれている。日常では、慌ただしい感じはせず、いつも通り1年生に振り回される日々。
「なぁに、ルクリリ」
『ピンチです、ピンチ!』
 ルクリリのピンチだという電話は、あの子が次期隊長として仕事をするようになってから、ほとんど毎日掛かって来て、ほとんどが自業自得。と言いながらも、知りませんと電話を切るほどの強さはない。
「今日はどんなピンチ?」
『隊長室に来てください』
「隊長室?書類の不備は全て見たわよ?」
『そんなものじゃないです。もっと、もっと………とにかくピンチです』

 まさか、ダージリン様の私物を壊したとか、ティーセットを壊したとか。
 考えてみたけれど、その程度のピンチはもうピンチでも何でもないような気がする。


「わかったわ。隊長室ね?」

 具体的な内容を電話で言ってこないということは、きっと“行かなければよかった”っていうオチが待っているに違いない。それでも、行ってしまう自分が情けない。仕方がないと呟くのは、誰に対してのいい訳なのだろうか。



「失礼します」
 ダージリン様やアッサム様がおられるかもしれないので、ノックをして丁寧に頭を下げて隊長室に入った。

「あら、キャンディ。来たわね」
「ごきげんよう、ダージリン様」
「待っていたわ。さぁ、お座りなさい」
「………はぁ」

 呼び出したのはルクリリじゃなかったのか。悲壮な声は演技だったと言うことなのだろうか。ダージリン様の満面の笑みに迎えられて、キャンディは身構える余裕もなく、座れと命じられてソファーに腰を下ろした。

「あの、ダージリン様。ルクリリが何かやらかしましたか?」
「ルクリリがとても不愛想なのよ。私の言うことを全然聞かないの」
「それは大変申し訳ございません」
 ルクリリの失態はキャンディの責任になる。ルクリリがティーカップを割るたびに、キャンディも一緒に始末書を出してきた。取りあえず、1年生の誰かが何かをしでかすたびに、ダージリン様たちの元に謝りに行く。だから、すっかり頭を下げることに身体は馴れている。
「あらやだ、どうして頭を下げるの?」
「ルクリリが何をしましたか?」

 今度は一体何をしたのだろう。言うことを全然聞かないって、命令無視でもしたのだろうか。何か重要な仕事を嫌だと駄々をこねたりしたのだろうか。

「キャンディ様!私は何もしていません!悪さをしているのは、ダージリン様です」

 キャンディの分の紅茶を淹れながら、ルクリリが大声を出す。ます、その大きな声を出すことをやめて淑女らしくして欲しいが、ダージリン様が注意をしないのだから、仕方がない。
「キャンディ、私は携帯電話をスマホにしたのよ」
「はぁ………えっ?」
 ダージリン様はルクリリにお怒りと言う様子ではなく、むしろお宝を手に入れたと言った風な顔で、キャンディの目の前に真新しいスマホを見せびらかしてきた。
「さっき、ルクリリからとても便利な機能を教えていただいたのよ」
「えっと………あの、どういう意味でしょうか?」
「ルクリリったら、被写体はもう嫌だってうるさいのよ。だから、誰か被写体を呼べと伝えたのよ」
「ひしゃたい?」
「ダージリン様、スマホのカメラ機能を気に入ってしまわれたんです」
「……………ルクリリ、嵌めたわね?」
 つまり、写真を撮られて嫌になったルクリリは、身代わりとしてキャンディを呼びつけたのだ。しかも確実に隊長室に来る方法で。
「それでは、キャンディ。可愛らしくポーズを取って」
「ま、待ってくださいダージリン様!」
 もうすでに、カシャカシャと音が聞こえているような気がする。心の準備もままならないのに、どうしてダージリン様のスマホで撮影をされなければならないのだろう。
「ルクリリ、あなたって人は」
「だって、1人は嫌じゃないですか」
「いつもの2人は?」
「アッサム様とお外です」
 こんな時に、暴走を止めてくださるアッサム様までいないなんて。
「ほら、キャンディ。もっと笑って」
「あの……もっと可愛いいバニラやクランベリーも呼んだ方が」
「あなたは可愛いわ」
「えっと、その、それは嬉しいお言葉ですわ。でも大勢で楽しく、その」
 キャンディは自分の携帯電話を取り出して、バニラに繋いだ。大至急、クランベリーを連れて隊長室まで来るように、と。
「大勢ね……なるほど。それも悪くないわね。リゼやカモミールたちも呼びましょう。あぁ、グリーンとシナモンもカメラに収めたい気分だわ」
「大至急!」
 ルクリリは合点!とすぐに非常呼集を始めた。電話をしている間も、ダージリン様は満足そうに勝手にキャンディにスマホを向けて撮影をされている。止めて欲しいとはっきり言えばいいけれど、ダージリン様に“笑いなさい”と言われて頬を引きつるのに精いっぱいだった。

「昨日は、悪かったわね」
「いえ。あの、画像は消去していただけました?」
「ほとんど消しておいたわ。ルクリリのドアップをロック画面にしておいたから、しばらくは反省してくれるでしょう」
「そうですか」
 ダージリン様のスマホ事件の次の日の放課後、リゼとカモミールと3人で花壇の様子を見ていたら、傍を通りかかったアッサム様が声を掛けてくださった。そろそろ秋桜が満開になっているから、雑草の手入れついでに近くのベンチでお茶をするつもりだった。アッサム様に自動販売機のココアをごちそうになって、4人で育てた秋桜を眺める。
「来週の文化祭の準備は順調?」
「はい。前日から作り始める予定で、すべて段取りも終わっています」
「そう」
「ダージリン様とアッサム様、シナモン様の分は一応特別仕様のお弁当にしました」
「あら、嬉しいわ」
 せめて、お3人には使い捨てじゃなくて可愛らしいお弁当箱にして、キャラ弁…ならぬ戦車道弁当にしようと言うことで、クラスの意見は一致した。一致したと言うか、キャンディの提案に全員が賛成したのだけれど。材料なども、そのためだけ別枠で準備をする。言い出しっぺのキャンディが作ることになってしまった。お口に合うものができるか、今から不安で胃が痛い。
「この花壇も、無事に受け継いでくれる人がいてよかったわ。キャンディ達なら、私よりもずっと綺麗な花を咲かせてくれるわね」
 アッサム様がアールグレイお姉さまから受け継いだ、花壇の手入れ。整備科や情報処理部のお姉さまたち数人と、キャンディ達で季節の花を育てている。アッサム様は一度も強制してきたことはない。この場所は昔から“誰かが”花を育てている場所なんだとか。だから、そう言うことが好きな人が、好きなようにすればいい。そういう緩い気持ちで十分らしい。とはいえ、キャンディは本気で夏のひまわりを咲かせきったし、秋桜エリアの満開のために、頻繁に世話をしてきた。1年生たちのように、花はキャンディを振り回したりしないのだ。花を相手にしている方が、ずっと向いている気がする。
「ご卒業される頃に、チューリップが綺麗に咲くといいですね」
「そうね。本当に楽しみだわ」

 アッサム様がいなくなってしまえば、今の1年生たちは大丈夫だろうか。さらに新しい子も入って来て、育成をしていかなければならない。花と違って想う通りにはならない子たちばかりだったら、どうすればいいのだろうか。幉を弾いても引いても、引きずられ続けてばかりだと言うのに、本当に大丈夫だろうか。

「どうしたの、キャンディ」
「いえ………アッサム様たちがご卒業されてしまうことが、その、色々と不安です」
 心の奥底から出たため息が、アッサム様の指先に届いてしまわれたようだ。甘ったるいココアの味の残る舌先に、急に後悔が苦味となってやってくる。
「色々、ね。大丈夫よ。あの豪快シスターズは、あれはあれでいいの。失敗させて経験して行けばいいのよ。自由にやらせておいたらいいと思うわ」
 色々の9割くらいが1年生のことだと、言わなくてもわかっていただけることが良いことなのか、悪いことなのか。
「ですが……」
 自由だって、限られた中の自由なのだ。あの子たちは、限られているということを忘れてしまうことが多い。
「あの子たちのあの自由も、あなたたち2年生がいるから出来ることよ。あなたたちがあの子たちを見捨ててしまえば、きっと、機能しなくなってしまう。その、“色々”は本当に大変なことでしょうけれど、その先にある優勝は、あなたたちに微笑むかもしれないわ」
 隊長職も副隊長職もこなせない個性のない2年生たちにできることは、きっと何もない。せいぜい、真面目に書類の不備を確認したり、学校外の仕事を代行したり、フォローに走るくらいしかしてあげることは出来ないのだ。年下の子たちに学生艦を預けると言うことは情けない。でも、だからと言ってその責務を担うほど、この背中は大きくない。

「………優勝、できますか?」
「それは、あなたたちに掛かっているわ。あなたたちが3年生になるのだから、その責任をルクリリだけに押し付ける訳にもいかないでしょう?」
「それも……そうですね」
「OG会に入って、あなたたちをいびるのが楽しみよ」
 アッサム様はキャンディ達の頭を撫でてくださり、紙コップを手に先に寮へ戻ると姿を消した。メイド服が仕上がったから、これから3年生たちで着てみるそうだ。

「私たちのできることを精一杯、頑張らないと」
 クルセイダー部隊をローズヒップに任せながら、幉を持ったまま引きずられているリゼはクルセイダー会への偽収支報告書作成の、首謀者でもある。
「というか、多分、アッサム様はもっと頑張れとおっしゃっているんじゃないかしら」
 マチルダⅡ車長のカモミールは先週の予算委員会で、整備科長と喧嘩になったローズヒップを止めようとして、見事にボロボロになって半泣きになっていた。
「私たちには私たちのやり方があるわ。………とても地味だけど」


 リゼとカモミールと頭を突き合わせてみても、ただ、あの子たちを支えるしかないのだ。本当に、命を削るくらいの覚悟を持って。







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Date:2016/11/19
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