【緋彩の瞳】 あなたのままで ③

緋彩の瞳

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ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

あなたのままで ③

「みんな!ダージリン様とアッサム様とシナモン様が、メイド服で歩き回っているらしいわよ!」
 文化祭当日。朝5時に起きておにぎり班や、温かいおかずなどを作る班、盛り付け班などにわかれて、ひたすら黙々と作業に取り掛かった。2年生は唯一、決断力には乏しいが団結力はある。たぶん、目立つ生徒がいない分、流れ作業的なことをさせると、すさまじい力を発揮するのだ。
「そう。悪いんだけど、全部の作業が終わらなければ、私たちはここから出られないわ」
 家庭科室に籠っている戦車道2年生。飛び込んできたのは、同じ学年の整備科のクルセイダー担当長だ。カモミールと仲がいい。
「わぁ、おいしそう」
「おいしそう、じゃなくておいしいのよ。何度も試作を繰り返したし、食材だってかなりいいものなのよ。ダージリン様たちのお写真は、情報処理部に頼んであるわ」
 キャンディはテキパキと、お3人のために特別なお弁当を作っている。今は10:30。お弁当第1段の30個を乗せた台車が、販売テントへと向かって行った。
「キャンディたちはいつ、フリータイムになるの?」
「お弁当だから、13時半を過ぎたくらいでお店は閉めようって。整備科の1年がケーキのお店をやるのが14時頃からと聞いているから、入れ替わりのつもりよ」
「そう。3年生たちは、気まぐれにお店を閉めるかもしれないっておっしゃっていたわ。ダージリン様たちも、いつまでメイド服でいてくださるかは」
 みんな、心の中では見たいって思っているだろうけれど、顔に出さずに必死でだし巻き卵をクルクル返している。
「私たちは、私たちの決めたスケジュールで動くわ。ありがとう」
「いえ。何か手伝いが必要なら声を掛けて」
「えぇ」
 クルセイダー担当長はだし巻き卵の切れ端をつまんでいくと、またこの情報を流しに、別の教室へと向かったようだ。きっと、グリーン様に命令されてしまったのだろう。生写真をあげるからって言われたに違いない。



 お弁当の販売が始まると、待っていてくれた他学部の生徒たちが一斉に集まって、1時間もせずに完売した。2回目の11時半もあっという間に消えてしまったようだ。12時半には50個のお弁当を並べるつもりだけど、終了予定時間前には完売できるかもしれない。事前予約を入れられている、整備科や戦車道生徒の数も含めると、かなりの量を作り上げた。


「あらやだ、おいしそう。お弁当ですって!あらやだ、可愛い~!これはタコさん?」
「聖那、お店の前でじっとしていたら、周りの邪魔だから。買うなら買って、後ろの人に譲りなさい。2年生たちの迷惑よ」
「愛菜は食べないの?私、お腹空いたわ」

 12時半を過ぎた頃、交代で店の売り子としてテントに入ると、なんと先代のお姉さまがたが目の前にいらした。列ではなくて輪ができて、耳を切り裂くような悲鳴があちこちから聞こえてくる。みんな許可なくスマホで撮影をしている。ほとんどが戦車道じゃない生徒だけど。
「そうね。アッサムたちがこのお店の前で待っていろと言っていたから、あの子たちも買うのでしょう?いい天気だし、外で食べたいわね」
 お姉さま方は周囲に笑顔で手を振りつつ、アッサム様たちの分を合わせて買いたいと申し出てくださった。確か、前アールグレイお姉さま方は、アッサム様たちととても仲がいいと、グリーン様から聞いたことがある。
「あの、お姉さま方。その、ダージリン様、アッサム様、シナモン様には、通常のものとは違うものをご用意しておりまして……」
「あらやだ、ダージリンたちったらモテモテね」
「あなたと違って、まともに仕事をして好かれていると言うことね」
 特別仕様のものを、オレンジペコお姉さまにお渡ししようとしたけれど、そんな特別なものを代理で受け取るのはよくないから、と、メイド服姿でここに来られる3人を待つとおっしゃられた。その間、周りにいる生徒たちに手を振り、写真撮影に応じておられる。キャンディにはない風格だ。とてもお綺麗で、立ち振る舞いも優雅で。この学生艦を引っ張っておられたのは、誰から見ても納得できるような、そんなお姿。

「きゃ~~~!!アールグレイお姉さまよ!!」

 記憶では、過去に1度くらいしか学生艦に来られていないお3人。誰かが気絶する勢いで悲鳴を上げて、花壇傍を指さした。3年生のお3人のすぐ傍、アールグレイお姉さまのお姿だ。メイド服を着ているお3人よりも、注目を集めていらっしゃる。
「キャンディ、お待たせ」
「私たちは特別なお弁当だと聞いて、とても楽しみにしていたわよ」
「色々、気を使ってもらってありがとう」
 アッサム様もダージリン様も、シナモン様も、OGのお姉さまたちのことを気にせず、真っ直ぐに2年生のお弁当のテントに来てくださり、順調に完売に近づいているキャンディ達を労ってくださった。それにしても、ずいぶんと短いフリフリのスカート。誰の趣味なのだろうか。メイドってこんなに露出するものかしら、と思ったが、わざとそうされたのだろう。売上金は戦車道への寄付金として計上されるのだ。
「お待ちしておりました、お姉さま方」
「キャンディたち2年生は何を作っても美味しいもの。早く食べたいわ」
「そう言ってくださると、光栄です。ダージリン様たちにお喜びいただけるよう、精一杯頑張りました」
 キャンディが朝から一生懸命作ったお弁当。リゼが手縫いした包みに1つ1つ入れて、日ごろの感謝をたっぷり込めた。
「ありがとう。あなたの休憩はまだ?お姉さまたちとレジャーシートを広げようと思っているの。嫌でなければご一緒しなさいな」
「ですが、私はお姉さま方のお邪魔になりますし」
「食べた感想を、作った人にすぐに伝えるべきだわ」
 ダージリン様に腕を取られてしまい、店番がと呟く声も届くことなく、無理やりに引きずり出されてしまった。慌ててエプロンを外して、傍にいたクラスメイトに放り投げる。
「麗奈さま、この子がキャンディ。ルクリリの補佐をさせて、実質的には聖グロはこの子がコントロールします」
「つまり、愛菜みたいな役割ね?」
「そういうことになりますわね。お弁当を一緒に食べる約束をしていたので、この子も連れて行きますわ」

 何の心の準備もなく、OGのお姉さまがたに勝手に宣言されるダージリン様。約束なんて初耳。何か色々聞かされていないことが多くて、キャンディはただ固まるだけだ。
「キャンディ、そんなに怯えなくてもいいわ。お姉さまの不愛想は、誰に対してもそうだから」
 アッサム様は肩を叩いてくださるけれど、何が何だかわからないわけであって、怯えているわけではない。
「何かごめんなさいね、ダージリン様とアッサム様が色々と……」
 シナモン様がとても憐れむような溜息と共に、慰めてくださった。もう、こんなお2人には馴れきっていますと言わんばかりだ。よく、マチルダⅡ車長会議で、お互いに大変ねと慰め合ってきたシナモン様。“色々”が大変だけど、乗り越えなければならないのだ。

 それは1年生だけじゃないらしい。


「あらやだ、包みの豪華さが違いすぎるわ」
「聖那さまたちが来られるなんて、私たちは聞いておりませんでしたわ。突撃なさるんですもの。お弁当があるだけ、マシだと思ってくださいませ」
「相変わらず、アッサムは生意気ね」
「事前に連絡がないからですわ」
 OGのバニラお姉さまを睨み付けるアッサム様に、まぁまぁと空気を和ませようとするシナモン様。大きなレジャーシートを広げて、メイドが3人にOGのお姉さまが3人。
「も……申し訳ございません。その、OGのお姉さま方の分をご用意することができずにいたのは、私のミスです」
「キャンディは悪くないわ。謝るのはおやめなさい」
 ダージリン様には、何でもすぐに謝らないようにと1年生の頃に何度かお叱りを頂いたことがある。その癖を治せと言われて、気を付けるようにしているが、でも、このメンバーの中なのだ。謝るのはキャンディの役割としか思えない。
「聖那のこれは、アッサムに構って欲しいというアピールだから、無視しておいていいわ」
 オレンジペコお姉さまはバニラお姉さまの頭を拳で殴って、みんなでお弁当を広げましょうと、それぞれが包みを開き始めた。キャンディの分はダージリン様が買ってくださった。

「あら、おいしそう」
「本当だわ、おいしそう。しかも戦車よ」
「素敵!キャンディ、流石だわ」

 アッサム様は包みを広げて目を輝かせた後、スマホで撮影をし始めた。ダージリン様もシナモン様もそれぞれ、スマホを取り出している。オレンジペコお姉さまは、ダージリン様がついにスマホなんて、と呟いておられる。このお弁当の写真をロック画面のルクリリと差し替えてくれと、アッサム様にねだるお姿。嘘でもそれくらい喜んでくださるのは嬉しい。いや、ダージリン様はそう言う嘘や気を使うセンスは、あまり持っておられない。

「やっぱり、2年生は何をさせても起用だわ。去年のケーキも美味しかったし、今年のお弁当も美味しいわ」
 戦車の履帯部分は、逆向きにタコさんウインナーを並べておいた。ダージリン様はおいしそうに食べてくださって、おそらくタコと言うことには気づいておられないだろう。
「恐れ入ります」
「本当に、自慢の2年生ね」
「ありがとうございます」
 OGのお姉さま方も、仲間たちが必死になって作ったおかずを口に運んで、じっくりと味わってくださっている。
「いいわね。ダージリンたちには、こんなおいしいお弁当が作れる後輩がいて」
「ご所望でしたら、いつでもお弁当を作って差し上げますわよ」
「あらやだ、ダージリンは愛菜を殺す気だわ」
 そう言えば、ダージリン様のお料理の腕前は、食べると死の淵をさまよう、と、ナモン様から聞いたことがある。分量と言を計らないそうだ。甘い方が美味しいだろうと、ドバドバとお砂糖を入れたり、香りづけのブランデーを勝手にケーキの生地に流し入れてダメにしたり、分離して固まらなかったプリンを、シナモン様に飲ませたり。伝説はいくつかお持ちだ。家庭科で唯一、かなり悪い点数を取ったことがあると言うのは、被害者のシナモン様から聞いた。連帯責任として、アッサム様もシナモン様も、点数を落とされたと。
「大丈夫ですわよ。うちのクラスメイトは、誰も死んでおりませんわ」
 プチトマトを口に入れて、ダージリン様は自信たっぷりに笑っておられるけれど、シナモン様もアッサム様も、無反応でいらっしゃる。死の淵まで連れていかれた痛みは、今も覚えておられるに違いない。


「こんなおいしいものを作れる子たちが、あの1年生を支えてくれるのなら、来年は安泰ね」

 ほとんど言葉を発することなく、美味しいと思っておられるのかもわからない、アールグレイお姉さま。アッサム様に向かって小声でそう言っておられるお言葉が、キャンディの耳に届いた。

「えぇ。キャンディ達は優秀ですもの。今の2年生は全員、本当に私の誇りですわ」
「そうね」
「来年も寄付をたっぷりしてくださいね、お姉さま」
「あなたもする立場よ?」

 どうして美味しいものを作れると、来年が安泰なのですかって。すぐにでも聞きたいと思った。でも、先代の隊長が安泰だとおっしゃるのだから、それはそれで素直に受け止めないと。きっと、キャンディにはわからない“法則”みたいなものがあるのだろう。わからないから、隊長の器じゃないのだ。

 アッサム様が誇りだと思ってくださっている。
 その期待に応えるには、何をするべきなのだろうか。


「キャンディ様!!」




 お姉さま方は少し学内を見学されると言うことで、一礼して別れた。遠くから見守っていたファンの集団がぞろぞろと移動し始める。メイド喫茶に戻る3年生とも別れた後、キャンディは2年生のお弁当のテントへと戻ることにした。
もう、14時前。撤収作業が始まっているリゼたちの姿。どうやらすべて、売り切ったようだ。

「えっと……はい?」
 
店番をしていたリゼとカモミールにお礼を言って、ダージリン様たちがとてもお喜びになり、お弁当箱や包みを気に入って、洗って使うとおっしゃっていたことを報告すると、ホッとしてくれた。スマホで写真を撮っていたことも、OGのお姉さま方が、とてもお優しかったことも伝え、学生艦を降りる前にもう一度会えたら、頭を下げに行こうと言いながら、片づけをしていると、整備科の1年生が声を掛けてきた。

「あの、お弁当、とても美味しかったです!!」

 マチルダⅡの担当をしている子だ。秋から、キャンディのマチルダⅡ担当班の正式なメンバーになった。

「そう。ありがとう、嬉しいわ。2年生みんなで作ったの。クラスに伝えておくわ」
「はい!あの、御礼を伝えておきたくて。いつも、キャンディ様にはルクリリ達がご迷惑をおかけしてばかりですし」

 こういう光景を、何度か見たことがある。
 ダージリン様やアッサム様に勇気を振り絞って声を掛ける、他学部の後輩たちの姿だ。

「えっと……こちらこそ、いつも、ルクリリたちが整備科を困らせてばかりで」
「い、いえっ!あの、と、とにかく、そのっ、お弁当、本当に美味しかったです。本当に」

 勢いよく頭を下げて、逃げるように走って行ってしまうものだから。キャンディはよければ、まだ整備科たちに差し入れでもと言うセリフを言えずに、見送るだけしかできなかった。

「キャンディ、モテモテね」
「………あれは、そう言うものなのかしら?」
「今まで、近くでよく見た風景と同じだと思うわ」
「…………アッサム様たちのような華はないのに?」
 カモミールは笑っているけれど、ただ、ティーネームを持っていると言うだけで、聖グロの中では特別視されることは、普通ではないだろうか。


 ……
 ………


 忘れていたけれど、キャンディはティーネームを授かっているのだった。
 自分に華がなくてすっかり自覚がなかった。


「私たちに華がなくても、花を咲かせるための手入れは得意じゃない?」
「………アッサム様直伝の、偽収支報告書も手慣れたものだし?」
 リゼの問いかけに、キャンディは改めて、テント傍の生徒たちを見渡した。
OGのお姉さま方を追いかけずにいた、知らない顔ぶれの後輩たちが、キャンディたち3人を遠くから眺めている。


 OGのお姉さま方みたいに、いるだけで悲鳴が上がるほどのカリスマ性はない。
 でも、ティーネームを授かっている。
それだけで、聖グロの生徒は特別な視線をくれる。
 期待と憧れを真っ直ぐに。
 裏切ることの許されないもの。


 ダージリン様がその背中で背負い続けたもの。
 これから、ルクリリが背負わなければならないもの。


「…………私たちは、私たちのなすべきことをしないとね」

 私たち“らしく”。


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Date:2016/11/19
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