【緋彩の瞳】 おとめごころ

緋彩の瞳

ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

おとめごころ

チャーチルに乗る日は、念入りに髪を梳き、一本の後れ毛もないように、丁寧に髪をまとめる。150cmしかない小さな体には、必要以上に大きい三面鏡。目が痛くなるほど見上げて、腕が疲れるほど、何度も何度も髪を梳く。
 国産の高いブラシ。朝のシャワーの後、ブロー用から仕上げ用までいくつもとっかえひっかえ。部屋を出なければ遅刻ギリギリに鳴る携帯のタイマーに驚かされるまで、朝、割と多くの体力と気力を出し尽くして、アッサムは髪をセットする。

 仕上げに、ほんの僅かに香る程度のコロンを毛先に付けた。


「ごきげんよう、ダージリン」
「ごきげんよう、アッサム」


 いつも通りの朝のミーティングが終わり、タンクジャケットに着替える。
 ペコやルフナが先にそれぞれの席に着き、そのあと、アッサムが砲手席に座る。


 髪を手櫛で軽く整え、呼吸をひとつ置く。
 ダージリンが、アッサムの背後にある車長席に腰を下ろした。



「ペコ、美味しい紅茶を淹れてちょうだい」
「はい」

 隊列訓練が順調に始まると、周りのマチルダⅡの動きを確認しながら、ダージリンは落ち着いて紅茶を飲む。アッサムはその穏やかな空気を背中に感じながら、どんな指示がいつ来てもいいように、ティカップを受け取ったりはしない。
 喉が鳴る音に耳を澄ませ、呼吸する胸の上下を背中で感じ、同じ狭い空間にいることを、じっと味わっている。


「あら、アッサム。いい匂い」


 ダージリンは、アッサムの髪を指に絡め、戯れて時間を潰すことがある。訓練中や、試合の途中でも、じっとしていることに飽きた空気が彼女を包みだしたら、目の前の玩具を握りしめるのだ。

「新しく買ったコロンを少し」
「そうなの?」

 握りしめられた髪はきっと、ダージリンの鼻のすぐ傍まで引っ張られている。
 それくらい近づけないと、香りはわからないのだ。
 アッサムは振り返ったりしない。指の狭間を流れる髪。
 朝から、丁寧に丁寧に梳いて、ふわふわと流れやすくしておいた髪。
 触りたいと、思ってもらえるように。


 ダージリンが唯一、触れてくれるアッサムの身体の一部。


「この匂いも好きよ」
「そう、ですか」
「前のものも、とてもいい匂いだったわ」
「前も、いい匂いだとおっしゃっていましたものね」
「えぇ。相変わらず、髪も気持ちがいいわ」


 所定の位置への移動のわずかな間。
 それですら、暇を持て余したら、ダージリンは髪に触れてくる。


 わずかに小指が右の耳に触れて、息が止まったとしても。


 この大きなチャーチルが動き続ける限り、そんな些細なことに気づかれることはないだろう。
 

「アッサムの髪、好きよ」
「何度も聞いておりますわ」
「そうね」


 振り返ったりしない。
 どんな顔でその言葉を口にしているのか、想像もしない。
 軽く引っ張られた髪が、今、ダージリンのどこに触れているのか。


 どこに触れてもいいように、その手に取ってもらえるように。
 また、明日も、丁寧に髪を梳き、ほんの少しのコロンを毛先に付けるのだ。





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Date:2016/11/30
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