【緋彩の瞳】 これにて、任務終了 ①

緋彩の瞳

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ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

これにて、任務終了 ①

「アッサ…………シナモン」
「何でしょうか、ダージリン様」


 あぁ、相変わらず。



 もう、何度も経験しているから、慣れたものだと身体は認識しているはずなのに、その様子を見た瞬間に、シナモンはため息を吐かずにいられない。

 アッサム様が、情報処理部のメンバーと共に学生艦を離れてから、2日目の午後。

「えっと、今日の射撃訓練の編成って、4部隊だったかしら?」
「午前中にもミーティングでお話した通り、2部隊です。ダージリン様がチーム分けをされたと、記憶していますが」
「………そうだったかしら?」

 1年生の時はソワソワしてイライラして、落ち着きがなくて、まるで、初めて幼稚園に預けられた3歳児の様だった。洗濯機も1人で使えないし、アールグレイお姉さまに言われた資料も揃えられないし、食事も喉を通らないし。今までどうやって生活していたのか、不思議な程のダメっぷりを発揮されて、バニラ様に玩具にされていた。オレンジペコ様と共に偵察から戻って来られたアッサム様は、憔悴しきったダージリン様にかなり呆れていらした。その時、まぁまぁと宥めたのはシナモンだ。


ダージリン様は、嵩森穂菜美は、中学時代は東日本のエースで、誰もが憧れ、誰もが目指した気高い人。今だって、多くの人の憧れを一進に受けている。
同じ中学だったシナモンは、いつも近くで彼女を観てきた。ダージリン様がアッサム様と出会って、蝶々が蜜を求めるようにひらひらと舞って、浮かれて踊るような姿を間近で見ていた。シナモンの知っているお高く留まった嵩森穂菜美は、まるで最初から存在していないかの様に。ご自分のために戦車道を突き進んでいるような人だったけれど、すっかり、アッサム様に魅了されて、傍にいるために戦車道をしていると、冗談じゃなくそんな風に見える。

 彼女たちは、クラスメイト達の目があろうとなかろうと、お構いなしの恋をしている。瞳が恋しいと鳴き、当たり前のように吸い付くように手を繋いで歩く姿は、1年生の頃、何度か見たことがある。もう、いちいち「付き合っているの?」なんてくだらない質問をする必要もないくらい。ただ、周りはいろんな想いの混じったため息を吐くだけだった。

 あの頃に比べたら、流石に3年生として重い責任を背負う立場になったわけだから、ずいぶんと落ち着きを持つようになったものだけれど、それでも、アッサム様が傍にいないダージリン様は、なかなか、巧く機能してくださらない。
旅立つ前日の夜、アッサム様から、ダージリン様をよろしくと頼まれて、クラスの皆もしっかりとサポートしていく約束を交わした。1,2年生たちに不安を与えないように、アッサム様がいなくても、きちんと計画した訓練をこなすようにするのが、シナモンに与えられた使命。


「計画書がここに。今一度、ご確認を」
「あぁ、そうね。そうだったわね。えっと、……そう。そうよね」

 パラパラと計画書を見直しておられるが、作る指示をされたのもダージリン様。とても頭のいいお方だから、一度見聞きしたことを忘れるなどありえない。ただし、例外として、アッサム様がお傍にいないと、残念なことにダージリン様はこうなってしまう。

「では、私はマチルダⅡ部隊に戻ります。ペコと司令塔に上がって、指示をお願いいたします」
「そうね、アッサムがいないものね」
「そうですよ。しっかりなさってください。くれぐれも後輩に不安を与えぬよう」

 ムッとされ睨みつけられても、アッサム様が傍にいないダージリン様は、ただのクラスメイトとそう変わらない。シナモンは中学の頃から、6年近く同じチームで戦車道を続けていたのだ。尊敬しているが、雲の上の人ではない。今は後輩の手前、ダージリン様とお呼びする立場でも、穂菜美ちゃんって呼んでいた頃だってある。

「えぇ、わかっていますわよ。アッサムがいないから、私はチャーチルに乗れないのでしょう?」
「ダージリン様が乗りたくないとおっしゃるから、チャーチルが動かせないんです」
「誰も砲塔を回す人間がいないのだから、乗る理由もないわ」
「……拗ねている場合ですか?」

 音を立てて隊長椅子から立ち上がったダージリン様は、シナモンに向かって唇を尖らせて見せてくる。取りあえず、なすべきことを思い出してくださったよう。

「きちんと働いてくださらないのなら、アッサム様とグリーン様に告げ口しますからね」

 扉を開けて、出て行こうとする背中。振り返り、ジロリとにらまれても、戦車に乗っていないダージリン様は、特に今のダージリン様はまったく恐怖を感じない。

「大丈夫よ、シナモン。私を誰だと思っているの?」

 だったら、計画書を読み直すことも、ぼんやりも、しないでもらいたい。

「ダージリン様です」

 なんて、口に出すことなく、肩をすくめてみせた。




「シナモン、今日の訓練の各車の撃破率をデータにして見たいわ」
「作成するように、キャンディに指示を出しています。情報処理部から上がってくるまで時間をください」
「アッサムなら5分よ」
「アッサム様でもグリーンでも、キャンディでも、かかる時間は同じです」


 ティータイムは、ルクリリたち1年生に囲まれて、いつもと変わらない様子をしっかりと演じておられた。むしろ、アッサム様がおられないことで、ローズヒップ達の方がソワソワして、ダージリン様に落ち着けと怒られるほど。それを見ていたシナモンたち3年生は、みんな背中を向けて笑うことを我慢している。それでも去年のように、苛立ってお茶会も開かずに隊長室で1人、籠って出てこなくなるということは、もうなさそうだ。にぎやかな1年生に囲まれてしまえば、それどころではないのだろう。


「ダージリン様~、アッサム様はお元気ですか?お手紙来ましたか?」
「ローズヒップ、アッサムは遠い国に行ったわけじゃないのよ。明日帰ってくるのだから」
「でも、捕虜にされてしまっているかもしれませんですわ~」
「そんなことあるわけないでしょう?それよりも、アッサムがいない間にカップをいくつ割るつもりかしら?まったく、たるんでいるわね。たかがアッサムがいないくらいで」


 3年生の誰かが、吹き出さないように口を両手でふさいでいる仕草が視界に入った。いつもはアッサム様が座る席に座らされているシナモンは、笑わないように、そっと自分の膝を抓って耐えて見せる。ここで笑ったら、めんどくさい感じで機嫌を悪くしてしまうだろう。

「早くアッサム様にお会いしたいですわ~。戻って来られたら、いっぱい頭を撫でてもらいますわ」
「ローズヒップは怒られるだろうな、カップ割ったし」
「ルクリリも割りましたわ!」
「ローズヒップが味方撃ちしてきたからだろう?!」
「目の前に飛び出すからですわ!」
「私は指示通りに動いただけ!」
「………2人とも、指示と逆方向でしたけれどね」
 アッサム様がいない間、ダージリン様と共に戦車に乗らないペコは、司令塔から戦車同士で喧嘩をしている仲間を見て、さぞハラハラしたに違いない。
でもお陰様というか。ローズヒップが、誰かさんよりも激しくアッサム様がいないことで慌てふためくものだから、何だかんだと言いながらも、1年生漫才トリオの前では、いつもの通りに背筋を伸ばしておられる。食欲も減退されてはいないようだ。夕食中も、1年生に振り回されて、ローズヒップとルクリリが訓練中にティーカップを割った報告書を読みながら、クドクドお説教しているお姿を見ることができた。アッサム様がお帰りになってから、面白い報告ができそうだ。





 3日目。早朝から始まる行進間射撃の訓練、隊列訓練、紅白戦と続き、さほど悪い動きでもなかったにもかかわらず、1年生にクドクドとお説教をして気を紛らわせているダージリン様の携帯電話が鳴った。

「あら、アッサムだわ」
「アッサム様からですの?!!!!!!」

 おそらく、予定通りの時間に学生艦に戻ると言う報告だろう。携帯電話を耳に押し当てて、いつも以上にくどい説教をされていた頬が、一瞬で緩んだ。

「アッサム様~~~!!!ご無事ですか??!!」
「こら、ローズヒップ!」
「馬鹿!今、怒られている真っ最中なのに!」

 久しぶりといっても、3日振り程度のアッサム様の声に喜んだのも一瞬、隊長机を挟んだ向こう側から携帯電話を取り上げたのはローズヒップだ。バニラもペコもとんでもない行動に出たローズヒップを捕まえようとするけれど、隊長室を走り回っている。


「寂しいっていう態度を出すのは、可愛いものですね」
「…………シナモン、笑っていないで捕まえなさい。大事な報告の電話よ」


 折角、頬が緩んだと言うのにダージリン様は。青筋を立てた笑顔はとても迫力がおありだ。
グリーンがいれば、上手に盗撮をしてくれたに違いない。心の中でシャッターを押して、4人に取り押さえられたローズヒップの頭を叩いて、使い古された携帯電話を取り戻した。

「アッサム様」
『あら、シナモン。ローズヒップが騒がしいのだけれど、大丈夫?』
「はい、大丈夫です。予定通りにお戻りで?」
『えぇ、そうね。15時半までには帰るわ。報告会の準備は私とグリーンで進めておくから』
「わかりました」
『ごめんね、面倒を任せて。ダージリンのお守り、あと少しお願いね』
「お任せを」
『じゃぁね』

 ダージリン様へお渡しするよりも先に、言うべきことは言ったと言う感じでアッサム様は電話を切ってしまわれた。話を聞いて電源を切った後、殺意の篭った視線が隊長机の向こうから矢のごとく飛んできたような、そんな気もしないわけでもない。

「予定通りだそうです」
「………そう。アッサムは、あなたに電話をしてきたわけではないはずだけれど」

 なぜ、替わってくれないのか。1年生たちがいる手前、シナモンに対しての不満を遠まわしというか、ダイレクトに聞いてきても、アッサム様は本当に、ただの報告をしたかっただけなのだろう。ダージリン様のお声が聞きたい、という感じでもなかった。あちらは限られた時間で走り回っていて、恋しいだの寂しいだのと感じているお暇はないはずだ。

「よろしく伝えておくようにと言われて、切られました」
「…………そう」

 恨めしい想いが、ローズヒップとシナモンを何度も往復して、手元に戻ってきた携帯電話の着信履歴を追いかけようかと、葛藤されている様子。


「ズルいですわ、シナモン様!アッサム様のお声、聞けませんでしたわ~!」
「ローズヒップ、あなた、自分が置かれている状況を分かっているの?これ以上、ダージリン様を怒らせると、夏の大会に出場させてもらえなくなるわよ?」
 
 ローズヒップたちを説教している真最中だったことを、すっかり忘れておられるダージリン様。携帯電話を握りしめて、誰を想われているのだか。

「ローズヒップ、バニラ、クランベリー、ペコもルクリリも。午後はずっと、草むしりをしてなさい」


“え~~!!!”

 初夏の日差しが厳しい午後。たまった鬱憤は、1年生たちにグラウンドの草を引っこ抜かせたところで、消えたりしないと言うのに。それでも、何か小さな復讐をせずにはいられなかったのだろう。
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Date:2016/11/30
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