【緋彩の瞳】 ゆらぎ ①

緋彩の瞳

ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

ゆらぎ ①

「あなたって言う子は、もぅ!何度同じことを言えばわかるの?!」


 正座したローズヒップが、シュンとした顔でアッサムの雷を受けている。とはいっても、身体がゴムでできているのか、雷を何度受けようとも、お叱りの1時間後にはヘラヘラ笑っているのがこの子の良いところ。もう、アッサムの激怒する声が本当は好きなのではないか、と疑ってしまうくらい。

「そんな反省しているフリをして見せても、無駄ですからね。あなたは今日から3日間、放課後は校内の落ち葉を掃いてなさい」

 唇を尖らせて、床を見つめて反省している姿を見せても、今日のアッサムはそんなかわいいアピールに動じない。紅茶を手にしたまま、はしたなく大笑いして、アッサムに盛大にカップごと、紅茶を飛ばしたのだ。退学にならないだけマシというもの。その様子を見ていて、なんとか笑いを堪えきった。少しでも笑ったら、同じように正座をさせられて、アッサムからの怒りの雷を受けていたことだろう。その場合、ダージリンの方が下手をすれば、雷は大きいかもしれない。

「でも、笑かしたのはルクリリですわ」
「ちょっと待て!笑いなんて取ってないって!」

 ローズヒップの半歩後ろ、自主的に正座をしているのは次期隊長のルクリリと、道連れにされているペコ。

「責任を人に押し付けるなんて、そう言う人は大嫌いだわ」
「アッサム様~~~お嫌いにならないで!!!」

 紅茶で濡れた髪に、染みたセーター。怒りをぶつけていないで、脱いで染み抜きをするとか、髪を洗いに行く方が先ではと言いたいところだけれど、まだ、教育的指導と言う雷は黒い雲を背負い、ゴロゴロと鳴っている。
 だから口を挟まず、その声を聞きながら、ダージリンはペースを乱すことなく、ただただ紅茶を味わっていた。

 アッサムのガミガミと怒る声。口調はキツイけれど、それでも全く嫌な気持ちにならない。怒られているのが自分ではないからなのだろうか。それとも、この風景が楽しいものだからだろうか。楽しいなんて言えば怒りの矛先は、やはりこちらにも来るだろう。

「アッサム様~~、何でもしますから、嫌いにならないでくださいませ~~」
「何でもするのなら、すぐに箒を持って掃除しに行きなさい」
「アッサム様~~~」

 正座からヨロヨロと立ち上がったローズヒップは、紅茶のしみ込んだ髪を気にしながら、プリプリしているアッサムに抱き付こうと両手を広げている。

「ルクリリ、止めて」
「あ、はいっ!」


「アッサム様ぁぁ~」


「こっちに来ないで!」
「うわぁぁ~!」


 ここからコントが始まるわね。心の中で拍手をしていると、想像通り、痺れた足のままのローズヒップとルクリリは、2人揃ってアッサムになだれ込んだ。ペコが“ジーザス”と言いたげに両手で目を隠しているすぐ傍、身体の小さな 3年生の先輩は、1年生2人に押しつぶされてゆく。


 わずかな埃が舞い、アッサムたちが床に倒れた鈍い音が絨毯に吸収されていった。

 最後の一口を飲み干して、心の中で幕が閉じるシーンを描いて小さく拍手している自分を想像する。


「アッサム、大丈夫?」
「アッサム様、ご無事ですか?」

 乗りかかってきた2人分の体重を支えきれず、見事に倒れ込んだアッサムの髪は濡れたまま床に広がっている。ペコがルクリリをどけて、ローズヒップを蹴飛ばして、アッサムに腕を伸ばした。

「…………ダージリン!優雅に紅茶を飲んでいる場合ですか?!」

 どこかで飛び火するかもしれない、とは思っていたけれど。倒れ込む後輩の責任まで持てないものなのだ。空になったティーカップを机に置いて、仕方がないと立ち上がった。

「ペコ、そちらの2人はお任せするわ。2人は3日間、アッサムに接近禁止。幹部席での食事も禁止、紅茶の園への入室も禁止。綺麗に落ち葉を掃いておいてね」
「了解です」


 ペコの目は、申し訳なさそうにアッサムの機嫌取りをよろしくと、見上げてきている。本当に子犬のようで愛らしくていい子だ。ルクリリがとばっちりだって喚いているけれど、連帯責任なのだから、文句を言う筋合いでもない。

「立てる?」
「まったく、ダージリンがもっと厳しく育てないから」
「1年生はアッサムに任せると言ったわ」
「それはそうですけれど!手に負えないことだってあります!」

 乱れた髪はまだ、紅茶の湿り気を残していて、セーターも同じように所々地図のように色が違っている。中のシャツまでシミができているかもしれない。そのことを口に出せば、心配する場所が違うってまた、お怒りで目が釣り上がるだろう。見てみたいものだけれど、接近禁止令がこっちにも出されかねない。それはダージリンの生命維持の観点において、回避すべきこと。

「だから、3日間は近づかせないわ」
「嫌ですわ~~~!」
「ちょっと黙ってください、ローズヒップ」

 団子状態の1年生を一瞥して、アッサムは乱れた髪を手櫛で梳く。スカートをパンパンと叩くと、怒りを背負ってティーラウンジを出て行こうとした。

「ペコ。じゃぁ、後はよろしくね」
「はい!」

 ダージリンはペコに手を振り、その濡れた髪を追いかけた。シャワーを浴びて服を着替える間の苛立ちに付き合ってあげないと。
 寮へと戻る途中、キャンディたちとすれ違ったが、みんなアッサムの紅茶に濡れた姿と怒りのオーラを見て、すぐに犯人を思いついたのだろう。知らんぷりしてなるべく視線を遠くへと逃がしていく。この様子の全部は、幕が上がってアンコールを見ている気分で、ダージリンには面白い。本当に、面白い。もちろんそんなことは口にしたりしない。


 それにしても、ローズヒップたちは羨ましい。こんな風に、アッサムをプリプリさせてしまうなんて。激怒する声を間近で聞けるなんて。


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Date:2016/12/18
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