【緋彩の瞳】 恋文 ①

緋彩の瞳

ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

恋文 ①

「ローズヒップ」
『…………ひぃっ!!ごめんなさいですわ!もう、ドリフトしませんわ!』
「あら、ドリフトをしていたの?私はあなたの名前を呼んだだけよ?」


 少し低いダージリンの声。隊列の最後尾にいたはずのローズヒップ車が、方向転換のたびに勝手に速度を上げてドリフトをする。ばれていないと思っているのだろうか。エンジン音だけでわかるのに。3度までは見逃したものの、やはり、堪忍袋の緒が切れたようだ。アッサムは身体半分をハッチから出している、ダージリンの静かな怒りを背に感じながら、やれやれ、とため息を吐いた。見上げれば初夏の日差しと共に、鬼のような角の影も見えるかもしれない。訓練の後、隊長室で始まる説教を傍で聞かされるのは、もう慣れてしまっているけれど、何度反省文を書かせても、めげない性格が羨ましいとさえ思ってしまう。


『履帯の調子を確認していただけですわ!!』
「あらそうなの?昨日、新品に交換したばかりの履帯はドリフトした方が、より使いやすくなるのかしら?」
『うっ……えーっと、えーっと……土の状態によりますわね!』
「あらあら、そうなの?知らなかったわ」



 チャーチルの中に気まずい空気が流れて、ペコがいたたまれなくなって無線のヘッドフォンを耳から外した。助けてくれと言いたげな子犬のような視線が、アッサムに向かってくる。

 互いに、ただ、ため息を吐くだけだ。


「………あの馬鹿は」
「アッサム、あなたの指導はどうなっているのかしら?」
「申し訳ございません。訓練が終わり次第、首根っこ捕まえて隊長室に連れて行きますので」

 アッサムの教育担当は、聖グロの戦車道の隊員としての礼節やたしなみなどであり、戦車道そのものについては、すべてダージリンが背負っているはずなのだけれど、と言えるわけもない。世話を押し付け合っても、あるいはどれほど厳しい言葉を浴びせたとしても、素直に言うことを聞くのであれば、それはもう、クルセイダー部隊を率いるローズヒップではないかもしれない。

「申し訳ございません、ローズヒップが……」
「ペコ、あなたはいいのよ」
「はぁ……」

 ダージリンの優しい声も、眉をハの字にしたペコは受け止めきれないでいるようだ。

「困ったものね」
「ですが、ダージリンがあの子をクルセイダーの部隊長にしたのでしょう?」
「あら、反対しなかったアッサムに言われたくないわ」
「反対しましたよ、心の中で」
「あら?おかしいわね」

 わざとらしく、アッサムの黒いリボンのすぐそばまで近づいてくる。意地悪く、聞き耳を立てた仕草でもしているのだろう。わずかに感じる吐息。履帯のうるさい音に震える鼓膜は、いつも、ダージリンの吐息だけを聞き分けて、真っ直ぐにアッサムに届けてくれる。

 すぐ、そこにある唇。
 分かっているから、振り向くことなどできない。  


 心ではなく、本物の声が出てしまいそうになるから。


「…………あなたの心の声は、どうやら聞こえないみたいね」


 あなたが好きです。と。


 聞こえてしまうほど、彼女が繊細で敏感な人であれば。
 アッサムは何食わぬ顔をして、共にチャーチルに乗ることもできなくなるだろう。

「簡単に聞こえるような周波数ではありませんので」
「ペコにキャッチさせましょう」

 無線機で捕まえることができれば、戦車道全員にこの気持ちは全てさらされることになってしまう。いっそ、それも悪くないかもしれない。そうなってしまえば、背中はとても軽くなるだろう。開き直って、笑い話になるのならば、涙すら出る幕もない。

「……申し訳ございません、私がお2人の代わりに、ローズヒップの頭を殴っておきますので!」
「あら、ペコはアッサムの心をキャッチしてくれないの?残念だわ」
「ダージリン。軽口を言ってないで、そろそろ次の指示を」
 
 
 道は永遠に真っ直ぐ続いていないのだ。
 右でも左でもいいから、どちらでも方向を指示してもらわなければならない。


 どちらでもいい。
 正反対に走れば、道が消えてなくなっているとしても。

 届かぬ想いも。
 届けられない想いも。

「全車、隊列を組んだまま左へ」


 本当に、どちらでもいいだなんて欠片も思ってなどいないのに。




 DEAR 大好きなあなた

 届かぬ想いを毎日綴る、これはただの自己満足なのでしょう。
 この手紙が届くことはないからこそ、こうして、落ち着いて文字を綴ることができるのだと思います。
 あなたがとても大切にしている後輩たち。彼女たちを想う、その心根の優しさに触れるたびに、私はため息を吐くのです。このため息の色はどんな色なのでしょう。嫉妬?それとも、寂しさなのでしょうか。
こうして、文字を綴る静寂の波間に、自らの中にある答えと向き合わなければなりません。いえもう、呆れるほどの時間、向き合い続けているのです。
 本当は、十分にわかっていると言うのに、自らの心を誤魔化そうとする、そんな愚かな想いに引き摺られつつ。

 それでも、言葉になど出せぬ弱い私はまた、何食わぬ顔であなたと紅茶を飲みかわすのでしょうね。
                                  



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Date:2016/12/18
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