【緋彩の瞳】 鈍い彼女

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ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

鈍い彼女

ダージリンティーを一口飲んだ。

 ちょっとだけ苦くて、淡く広がる。


 恋の味。






 1年生3人とグリーンを連れて、ダージリンは船舶科との会合に出掛けた。ルクリリに経験を積ませるためと、おそらく帰りに今日から始まる、1人2つまでの『ホワイトローズ』の限定モンブランを買うために必要な人数を揃えたかったのだろう。どうしても、整備科との予算ミーティングが終わらなかったアッサムを置いて、機嫌よく出て行った彼女の両腕にぶら下がっているであろう1年生たち。船舶科との大切な会合よりも、モンブランのことで頭がいっぱいに違いない。



「………静かね」


 クルセイダー修繕費の予算一覧を手に隊長室に入ると、開かれたカーテンの向こうにある色づき始めた桜の葉先が視界に入った。黒革の、とても女性が座るには似合いそうにない隊長椅子は存在感があるはずなのに、座るべき人がいないと、それはアッサムの注目を浴びることができないでいる。
 3枚の予算書類を机の上に置いて、代わりに束になっている訓練報告書を手に取った。その隊長机ではなく、部屋の中央にあるテーブルに置いて、静かな部屋の電気コンロのスイッチを入れる。お湯を沸かして、お茶を飲む準備をした。

 硝子ケースに丁寧に並べられているティーカップ。小さな青い薔薇をちりばめているダージリン愛用のティーカップと、赤い薔薇の色違いのアッサムのティーカップ。一度、赤いものを手に取り、思いなおして青い薔薇の柄のティーカップを選び、お湯で温めた。

 いつもより丁寧にダージリンティーを淹れて、テーブルに置く。誰もいない隊長室であろうとも、どんなことがあっても隊長席にダージリン以外が座ることなどない。座りたいなどと思ったこともない。

 広い部屋の中、青い薔薇のティーカップに注がれた紅の色。


 手に取ったティーカップ。
 喉の奥に伝わるダージリンの香りは、チクリと胸に罪を届けようとする。


「………これって、間接キスですわね」


 わかっているけれど。



 だから、このティーカップを選んだのだけれど。



 唇に触れる、その場所。毎日のように、このティーカップでおいしそうに紅茶を飲む、ダージリンの姿。時々、ちらりと盗み見るたびに視線がぶつかり、投げかける恋の想いを吸い込む力に抵抗できずにいる。


「味が良く、わからないわ」


 喉の奥に流れ込むのは、彼女への恋情。
 吐き出さずに飲み込むばかりの、自分の感情になど、味はなく、どちらかというと苦くて、ただ、不快なだけ。

 それでも、苦くて、嫌なものだと言うことを想い知らされている方が良いのだ。
 いつか、吐き出したいと言う感情がちゃんと芽生えれば。

 そんな日が来るのなら。





「ただいま、アッサム」
「………あら、ダージリン。あの子たちは?」

 隊長室に戻ると、アッサムがテーブルに報告書を広げていた。整備科との打ち合わせが終わり、待っていてくれたのだろう。モンブランを2つ入れた紙の箱を見せると、お茶を淹れると立ち上がろうとするので、それを目で制した。

 

「モンブランを手に、キャンディ達の元に行ったわ。ここでは狭いから、みんなでラウンジに行くそうよ」
「そうですか」
「モンブランには、アッサムティーがいいわね」

 どうやら、一度お茶を飲んだのだろう。硝子ケースから取り出したティーポットは、お湯で洗われたのか、温かさが残っている。


「そうですね」
「さっきは何を飲んだの?」
「えっと、ダージリンを」
「…………そう」

 温かさの残る青い薔薇のティーカップと、ひんやりと冷たい赤い薔薇のティーカップ。


 間違えた、なんて言うことはないだろう。大したことと思わずに、使ったのだろうか。

 間接キスだって、わかっていて。
 いや、そんなことすら大して気にも留めなかったに違いない。

 そんなことに敏感になるのは、ダージリンだけだ。
 過剰に反応すると、うっかり余計な一言を告げてしまいかねない。


 ミルクを注ぎ、その上から濃い目にしたアッサムティーを注いだ。
 匂いも色も味も、ダージリンにはただ苦くて、胸にチクチク何かが刺さるような痛みが身体を包むもの。

 美味しいと、感じられない理由は知っている。


「どうぞ」
「え?あの、私のは、こちらではありませんが?」

 モンブランをお皿に載せて、フォークを添えて待っていた、その目の前にティーカップを置くと、袖が触れるほどの距離に腰を下ろした。


「あら、だって、さっきはそれを使っていたのでしょう?」
「えっ?」
「あら、違うの?」
「あ、いえ、あの……その………申し訳ございません、間違えていた、ようですわ」
「気にしないで」
「……………はい」



 アッサムがいつも使っている、ティーカップに触れた唇。

 気にしないで、と言ったのはダージリンなのに。
 気にしないフリを必死にしようとしているのも、ダージリン。

 味など、わかるはずがない。
 わかるのは、何か胸が苦しくて、痛いと思うことくらい。


「あの……ダージリン」
「何かしら?」
「…………いえ、何も」



 震える右手、わずかに音を立てて、ティーカップをソーサーに置く。
 手が出ないモンブランが、2つ。

 とても、胃が受け付けようとしない。

 それでも、何事もないフリをしなければ。




「…………ごめんなさい、勝手にティーカップを使って」
「気にしないわ」
「…………間接キス……ですよ」
「別に、直接でも構いませんことよ」


 
 ほら、だから余計な一言を言ってしまわないようにと、あれほど自分に言い聞かせていたと言うのに。


「……そう、ですわね。では、それはまた、その、後日ということで」
「いつでもどうぞ」


 本気を冗談と捉えて笑ってくれるのであれば。


 安心の溜息と、寂しいため息が入り混じるだけだ。


 アッサムが鈍すぎるから、助かっているような、困っているような。




「ダージリン、相当鈍いですわね」


 そっぽ向きながら、青い薔薇のティーカップを唇に押し当てるから。




「………お互いさまだわ」




 何だか理不尽な想いがして、ダージリンも反対側にそっぽ向いた。



 アッサムティーを一口飲んだ。

 ちょっとだけ苦くて、淡く広がる。

 やっぱり、恋の味がする。



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Date:2016/12/23
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