【緋彩の瞳】 リリーが愛する人 ①

緋彩の瞳

スポンサー広告

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

*    *    *

Information

ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

リリーが愛する人 ①

“リリー”こと、ルクリリお姉さまは、“オレンジペコ”の前では、必ずブラックコーヒーを飲まれるお方だった。バニラにいつもマズい紅茶を淹れるんじゃないと言う割に、ただ、お姉さまは紅茶そのものが、お好きではなかったから、更にマズく淹れるバニラの紅茶を、本当に嫌そうにしておられた。

 オレンジペコは聖グロの寮ではずっとミルを隠し持っていて、3年生になった時、隠れコーヒー党のアッサムにそれを譲った。今も多分、アッサムは使っているだろう。



「愛菜、おはよう」

 …
 ……
 ………



「………リリー、スッキリさっぱり、どこでお風呂に入って来られましたの?」
「さぁ?暗闇の中、タクシーで向かった女の子のマンション。場所は酔っていたからわからないわ。あ、でも、うちの大学の子じゃないらしいわよ」
「………左様ですか」

 煙草とお酒の匂いをプンプンさせて、夜中に勝手に作られた合鍵で入って来られるよりは、朝にシャワーを浴びましたと言う感じの方が、同じ不快でも……違うような気がしないような。

「あ~い~な~。今日は講義が昼からだから、今からベッドで遊びましょう」

 すでに服を着替え終わって、朝からの講義を受けるためにお弁当を作っている最中だと、見てわかるだろうに。エプロンもしているし、菜箸を握りしめたままの姿の、何を見ているのだろう。

「あいにく、私は1限目から講義がありますのよ」
「さぼりなさいな」
「嫌です」
「名前も知らない可愛い子で遊んだ手を、綺麗にするのはあなたの仕事でしょう?」
「汚らわしい手で、触らないでくださいませ」

 菜箸で目を突いてやろうかと言う気持ちを押し殺して、オーラだけは見せつけたものの、遠慮なく後ろから抱き付いて胸をわしづかみするリリー。真っ白ですべすべした左の薬指には、無理やりに買わされた指輪が嵌めてある。愛菜は同じものを持っていないが、同じブランドのネックレスを強引に付けさせられていた。別にお揃いでもないから、それだけで何か怪しまれるものではない、はず。

「愛菜~~、いい匂い。お弁当、私の分も作っておいて」
「お昼から講義なのでしょう?」
「だから、ここで食べてから行くわ」
「………でしたら、作る時間が減りますので離れてください」
「あと10回揉んでから」

 1,2,3,4とイチイチ声を出して胸をエプロンの上から揉んでくる。焦げくさいだし巻き卵のフライパンから、熱し過ぎた煙が薄く立ち上る。火を消して10を待つと、そっと離れたその身体に、渾身の肘鉄を与えた。


「ぐっ………痛いじゃない」
「邪魔です。キッチンに入らないでくださいと、何十回も言いましたわ。料理中にも抱き付くなと言いましたし、朝の貴重な時間を奪うなとも言いましたわ」

 大学生になってすぐ、賃貸マンションを探すのに勝手についてきて、勝手に決めて、当たり前のように勝手に合鍵を作られた。よそで遊ぶ日以外は、多分これは一緒に住んでいるようなもの。認めたくはないんだけど。

「あぁもうそれは、ほら、全部が愛の告白よね。私も愛菜を愛しているわ」




 海に、漬物石を巻き付けて沈めてやりたい。




「邪魔です」
「はいはい。もぅ、素直に私のことを好きと言えばいいのに。愛菜ったら」
 お弁当箱に入れる前のプチトマトを口に入れながら、リリーはひらひらと左手を振って、ようやくキッチンから出て行った。どうせ、服を脱いで、下着一枚で二度寝に突入に違いない。イチイチ反応したら、調子に乗ってまとわりつくのは目に見えてわかる。愛菜は服を1枚1枚脱いで床に落とすリリーを想像しながら、そのまま放置しておこうと決めて、お弁当におかずを詰めていった。

 …………プチトマトが1つ少ないのは、リリーの分を減らそう。


「愛菜、お疲れ」
「聖那。麗奈は?」
「もう来るって」

 3人それぞれ、違う学部を専攻しているため、聖那と麗奈とは、カフェテリアで待ち合わせをして、ランチを取る。たまにはお弁当を食べさせろと駄々をこねた聖那のために、今日はお弁当を4つも作った。昼からの講義を2つ受けたら戦車道の訓練がある。

「明日、ホテルのお店は予約したの?」
「麗奈がフレンチのお店をね。アッサムとは久しぶりに会うみたいよ」
「そう。でも、私たちもずいぶん長い間、顔を見ていないわね」
 
 定期的に、アッサムやダージリンからはOG会に向けて一斉メールが入る。他校との練習試合や、嘘くさい寄付金の収支報告書、新入生の戦車振り分けが終わったことや、数名のティーネームが決まったことなど。個人的なメールも時々入ってくる。グリーンやアッサムから、困った新入生がいて、胃が痛いと言うメールが来たり、ダージリンから、寄付金というタイトルのメールが来て、開いたら、金額だけが入っていたりしたこともある。あれは、学生艦に寄り付かないことへの、寂しいと言うアピールに違いない。


「アッサムたち、ちゃんと3年生らしくしているかしらね?」
「うーん。あの子たちは、本当に大人の階段を昇らないのよね」
「……久しぶりに会うんだから、あの子たちが機嫌を損ねるようなことを言わないでね」

 お弁当の包みを広げると、プチトマトがない。間違えてリリーのものを持ってきたようだ。それ以外は同じだから別にいいけれど、何だか腹が立つ。


「あ、ルクリリお姉さまと麗奈だわ」
 春の暖かな正午。
 外からの柔らかい光が差し込むカフェテリアの窓側に座っていた愛菜と聖那は、入り口付近でキャー!なんていう悲鳴が聞こえたので、それに反応して眉をひそめた。
「………2人が並ぶって、気持ち悪い」
「ホントよね。麗奈の嫌そうな顔ったらないわ。まぁ、笑顔なんて無理でしょうけれど」
 それはリリーに捕まった麗奈が悪い。真っ直ぐに2人揃ってこちらに来ようとするものだから、迷惑極まりない。リリーなんてお呼びじゃないのに。と言うか、昼は家で食べると言うのは、嘘だったのだろうか。


「ごきげんよう、聖那」
「ルクリリお姉さま、ランチをご一緒なんて珍しいですわね」
「可愛い聖那の顔を見たくてね」
「あらやだ、嘘っぽい」

 
 待って。当たり前のようにお弁当箱を出して来る気?と思って、一瞬ドキッとしたけれど、携帯電話だけをテーブルに置いたリリーは、コーヒーを買ってくると、すぐに席を離れて行った。

「ルクリリお姉さまは、もう食事を済まされているみたいよ。家で早めに食べて、暇だから学校に出てきたって」
 麗奈は迷惑そうなため息を漏らした後、お弁当をよこせと手を差し出してくる。愛菜は持ってきたお弁当箱を渡して、報酬として売店で売っているお茶を受け取った。
「…………暇を私たちで潰したいだけなのね」
 コーヒーを買うだけなのに、元聖グロっぽい女の子たちがリリーを取り囲んでいる。見慣れた光景と言えばそうなんだけど、何と言うか、女の子に囲まれて本当に楽しそう。この女子大は人数も多いから、聖グロ時代と違って、いろんな顔ぶれを楽しむことができる。リリーにはパラダイスだろう。その気になれば、昨日の夜のように他所の学校の女の子とも遊べるわけだし。

「愛菜、青筋立っているけれど?」
「何?」
「何でもない………相変わらず、大変ねぇ」
「何が?」
「………別に~。ね、麗奈?」
「そうね」

 気づかれていることはわかっているけれど、リリーのことを2人に話したいと思えない。愚痴をひとつ言えば、3つ4つ、10,20、100位なら出てきそうだ。だったら別れたらいいのに、なんて言われることはわかっているし、そう言う問題でもない気もするし。そもそも、どうして付き合っているの?という問いに何と答えればいいのかもわからない。とにかく何というか、誰にも知られたくはないのだ。誰にも知られたくないと思っているのは、リリーだって同じに違いない。その割に、見せびらかすための指輪をしているのが不思議だ。遊び相手の部屋でも、外すことはないからね、なんてヘラヘラしているけれど、もう本当に、好きにしてくれたらいい。知ったことではない。


「あら、3人お揃いのお弁当なの?」
「今日は、愛菜の手作りが食べたいって言うお願いをしていたんです」
「へぇ、いいわね。私も食べたい」
「ダメです」
「じゃぁ、一口食べさせて」
「もっとダメです」


 聖那の広げたお弁当箱に手を伸ばそうとするリリーは、食べてきたくせに、調子の良いことばかり。麗奈はそっぽ抜いて、お弁当を隠すように食べている。

「そう言えば、この前、聖グロからのメールで、1年生にティーネームを付けたって連絡があったけれど、あなたたちは具体的に聞いたの?」
 焦げただし巻き卵を1つ奪われた愛菜は、その手からお箸で奪い返して、椅子を蹴飛ばした。何で隣に座ってくるのだろうか。キャーキャー言っている子たちから、何か恵んでもらえばいいのに、というか、食べてきたくせに。
「私たちも、何人かティーネームを付けたということだけしか」
 聖那は、自分の妹にバニラを付けたことを黙ったまま。気を遣って、わざわざ妹にティーネームを付けたんじゃないかって、ちょっとムッとしていたようだけど、満更でもないそうだ。アッサムからの情報では、かなりのスピード狂がいるらしく、その子にバニラと付けるかどうか、悩んだらしい。でも、顔が『バニラ』ではなかったそうだ。
「うーん、横浜に来た時にでも、突撃して新入生の顔でも見に行こうかしら」

 ちょうど、今横浜に来ている。忘れておられるのだろう。

「そんな、ただの迷惑行為をしに行かないでくださいませ、ルクリリお姉さま」
「あら、愛菜。迷惑だなんて。私はちゃんと小切手を持って行くわよ?しかも私、今年のOG会の幹事なんだから、行かなきゃダメでしょう?」

 キャーキャー叫ばれたいだけかもしれないけれど、果たして今年の新入生が何年も前に卒業したルクリリお姉さまという人物を知っているかどうか。麗奈や愛菜のことだって知らない可能性も高いのに。とはいえ、知らないなら知らないで、3連続準優勝という功績を自慢げに語りながら、ウブな高校1年生の頭を撫でまわしていくに違いない。

「………愛菜、顔が怖い」
 前に座っている聖那は、ご愁傷さまと呟いて、憐れみをくれたけれど。この人に幹事を押し付けた麗奈は自分には無関係と言わんばかりに、ずっとそっぽ向いたまま。
「今の隊長は、去年と同じでダージリンだったわね。副隊長がフランス人形っぽい子」
「アッサムです」
「そうそう。あの子たち、本当に可愛い顔しているわよね。食べちゃいたいくらい」
 一瞬にして殺意が沸き上がった麗奈は、ジロリとリリーを睨み付けて、それから愛菜を睨み付けた。こっちを睨まれても、この人の適当な戯れを止める方法なんて知らないのに。
「………アッサムに少しでも触れたら、犯罪者として突き出しますわ、ルクリリお姉さま」
「麗奈、どうしたの?」
「アッサムは、私の妹分です」
「ダージリンならいいの?」

 いいわけがない。

「ダージリンは、私が育て上げた大事な後輩です。聖グロの学生艦にナンパ目的で行くのはおやめください」
 寄付なら郵送で小切手を送るか、口座に送金をすればいい話だ。ダージリンやアッサムから、度々、口座に寄付をくださいっていう定形メールが届いているのだから、今更、そんなの知らないとは言わさない。
「愛菜、私は生まれてこの方、ナンパなんてしたことないわ。言い寄ってくる子をお断りしないだけで」
「左様ですか」
「必死になって、口説いた女はこの人だけだわ」
「左様ですか」

“この人”と言って、左の薬指の指輪を見せつけてくるけれど、そう言うのを聖那と麗奈がいる前で堂々とするんだから。ご卒業の日に、聖グロの船から背中を押して海に落とさなかった愛菜の甘さがあだとなっているんだなと思わずにいられない。

「ルクリリお姉さま、その指輪の彼女が可哀相。きっとその人は、一途にルクリリお姉さまのことがお好きでしょうに」
 聖那はちらりと愛菜を見た後、割と真面目な顔でリリーを見つめた。
「そうよ。一途に好かれているし、一途に好きよ」
「………麗奈、ルクリリお姉さまって日本語不自由なの?」
「そうね。昔から、理解力がちょっと悪いもの」

 聖那は、心の底から同情している視線を愛菜に投げてくるけれど、指輪は買わされたのだ。ちょっとついてきてと言われて、お店に入って、勝手に選んだお姉さまは、支払いを愛菜にさせた。その場でブチ切れて張り手をくらわしたら、交換と言って欲しくもないネックレスをプレゼントされて、絶対に外すなと言われたのだ。どこに一途だとか、誠実さが存在しているのだろうか。

愛菜が聖グロの戦車道1年生の頃から、リリーはずっとちょっかいを出してきていた。2年生で副隊長だったリリーには周りと同じ程度には憧れていたし、同じマチルダⅡ部隊で部隊長をされていらしたから、教わることも多く、戦車道の訓練中はいつも傍についていた。でもそれは、決して恋をしているから、なんて言うものではなく、あくまでも尊敬だった。何が彼女を誤解させたのか、今でも理解できないけれど、聖那と麗奈が何かおかしいと言うことを見て見ぬふりをしていた頃から、愛菜は愛菜で、部屋に突撃に来られるリリーのことが周りにバレてしまわないか、気が気ではなかった。夕食時に来ては、ご飯を作るように言われていた。1,2年の頃は、ほとんど彼女のために作っていたように思う。ばれないように、リリーに食べさせた後、愛菜は聖那たちと食堂でご飯を食べていた。
 あの時、大人気のルクリリ様は、どこで夕食を食べておられるのだろう、っていろんな人が想像していた。愛菜が1年生の頃は、決して仲がいいとは言えない、アッサムお姉さまの部屋でイチャイチャしながら食べていると噂がたっていたし、2年の頃は、曜日ごとに決まったお店で、誰かと会っているに違いない、なんて言われていた。住民の若い女の人と付き合っていたりして、とか、港ごとに女がいるとか、聖グロの女の子が集まれば、みんな、リリーの噂で持ちきりだった。噂の中には聖那も麗奈も入っていたし、愛菜も入っていたことがある。戦車道関係の女の子は、取りあえず候補には上がって、いつの間にか消える。そんな感じだった。


「愛菜、今日はどこかデートにでも行く?」
「誰が誰とです?」
「リリーが愛菜と」
 ダージリンたちと横浜でランチをする約束の日の朝、昨日脱ぎっぱなしのまま廊下に点々としている服を蹴飛ばして、愛菜はさっさと服を着替えていた。ダージリンから1時間程早めに会いたいと連絡があったので、少しばかり急いでいた。ハイヤーを呼ぶよりも、電車の方が早くつくだろう。頭の中で最寄り駅までの時間を考えながら、髪をひとつに束ねて、丁寧にお化粧をする。
「今日は、後輩たちに会うんです」
「あぁ、ダージリンたちね。じゃぁ、私も付いていこうかしら」
「ご冗談を。お呼びじゃありませんわ」
「あら、私はOG会の幹事なんだから、お呼びしなさい」
「そう言うのじゃなくて、ダージリンもアッサムも、私たちに甘えたいんです」
「あら、なおさら大歓迎」
 この馬鹿、全然わかってない。鏡越しに睨み付けてみる。いいからずっと放置している服を拾って、洗濯機に入れて、ついでに洗濯機を回してもらえないだろうかと言うアピール。無言でいると理解したのか、足で昨日脱いだ服を拾いながら、下着1枚のままのリリーは傍の洗濯機の中に放り投げた。
「邪魔です、リリー」
「置いて行こうとしているんだから、この手が愛菜のおっぱいを忘れないようにしないと」
 夜、散々撫でまわしたくせに。懲りないというか、これがリリーなのだ。首輪を付けずにダージリンたちと会わせたくないし、と言うか、会わせる必要などない。服の上から胸を揉む両手。アイライナーで右手の甲に、バカと書いてやった。それでも、胸から手をどける気配もないし、あと10回で終わらせろと言えば、満足げに、ぴったりと身体をくっつけてくるから。これはたぶん、予定の電車には乗れないだろう。

 
 もう、家を出る前から、いや、リリーが勝手に住み着いているというところから、いや、聖グロに入ってから、愛菜にはメンドクサイ人間が寄り付く。というか、聖グロで戦車道をやっている人間は、基本的にはメンドクサイ人間なのだ。上も下も、みんな。



関連記事

*    *    *

Information

Date:2017/01/05
Trackback:0
Comment:0

Comment

コメントの投稿








 ブログ管理者以外には秘密にする

Trackback

TrackbackUrl:http://fireredfantasia.blog.fc2.com/tb.php/840-9f817e3b
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。