【緋彩の瞳】 リリーが愛する人 ③

緋彩の瞳

ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

リリーが愛する人 ③

「……あの、私たちが船を下りて、謝罪に向かうつもりなのですが」
『OG会の幹事のお姉さまが、どうしても学生艦に行きたいと言って譲らないの。致し方がないわ。紅茶の園で適当にお茶をして、出来る限り早く引っ張って帰るようにするから』
「わかりました」
『よろしくね』

 横浜港に戻ってきた学生艦。連隊で責任を感じているのか、戦車道1年生は全員降りることなく、せっせと朝から街の掃除のボランティアに出て行った。それに付き合う形で、2年生の戦車道の生徒、更には整備科の1,2年生も掃除に出て行ってしまった。アッサムの教育がいいのだろう。誰か1人を見捨てたりしない、彼女たちはローズヒップがしでかしたことを、自分のことのように受け止めて、そして、罪を共に背負っている。

「アッサム、3人を呼び戻して。あと、バニラとクランベリー、2年生の3人も。シナモンとグリーンもよ」
「わかりました。お姉さまたち、やはり乗り込んでこられますのね」
「幹事のお姉さまの希望らしいわ」
「輸入船の御会社に出向いていただいたそうですし、嫌だとも言えませんわね」

 今年はルクリリお姉さまが幹事をされている。ダージリンが1年生の頃、何度か突撃してこられたことがある。生徒たちは悲鳴をあげて、寄ってたかって写真を撮って、とてつもない人気だった。麗奈さまは不愛想で、そう言うことに笑顔で応じない人だったが、その真逆のような、サービス精神旺盛なお方。悲鳴をあげる子の頭を撫でて、手を握りしめていたのを覚えている。

「陸地での厄介ごとは、ルクリリお姉さまが処理をしてくださったそうよ。丁寧に頭を下げて、機嫌を損ねることなくお帰りいただきましょう」
「はい」
 アッサムや後輩たちの手を握るようなことをしたら、ダージリンはどう対応すればいいのだろうか。とはいえ、後輩たちも喜ぶかもしれないし、お互いにそれで場が和むのであれば、心配するほどのことでもない。むしろ、身構える態度を見せずに、愛敬を振り撒いて楽しんで帰っていただいた方が、今後の資金提供のことを考えると………。いや、こちらは謝罪する側なのだ。下手に利用などするべきではない。

「ダージリン、どうされました?」
「いえ………あなたは気を付けなさい、アッサム」
「何のことです?」
「何でもないわ」

 取り越し苦労にならなければいいのだけれど。


「聖那、もっとスピードを出して」
「お言葉ですが、学生艦の中の制限速度は30キロですわ」
「可愛い子たちが待っているのよ」
「恐怖に震えながら待っているんですわ」
 後部座席から背もたれを蹴られた聖那は、それでもスピードを上げずに久しぶりの学生艦の道路を走っていた。チラホラと、学生服の子たちが道路の清掃をしている姿が見える。ボランティア活動中なのだろう。あるいは、ダージリンがわざと命令して、ポーズとして見せているのかも知れない。
「制服の青が眩しいわね。みんな可愛い」
「お姉さまは、何をしにここまで来られましたの?」
「可愛い子を愛でに来たわ」
「左様ですか」
 同じく後部座席に座っている愛菜は、とても冷たくあしらっている。止められる自信がないから、と言われてはいるが、何だかんだと言いながら、ルクリリお姉さまだって、キチンと線を引いて遊びを楽しまれる人だと信じている。たぶん、信じていないのは愛菜だけだ。信じてもらえないような行動を取る方が悪いので、擁護するつもりはない。
「ルクリリお姉さま、学生に手を出したら、流石に私も軽蔑しますし、直ぐにアッサムお姉さまに通報いたしますので」
「麗奈、あなたは元から私を軽蔑しているでしょう?」
「そうですね」
「じゃぁ、何の問題もないわね」
 いつの時代も、隊長同士は仲が悪いものだと言うのは知っているが、麗奈はそもそも上級生の誰とも仲がいい訳じゃない。仲良くしてくれとは思わないが、後輩たちの前ではいがみ合わないでいてもらえたら助かる。

「あら、お出迎えだわ」

 学校の門をくぐり抜け、真っ直ぐに紅茶の園がある場所へ車を走らせると、ダージリンを筆頭に、ずらりと生徒が並んで待っていた。

「番号の付いたシールを胸に張っていてくれたらいいのに」

 並んでいる生徒の中に、妹が見えた。妹の幼馴染の子もいる。あぁ、本当に手を出さないでくれるだろうか。信じている心が揺らいでしまう。
「ルクリリお姉さま。あなたはOG会の幹事としてここに来たんです。仕事をしてください」
 愛菜は念を押すように、とても静かな声でそう告げた後、一番に車を出た。それに続いて降りると、一列になった少女たちが、一斉に深々と頭を下げる姿。

「本来なら、こちらから出向いて謝罪をするべきところ、わざわざお越しいただきまして」
「いいのよ。久しぶりに学校の様子を見ておきたいと思ってね」

 早速、満面の笑みを浮かべたルクリリお姉さま。おおよそ、その笑みだけで多くの若い子は頬を赤く染めるのだけれど、誰ひとり、引きつって怖がっている表情を緩めることがない。遊びに来たわけじゃないと言うことを、十分認識しているのだろう。
「そうですか。今回のトラブルにつきまして、報告をさせていただきますので、ティーラウンジへどうぞ」
 ダージリンは淡々と告げて、手を紅茶の園へと向けた。そう広くはない場所だから、お迎えのメンバーとはここで切り離すのだろう。とても懸命なことだ。
「待ちなさい。先に用事を済ませたいわ。問題を起こした子はどの子?」
 ルクリリお姉さまは、ダージリンたちが問題児を紹介するつもりがないと言うことを読んでいるのだろう、後輩たちを追い払おうとするダージリンの視線を制した。


「は、はい!私です!」


 手をあげたのは、聖那が知っている“ローズヒップ”ではない子だ。確か、ルクリリ。目の前の人と同じティーネームの1年生。当の本人である、“ローズヒップ”は、びくびくしながら、アッサムの背中に隠れていた。これは、何か打ち合わせをしているのだろうか。


「なかなか、可愛い子ね。凄く頭が良さそうに見えるけれど、あなたが本当に横浜で迷子になったの?」
「はい。ご迷惑をおかけいたしました」
「そう。じゃぁ、私の休日を潰した責任は取ってね」
「はい」
 一体、何をされるおつもりかしら、と見守っていると、右手が勢いを付けるように上がるから、ぎょっとした。女は愛でるものっていう主義のお方なのに、何を考えておられるのだろう。よほど、その時間に遊んでいた女が惜しかったとでもいうのだろうか。

「そう言う誠意が欲しいのでしたら、責任者である私を叩いてください」

 右手が上がると同時に、アッサムが盾になるようにルクリリの前に立ちはだかった。そうなると、麗奈も黙っていられるはずがない。

「お姉さま、アッサムに手をあげたら警察を呼びます」

 麗奈は、いっつもそう。

 本当にギリギリになるまで何も動こうとしない。だから、ダージリンに殺意のある目で睨み付けられるのだ。

「ただ、右手を上げただけよ?私と“ルクリリちゃん”のスキンシップを邪魔しないでくれるかしら?」

 名乗り出た1年生が“ルクリリ”だと言うことは、分かっているようだ。分かっていて、なお、その度胸を試そうとしたのなら本当に最低。愛菜はもう、赤の他人のフリをしている。  
それにしても、肝の座った1年生だ。じっとルクリリお姉さまを見上げたまま、ひるむ様子もなかった。

「さて、では楽しく“コーヒー”を飲みましょう。謝罪も報告書もいらないから、色々と面白い話を聞かせてちょうだい」

 お姉さまは、取りあえずあげた右手で麗奈の肩をポンポンと叩いた後、すぐ目の前のアッサムの髪をあいさつ代わりに撫でて、一足先にティーラウンジへと歩み出した。

「お姉さま」
 ダージリン、アッサム、シナモンが後に続き、追いかける生徒は身体の小さなオレンジペコだけだ。怯えた顔で妹が聖那の腕にしがみ付いてきた。目が、ルクリリお姉さまが怖いと訴えてきている。どんなに満面の笑顔でも、仲間がトラブルを起こしたことで学校に来たのだから、気持ちがいいことではないだろう。
「久しぶり」
「お姉さま、ダージリン様たちは大丈夫ですか?」
「命までは取らないわよ」
「でも………」
「あらやだ、大丈夫よ。あなたたちは安全地帯にいなさい」
 大丈夫、と言いながら妹たちは逃げろと言っているのは何か矛盾しているとは思うが、血の繋がった妹の方がずっと大事なのだ。麗奈の気持ちもわからないわけではない。いざとなったら、愛菜が何とかするはず。


たぶん。



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Date:2017/01/05
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