【緋彩の瞳】 リリーが愛する人 ④

緋彩の瞳

スポンサー広告

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

*    *    *

Information

ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

リリーが愛する人 ④

コーヒーが飲みたいだなんて。リリーは後輩たちを試して、どう対応するのかをただ、楽しんでいるだけなのだろう。それでも、ダージリンたちは受けて立つつもりなのだろうか。一体どうするつもりなのだろう。生憎用意していないと詫びて、ルクリリの茶葉で紅茶を淹れるのだろうか。

「少々、お待ちくださいませ」

 ダージリンに即されて席に着くと、アッサムとシナモン、ペコが姿を消した。お茶を用意しに行ったのだろう。

「この部屋も変わらないわね。そろそろ、肖像画の絵を私に変えてもいいんじゃないかしら?」
「紅茶がマズくなりますでしょう。それとも、開かずの間にしたいんですの?」
 暖炉の上に飾られているのは、創立者の肖像画だ。何も立派な功績など残していない、ただの女好きのリリーの肖像画なんて、誰が飾りたいと思うのだろう。

「お待たせいたしました」

 台車を引いた1年生とシナモンが、テキパキと紅茶とお茶菓子を並べて行く。リリーの前には黒々とした液体の入ったコーヒーカップが置かれた。
「あら、本当にコーヒーが来たわ」
「ブルー・マウンテンの豆を、先ほどミルで挽きました」
「そう。私もここにいた頃は、お気に入りのミルで豆を挽いていたのよ。紅茶が好きじゃなくて」
「そうでしたか」
 学生艦に乗り込んできたくせに、紅茶なんて飲みたくないと駄々をこねて後輩を困らせるつもりでいたのだろうか。とにかく、気を利かせたアッサムの勝利だ。譲ったミルが役に立ったようだ。元はリリーのものだけど。シナモンとオレンジペコは紅茶を配り終えて、一礼して去って行った。謝罪はダージリンとアッサムだけで対応するつもりなのだろう。賢明な判断だ。
「コーヒーがマズくなるわ。そんな緊張をしなくても、別に怒ったりしないわ。笑顔で楽しくお茶をしましょう」
 大好きなブルマンを目の前に出されたからか、リリーはとても機嫌よく微笑みを向ける。アッサムとダージリンは、それでも神経をとがらせたまま、何を言われても後輩を守ると言った気配を消そうとはしない。

「麗奈、この子たちのこの殺意のある目つきを何とかしなさい」
「ルクリリお姉さまがいなくなれば、消えると思いますけれど」
「何て失礼な子。私は別に文句を言うつもりなんてないわよ。終わったことをネチネチと言う性格ではないの。何でもあとくされない方がいいのよ。ねぇ、愛菜?」
「…………そうですね」

 学生艦をうろつきたいというだけのために、ここまで来たのは本当だろう。大義名分ができたから、むしろラッキーと思っているかもしれない。終わったことをネチネチ言わないと言うのは、リリーの良いところでもある。だから、とっかえひっかえに女と遊ぶことができるのかも知れない。


 今更ながら、どうして5年も一緒にいるのだろうか。


「きちんと謝罪をしなければ、私たちも気が気ではありませんの」
 ダージリンが真っ直ぐにリリーを見つめるから。そんな真面目な気持ちになる必要もないのに。こんないい加減な人相手に、と心の中で呟いた。
「ダージリンがここで謝罪をしても、私や麗奈たちが謝罪に走り回った時間は戻らないわ」
「………はい」
「ローズヒップは停学処分もなければ、転籍処分もなく、せいぜい下船禁止や草むしりくらいの罰しか与えていないのでしょう?」
「はい」

 リリーはブルマンの香りを楽しみ、そして一口飲んで満足そうに頷いた。よく、愛菜の部屋であんな顔をして飲んでいたのを思い出す。コーヒーは、人に淹れてもらうものが一番おいしいのだと。愛菜だけが、好みの濃さをよく知ってくれている、と。いつも言っていたから覚えているのか、それが嬉しいと思ったから覚えているのか。

「それがダージリンの判断ならば、特に私から何かを言うこともないわね」
「………はい」
「まぁ、船の遅延なんて前代未聞の失態ではあるし。そうね、……あなたが卒業したら、OG会の幹部に立候補しなさい。それで今回の件はチャラよ」
「わかりました」

 それは、ダージリンにとって好都合のような気がする。自分が面倒を見た後輩たちが活躍しているタイミングで幹事をするなんて、何でももみ消すことができるとなると、ダージリンもアッサムも嬉しいに違いない。

「どうしたの、愛菜。私のことが好きなの?」
 この人、馬鹿なのか優しいのかわからない。そう思って見つめていると、にっこりと笑顔が返ってきた。
「………随分、寛大ですわね」
「だって、2人とも可愛いもの。可愛い子に“こら!”って怒るのは趣味じゃないわ」
「左様ですか」

 ダージリンもアッサムも、本当にそれでいいのだろうかと、伺いを立てるように愛菜を見つめてくる。きちんとした報告書を作っているらしいが、リリーはたぶん、読まないだろう。
愛菜が受け取って、ダージリンを慰めてあげるしかない。

 まるで喫茶店にいるように足を組み、背を椅子に預けて、美味しそうにコーヒーを飲むリリー。複雑そうな顔で見つめ合うダージリンとアッサム。

「2人とも、ルクリリお姉さまがこうおっしゃっているのだから、もう、遅延の件は終わりよ。折角だから、お茶を楽しみましょう」
 そもそも来たくなかった麗奈は、冷え始めた紅茶を飲み、隣に座っているアッサムの頭を撫でた。
「いいわね、麗奈。私もさせて」
「絶対にダメです」

 リリーは、どこにいても何をしていても、リリーだ。どんなにカッコいいことを言っても、結局は可愛い子のためのポーズにしか見えない。自ら損を演じているのなら、もう、放っておくしかないだろう。心配していたダージリンたちの貞操の危機も、まったく激怒している様子が見えないのなら、守ることもできそうだし。
「頭を撫でるくらい、いいじゃない」
 リリーを睨み付けている麗奈の視線。それすら楽しそうだ。可愛そうに、ダージリンもアッサムも、紅茶に手を付けられないまま。この人のこれは、いつものことなのだけれど。そんなことを知らないダージリンとアッサムは、ブルマンがカップからなくなるまで、緊張のオーラを消すことはなかった。

「あの子たちは、とてもガードが固いわね」
「本能的に、危機を察知しているだけですわ」
「ねぇ、学生が全然見えないんだけど」
「非常事態宣言でも出して、ルクリリお姉さまから身を守るようにでもしているんじゃないですか?」
「あら、聖那。じゃぁ、聖那で満たそうかしら」
「あらやだ、ごめんですわ」
 紅茶の園を出たリリーは、せっかくだから散歩をしたいなんて言い出して、聖那の首根っこを捕まえて歩き出す。イヤイヤながらも麗奈が2人を追いかけて行くのを見送った。放っておいた方がいい。傍にいると、苛立ちで拳が飛ぶかもしれない。

「………愛菜さま、本当に謝罪はあれでよろしいんですの?」
「あの人がいいと言っているのなら、いいんじゃない?OG会は幹部の判断が総意とされるから」
 上のお姉さま方には、厳重注意をして怒鳴ってきたとか適当な嘘を言って、それで終わらせるだろう。資金提供も今の金額を維持する方針を変えることもないはずだ。
「そうですか。思った以上にお優しい方でしたわね」
「メンドウなだけでしょう。あの人、外面がいいのが取り柄で、それ以外は何もないから」

 良いところを見せて欲しいものだ、と思ったけれど。リリーの良いところは十分に発揮していたように見える。可愛い女の子には優しいという、そう言う良いところ。

「そうでしょうか?ルクリリお姉さまは、あんな失態を犯した後輩を、笑って許してくださいましたわ。身代わりに勝手に手をあげたルクリリに対しても、怯えていたローズヒップに対しても、とても、寛大でいてくださいました」
「………買いかぶりすぎよ、ダージリン」
 ずらりと並んだ可愛い子たちの前で、誰かに手をあげるなんて言うことはない。と言うか、どんなことがあろうとも、女の子に手をあげるなんて、それはリリーではないのだ。そのあたり、まったく気にしなかったので、冗談でどこかに触るんじゃないかと少しだけハラハラしていたが、思いのほか本気にしたアッサムと麗奈の行動を見て、愛菜が止めればよかったと反省した。あの場で、安心してその冗談をさらりと受け流したのは、愛菜だけだったようだ。

「ルクリリお姉さまはOGにしては珍しいほど、お優しい方ですわね」
「………ダージリン、人を見る目がないわ」
「そうでしょうか?」
「気を付けなさい、そう思わせるのも手よ」

 愛菜はダージリンの肩を叩いて言い聞かせたが、眉をひそめて見つめ返してくる。すっかり、騙されているのではないだろうか。


「ルクリリお姉さま、いつまでもそうやって調子に乗ったままだと、いつか指輪の彼女に捨てられますわよ」
 学校の中を歩き回っても、休日のせいで制服の生徒は見当たらなかった。ルクリリお姉さまはつまらなさそうにしながらも、久しぶりだからと、戦車倉庫へと歩みを進めていく。
「大丈夫よ。だって私が愛しているのは、たった1人だけだもの。じゃなきゃ指輪を嵌めたりしないわ」
「………そのことはその彼女に、伝わっていますの?」
「どうかしら?でも、私の帰る場所は1人しかいないの」
 それがどうして、愛菜なのだろう。1年の頃から生真面目で、優等生で、わりと固い人だった愛菜を、どうやって口説き落としたのだろう。思い出してみようとしても、ルクリリお姉さまが誰かの目がある場所で、愛菜を可愛がったり愛菜を口説いたり、冗談で頭を撫でるなんて言う姿を、一度も見たことがない。調子よく誰かの頭を撫でる姿は嫌と言うほど見てきたが、制服姿の愛菜にルクリリお姉さまが触れている場に、遭遇した覚えがない。ルクリリお姉さまの適当な言動に、愛菜が切れるところなら嫌ほど見てきたが……。もしかしたら、それだけずっと前から本気だとでもいうのだろうか。
「ルクリリお姉さまの彼女は私たちにとっても、大切な友人です。あまり、悩ませるようなことを続けるのなら、私たちは本気で軽蔑します」
 もうすでに、わりと軽蔑した視線しか送らない麗奈が、珍しくきちんとルクリリお姉さまに面と向かって告げた。アッサムやほかの後輩に手を出そうとするのを目の当たりにしたから、放置できないとでも思ったのだろう。と言うか、そう言うカッコいいことは、もっともっと早い段階で言えばいいのに。

「あの子が悩んでいるかどうかなんて、知らないわよ。私は彼女を愛している、それだけよ」

 愛菜は何も2人に語ってなどくれないのに。

 呆れたため息を繰り返すだけで。呆れた小言を呟くだけで。でもそれは、ルクリリお姉さまが目の前にいるときだけだ。友人として、愛菜が1人で、何かに思い悩んでいるということを、感じたことはない。普段、愛菜がルクリリお姉さまと付き合っていると言うことなど、感じないくらい、愛菜は特定の誰かがいると言う様子を身にまとってなどいないのだ。
 愛菜の相手が、ルクリリお姉さまだと言うことに気が付いたのは、大学に入ってから。ルクリリお姉さまが指輪を付け出した頃、愛菜が同じブランドのネックレスを付けるようになった。毎日、ずっと同じものを。
「本当に愛しているのなら、真っ直ぐにその人だけを見つめたらどうですか?」
「言ったでしょう?私が本気で口説いたのは、この子が初めてで、最後よ。真っ直ぐ見つめるのも、この指輪の彼女だけ」

 愛と言うものについて、ただ、聖那と価値観が違うだけなのだろうか。ルクリリお姉さまの余裕がある微笑みは腹立たしいと思っているはずなのに、それでも愛菜を愛していると言う、その言葉だけは本物のように思えた。ルクリリお姉さまが愛菜を選ぶのは自由だけれど、それでも愛菜もまた、この女好きの遊び人と別れない道を選んでいるのだ。生真面目で、優等生で、曲がったことが嫌いなはずの愛菜には、同じように生真面目に愛菜だけを見つめる人の方が、絶対にいいはずなのに。


「ルクリリお姉さま。…………愛菜は幸せですか?」

 麗奈は少しだけごくりと喉を鳴らして、それからきっといくつかの想いを語る言葉の中から、もっとも最適だと想えるものを選んだようだ。他人に無関心で、必要以上の交友関係がない麗奈にとって、愛菜は大切な親友と呼べる人。高校生の頃はいつもガミガミ言われていたし、仕事を丸投げしていた。今も何かと世話を焼いてくれる人だけれど、それでも、麗奈と愛菜は、ちゃんと親愛の関係を築いている。もちろん、聖那も。

 ずっと幸せでいて欲しいと願う。幸せな恋をしていて欲しいと願う。

「愛菜?さぁ。愛菜のことを私に聞くのは筋違い。それは本人に聞きなさい」

 相変わらず、愛想の良い微笑みでいらっしゃる。聖那も麗奈も大真面目な顔をしているけれど、それがお気に召さないのか、ルクリリお姉さまは2人の腕を掴んで、久しぶりにチャーチルにでも乗りに行こうなんて、声をあげて足取り軽く歩かれた。

 もしかすると愛菜は、聖那たちが考えているほど不幸じゃないかもしれない。

 ルクリリお姉さまは、ハッキリと愛菜の親友に向かって“彼女を愛している”と言い切ったのだ。そんな言葉を使うなんて、ズルいなって思うけれど。

「あの…………チャーチルの倉庫はそちらじゃありません、ルクリリお姉さま」
「だって、こっちから女の子の匂いがするんだもの」

 倉庫の奥、ずっと向こう。青い制服姿がちらりと見えたのを見逃さなかったルクリリお姉さまは、スキップする勢いで止めようとする2人にお構いなく、真っ直ぐ突撃するのだった。

 しんみりと、少しルクリリお姉さまを見直した1分くらいを返して欲しい。

関連記事

*    *    *

Information

Date:2017/01/05
Trackback:0
Comment:0

Comment

コメントの投稿








 ブログ管理者以外には秘密にする

Trackback

TrackbackUrl:http://fireredfantasia.blog.fc2.com/tb.php/843-354931ac
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。