【緋彩の瞳】 リリーが愛する人 ⑤

緋彩の瞳

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ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

リリーが愛する人 ⑤

「………愛菜、聖グロの生徒たちが私を見ても“キャー”って言わなかったんだけど」


 何だか不服そうな顔をしたリリーが戻ってきた。校内を散歩すると言っていたのは、生徒を探すためだろうとは思っていたが、どうやら誰も手を振り返したりしなかったらしい。学生艦の遅延で迷惑をかけたお姉さまたちが来ている、と、生徒は全員知っているはずだ。どんなミーハーであろうとも、キャーなどと言えないだろう。ダージリンが許すはずもない。

「もう、ルクリリお姉さまの時代は終わりました」
「おかしいわね。何だか腹が立つわ。折角、小切手持ってきてあげたのに」

 さっき、機嫌よくコーヒーを飲んでいるときに出しておけば、ダージリンが満面の笑みを返してくれたはずだ。そんなプンプンした顔でそう言うことを言うと、せっかく高く評価をしたダージリンが、この馬鹿に疑念を抱きかねない。と言うか、どっちがいいのかわからない。

「ルクリリお姉さまはお美しい方ですから。うちの生徒たちは緊張しているのでしょう」
「あら、ダージリン。可愛い顔して年上の扱いが上手いわね。ところで見送りには、1年生はいないの?」
 お迎えは勢ぞろいだったのに、見送りはダージリンとアッサムだけだ。どこに隠したのだろう。聖那が妹たちに、逃げろとでも言ったのだろうか。
「幹部候補生の3人には、正門でお見送りするように、立たせてあります。お好きになさってくださいませ」
「つまりそれは、持って帰ってもいいということ?」

 なぜ、そう言う解釈をされるのだろう。冗談に本気で突っ込むのも体力の無駄。聖那も麗奈も、もう、飽きたと言わんばかりだ。

「生憎、彼女たちには下船の許可を出しておりませんので」
「なるほどね」

 リリーは綺麗な真っ白い左手で、ダージリンの頭を撫でた。じっと見上げたまま、余裕のダージリンは動かない。アッサムの周辺だけ温度が上がっている………ような気もしないことはない。
「この髪型、愛菜に考えてもらったでしょう?」
「よくご存じで」
「まぁね。とても似合っているわ」
「ありがとうございます」
「あなたはいいわね、その瞳の色。そうやって微笑みながら睨み付ける瞳。愛菜が1年生の時と、そっくりだわ」
「私は、愛菜さまに育てていただいたので」
「それはよかった。麗奈も聖那も人を育てる能力がないから。特に麗奈。隊長にしてしまったことを、凄く後悔してるわ」


 あんたが言うな。


 どうして麗奈も聖那も、声に出して言わないのだろう。


「ルクリリお姉さま。これ以上口説いても、ダージリンには無駄です。小切手を置いて、もう船から降りますわよ」
 ふくらはぎを蹴飛ばしてやろうかと思いながら、ぐっと我慢して、出来る限り穏やかな口調を保った。自分で自分を褒めたい。
「………仕方ないわね。でもいいわ。可愛い後輩たちとお茶もできたことだし。聖グロは変わらず平和だと言うことも、この目で確認できたし」

 お姉さまは小切手を取り出して、ダージリンに見せつけた後に、1年生に渡すからと告げて車に乗られた。慌てて運転席に聖那が座り、助手席に麗奈が座る。別に、そんなに慌てることもないのに。

「また、電話するわね」
「愛菜さま、わざわざありがとうございます」
 ダージリンはホッとした笑みを浮かべくれる。隣でムッとしているアッサムの肩に手を置いて、まぁまぁとなだめ、リリーの隣に座り、ダージリンにドアを閉めてもらった。


「可愛い子を見つけた」
 正門では、本当に1年生3人が整列して、見送りに来ている。聖那は仕方がないと言わんばかりにブレーキを踏んだ。いそいそと窓を開けて、アイドルみたいに手を振るリリー。まだ、キャーって言われることを諦めていないなんて。でも、残念ながら硬い表情のまま、一礼されてしまう。

「ルクリリ」
「はい」
「私と同じティーネームね」
「は、はい!」
「さっきは怖がらせてごめんね。ちょっとだけ、3年生の反応をみたかっただけよ」
「私たちがご迷惑をおかけしましたので、殴られても致し方ありません」

 体育会系のように、はきはきと物を言うルクリリは、真っ直ぐにリリーを見つめていて、その大きな瞳はとても綺麗。目の色だけは、その真剣さだけは、ダージリンと同じものだ。

「あら?………ちょっと聖那、ドアが開かないんだけど」
「学生の貞操を守らなければなりませんので」

 リリーがドアをガチャガチャしているのは、どうやら運転席でロックして、出たくても出られないと言う事情があるらしい。聖那もたまには役に立つようだ。愛菜は心の中で拍手を送った。


「まぁいいわ。……ルクリリ、この小切手は、そこのローズヒップが病院まで連れて行って差し上げたと言う、ご婦人から頂いた物よ。OG会の幹事宛にわざわざ、お手紙付きで送ってくださったの。処罰などしないで欲しい、と。私がわざわざここまで来たのは、これを渡すためよ」


 それは初耳。


 そんなものを隠し持っていたなんて。何というか秘密兵器を出して、惚れさせるつもりだろうか。まさか小道具として用意した、なんて言うことはないだろうし。ズルい人だ。さっきダージリンにチラリと見せた小切手は、リリーの名義じゃないなんて。

「その、えっと、このたびは、ご迷惑をおかけしまして……」
 しどろもどろになりながらも、深く頭を下げる、1年生のまだまだ初々しい感じ。満足そうなリリーがどんな笑顔なのかはわからないが、きっとすごく楽しいに違いない。
「私たちは確かに、あちこちに謝罪に出向いて迷惑だったわ。でも、誰かの役に立つための行為だったのならば、仕方のなかったことでしょう。困ったご婦人がいるのに、放っておくような後輩の方が、よほど恥さらしですもの」

 ここぞと言う時に、カッコイイことを言うお姉さまを演じているような気もするけれど。というか、それはダージリンに言えばよかったことじゃないだろうか。本当、ズルい人だなと思う。もう、1年生たちがおメメキラキラ、尊敬しています、みたいな目でリリーを見つめている。

 これが欲しかったんだろうな、って。愛菜の溜息と麗奈の溜息が重なった。


「ありがとうございます、お姉さまがた」
「じゃぁね。次は、私と楽しくお茶をしましょう」
「はい!!」

 絶対、ウインク飛ばしている。その、後頭部を叩きたい衝動を何とか抑えながら、聖那に合図をしてゆっくりとアクセルを踏ませた。



「あ~、可愛かった。みた?あのキラキラした眼差し。初々しい高校生のあぁいう目っていいわね」
「…………小切手は、本当にそのご婦人からのものですの?」
「当たり前でしょう?何よ、その汚いものを見る目は」
「………ダージリンに言えばよかったのにっていう目です」
「あの子に?それは駄目。それじゃぁ、1年生たちが私の顔と名前を憶えてくれないわ」

 リリーと言う存在そのもの、一体どこまでが真面目で、どこからが冗談で、どこからが真実なのか。
 なんとなくわかっているけれど、何となくわかっているのは、たぶん、自分だけしかいないのだろうと思うと腹立たしい。


「………左様ですか」


 もう、何もかもがどうしようもないのだ。リリーはやっぱり、よくわからない人。

 なんでこんな人と付き合っているの?言いたそうな瞳と、バックミラー越しに重なった。聖那も麗奈も、たぶん、心から理解できないと思っているだろう。愛菜だってわからない。


 わからないから、傍にいるのだ。


「聖グロの制服ってやっぱり可愛いわね」
「………ルクリリお姉さま、大学を卒業したら、もう聖グロの学生艦に家を買えばよろしいんじゃないですか?」
「名案だわ、愛菜。それ、最高に名案!」
 学校のすぐ傍に一軒家を立てないと。そんなことを言う瞳は、いつも通りの適当発言をする時の色と同じ。真面目に突っ込んだりしないで、放っておくのがいいのだ。
「横浜で美味しい中華でも食べて帰りましょう。おごってあげるから。可愛いチャイナ服のお店、知ってるのよ」
 そこは、美味しいお店じゃないんですね。なんてもう、愛菜も聖那も麗奈も、突っ込んだりしない。



「愛菜」
 先にシャワーを浴びて、ベッドに潜っていた。リリーは寝る前の一服を終えたあと、当たり前のように愛菜の隣に寝転がってくる。
「リリー、今日は随分ご機嫌がよろしかったですね」
「だって、楽しかったもの。いい子たちね。愛菜が育てただけあるわ」

 小切手の送り主を隠していたこと、問い詰めてもよかったけれど、もう終わったことだしメンドウだと思って言葉を飲み込んだ。さっき、ダージリンからお礼の電話が来て、OG会にそう言う手紙が来たのなら、言って欲しかったと言われた。知っていたら、あんな風に厳戒態勢で挑まなかったのに、と。この女好きには厳戒態勢が正解だったのだ。愛菜自身も知らなくてよかったと思う。

「………リリー」
「なぁに?」
「明日は、どこかに女の子を捕まえにでも行くのですか?」
 日曜日になれば、どこかに消えることもある。愛菜が暇でも、朝からルンルンと着替えて、遊びに行ってしまう。それをどこへ行くの?とか誰と会うの?と聞いたことはない。聞けば、素直に答えてくれるだろう。だからこそ、確認を取りたくはなかった。そうやって、わかっていても知らない方がいいこともあると、やり過ごしていた。
「いいえ?何か、明日しないといけないことでもあった?」
「………いいえ」
 当たり前のように乳房に触れ、身体に乗りかかってくる。シャラシャラと流れる髪が愛菜の視界を奪う。その暗闇に落ちると、いつも、何か、いろんなことを考える回廊を遮断してしまう癖がある。今だけは、目の前の人のことを受け入れておこう、と。
「愛菜は明日、何か用事を入れているの?」
「別に。部屋を掃除して、買い物に出て、ゆっくり時間をかけられるような夕食を作ろうかな、と」
「とてもいい日曜日になりそうね」
「そうですね」
 頬に触れる唇の熱は、肌に吸い付いて、ゆっくりと首筋をなぞる。その背中をきつく抱きしめた。

「…………リリーは……」
「ん?」
「リリーは、明日、何か用事を入れていますの?」
「入れてないわよ」
「そうですか」

 噛むように鎖骨に触れる唇。爪を立てるように背中を抱きしめて、吐息を飲み込んだ。こうやってリリーに抱かれている間は、リリーが求めてくる間は、求めてなど来ない明日を虚しいと感じる必要はないのだ。それは本当に、明日になってからでいいのだ。


「愛菜」
「何ですか?」
 シャツを脱がしにかかる手に逆らわずに腰をあげて、腕をあげる。晒した乳房に縋るように顔を押し付けたリリーの冷たい髪が、素肌に当たってヒリヒリと痛みを覚えた。
「………麗奈たちは、私たちのことを知っているのでしょう?」
「言った覚えはありませんが、多分知っています」
「麗奈に聞かれたわ。愛菜は幸せですか、って」
 自分の体温で温められているネックレスは、リリーに身も心も捧げたと言う証でもない。欲しいと思ったものでもないが、外す理由も見つからないから、ずっと身に付けたまま。リリーが自分だけのものであると言う証でもない。外すなと言われても、外したくなれば外す日が来るだろう。そう思いながらも、結局、一日も外したことがなかった。
「………麗奈から心配されるなんて」
「あの2人は、凄く愛菜を大切にしているわね」
「………まぁ、長い付き合いですし」
「照れてる?」
「別に」
 互いに言葉で確認をすることなどしなくても、麗奈と聖那は当たり前のように愛菜の近くにいる。戦車道では、当たり前のように背中を預けてきた仲間なのだ。互いに助け合いながら、共に成長をしてきた。そこまで、心配されているとまでは思わなかったけれど。
「麗奈には、愛菜が幸せかどうか、私にはわからないと言ったわ」
「そうですか」
「愛菜は幸せなの?」
「………どういう意味での幸せですか?」
 舌で乳房をなぞりながら、見上げてくる瞳。真っ直ぐで、腹立たしいくらい綺麗。まるで、嘘など一度も付いたことがないような、そう言う瞳の色だから、余計に腹立たしい。

「恋や愛や、あるいは性的欲求を満たされているか、と言う意味での幸せかしら?」



 幸せって、何………


 思わず、声に出しそうになって飲み込んでしまった。


「………………質問をしながら、手を動かさないでください」
「だって、気持ちいいことをしておいたら、“幸せです”って言うんじゃないかと思って」
 ショーツの上から指先を押し付けてくる、その手を両足で挟んだ。ただでさえ鈍くなる思考回廊だと言うのに、簡単に誘導尋問をされそうで。別に不幸ですと言うつもりはないが、誤魔化されている気がして、そう言うのは嫌なのだ。


「それで、愛菜は幸せ?」
「………………リリーは、私を幸せにしていると?」
「私は愛菜を愛していることが幸せ。愛菜を愛して、愛菜をずっと好きでいて、愛菜を抱く。愛菜のいる部屋に帰って、愛菜の手料理を食べて、愛菜の匂いに抱かれて。それが幸せ。でも、愛菜は自分で幸せになる権利があるわ」
「それは……まぁ、そうですけれど」
「愛菜は何も言わないもの。愛菜は絶対に言わない。私にどうして欲しい、と言うことを言わない。愛菜が私に言うことは、何かを『しないでください』と言うことだけ。後輩に手を出さなで。煙草を吸わないで。愛菜の知り合いには手を出さないで。付き合っていることは誰にも言わないで。禁止事項ばかりね」

 言わせているのはリリーだと言うのに。すべて、言わなくてもわかってください、と言うことばかりなのに。愛菜は温もりを、それでも身体から引き離すことが出来なかった。リリーが言いたいことはわかっている。

「…………リリーを……リリーを縛るようなことはしません」
「そうね。あなたは、私に他の女の子と遊ばないで、と一言も言わないわね」
「………はい」
「いつになったら言うのかしら、って思って待っていたら、あっという間に5年よ?」
「…………そうですか」


 でもそれも、『しないでください』という禁止事項なのだ。それが一つ増えるだけで、それが本当の愛菜の希いなのかと言われると、それが受け入れられたら、愛菜は幸せなのかと言われると、それは違うような気がする。


「愛菜」
「はい」
「私は、愛菜だけが好きよ。愛菜だけを愛しているわ」
「……はい」

 嘘じゃないから嫌なのだ。
 それと女の子のところで寝て帰ってくることは、リリーの中では別の話だから。

「愛菜は私のことが好きなくせに、心のすべてで好きにならない言い訳を作るために、私が遊ぶことを見逃しているの?」
「……………わかりません」
「愛菜は幸せ?」
「…………不幸だと思っていません」
「誤魔化さない」


 愛菜が思う幸せとは何だろう。
 リリーは愛していると言葉に出して、必ず愛菜の元に帰ってくる。
 遊んだら、遊んだことを隠すこともせず、それでも愛菜に好きだと言う。

 愛菜は、それを不幸なことだと思わないでいる。
 縛りつけたりしないのだと。
 彼女のその生き方を、受け入れるべきなのだと。
 縛るほどの価値など、自分にはないのだから、と。
 理解することを望まれている。……はず、だと。


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Date:2017/01/05
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