【緋彩の瞳】 リリーが愛する人 ⑥

緋彩の瞳

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ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

リリーが愛する人 ⑥

「…………愛菜」
 


 独占欲など邪魔なだけなのだと、リリーと付き合うことを決めた時に自分に言い聞かせた。本気で想われていることはわかっていたし、それは信じているし、今もそのことを疑うことをしない。リリーは自分からナンパしないと言うのも、嘘じゃないだろう。リリーは可愛い子に可愛いと言うのはただの挨拶だと思っている。自分からベッドに誘ったことなどないと、へらへら笑っている、その台詞も嘘じゃないと思う。知らない女の子と一晩遊ぶ時は、大体酔っているか、相手が酔っているか、あるいは懇願されたか。ただの遊び以上はないのもわかっているし、携帯の情報を知りたがる人と遊ぶこともしないと言うのも、本当だと思う。だから、それはそれでいいのだと、自分に言い聞かせていた。


 許すことで、傍にいれる。
 許すことで、リリーは愛菜の元に帰ってくる。

 愛菜はずっと、そう思って来た。

 リリーのことがわからないから傍にいるのではない。
 本当は、リリーのことをわかっている。
 愛菜がわからないのは、愛菜自身なのだ。



「愛菜?どうして泣くの?」
「……………私、きっと幸せ…じゃないと…思います」
「そう」
「リリーが、誰か知らない女の人を抱くことを認めている限りは、私、幸せじゃないです」
「………そう」

 指で掬われる涙はたぶん、幸せじゃないと認めたくはない抵抗なのだ。
 この5年間、呆れたため息を吐いてきたけれど、1人の夜に泣いたこともなかった。
 こうやって、抱きしめられている時に、苦しいと思いたくなどないのに。

「でも………私が本当は嫌だと言えば、リリーは私とはいてくださらない」
「どうして?」
「だって、リリーはリリーです。私はあなたが好きなことを縛る権利はないし、それはたぶん誰にもない。あなたを縛りつけてもいい法律を、私が主張できることでもありません」


 唇の温もりは、こめかみに落ちる涙を拭うように降ってくる。リリーは愛菜を抱きしめて、そっとそっと頭を撫でてくれた。リリーは誰にでも優しい。誰にでも微笑んで手を振って、誰にでも勘違いをさせる。誰からも好かれる。そう言うリリーは嫌いじゃない。


「愛菜が私といて、幸せじゃないのなら、私は傍にいない方がいいの?」
「…………いてください」
「愛菜以外の女を抱かないで、と言えばいいのに」
「でも、それは」
「私は、愛菜に縛られたくないって思っていないわ。愛菜が勝手にそう思っているから、その方が愛菜は楽なことなのだろうって思っていたわ。愛菜が私を見逃している方が、私に落ち度がある方が楽でいられるのなら、その方がいいって」


 愛していると言っておきながら
 大好きだと言っておきながら

 リリーはとてもズルい女だ。

「愛菜は、私が好きなのでしょう?」

 いつも、冗談で聞いてくる。
 だから、本気で答えたことなどない。


「好きにさせたのは、リリーです」
「だったら、私を縛ればいいのに」
「…………好きになった時に、それは駄目だと思いました」
「行き過ぎた生真面目ね。それとも、逃げる道を作っておきたかったの?」


 唇はいつでも嘘を吐くけれど、キスから伝わる熱は、互いが恋しいと言うことを告げている。リリーの長い琥珀の髪を握りしめて、涙で息が苦しくても、その唇を求めた。


「………愛菜、私が好き?」
「好きです」
「酔っぱらって目が覚めたら、全然知らない子のマンションで寝てしまっている私は?」
「そう言うリリーは嫌いです」
「そっか………そっか、嫌いなのね。普通はそうよね」
「人間として、最低です」
「そうね」
「私は………リリーが好きです。でも、リリーのそういうだらしないところは、本当に嫌いです」
「うーん。嫌われたくないわね」
「もう、二度と、私以外を抱かないでください。私だけを抱いてください」

 しがみつくように足を絡めて、傍にいてと身体で乞うた。
 片手すら繋がない程度でいいと、思いながら過ごしてきた5年間。
 そう思うようにしていた5年間。
 いつでも、離れてもいいと思っていた。
 いつでも、別れられる理由を、リリーに押し付けていた。
 モテる人と付き合う価値を、自分に見いだせなかった。
 この、気まぐれで適当な人の真っ直ぐな愛を知っていて、だからたぶん、怖いと思っていた。


「それ、愛していると同じ意味でしょう?」
「…………そうですね」
「他の女を抱かなければ、愛菜は幸せになれる?」
「……はい」
「そっか。じゃぁ、どれだけ酔っても、ちゃんと迎えに来てね」
「………自力で帰れる程度で、お酒をやめてください」
「あら、また制限が増えた」
「お酒については、前から言っています」
「そうだった?」

 唇をついばんで小さく笑うリリーは、本当にもう、遊ばないのか……怪しい。それでも何だか、調子の良いことを言われても、嫌な想いじゃないのはたぶん、ずっと言わずにいた言葉をぶつけたことで、何かすっきりしたせいかも知れない。

「リリー」
「なぁに?」
「…………リリー」
「なぁに、愛菜」
「明日、ずっと、一緒にいてください」
「珍しいこと言うわね。いつも、デートに誘っても嫌がっていたのに」
「…………だって、外で女の子をナンパするでしょう?」
「ナンパなんて、したことないわ」
「………そう言うことにしておきます」

 何だか、どうしようもない人だと思うのはこれからもずっと、変わりそうにない。でも、リリーは、約束を破る人ではないと信じている。指輪を一度も外したりしないし、必ず自分には恋人がいると言うことを、誰にでも公言している。愛菜に愛していると言うし、遊びの子にそんなことを言わないと言うのは、わかる。


「愛菜が明日、幸せな日曜日を過ごすために、私は愛菜の傍にいればいいのね」
「………はい」
「一日、ずっとずっとセックスする?」
「夜ご飯が質素になりますが」
「嫌って言わないの?」
「……………嫌では、ないので」
「愛菜、何?何か悪いもの食べた?素直すぎて、ときめいちゃう」
「リリーがズルいんです」
「そう?涙なんて見せない子なのに。モテすぎて悪かったわ」

 他にもっとまともな謝罪の言葉はたくさんあるのに。

 これだからリリーは。

「…………リリー」
「なぁに」
「リリーが好きです」
「知っているわ。優等生で生真面目な愛菜ちゃんは、リリーが凄く好き」
「………はい」
「幸せ?」
「………たぶん」
「え?たぶん?」
「だって、これからもリリーが女の子と遊ばない保証はないわけですし」

 身体を愛撫する両手は、きつく肌に赤く痕が付いてしまいそうなほど力強い。信じろ、と言いたいのだろう。


「愛菜、酔ったら電話するから」
「…………迎えに行きます」
「そうして」
「………はい」


 だから、お酒をやめるとか、飲みに誘われても断るとか、なぜ言えないんだろうか。言えばもうそれは、リリーはリリーではなくなると言うことなのだろう。わかってしまうのが残念なところだ。


「クロムゥエルの修繕が、7月末には終わりますので、お姉さま方も初戦から観にいらしてくださいね」
「当たり前でしょう?寄付は足りているの?困ったことがあれば、相談に乗るわよ」
 久しぶりにダージリンとアッサムが横浜に戻ってきた7月初旬。全国大会の抽選も終わり、ダージリンたちの最後の夏が始まった。聖那は2人からとてもあからさまに寄付をお願いされて、妹からも電話がかかってきていた。拒否をする理由もなく、小切手を手渡すために、麗奈と愛菜と揃って、待ち合わせたのはホテルの喫茶店。愛菜は、ルクリリお姉さまに後輩に会うことを言わずに来たらしい。
「愛菜、収支報告書を見ずに言うのね。珍しい」
 麗奈は相変わらず、アッサムにしか微笑みを投げかけない。もうそれはどうでもいいけれど、アッサムは絶対に、収支報告書を正しく作っていないと言った笑みをしているのが、気になる。
「勝てば文句を言わないわよ。どんなことにいくら使おうと、2人の自由。それで負けたら、それだけのことよ。OG会が文句の電話をしても、2人が責任を負えばいいことだし」
「………ルクリリお姉さまは、文句なんて言わないと思うけれど」
 麗奈はアッサムの髪を撫でたあと、アイスティーのストローをかき混ぜた。麗奈の持ってきた小切手の金額は、アッサムに言われるまま書いたらしい。
「負けたら、慰めてあげるって、笑顔で学生艦に乗り込むと思うわ」
「そうでしょうね。聖那が止めて」
「優勝すれば問題ないんだから、2人が頑張ればいいだけよ」

 ダージリンもアッサムも、眉をひそめて見つめてくる。聖那はにっこりと笑ってごまかすことしかできない。

「そう言えば、ルクリリお姉さまはお元気ですか?愛菜さま達と同じ大学ですわよね?」
「あぁ、とても元気よ」
「そうですか。OG会に寄付のお願いをしたいと思いまして。一応、メールはしておりますが」
「伝えておくわ」
 夏の暑さを避けて、ホテルの喫茶店を選んだけれど、少し寒いくらい冷房が効いている。カーディガンを羽織りなおした聖那は、温かい紅茶を注文し、日差しのキツそうな窓の外を眺めた。

「あ、失礼」
 愛菜たちも2杯目は温かいものにしようと、メニューを手にしているとアッサムの携帯電話が鳴った。少し眉をひそめて立ち上がり、どうしても出なければならないと判断した様子で話を始める。

「どうしたの、ペコ。……ごめんなさい、言っている意味が……誰に?……どこで?落ち着いて。それで、どこへ?………え?場所を?」


 ペコ、と言うのは後輩だろう。前の聖グロの船で会った、小さくてかわいい子。とてもしっかりしていた子だったと思う。
「ダージリン」
「どうしたの、アッサム」
「あの、ルクリリとローズヒップが、OGに捕まったそうです。腕を掴まれてグイグイと。ペコがどうすればいいのか、と……泣き声で。取りあえず、こっちに来るように言いました」
 ものすごく困った顔で戻ってきたアッサムは、ダージリンにそう告げた後、愛菜の顔を見た。いつでもこの3人が揃えば、ダージリンもアッサムも愛菜を頼るのだ。
「……………OG?」
 愛菜は、嫌な予感と言いたげに、そしてそれが嘘であって欲しいと言いたげに呟く。

「はい、ルクリリお姉さまだそうです」

 後輩の腕を掴んで拉致するなんて、OGの中ではルクリリお姉さましかしないだろう。
 

「………なぜ、あの人は横浜にいるの?」
「さぁね、それは後。今は保護が最優先でしょう?」
 麗奈は自分の携帯電話を取り出して、通話を繋いだ後に愛菜に投げよこした。自分で掛けたらいいのに。本当、ダメな元隊長。


「ダージリン。ルクリリ達は何かやらかしたんですか?」
「いえ、私は何も聞いていないわ。偶然お会いしただけじゃないの?ペコは何を動揺しているのかしらね」
「……さぁ。迷子にならないようにGPSは付けていますし、けっして外で悪さはしていないはずですが」

 ダージリンもアッサムも、ルクリリお姉さまの本性を知らないから、後輩が何かやらかしたと思っているのだろう。可愛そうに。そう言う心配じゃなくて、別の心配をした方がいい。


「アッサム、後輩にGPSを付けているのなら、どこにいるのかわかる?」
「はい」
「調べなさい」
「はい」

 愛菜は麗奈からの携帯が繋がる前に切った。位置を特定して、直接蹴りにでも行ってくれるのだろうか。

「あ、ペコだわ」
 可愛い小柄な女の子が、制服姿のままホテルに小走りでやってきた。立ち上がり迎え入れたアッサムの腕に抱き付いている。
「ダージリン様、アッサム様。ごめんなさい、また、私たち、勝手な行動をしてしまって」
「どうしたの?OGのお姉さまが、どこかへ遊びに行こうって誘ってくださったの?」
「その、お茶をしようって誘っていただいて。でも、今回の下船は、迷子事件のこともあって、書類に提出した行動以外のことはしてはいけないので、と、お断りをしたのですが……」

 そんなの、ルクリリお姉さまには何の効果もないし、笑いながら、腕を掴んで歩き出したに違いない。二つの腕がふさがり、唯一、このペコちゃんだけが難を逃れて、ダージリンたちに助けを求めることができた、と言うことらしい。

「そう。でも、OGのお姉さまにお誘いされたのなら、仕方がないわね」
「ごめんなさい、アッサム様、ダージリン様」
「いいわ。大丈夫よ、ペコ。別に罰を与えたりしないから」
 アッサムに頭を撫でられて、しょげているペコちゃん。あぁ、こんな可愛い後輩を困らせるとは、本当にとんでもないOGなんだから。相変わらずのお方だ。


「あ………犯罪者がこっちに出頭してきた」
 GPSをたどっている画面をアッサムと見つめていると、麗奈が呟いた。入り口の回転扉から、青い制服が2人と、モデルみたいなのが1人。がっちりと腕を捕まえている。
「見つけたわ、ペコちゃん………と、可愛いダージリンとアッサム。あと……なんで、愛菜たちがここにいるの?」
 とても楽しそうに、満面の笑みで入ってきたルクリリお姉さまは、両サイドに捕まえた後輩の困った笑みを何とも思っておられないのだろう。全員が固まったままだ。


「…………ルクリリお姉さま、その両手に捕まえた後輩たち、ナンパしましたの?」
「ナンパなんて生まれてこのかた、一度もしたことなんてないわ」

 愛菜の静かな怒り。それを察したのか、ダージリンはアッサムとペコちゃんを守るように、そっと腕を取ってその場から後ずさりしていった。愛菜が怒るとどうなるかと言うのは、多少は知っているのだろう。でも、なぜ怒るのかは知らないはず。

「左様ですか」
「後輩が歩いていたら、声を掛けるのがOGでしょう」
「………腕を引っ張っているように見えるのは、気のせいでしょうか?」
「声を掛けたら、当然、お茶をごちそうしないとだめでしょう?そう思って、美味しいお茶が飲める場所と考えて、取りあえずここにしようと思ったら、あなたたちがいるんだもの。ペコちゃんは逃げちゃうし」


 こういう時、いつも愛菜は取りあえず、呆れたため息を吐くだけなのだけど。
 今日は怒り心頭のようだ。と言うか、ここ最近、2人の関係がちょっと変わったように見えるのは気のせいじゃないと思う。何が、と言うのはわからないけれど、確実に、何かが前と違う。例えば、こんなに人がいるところで、堂々とぶちぎれているとか。


「リリー。3秒以内に後輩の腕を放しなさい」
「………はい」

 人前で、ルクリリお姉さまをリリーなんて呼ぶとは。そんな風に普段、呼んでいるんだって思うと、微笑ましいと言うかなんというか。愛菜は愛菜で、結構ルクリリお姉さまが好きなんだなって言うのが、にじみ出ている。


「あと、横浜から出てください」
「なぜ?」
「そもそも、なぜ横浜に?」
「愛菜が横浜に行くって、聖那と電話をしていたから。そう言えば、聖グロの学生艦が港にいる日だわと思って、アッサムお姉さまから預かった寄付金を持ってきたのよ」
「嘘くさい」
「私、愛菜に嘘なんて一度も吐いたことないわ」
「…………アッサムお姉さまからの小切手は」
「鞄の中」
「それを出して、お帰り下さい」
「酷いわ」
「帰ってください」
「帰る途中に、可愛い女の子にナンパされたら、愛菜のせいよ?」
「ホイホイついていけば、リリーのせいですね」
「ねぇ、せっかくみんながいるのなら、みんなで楽しくお茶をすればいいじゃない?」


 10秒くらいの沈黙。
 たぶん、それが無難な解決方法だってみんな思っている。愛菜以外は。


「さ、賛成です!ルクリリお姉さまと、是非、お茶をしたいです!」

 沈黙の中、それに耐えられなくなって手をあげたのは、同じティーネームのルクリリだった。

「あら、流石のルクリリ。いいティーネームを持っているだけあるわ。と言うことで、広いテーブルに移動よ」

 折角放された腕を再度、がっちりと掴まれた1年生たちは、乾いた笑いを浮かべるだけで、出来る限り誰とも目を合わせないで、この場を乗り切ろうとしている。あの子はたぶん、次の隊長だろう。何というか、機転が利く子だ。

「あの、聖那さま」
「ん?何、ダージリン」

 ルクリリお姉さまを睨み付ける愛菜の目は、仕方がないと言いたげで、それでも本気の拒絶ではない。1年生を自分の両サイドに座らせて、ニコニコ楽しそうな笑み。これだけの目がある以上、余計なことができないと言うのは、わかっておられるはずだ。ましてや、この1年生たちなら、ルクリリお姉さまにほれ込んでしまうと言うこともなさそうだ。

「…………いえ。あの、愛菜さまとルクリリお姉さまは、もしかして」
「ノーコメント」
「…………そうですか」

 ダージリンは何か勘が働いたらしく、ペコとアッサムに端っこに座るようにと指示をして、聖那にひっそりと聞いてきた。本当に、勘の良い子だ。

「愛菜、幸せそうに見える?」
「えぇ、とても」
「そう?」
「はい。その、何となくですが」
「………そう」


 監視するためにルクリリお姉さまの真正面に腰を下ろした愛菜は、いつになくガミガミと、後輩をいじる“リリー”に突っかかっていく。とても楽しそうだ。

 ついこの前までは、呆れたため息ばかりだったと言うのに。
 諦めるということが愚かなことだと、やっと愛菜は気が付いたのだろうか。
 
 調教しなければいけないと、やっと気が付いたのだろうか。

 2人は、ブルー・マウンテンのコーヒーを注文して、おいしそうにブラックで飲んでいた。




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Date:2017/01/05
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