【緋彩の瞳】 Your color

緋彩の瞳

その他・小説

Your color

「亜美ちゃん、ごめんね。待たせちゃった?」
「待ち合わせよりも、5分も早いわよ」
「でも、亜美ちゃんはそれよりもさらに、10分早く来る人だから」
 
 手提げのバッグが太腿に当たる音と、ローヒールのリズム。待ち人の長い脚が真っ直ぐに亜美へと向かっている。それでも、声を掛けられるまで振り向いたりはしない。彼女に、名前を呼ばれたいという想い。


「ごめんね、チケットまで買ってもらって」
「ううん、ネット予約の方がいい席が取れるし」
「そういうのに私が疎いから、でしょう?」
「……私の方が慣れているから、と言うことにしましょう」

 つい最近、スマートフォンに無理やり変えさせられたレイちゃんは、それでも、頑としてネットを使うことはしない。用事はもっぱら電話。連絡関係も基本的には一方通行。既読は着くけれど、返信はない。機械音痴を言い訳にして、便利な機能を覚えようともしない。その必要にかられるほど、寂しさを誰かと繋がることで紛らわしたいと言う人ではないのだ。

「推理物は、美奈もまこちゃんも爆睡だものね」
「あの2人は、昨日、アニメの映画に行ったらしいわ」
「………あぁ、いいんじゃない?“らしく”て」
 その“らしさ”に救われていることも多いから、ずっと親友であり、仲間を続けているのだ。レイちゃんは、美奈子ちゃんもまこちゃんのことも、うさぎちゃんのことも、そして亜美のことですら、親友であると想ってくれている。


 その優しさが痛くて、でも、この輪の中にいたくて、ずっと、繋がっていたい。


「レイちゃんにしては珍しい色ね、その服」
 冬の始まり、ブランドのコートの中は深い緑のVネックセーター。細いネックレス。映画館でコートを脱いだ時に、“らしくない”色を見てしまって、言わなければいいのにと思ったのは口に出してしまった後。
「あぁ、そうかしら?まぁ、たまにはね、赤や黒ばっかり持っていてもね」
「白い服も多いじゃない」
「そういう、白黒赤みたいな、考えてない感じばかりって思われないようにって」
「…………その色、似合ってるわ」



 きっと、レイちゃんの服じゃない。



 見慣れたブランドのコート。見慣れたデニム。レイちゃんはきっと、こういう時なら、やっぱり、赤いセーターを選ぶだろう。あるいは、コートの色に近い色のセーターを。亜美の知っているレイちゃんは、亜美がずっと見てきたレイちゃんは、そう言う色の使い方を好むことは知っている。

 知ってしまっていることが、嬉しいと感じていたのは、もう、何年も前のこと。


「ありがとう。亜美ちゃんも、水色のコートが似合ってる。私には絶対着こなせないわ。髪の色とか、持っている服の色とかでは合わせられないし。青系って難しいものね」
「そうかしら?でもそうね、レイちゃんは黒い髪で、長さもあるし。青系なら、海に近い緑がいいかもしれないわね」


 例えば、ネプチューングリーンとかなら。


 その一言を言えば、これから始まる映画の内容は、すべてヒトカケラも記憶されずに、2時間の気まずさと、苦痛に耐えるものになってしまう。


 お互いにそれは避けるべきだと言うことは、わかってる。


 たった一つだけ、わかり合えていること。
 
 好きと言わないし、好きと言わせない。
 ずっと、親友の地位を脅かしたりはしない。

「自分に似合う色って、必ずしも好きな色とは限らないわね」

 レイちゃんは亜美を拒絶したりしない。

「どっちが先かよね。似合うから好きなのか、好きだから似合うと思うのか」

 だけど、誰よりも心から愛している人がいる。

 ただ、その人が亜美ではない。
 それだけのこと。


「…………………赤も黒も、似合わない」

 みちるさんには
 海王みちるには

 赤も黒も似合わない。

 似合わないって思っている。


「亜美ちゃん、赤は似合うわよ。ワンポイントとかで、マフラーとか、ブレスレットとか」
「そう?じゃぁ、今度、いいものがあったら買ってみるわね」
「えぇ」


 薄闇の中、色さえどうでもよくなる場所に来ているのに。
 それでもレイちゃんは、あの人の持っている服を着てくる。


 きっと、着せられたのだろう。そう思っている方が楽だ。

 そう思っていれば、ずっと親友でいられる。


 字幕を追いかけながら、会いたい口実に映画を選んでよかったとため息を吐いた。


 長い間、彼女の服を見つめずに済むのだから。
 
 想い、想われているという色を見ずに済むのだから。

 おかげでまた、明日からも、ずっと親友でいられるのだから。



 みちるさん“らしい”ことをするものね。
 本当、あの人らしいと思う。

 それに気が付いてしまうのもまた、亜美“らしい”。


 

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Date:2017/01/11
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