【緋彩の瞳】 甘い誘い ①

緋彩の瞳

ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

甘い誘い ①

「………はめられたわね」

 
 絨毯敷きの廊下を複数の人が近づいてくる。

 ドタドタ。
 バタバタ。

 その、とても不快で鈍い音がダージリンの部屋の前で止まった。


『ダージリン様』
『ダージリン様~~!!あっそびっましょ~!』
『いざ、出発ですわ!!!』


 横浜港には定刻通り入港することができ、関係学部より、すべて異常なしという報告を受けてから30分。アッサムを誘って横浜に出ようかしら、と思っていたのだけれど、あっさりと振られてしまった。今日は、シナモンとグリーンと3人で出掛ける約束をしているとか。それに合流をさせてくれてもいいのに、2人が気をつかってしまうから来ないでと言われ、頷くしかなかった。

代わりに、楽しい相手をよこしますって言われた時に、すぐに気づけばよかったのだ。


“暴走シスターズだけは、ごめん”と。


「ごきげんよう、暴走シスターズさん」


 致し方ない。横浜に降りる時は、後輩の面倒をアッサム1人に押し付けていることも多く、たまには同級生たちとのんびり過ごしたいと言うことなのだろう。後輩が傍にいると、何かといろんなことに注意を払い、気が休まらないのは確かだ。別行動をすればするで、何かしでかさないだろうか、という心配を抱かなければならない。そう言うことの全てを、たまにはダージリンがやれと。

「豪快シスターズですわ、ダージリン様」
「あの………そもそも、そういう名前を付けていることが嫌なんですけれど」
「諦めろ、ペコ。お笑いトリオとか、3馬鹿トリオとか、始末書シスターズとか、いろんな学部で勝手に呼ばれているんだから。自分たちで言うしかもう、道はない」
「いや……どうして私がその中に入っているんです?」
「それはまぁ、突っ込み役は必要だからじゃないの?」

 腕を組んだルクリリは、自分がボケだと思っているのだろうが、ふんぞり返って言うべきセリフかどうか、判断ができていないようだ。ボケ役としては適任である。


「それで、みなさんはここに何しに来られたのかしら?」

 ペコが頬を膨らませているのを見ても、何も笑えるところがない。可愛そうに、と思いながら、この2人への突っ込みをお願いする、と言う結論は変わらないのだ。


「ダージリン様。横浜に出ましょう!」
「そうですわ。それで、美味しいランチを食べて、ショッピングを楽しみますわ!」
「当然、ランチはごちそうしてくださいますよね?」

 キラキラ真っ直ぐ、眩しくて、出来ることなら遮ってしまいたい。
 それができないと知られてしまっているのが、ちょっと残念。

「…………アッサムは、いつもあなたたちにランチを奢っていたの?」
「「はいっ!」」
「あら、そう」
「2人とも………アッサム様から、ダージリン様には秘密って言われていませんでした?」


 甘やかせるなといつも言っている。それでもダージリンの目が届かない間は、甘々に甘ったるい蜜をじゃぶじゃぶかけているようだ。その優しさや甘さの半分でもいいから、ダージリンにもわけてもらいたい。


「いいわ、聞かなかったことにしておくわ。では、ランチをごちそうしてさしあげる代わりに、今日1日、私を楽しませなさい」


 …
 ……
 ………
 …………


「………だから、アッサム様の方がいいって言ったのに」
「ルクリリが、もっともっと前から約束を取りつけないからですわ」
「いまさら言うな!」


 目の前で文句を言うとは、なかなかの態度。そう言う度胸があると言うのは、評価するべきところだろう。聖グロではまれに見る変わった逸材ではあるが、この2人をリストアップしたのはアッサムだ。あの子も目を付けた以上、自分が世話を焼かなければならないと言うことは、十分にわかっている。いつもため息ばかりだ。


「で、どうするの?私を楽しませるのなら、横浜に行ってさしあげるわ」


「絶対、ランチごちそうしてくださいよ!」
「もちろん」
「3時のお茶もでございますでしょうか?」
「えぇ、当然よ」
「………私は、何事もなく平穏がいいです」
「それは、ペコにかかっているわね」


 高いお店を選ぼう、なんてローズヒップと、肩を組み歩き出す可愛らしいお馬鹿さん。
 ダージリンは財布と携帯を鞄に入れて、ペコの頭を撫で前の二人を追いかけた。


「ダージリン様にあのトリオを押し付けたんですか?」
「あの人1人でトリオの相手をすることも、あんまりなかったでしょうから。振り回されるのも、たまにはいいことだと思って」
 グリーンの運転するMINIは、横浜で一番大きなショッピングモールの駐車場の螺旋をゆっくりと回っていた。屋上に駐車させて、映画を観た後ランチをして、少しだけショッピングをする計画だ。
「どっちが振り回されるか、と言う問題にもなりますね」
 日ごろ、マチルダⅡ部隊でルクリリに振り回されているシナモンではあるけれど、ダージリンともそれなりに付き合いの長い彼女。人を振り回す才能だけで言えば、ダージリンも相当なものだということは、嫌と言うほど知っているはずだ。
「いいのよ、それも込み。ペコがいるんだから、大丈夫でしょう」
 ネットで予約しておいた映画は、ベタベタにべったりラブストーリーだ。18歳以上ではないが、15歳以上の規制がかかる程度には、ラブシーンがあるらしい。観たいが1人で観に行くには何となく恥ずかしい。でも、ダージリンと観に行くのはもっと恥ずかしい。悩んだ結果、映画好きのシナモンとグリーンを道連れにしたというわけ。ポップコーンや飲み物なんて目もくれず、真っ直ぐに劇場のシートに腰を下ろし、カップル席なんかの男女の後頭部を眺めた。




「ダージリン様、ちょっと、どちらに行くつもりです?」
「この、催し会場というところでやっている、ヴェニスの仮面の展示と言うのが素敵だわと思って」
 大きなショッピングモールに入ると、ダージリン様は案内を眺めた後、目をきらりと光らせた。真っ直ぐにエレベーターへと進まれるものだから、みんなでどこをウロウロしようか、って些細なやり取りの楽しみなんて、お嬢様には不要と言うことなのだろう。
「仮面、ですか?」
「面白そうでしょう?」
「……はぁ」
「面白い仮面があれば、買って差し上げるわ」
「いや、要らないです」
 ピンポンと鳴ったエレベーター。優雅なお嬢様は微笑んで乗られたので、ルクリリは慌てて、ローズヒップのセーターを引っ張って乗り込んだ。ペコは最初から、クレームを言うことなんて諦めているのだろう。当たり前のようにダージリン様の隣にいる。
「何ですの、ルクリリ」
「仮面だよ」
「ライダー?」
「………変身して、誰と戦うつもり?」

 子連れのファミリーと、カップルたち。1つ1つの階に止まり、人がドンドン入ってくるから、ダージリン様の前に立ちはだかり、触れさせるものかとガードした。たぶん、無駄なことなんだけど。なんとなく。
「さて、行くわよ」
「はい」
 従順なペコはスタスタとダージリン様についていく。とてもご機嫌よろしく、1つ1つを見て回って歩かれるので、仕方がないなと諦めがついた。何というか、誘ったのはこっちだし、明確に何をするということもなかった。ルクリリ達が行きたいところに連れて行ったあと、嫌味に近い文句を言われるのなら、取りあえず、お好きなようにしていただいた方がいい。
「………まさか、アッサム様は押し付けた?」
「まぁ、私は何となくそう思っていましたけれど」
「なんで言わないんだ、ペコ」
「2人とも、ダージリン様と遊べるって嬉しそうだったので」
 とはいっても、横浜に降りる時はダージリン様に付き添うことも多いペコなのだ。要領はえているのだろう。

 言われるがままに動いた方がいい、と。


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Date:2017/01/25
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